イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

機動戦士ガンダムUC RE:0096:第9話『リトリビューション』感想

血が血を呼び死が死を惹きつける怨霊たちのサーガ、今週は決戦ラプラス跡地。
『あ、俺来週からキャンペーン参加できないんで、この戦闘で死にます』とばかりにバナージに託すべきものを全て託してダグザさんが死に、怒りに飲み込まれたバナージが『あのシャアもどきぜってぇ許さね! ぶっ殺す!!』って興奮したら庇ったギルボアさんをぶっ殺すことに。
人間の可能性を信じ、私的存在として人間らしさを発揮できると夢見るバナージに、MSに代表される暴力装置はそうそう簡単にコントロールできるものではないし、戦場は『顔の見える敵』も『人間らしく死ぬべき人』も区別なく巻き込んでぶっ殺すという、厳しいカウンターが当たるエピソードだったな。
こういう厳しさを『殺すのも殺されるのも冗談じゃない』という形でしっかり認識しているバナージの賢さが、逆に辛いなぁ……。


とりあえず今週は、キャラクターとしてできることを全てやりきって退場していたダグザさんが印象的でした。
バナージ青年の『それでも』な生き方と真っ直ぐな目に当てられて、汚れ仕事も請け負う特殊部隊員という、公軍の『歯車』であることを認めたまま、私的決断で命の使い所を決める姿は、(僕が勝手に受け取っている)作品のテーマを先取りして回収するような、綺麗な死に様でした。
彼の死があくまで脇役の退場である以上、それに意味を持たすか打ち捨てるかは、今後のバナージの生き方にかかっているんですけどね。

『歯車』ということは巨大な装置の一部ということで、ジオンを駆逐し世界を制圧した連邦も、この後の歴史までカッチリ決まってしまっている宇宙世紀世界も、ダグザさん一人が動いたところで大きく変わるものではない。
しかし『歯車』が抜け落ちていけば、その集合体である公的装置はどんどん軋んでいく(その結果として、F91時台の連邦の腐敗と宇宙戦国時代がある)し、『歯車』がどう機能するかは実は『歯車』自身の選択に乗っかっている。
『歴史』や『世界』といった巨大な装置が変わらないとしても、自分の手の届く範囲の世界を変える自由と意志は当人のものであり、それは尊く意味があることなのだという結論に、ダグザさんは辿り着いたのでしょう。
そしてその心の動きを生み出したことは、多くの存在が『歯車』として装置に囚われているこのアニメにおいて、バナージ・リンクスが主人公である唯一性の証明でもある。

結果バナージが己の意思を通す自由=NTD発動を助けるために、彼は自分の意志で安全圏から抜け、これまで傷一つ追わなかったフル=フロンタルに一撃を入れて死んでいきます。
成り行きでユニコーンに乗っているバナージとは違い、自分の意志で軍人となったダグザさんにとって意味のある死に場所を見つけることは、職務の一部だったのかもしれません。
実は彼がどのような軍人人生を歩んできて、何に後悔があるかはアニメの範囲だと分からんわけですが、ともあれ彼はバナージと出会って『歯車』としての自分を半歩踏み出し、価値が有ると思えるもののために退場した。
死んでしまっている以上『かっこいい』とは言いたくない退場の仕方ですが、迷い路を先んじて抜けた人生の先達として、バナージに大きなものを残す散り際だったと思います。


って言いたいところなんだけど、優しいバナージくんは人の生死の因果を飲み込むには感情が豊かすぎて、ダグザさんの死をきっかけにNT-Dを発動させ、人殺しの『歯車」に組み込まれちゃう流れが最高に皮肉だった。
ダグザさんの滋賀ポジティブな意味合いを持ってくるとすれば、それは衝撃の波が去ったこの戦闘の後であり、自分に優しくしてくれた人ぶっ殺されておいて人生の意味を考えられるほど、バナージくんも聖人ではない、ってことだな。
覚醒前の段階では『加減ができない!』と拒否していたビームマグナムを、ダグザさん死んでからはおもいっきりぶっ放しているわかり易さとか、バナージの激情をよく表していて良かったです。

前回マリーダさんが諭してくれた『マシーンに飲み込まれて、殺人の機械にはなるな。『それでも』と言い続けろ』という教えは、残酷な戦場のルールの前に綺麗に全部吹っ飛び、彼はNT-Dを動かす『歯車』に変わってしまう。
フル=フロンタル憎しでビームマグナムをぶっ放した結果は、パラオで家族同然に優しくしてくれた『顔の見える敵』ギルボアさんを蒸発させることになる。
NT-D前の『殺すのも殺されるのも冗談じゃないから、本気で殺したくないんだ!』というバナージの願いも、タフで優しい彼に希望を託した大人たちの導きも、全てを裏切るような残忍な戦闘でした。

こういう悲劇が嫌ならユニコーンを降りて戦場から離れるという選択肢もあるんでしょうが、このアニメがガンダムでありバナージが主人公である以上、お話が終わるまで彼はガンダムパイロットでなければいけません。
そういうメタ的な視点を抜きにしても、惚れた女は宇宙世紀の歪み全部を背負って戦場からは逃げられない定めだし、バナージの清廉な人格は自分の周囲で死んでしまった人に背中を向けることを許さないだろうし、彼はユニコーンという巨大な暴力、人間を『歯車』に変えて私的領域を無に返してしまう装置に、常に向かい合わなければいけないわけです。
そしてその死に物狂いの奮闘は、人間性を吸い取ってギラギラと輝く戦場や連邦政府や『袖付き』のニヒリズムに対抗する唯一の武器だろうし、困難を乗り越えて実現を目指す価値のある、立派な夢だとも思います。

そういうバナージの努力に共感と説得力を出すためには、彼がどれだけ頑張っても思い通りにはならない、ハードな試練をしっかり用意しなければいけない。
殺したくないけど人は死に、その報復(Retribution)で振るった暴力は、殺したくない人を殺す。
バナージに返り血が飛ぶ距離でダグザさんが死に、バナージ自身の手がギルボアさんの血で汚れたことで、彼は自分の理想を試し、そうそう簡単に『それでも』とは言わせない世界のルールを、身を持って体験することになりました。
そら茫然自失になって大気圏を落下するし、一旦連邦という規定秩序から逃れるようにネェル・アーガマから離れもするわな。

これからも厳しく彼を試すだろう殺戮の巷の中で、ダグザさんが言っていた『望むと望むまいと、お前はパイロットという作戦単位だ』『決めるのはココだ。自分で自分の行き先を決められる、唯一の部品だ』という言葉は、彼を導いてくれるでしょう。
パイロットであり『歯車』でもあり、親しい距離で言葉をかわしたダグザさんは、いきなり出会ってユニコーンを託し、あっという間に退場していったカーディアスよりも、バナージにとって『父親』だったのかもなぁ、などとも思います。
しかしまぁ、今は自分の信じていた世界を守りきれなかった無力さと、世界が壊れてしまった混乱でグッチャグッチャでしょうから、先輩が残してくれた言葉の薬が効いてくるのは、もうちょっと先かなぁ。
死と暴力の混乱の中に子供を置き去りにするだけではなく、ちゃんと導きを用意してくれるのはありがたいんだが……それにしたってハードな試練だ。


試練という意味では、連邦という安定した世界観の内側に取り込まれ、既存の秩序の延長線上にあるネェル・アーガマからバナージが離れたのは、なかなか面白い状況だと思います。
生まれた時から自分を取り囲んでいた世界観を離れ己の意志を試すという意味では、物語が始まった時のオードリーと同じ立場にバナージも立つわけだなぁ。
あの時孤独なオードリーを認め助けてくれたバナージを、今度は誰が助けるのか……美少女じゃなくておひげのオジサンが第一候補ってところに、UCの汗臭さが強く出てるね。

俺のマリーダさんが今後どうなるかも気になりますが、アルベルト・"チョロ蔵"・ビストと一緒に行動することになるんかね。
意識が朦朧としている時でも、エアロックから吸いだされて『人間がするべきではない死に方』をしようとする的に手を伸ばそうとする辺り、やっぱマリーダさんは人間としての位が高い人だ。
そういうマリーダさんを大事に思いつつ、私情を殺して『フル=フロンタル救出』という公的役割を優先するジンネマンさんは、抑圧の効いた良いオトナと見るべきか、本当に大切なモノを押し隠してしまっていると受け取るべきか。
『良いオトナ一号』だったダグザさんが満足気に退場しちゃったんで、今後バナージを導きつつ、バナージの真っ直ぐさに導かれる大人の役はジンネマンさんに移るのかね?


と言うわけで、これまで安全圏から色々批判してたバナージくんの横っ面を、現実の残忍さと皮肉さで思いっきり張り飛ばす回でした。
私的領域の集合体である公的領域が、お互いを排他する状況になると何が起こるのか。
それを身をもって経験させることは、バナージくん個人の魂の遍歴としても、作品全体を弛緩させない意味でも、大事なことだったと思います。

でもさあああああ、ダグザさんもギルボアさんもいい人だからさあああ、死んでほしくはなかったわけよぉ!!
分かりますー? この気持ちアナタえー!!?
やっぱお話にとって感情移入って大事だよなぁ……どうでもいいやつがどうでもいいことしても、マジどうでもいいわけでさぁ。

『100%死ぬだろうなぁ……ここで殺すとマジ効果的だしなぁ……』って頭では分かっていても、マジがっくり来るキャラクターを生み出し、彼らのフィクショナルな人生を真っ当させるため全力を尽くすこと。
そこを怠けていないことが、UCが僕の血を熱くさせるアニメーションである、大事な足場だと思いました。
マージで俺のマリーダさんには、これ以上ヒドいことして欲しくない!!
……でもするよね、素敵な人だからこそするよね……でも見ちゃうの、UC面白いから……。(アンビバレントな感情の重力に挟まれ、引き裂かれながら退場)