イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

機動戦士ガンダムUC RE:0096:第13話『戦士、バナージ・リンクス』感想

トリントン攻防戦が終わって物語ははまた別の領域へ……なUC、今週はたっぷりお話しようじゃないの回。
『悪しき母』マーサとミネバ、『良き父』ブライトとバナージがそれぞれ対話を繰り広げる中、マリーダとミネバを手の届かないところに引っ張り上げようと言うマーサ側と、それに横槍入れようと言うブライト側の対立構造が更に深まっていく話でした。
『袖付き』VS連邦というこれまでの構図から一気に動いて、私欲で動く『悪い連邦』と個人的感覚に頼りつつ善を目指す『良い連邦』というマッチアップになったのは、ガンダムらしいというかUC0096らしいというか。
正義と悪、善と不善が渦をなす中、少年少女は悩みを深めていくのでした、という回でしたね。

バナージには相変わらずいい大人がいい言葉を持ってきてくれる感じであり、今回の相談相手は初代からガンダムパイロットを見守ってきたブライト・ノア
視聴者も共有する、悩める若人が『それでも』と言い続けてきたガンダム史の最新走者としてのバナージを持ち上げつつ、彼が何を持っていて何がしたいのか、しっかり確かめる動きを指定ました。
バナージは屈折したオッサンがパーソナルエリアに入り込んで、親身に話してくれるシーンがほんとうに多いな。

カーディアス、ダグザ、ギルボアに続いてロニも戦火に燃やされてしまったショックで、バナージは危うく再度自閉モードに入りかけるわけですが、『そういうウジウジしたのは、髭面のおっさんともうやっただろ!』とばかりに踏み込んでくるブライトさんのおかげで、ダルい展開は見事に回避。
自分の殻に閉じこもってるのはリディも同じなのに、バナージの時だけジンネマンもブライトさんも扉をこじ開け、自分の気持を身近な距離で伝えてくれるのは、主役と悪役の残酷な差なのか、はたまた持って生まれた可愛げか。
マーサのように一線を引いて対峙するのではなく、息遣いが聞こえる距離で隣りに座ってくれるブライトさんが、リディには通信越しの会話になってしまう距離の描写は、少し切ないですね。

ブライトさんのトス上げは本当に見事で、『軍人ではないので、既存の組織の枠組みで敵を捉えることは出来ない』バナージの立場と、『とにかくミネバの役に立ちたい、好きな人を守りたい』というモチベーションをしっかり言葉にさせて、主役がどこに向かえばいいか自分で気づかせていました。
人脈を駆使し、連邦への反逆スレスレの動きまで取ってミネバ&マリーダ奪還のお膳立てをするのは、繊細で傷つきやすく、真っ直ぐで優しい『ガンダムの少年』たちを見守ってきたから生まれる、情が大きい気がするね。
もちろん、腐りきった連邦がさらに腐敗していくことへの、義憤と私憤が当然あるんだろうけども。
あくまで私的領域の足場と動機しか持ち得ないバナージと対比することで、組織の中で器用に泳ぎつつ、個人的な情や憤りを行動に結び付けられる、公私の区別を乗りこなすブライトさんの手際が目立つ回だった気がする。


バナージが何人目かわかんないオヤジに面倒見られる一方、ミネバはクソみたいな女にクソをなすりつけられていた。
マーサは『公権力を握った女』という異質な地位を武器として使いつつも、戦いのロジック自体は冷たい男の論法って所が、非常にズルいですよね。
差し出されたローストビーフとロールパンをどうにか自分で操作して飲み込もうとするんだけど、結局食べれない描写が、うまく彼女の心境を映像にしていた気がします。
『差し出された食物』って意味ではバナージと食ったホットドッグ、ガルマ声のオッサンにもらったコーヒーと、響きあいつつ対比されてるモチーフよね、今回のローストビーフサンド。

ミネバやマリーダに『女』という立場から擦り寄ろうとしつつも、実は一切共感のないマーサの姿勢は、身体的表現の中にもよく表れています。
固くて冷たそうな椅子に向かい合い、画面真ん中にビシっと引かれた一線をけして超えないマーサは、ミネバが感じている割り切れなさや矛盾といった『子供らしさ』に、実は一切近寄る気がない。
『良き父』であるブライトがバナージの『子供らしさ』こそ状況を打破する鍵だと信じ、自分が人生をともにしてきた『ガンダムの少年』と同じ影を見たのとは、全く正反対の姿勢です。
そこら辺の共感能力の差異が、二人の子供への物理的距離、向かい合い方として表現されているのは、なかなか豊かな演出でした。

マーサのズルさはマリーダさんを扱う言葉にも表れていて、彼女はけして私欲でマリーダさんを再洗脳したことを認めない。
『お前が背負うネオジオンが最初にやったことだ』『彼女自身が持つ闇を開放しただけだ』『あなたと同じように、『箱』を封印したいと考えている』と、自分の責任を回避する言説を積み重ねるマーサは、心というパーツからしみだした欲望に、財団や連邦を巻き添えにする邪悪さを象徴しているようです。
その行動が栄華を維持したいという欲からでているのか、はたまた男社会やビスト家という、自分を弾き出した『公』への復讐からでているのかは、なかなか判別しづらい所です。
私欲と私憤が癒着しあって、もう区別がつかないところまで融合してしまっているって感じかなぁ。

そこまでドロッとした感情の泥を制御し、様々な組織の間を泳ぎきる立ち回りの巧さは、怪物と言うに相応しいやね。
得体のしれない虚無を抱えつつ、『ジオンの再興』という大義すら実現するか怪しいフル・フロンタルと、敵味方に分かれつつも奇妙に似ているのは、なかなか面白いところだ。
主人公バナージの立場にお話全体が引き寄せられつつある状況を鑑みると、『連邦』VS『袖付き』という構図から、『より良き公/私の別を目指す立場』VS『私を暴走/虚無化させて公を害する立場』という構図に変わりつつあるのは、局面が動いてきた感じがあって興味深い。

ブライトさんもまた、連邦という巨大な『公』からはみ出して生きてきて、今回も『私』的経験からバナージを見込んで『敵』に渡りをつけるという、『反-公』的立場を取っているわけで。
ジンネマンもブライトさんの影響を受けつつ、『袖付き』という立場を離れ、独自の判断で行動しつつある≒ブライトさんが代表する側に近づきつつあるわけだ。
『世界の安定のため』『秩序の維持のため』というお題目を掲げつつ、その奥に私的領域(もしくはその欠如)を隠しているマーサやフルと彼らは、分かりやすく対比的な位置にいるのだな。
己の河岸をはっきりと決めた大人に対し、まだまだ迷ってる子供たちがどう動くか、今後楽しみなところですね。


って言っても、バナージとミネバは間違えず『より良き公/私の別を目指す立場』にたどり着き、アルベルトやリディは私を暴走/虚無化させて公を害する立場』に引き寄せられてしまうんだろうなってのは、なんとなく感じるけどね。
アルベルトがマリーダさんLOVEで暴走して、マーサの子宮から出てくれればワンチャンあるんだけど……そこら辺どうなのかなぁ。
メタ的なことを言えば、『白いユニコーンVS黒いバンシィ』の対立は見せ場なはずで、それまでマリーダさんを簡単に開放はしないだろうし、そもそもあるベルトが『迷って成長する子供』として重視されているのか、判別しきれない部分もあるしね。
全部ぶっ飛ばして個人的希望を言えば、"ザ・ハンド"に目覚めたアルベルトが全てをなぎ払い、マリーダさんの耳元で愛を絶叫しながら、バンシーのコックピットから連れだしてくれるのが良いんだけどさ。

虜囚のはずなのにブライトさんに受け入れられたバナージに対し、リディは相変わらず環境に溶け込めずにいました。
スリースターズとの距離もなんか余所余所しいし、いいこと言ってくれてるブライトさんとのチャンネルも自分で切っちゃうしなぁ。
やっぱお話全体がリディ少尉を袋小路に追い込んでいる動きを、フィルムの端々から強く感じますね……自分を預けられる存在がいればいいんだけど、ミネバにそれやりかけて拒否られてるからなぁ……。
恋心はマジでままならねぇな。

マリーダさんに関しては洗脳完了! 完全なるデスキルマシーン爆誕ッ!! って感じの冷たい動きで、んもおおおおマジないわーーーッ!!!! って感じだった。
『あの可哀想な人を、これ以上マシーンとして使い潰すつもりなのかよッ!!』としか言いようがなく、俺がアルベルトだったらマジで"ザ・ハンド"で全部削り飛ばして一緒に逃げてる。(ジョジョとの混線再び)
バンシィから出てきたマリーダさんを見てショックを受けるバナージを、台詞ではなく手の表情で描いていたのはなかなか情緒のある見せ方でしたね……俺もゲンナリだよバナージマジで。
ほんとあの黒いキルマシーンに乗っかってても、良いコト一個もないはずなのでバナージとミネバとジンネマン親父が頑張って説得してくれることを祈っています。
……ホント言えばリディにやって欲しい仕事だけど、彼悪堕ちに忙しいんで、そういうカッコイイことする立場にないよね、ロニさんもぶっ殺しちゃったし。


つーわけで、ロボットアクションほぼ皆無の、対話と交流と変化のエピソードでした。
UCは象徴やリフレインを巧く使って、キャラクターの心情を絵で見せるのが巧いので、こういうお話し僕は好きですね。
キャラの気持ちがじんわり伝わってくるからこそ、戦ったり叫んだり逃げたりという行動と選択にも、共感と納得が生まれるんだろうしさ。

来週は『待たせたなロボマニア共……黒いガンダムとの空中戦だぞ!』と言わんばかりの予告でしたが、組織の枠をはみ出して集いつつあるガランシェールとネェル・アーガマがどう動くかも、結構気になるところです。
ブライトさんの後押しを受けたバナージ、マーサという歪んだ鏡を見つめたミネバ、特にケアされてないリディが、それぞれ何を選ぶのかも注目ポイント。
あとマリーダさんなマリーダさん、マジーよー、これ以上ひどいことマジねーから、な?
とまれ、事態が大きく動くだろう次回に期待大です……何? 来週ゴルフ!? マージーよー……。