イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

クロムクロ:第7話『東雲に消ゆ』感想

流されるまま世界を救う英雄に祭り上げられた少女と、時の河を漂流した侍の交流記録、今週は暁の逃亡。
ぼんやりしたゆめと面倒くさい親子関係を抱えた普通の少女、由希奈が『戦場』の厳しさにすり潰されるお話でした。
あの子が優しくて脆い子だってのは、それこそ第1話で出しの面接のシーンからよく解っていたわけで、今回戦いから降りたがるのはよく分かる。
好きだからこそ辛い、分かるからこそ辛い。
そんな気持ちをキャラクターたちと共有できる、複雑で立体的な、だからこそ普通な物語でした。

由希奈が敵と味方の血、両方にショックを受けているシーンから今回は始まります。
剣之助のように侍として生きてきたわけでも、ボーデンさんやソフィーのようにパイロットとして鍛錬されたわけではない由希奈にとって、剣之介が流した血(から想像できる自分自身の死)と、敵がヒューマノイドだった事実はあまりにも重い。
宇宙から落っこちてきた鬼形怪獣相手ならまだ戦えたけど、人の命を奪い奪われる覚悟は、火星に行きたい女子高生には早々出来るものでもありません。

『世界を救う戦士になんてなれない』と吐露する由希奈を、周囲の人々は責めません。
『お前はおなごだ、無理強いはできん』とする剣之介と、『殺さなくてすむなら、殺したくはない』というボーデンは、非戦闘員である普通の高校生である由希奈が感じたストレスを、ちゃんと受け止めています。
親子としては上手く交流できなかった洋美ママンですら、『由希奈はもう乗せない』という自分の立場を危うくする決断を、早々に下している。
このアニメは『世界が滅ぶからとっとと覚悟を決めて、普通の女子高生の幸せなんて捨てちまえ』とは言わないわけです。

由希奈もまた、復讐に滾る剣之介と不器用ながらだんだんと向かい合い、彼が『戦場』に立つ理由を受け止めようとする。
最初に『私怨』と言っていたとおり、姫を殺され家を奪われた剣之介にとって、鬼を殺すことだけが唯一残された存在意義であり、復讐を果たして何もなくなれば自殺するという、結構ショッキングなことも言っています。
自分がクロムクロに乗って鬼を倒していけば、嫌な気持ちになるだけではなく剣之介を虚無に追い込んでしまうと考えればこそ、由希奈はあの時『じゃあ乗らない』といった訳です。

お互いの差異を理解し、それを時々不器用に衝突させつつも、そのギャップを頑張って乗り越えようとする意思と行動を見せる。
僕がこれまでこのアニメに感じていた魅力は今回も健在で、迷いと躊躇いが全体を支配する下げ調子のエピソードながら、合間合間に息をつくことが出来ました。
感情を暴走させたり、背負ってきた人生に振り回されたりは人間である以上当然起こるんだけど、同時に他人を理解し寄り添おうとする意欲がしっかりある。
それだけではなく、それがちゃんと結実しキャラクターを前進させる前向きさが、作品に基調にあることを僕はすでに知っているわけですし、今回もそれは消えていません。


ギクシャクした間合いながら同じアイスを食べ、その棒で『チャンバラ』という剣之介に属する行動を取る帰り道のシーンは、そういう基調音をよく反映したシーンでした。
剣之介と由希奈は仕草や外見をすり寄せる描写が多く、そのことで距離を縮めようとする意欲や、お互いの心に流れる共感なんかを表現しています。
第4話で麦わら帽子を被りあったのと同じように、今回同じものを食べに通った行動をとった二人はすれ違うこともありつつ根底で通じ合う、良い関係のように思います。

剣之介が自分のことを『都合の良い道具』と考え、父母と同じように『自分のことしか考えていない』と疑っている由希奈は、今回基本的に剣之介と目を合わせません。
しかし復讐の果てに剣之介を待っている虚無に怯え、由希奈は感情を爆発させて向き直り、初めて剣之介の目を真っ直ぐに見る。
すれ違いが修復不可能(もしくは尺を大量に使うほど大きい)のであれば、二人の視線は向かい合うことなく、お互いの真意を受け止め合う姿勢も見られなかったでしょう。

無論母が自分を受け止めてくれなかったダメージは由希奈にとって大きく、『母親代わりにまともな食事を用意する』という自分の役割を放棄し、彼女は家を出て行ってしまいます。
餃子だけが山と盛られた殺風景な食事は、これまた第4話で印象的に使われていたカレーと対照をなす、巧く行かなかったコミュニケーションの象徴です。
それでもご飯は作ってくれるところに由希奈の優しさを、自分は食べないところに頑なさと痛みを感じ取ることが出来て、餃子のシーンも良いシーンでした。

こうしてすれ違いつつ心の底に信頼と安心があるのは、剣之介が余裕の無さと復讐者としての乾きを見せつつ、彼の美点である優しさを失っていないことが映像から分かるからでもあります。
第3話で異邦人として暴れまわっていた時、剣之介の人間性と歩み寄りの姿勢を引き出してくれた小春への柔らかい態度は、たとえ由希奈との関係がギクシャクしても消えていないし、ちゃんと頭も撫でる。(剣ちゃんのあの柔らかい仕草、俺はスゲー好きです)
小春もまた二人の剣呑な雰囲気を察してTVをすぐさま消すし、それを解決するためにタブレットを差し出したりもする。
これまで積み上げてきた柔らかな信頼があれば、今回由希奈が傷つけられたやり場のなさも、剣之介が抱えた虚無も、多分どうにかなる。
そう信じられるアニメでありエピソードだったのは、やっぱ凄く良いなと思います。


由希奈の不安を受け止める『親』でありたいと願いつつ、惚れた男をけなされて手が出てしまった、あまりにも『女』である洋海ママンも、エゴの暴走と思いやりの間で悩むキャラクターの一人です。
意味わかんねー事抜かして蒸発したクソオヤジから逃れるように仕事に打ち込んだ彼女は、由希奈に振り下ろした拳の痛みを感じつつ、緊急事態を告げる黒服のハンビーで消えてしまう。
第1話の面接シーンで既に見せていた、親を演じようとするけど演じきれない不器用さが今回爆発したといえます。

しかしママンが『親』として由希奈を守りたい気持ちは、今回『由希奈は乗らせません』という言葉としてちゃんと語らえているし、戦場を見つめるこれまでの仕草の中にもしっかり詰まっています。
そういう優しさがちゃんと描かれていればこそ、ママンの暴走を完全に否定する気にはなれないし、由希奈の痛みもよく分かる。
お互いちょっと間違っていて、凄く優しい親子が巧く仲直りできれば良いなぁと、二人が好きな身としては強く思っています。
小春の母親代わりは由希奈がやればいいけど、由希奈の母親代わりは誰もやってくれねぇもんなぁ……お姉ちゃんは辛いぜ。

由希奈に対し『乗れ、義務を果たせ』と正論を叩きつける仕事は、ソフィーが言ってました。
ぽわぽわ女子高生である由希奈と、貴種としての誇りに満ちた英才ソフィーとでは立場が違いすぎて、葉隠からの引用がピンと来ないのも当然ですが、面白いことに侍である剣之介にもあんま届いていませんでした。
剣之介は戦国時代の人なので、ソフィーが受容する葉隠武士道(とその後の新渡戸武士道、それがジャポニズムに乗って輸出され歪んだブシドー)は、タブレットのようにピンと来ない考え方なんでしょう。
戦う理由も戦士としての誇りではなく、あくまで『私怨』ですしね。
家族の問題にケリが付いたら、ソフィーとのギャップもじわじわ埋めていくんですかねぇ……楽しみだ。


ギャップといえば、『戦場』と『学校』という二つの日常にガッポリあいたギャップも、今回強調されていました。
戦場で死ぬ思いをした由希奈を見る学生の視点はどこか興味本位で、あくまで『学校』という日常に足場を置いて、未だ平和な日々が続くことを信じている。
しかし日本以外の国ではその日常が鬼によって略奪されているし、クロムクロに由希奈が乗らないとなれば、早晩富山の平和もぶっ壊れるわけです。

ここら辺の想像力の欠如が赤城と茅原を行方不明に追い込んだわけですが、彼らは一足先に『戦場』という日常に飲み込まれたキャラクターと言えるでしょう。
第二第三の赤城を出さないためには、由希奈は『戦場』に立つ理由を見つけクロムクロに己の意思で乗り込まなければならないわけですが、『守ってくれ』と懇願するカルロスの言葉は今の由希奈にとっては困惑の原因でしかありません。
ここら辺はソフィーと同じく、実感のない正論を先取りして叩きつける立場だということでしょう。

主人公である以上、由希奈は正しいことを成すべきであり、なしてくれもするでしょう。
しかしそれは他人に強要されるものではなく、実感なしに行っても正しさを確保できない行動でもあります。
カルロスが願い、赤城の父親が職務を果たしつつ(親も仕事も両立している辺り、ママンと面白い対比だ)望んでいる正義が、どのような奇跡を描いて由希奈とシンクロするのかというのは、今後非常に楽しみなところです。
ここにたどり着くまでの感情に無理がないことが、いざ正しさに向かい合った時の自然さとカタルシスに繋がるだろうし、由希奈という人間をお話しの装置に貶めない誠実さの証明にもなるしね。

未だ『戦場』から遠い『学校』を、サービス含めた水着で表現するセンスが僕は結構好きですが、剣之介を拾いに行った宇波先生もビミョーにズレているというか、なんというか。
剣之介の軸足はあくまで『戦場』にあって、抱える悩みもそこから発しているものなんですが、宇波先生それをあくまで『学校』の文法で解釈しちゃうわけです。
このギャップはすれ違いの笑いを産むと同時に、学園というシェルターに未だ守られている人々の脳天気さを強調し、一足先に『戦場』に飛び込んでしまった由希奈の孤独を強調もしていました。
由希奈の傷が今回は強調されてたけど、剣之介も当然一杯一杯なわけで、彼をケアしようという人がいてくれる事自体は嬉しいんだけどねえ……。

あと軌道鬼ヶ島の面白い人達の描写も、結構ありましたね。
なんであんなにオモシロ悪の組織やってるのかはさっぱり分かりませんが、人間を『現住生物』呼ばわりしてるところから考えると、あんま歩み寄ってくれる存在ではなさそうで。
そのくせ現地語でメール出して、唯一の抵抗力を略奪しようとする小狡さはあるんだよなぁ……。
人攫いしている理由引っくるめてすげーロクでもなさそうで、油断ならん奴らですね。


そんなわけで、色んな人の孤独な心と、それにどうにかして近寄ろうとする小さな一歩が両立するお話でした。
各々の過去と身勝手さ、暴走するエゴに嘘をつかないまま、それを解決しより良い方向に導いていく優しさをちゃんと描いてくれているのは、本当にありがたい。
ここら辺の制御の巧さ、心に流れている血潮の暖かさを伝える技術は、やっぱこのアニメ凄いなぁ……キャラの感情がヤダ味少なく伝わってきて、お話しの登場人物を好きになれる見せ方が徹底してる。

傷ついた心のやり場に迷って家を飛び出してしまった由希奈も、迷妄の果てにちゃんと居場所を見つけて、暖かい場所に帰ってきてくれる。
ママンも暴走する心の制御を取り戻して、娘を思う気持ちをちゃんと伝えることが出来る。
そういう先行きを信じられる話であり、キャラクターたちがどうにも抑えられない都合の悪さをちゃんと持っている、血の通った人格だということを確認できるエピソードでした。
いやー、やっぱおもしれぇなぁこのアニメ。