イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ふらいんぐうぃっち:第4話『桜の中の占い師』感想

穏やかな春の日差しの中でゆっくりと日常が融けていくアニメ、今週はケモナー歓喜のイヌ娘登場。
これまで魔法であんまり大したことは起きていないアニメでしたが、今回は一人の女の人生ねじ曲がりストーリー(自業自得)であり、テイストの違う展開を楽しみました。
とは言うものの、犬娘が石を投げられ差別されるるわけではなく、ゆったりとしたテンポと世界の優しさは相変わらず。
犬養さんのテンションが他と違って高めなのもあって、いつもどおりの良さと、変化球の気持ちよさ、両方を楽しむことが出来ました。

話の大筋としては『どうやら因縁があるらしいメスケモ占い師が、真琴に突っかかってくる』というものなんですが、その前ふりが長い長い。
ゲストキャラクターが出てくるまで六分間ほど、仲良し三人組が弘前の春祭りを楽しむ光景が、じっくりと描かれていました。
お話の進行を焦らず、キャラクターの目の前を通り過ぎていく時間をじっくり見せるのはこのアニメの得意技ですが、お祭りを前にテンションあがる妹ちゃんとか、意外な弱みを見せたお兄ちゃんとか、あっという間に弘前の穏やかさに馴染んだ真琴とか、見てて『……ええな!』と思えるシーンをたっぷり見せてくれる贅沢さが、マジ素晴らしい。
こんなに丁寧に『男と女と妹がいるが、特に恋愛関係には発展しない間合いの気持ちよさ』をアニメーションさせてくれるお話、めったに出会えないわけですよウム。

僕はアニメの『広く画面を取って、メインが色々やっている端っこで、関係ない連中が元気にしている様子を切り取る』手法がとても好きです。
今回も妹ちゃんが飛んだりはねたり、ハムスターと仲良くしたりする姿が映ることで、『主役以外も、自分なりにこの世界を生きてんだなぁ』という実感が強くなりました。
こういうドッシリした時間の運び方があればこそ、真琴と倉本兄妹の間に漂う、派手ではないけどお互いを信頼し尊重する豊かな空気にも説得力が出てきて、それこそがこの起伏のないお話最大の醍醐味であると、僕は思っています。
美しい風景も、不思議な日常も、その中で活きている三人が『……ええな!』としみじみ思える関係を作っていればこそ、作品を彩る演出として機能しているわけで。


いつもどおりのじわっとしたペースで祭りを見せる序盤は、犬養さんが登場してからの変化を際立たせる仕事もしています。
この話はお話の盛り上がりも感情の起伏もゆったりしたもので、キャラクターたちは焦ったり怒ったりという感情表現を余りしないわけですが、犬養さんはわめくは騒ぐわ動きは激しいわ、今までいなかったタイプ。
自然絵面も元気になって、ワチャワチャと騒々しい展開がしばらく続きます。

しかしそれは世界を壊す不愉快な異物ではなく、意外性を持ち込んでくる愉快な客人として、ちゃんと演出されている。
スローボール軸で投球を組み立てていた所に、変化のある早いスライダーがビシっと刺ささる感じで、犬養さんの元気さもまた『……ええな!』となる気持ちのいいアニメーションでした。
日常芝居の仕草の付け方が気持ちいいからこのスローペースでも成り立っているアニメなので、早くて元気な動きさせても、そら面白いよねっていう。

犬養さんが抱えた騒々しい事情も、真琴たちのゆったりした空気に向かい入れられ、一度上がったテンポはまたゆったりとしたものになります。
この『受け入れる姿勢』をお母さんの落ち着いた対応でしっかり表現してたのは、この優しく穏やかな世界が好きな身としては、結構嬉しいものでした。
いやらしいボディラインを布で強調するタイプのメスケモ占い師が突然現れても、家族の友人として優しく接してくれる『嘘』はつまり、真琴の魔法を平生の一部として受け流す作品全体の『嘘』と同根であり、そこを大事にしてくれるのはありがたい限りなのだ。

あと回想シーンの姉×犬養が、一歩間違えば酒の勢いで一線を越えてしまいそうなエロティシズムに満ちていて、ホンマ素晴らしかったです。
これまでは黒髪とか黒タイツとかの『静』のフェティシズム重点で攻めてきたわけですが、今回は20代女性二人の関係性が艶めかしくくねる『動』のエロティシズムで戦いに来てて、こういう方面でも色々やれんだぞ!! と教えてくれた。
ほんとなー、お姉ちゃんはアオザイだし、女体の曲線を布が強調する瞬間のパゥワをよく理解した、良いシーンだと思いました。
あとま、犬養さんとお姉ちゃんの関係が良いね……気がおけなくてなんか尊敬している、ざっくばらんな感じ。


というわけで、『緩→急→緩』という変化を埋め込んだ、なかなか珍しい感じのエピソードでした。
作品の魅力である穏やかな空気を維持したまま、少し上がったり下がったりする全体の変化を一話に収めるべく、今回は1エピソードで二話使ったのかなぁとかも思った。
『緩』の表現の巧さはこれまで十分表現してきたわけだけど、犬養さんという魅力あるキャラクターの助けもあって、『急』の表現も楽しく、優しく使いこなせるアニメだと分かったのは、とても良かったと思います。
今回は結局『緩』で落ち着いたけど、これだけ楽しく騒がしい絵面を作れるのだから、まるまる『急』の作りも見たくなるエピソードだったなぁ。
自分たちの強みと表現したいものを理解した上で、色々やれるアニメは良いアニメだ。