◇はじめに
人間と怪物の間で揺蕩うヒューマニズムの残照、今週は退魔師ナギちゃんの憂鬱。
序盤でさっくり番場・木村・甲斐の『チーム科学、オカルトによって手に入れた情報を納得する』シーンを終わらせ、残りは魔狩人ナギちゃんの人間性を描く話でした。
一期8話といい、擬態形の奇獣は『人間に似ているが人間ではない存在』故に、メインキャラクターの人間性の試金石として機能するねぇ。
◇チームボンクラ、オカルトに納得する
『そういうこともあるかもしれませんね(完全オカルトな情報提供に対し)』の言霊が強烈すぎる、序盤の『ボンクラ三巨頭トップ会談 IN ヘリ』。
奇獣というインチキクリーチャーを扱いつつも、一応あいつら文明と科学に属するキャラクターなわけで、強引だろうと現在の情報をしっかり納得させ、これからお話が進む道を平らに均しておくことは大事です。
元々現代的な都市文明と、そこに相容れない奇獣のオカルトが入り混じっていることが影鰐の魅力(の一つ)なわけで、そこの区切りをぶっ壊して何でもありにしちゃうと、作品の魅力は減じていきます。
今回チーム科学が相当な力技で、ナギや奇獣が属する旧世界の闇を新世界の文明に引き寄せていたのは、今後の展開的にファインプレーだったと思います。
『臓器の記憶』や『ソルフェジオ周波数』といった、科学の中でも相当オカルトに偏ったジャンルを引っ張りだして、親和性を高めようとするクールな使い方もグッド。
まぁTRPGプレイヤーとしては、ああ言う小芝居を挟んでねじれてきちゃった状況をキャラクターに納得させて、ストーリー展開をスムーズにさせるテクニックは『あるな~!』って感じだったがね!
合流しているPLの間でしっかり合意形成するのは大事だし、それは必ずしも完全に精査される必要が無いってのは、ようよう分かる。
大事なのは合意が形成されること(TRPGでは卓内、アニメーションとしては視聴者との間に)であって、巧くムードを生成して話が転がる足場ができたらそれでOKなのだ。
「んー、俺ら一応科学者クラス取ってる文明人だしさ、『夢で見ました』で行動決定するのヤバくね?」「んじゃあこう言います。『そういうこともあるかもしれませんね。臓器移植でなんのかんの』」「ウッヒャッヒャッヒャ、ナイス科学っぽい言い訳。ではナギちゃんのスーパー音叉の情報を聞いて『ソルフェジオ周波数……』と難しい顔で呟きます」「なんすか『ソルフェジオ周波数』って。科学っぽい響きではありますけど」「オレも知らん……しらんが、『それっぽい』のは大事だ!!」「だーよーねー、あー面白いシーンだった。グダグダになりそうだからシーン切ろうぜ」みたいなボンクラトークが、プレイヤーの間で飛び交っていたに違いない。
後半ナギちゃんのシーンで通信機越しに情報を出すことで、『俺ら始まりの村に集合するんで、ぜひ合流よろしく~』というメッセージを伝える所とか、影鰐卓のPLたちは全体的に上手すぎるわな。
◇人間と奇獣の間で
ボンクラたちが状況を整えた後は、二期三人目の主役であるナギのターン。
『私も完全な奇獣ぶっ殺すマシーンってわけではなくて、家族への情とか過去への後悔とか、色々抱え込んでいるんですよー』というのを見せる回でしたね。
だるまを誘い出し、番場先生をボッコにしただけだとただの敵役なので、今後の展開的にこういう話やるのは大事だなぁ。
今回は奇獣のデザインがとにかく秀逸で、二期になって大幅にパワーアップした『女の子の可愛さ』を逆手に取り、生理的嫌悪感が燃え上がる人間蜘蛛に仕上がっていました。
あの醜い姿への嫌悪感はそのまま、奇獣と人間の間で揺れているナギや番場、木村の危うさに繋がるわけで、対比物を巧く使ってキャラクターの立場を際立たせる手法が上手いな、と感じます。
『ありえたかもしれない主役たちの姿を、別のキャラクターで見せる』という手法は、二期7話でサトルサンを使って見せてもいましたね。
ナギが奇獣少女に一杯食わされていたのは、幸せだった幼少期を少女に重ね、失った過去に後悔を抱く人間性故です。
彼女の苦戦はスタイリッシュアクションであると同時に、『過去を振り切って戦い続ける事ができるか?』という精神的・倫理的問いかけでもあって、そこを切り捨てて決戦の地に向かうつなぎ方は、コンパクトな尺の中にドラマの盛り上がりがしっかりあって、素晴らしかった。
影鰐の異能がキャラクターに近づいた分、二期はダークヒーロー・ファンタジーとしてのケレン味が強く出ていて、今回の上げ下げの巧さはそこら辺が理由かなぁと思ったりした。
二期になって強くなったのはアクション表現も同じで、相手の認識的特性を見きって状況を誘導し、スローモーションや画面効果を巧みに使いこなして視聴者を興奮させる殺陣の組み方は見事でした。
二期はホラーからスタイリッシュアクションにジャンルが変わったので、こういう部分でしっかり説得力を出せるのは、大事だし凄いなぁ。
劇メーションという手法上、色々工夫しないと『動いている感じ』が出ないんだけど、細かく気を配って『動かないものを動かす』無茶を実現しているのは、二期の強みだ。
これが単純に『アクションシーンすげー』で終わらず、番場やナギのキャラクター的な変化、ドラマが展開するジャンルの要請に合わせて生まれている、『演出として活きたアクション』な所が、影鰐が最強に強まったアニメである証明やね。
◇まとめ
というわけで、いろんな立場にわかれた人たちが一堂に会する状況を作るため、情報を取りまとめたり、キャラクターの影を表現するエピソードでした。
物語的機能をしっかり果たすだけではなく、それがダンドリとは感じられない熱気がドラマとアクションに篭っていて、とても楽しかった。
創作物を楽しむ/楽しませるうえで、計算と情熱の両立はほんとうに大事だと思い知らされる回でした。
来週からは影鰐発祥の村にメインアクターたちが集う展開で、話もいよいよ最終楽章って感じです。
すべてが始まった場所で全てが終わるってのは、基本だけどやっぱ最高に盛り上がる流れだよなぁ……。
メガクリーチャーと化した本間がどういう横殴りを仕掛けてくるのか、今から超楽しみですね。