少女たちの願いが天に昇り、夜空のキャンバスに夢の星座を描く神話歌劇、今週はCDデビュー後編。
『あの力』による不調とかけ出しアイドルという現実に悩むゆめ、過去のトラウマを乗り越え後輩を導くひめ、敗北を噛み締めながら新しいスタートを切ったローラ。
三人のそれぞれ立場が、スターズらしい苦味を交えつつ交錯し、アイドルのリアルな今を切り取る。
ただ不穏なだけで終わらず、お互いを暖かく思いやる眼差しもしっかり織り込まれた、スターズだけが持つ強みがグンと前に出た、正に勝負のエピソードでした。
前回残酷に決着が付き、さてこっからどう転がす、という今回のお話。
生来の軽薄さを振り回すゆめの危うさから始まって、『あの力』の副作用に悩むレコーディング、同じ苦しみを体験したひめのサポート、そのひめとの差を痛感するステージに、親友でありライバルでもあるローラとの再起と、緩急のよく付いた起伏ある仕上がりでした。
都合のいい夢とミーハーなひめLOVEが全面に出された時は『おいおい、前回のローラの負けは何だったんだよ?』と正直思ってしまったのですが、そこをしっかり回収して反転させ、落差をつける素材に使ってきたのが非常に上手かったです。
今回はとにかくローラの描き方が良くて、勝って浮かれるゆめと、負けて鍛え直すローラの明暗の対比だとか、回り道をして自分と同じ『悔しさ』を知ったゆめを迎えに行く姿だとか、プライドと優しさのある見せ方をしてくれました。
ローラは実力も意識も高くて、ひよっこアイドルが白鳥ひめの領域まで駆け上がるということがどういう道なのか、ゆめよりもシビアに理解している。
だからこそ居残りで練習するし(あそこで声をかけることで、アンナ先生の株がグンと上がったのは素晴らしかった)、現実を思い知らされたゆめがどういう気持ちでいるのか、先回りして想像することも出来る。
前回『負けた』はずのローラが自分を強く持ち、状況をコントロールできているという意味では、『あの力』に振り回されているゆめに『勝っている』という陰影の付け方は、複雑な色合いが見えて素晴らしかったです。
そしてただシビアーなだけではなく、強く親友の事を思い、その挫折をケアしようと歩み寄ってくれる姿も、ラストにしっかり盛り込んでくれました。
あそこでハグをあえてしないのが最高で、お互いよりかかるベタベタした関係よりも、切磋琢磨の末にてっぺんを競い合うシリアスな距離感を、ローラが意図して望んでいる姿勢が見えました。
でもローラはゆめを愛していないわけではなく、その真心はCDショップの袋に包まれて、ちゃんとゆめに届く。
『親友だけど、ライバル』という難しい関係を、苦くなりすぎず甘くなりすぎず、見事に描けていたと思います。
映画が『親友』に寄せて二人を描写したエピソードなら、ここ2つのTV版は『ライバル』に注力して描いていた感じですね。
そんなローラをしっかり描くことで、『勝者』なんだけど不安定で危うい道を歩いているゆめの姿も、ピントをぼやけさせずに描写できていました。
序盤でミーハーでドリーマーな姿を見せられた時のため息は、ローラの報われなさだけではなく、これまでのアイドル活動がゆめになんの変化も産んでいないのではないかという不安からも、思わずもれ出たものです。
しかしローラが言っていたように『悔しいのは、努力したから』であって、ゆめは己が歩いてた22話分のアイカツをしっかり血肉に変えて、ただアイドルに夢を見る女の子から、ゆっくり変化しつつある。
第1話のファン視線では『凄い』と思いつつも悔しさや焦りは感じなかったひめのステージを見て、ひよっことはいえCDデビューを果たした今回では、圧倒的な差を実感し、それを埋めて追いつかなければいけない道のりの長さも理解できるようになっている。
小さいけれど着実に、虹野ゆめは己が何者であるかを、何者かになるためにしなければいけないことを、しっかり理解しつつあるわけです。
夢見がちな本性は簡単には変わらないけれども、経験によって世界の捉え方は着実に変化しつつあるし、見え方が変われば行動も変わっていく。
この小さくて迷いがちで、しかし着実な『成長』の描き方は、まさにアイカツスターズ! だけが持つオリジナルな強みだと、僕は思います。
ローラもそうなんですが、真正面から『悔しい』というネガティブな気持ちを描けることも、スターズの強みだと思います。
無印は極力ネガティブな感情の発露を廃し、それが外部に出力されるのを世界律レベルで抑圧して進めることで、作品世界全体のトーンを維持してきました。
それが女児アニメ(というかアニメ作品)としてとんでもない偉業を成し遂げていたことを踏まえた上で、暗い影を深刻にえぐりだすカメラを捨て去ってしまったことで、描けなかったものが確かにある。
『二度と負けません』『悔しいのは、努力したからでしょ』というローラの言葉は、正に無印の後に続き、その上で無印と同じ物語を描かないと決めたスターズにしか出てこない、非常に鋭い『普通』のセリフだと思うわけです。
ゆめがひめとの差を認識することで、前回『勝った』はずのゆめが実はローラと同じ『敗者』でしかなく、しかもそれは別に悲しいことではないと認識するラストシーンは、ひよっこアイドル成長物語として強いカタルシスを持っていました。
親友の間に生まれてしまった差が実はマイクロレベルの違いでしかなく、まだまだ成長の余地と必要があり、それは同じ立場にある二人が時に向かい合い、時に支え合うことでしか生まれ得ないのだと、キャラクターと視聴者がしっかり確認すること。
それは今後、『親友でありライバルでもある』二人が歩む物語を明確に照らしだし、物語がどこに進んでいくのかを見事に予言する、良いスタートラインのヒキ方だったと思うのです。
第10話でもそうだったんですが、スターズは『一見ゴールなんだけども、実は己の無力さを思い知る新しいスタート』という話が非常に上手く刺さり、それが重層的に積み重なってシリーズを構築することで、キャラクターの人格的成長が非常に判りやすくなっています。
これは成長に伴う痛み、外部へのネガティブな感情をぼやかさずに描ける、スターズが選びとった表現哲学故のものだと思うわけで、自分たちの強みを最大限に活かす、ストロングな展開だったと思います。
『普通』であることの凡庸さに紛れず、その強みを説得力と馴染みの良さにかえて表現できているのは、本当に凄い。
『普通』という意味では、『あの力』に振り回された過去にうなされるひめもまた、傷と柔らかさを持った『普通』の人間でした。
ネガティブな感情を外に表現できなかった無印は、乗り越えるべき障害を神崎美月一人にまとめすぎてしまった結果、非人間的な『アイカツの天井』以外の人間・神崎美月を長い間描けなかったと、僕は思っています。
悪夢に呻き、己と同じ道を歩ませないためにゆめに蜂蜜紅茶という優しさを差し出すひめパイセンは、スターズらしい『普通』の『アイカツの天井』だなぁと、今回強く思いました。
第11話でゆめがひめに施した『マッサージ』という暖かさが、巡り巡って今回ひめから施さえる人情の輪廻、俺マジ好きだよ。
今回ひめに見守られ、ひめを遠くから見つめることで、ゆめとひめの関係が『ファンとアイドル』から『アイドルとアイドル』に変質したのも、見逃せないポイントです。
その距離は圧倒的だけども、追いつこうとすら思えない高い星から、いつか追いつかなければいけない強敵へと認識を改めたことで、ゆめを中心に回る作品全体が、グッと様相を変えたように思えたわけです。
今回感じた変化が実際世界をどう変えていくかというのは、やはり今後のエピソードの蓄積を見ていくしかないわけですが、少なくとも変化に納得できる起爆剤にはなったと思うので、巧く活かして欲しいですね。
回想を見るだに、ひめ先輩も『あの力』に魅入られそのバックファイアを食らって、道を考えなおした過去がありそうです。
諸星学園長もひめ先輩も、意味ありげな目配せだけして具体的なところは何も言ってくれないので、確たることは言えないわけですけどね。
まぁ話を引っ張る上で『あの力』をミステリとして維持し続けなきゃならんつーのはよくわかるけど、具体的に青少年の心身に悪影響でてるからなぁ……言わない理由は、相当上手く付けないと引っかかるポイントだと思います。
しかし今回うまく『あの力』の危うさを描けたので、視聴者の印象に残ったのは事実。
凡人のように見えて天に愛されているひめと、才能に満ち溢れつつ持ってないローラの対比を強調させる意味でも、『あの力』は今後大きな軸になる足場を今回で固めた感じがします。
学園長も悪い人ではないってのは判るんだが、やることがいちいち陰湿というか、心の要素を無視して進め過ぎな感じだよなぁ……そこには理由があるんだろうけどさ。
というわけで、前回衝撃的だったローラの敗北をしっかり受け止め、ゆめの危うさと決意、ひめの優しさと過去を複層的に描く、横幅の広いエピソードでした。
これにファンとの距離という奥行きが加わることで、三人のアイドルが今どこにいて、これからどこを目指すのか、スターズにおけるアイドルがどこに向かっていくかが、非常に立体的に感覚できました。
お話の中盤を〆る意味合いでも、キャラクターが積み上げてきたものを確認する上でも、文句無しに図抜けた傑作エピソードだったと思います。
三人のアイドルがお互いの間合いを確認した所で、やってくるのは新アイドル!
ここらへんがお商売の都合と常に戦い続ける女児アニっぽいところですが、外見もキャラ設定も美味しいところ突っついてて、早く活躍が見たくなるキャラなんだよなぁ、リリエンヌ先輩。
ツンドラの歌姫がどんな活躍をするのか、そこから何が広がっていくのか、来週が楽しみです。
……しかし上田麗奈さん、これでアイカツ・アイカツスターズ・プリパラ・アイマスミリオンライブ制覇か……強えな。(どういう基準で強弱を図るかは不明)