イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

リトルウィッチアカデミア:第16話『ポホヨラの試練』感想

勇気と友情が新たな地平を切り開く新世代魔法少女物語、今週はアッコの北方行。
ロッテの故郷であるフィンランドを舞台に、友達の実家で羽根を伸ばしたり、魔術的バイオハザードに立ち向かったり、忍耐とコミュニケーションの果てに四つ目の言の葉に力を宿したり、学校を飛び出した大冒険となりました。
グラントリスケルをめぐるストーリーが始まってからは、ルームメイト二人との学生描写が減ってしまって少しさみしかったわけですが、今回は仲良し三人組の笑顔と奮闘も見れて、足りない栄養素をたっぷり補充した気持ち。
世界の命運をめぐる大きな話もいいですが、今回のようなコンパクトな大冒険もやっぱり面白いなぁと、再確認できるエピソードでした。


というわけで、フィンランドの英雄詩『カレワラ』に登場する、魔女が支配する伝説の地名『ポホヨラ』をサブタイトルに抱いた今回のお話は、地域色豊かなストーリーとなりました。
フィンランド土着の遊牧民であるミッサ人は出てくるし、フィンランドシュールストレミングであるハパンシラッカのパイは食べるし、サウナにも入る。
イェティが再登場し、トナカイも顔を見せるし、そこかしこにムーミン谷で見たような意匠が顔を出す。(そもそもロッテの名字も『ヤンソン』だしな)
町並みもルーナノヴァとはまた違った異国情緒に満ちていて、アッコが言うとおり『可愛いらしい街』でした。

そういう異郷においても、アッコはやっぱりアウトサイダーです。
スーシィがクセの強いハパンシラッカのパイをモリモリ食べ、サウナも堪能するのに対し、パイは吐き出してしまうし、江戸っ子らしく長風呂は出来ない。
しかし異質な存在であることで緑人間病(『カビっぽいので世界が滅びる』絵面は、ちょっとジョージ秋山の"ザ・ムーン"っぽい)の進行が遅れ、ワクチン作成が間に合ったことを考えると、これまでと同じように、アッコが『外部』にいることは必ずしも悪いことではありません。
まぁ今回は、ヤンソン家の人達は大歓迎してくれて、立場的にアウトサイダーというわけではないわけですが。

今回の話は学校の外に出ていく、一種外伝的なお話でありながら、過去と未来の物語を巧くトレースしています。
様々なものを集め困難を突破していく構図は、二期の主題となるだろう言の葉集めと重なる(と同時に、今回の試練自体が言の葉集めでもある)し、鳥やトナカイ、イエティといった異質な存在と『言語』を用いてコミュニケーションしていく姿は、魚類語や古代ドラゴン語、ラテン語の知識が状況を突破していった過去の物語と共通しています。

やっぱアッコの特性はコミュニケーションにあって、語学の実地的才能が図抜けているのは彼女の強みなんだろうなぁ。
このアニメが『言語』を描く時、コミュニケーションの成功と同時に、必ずその困難も書いているのは、面白い視座だと思います。
今回で言えば、鳥との対話はうまくいくけども、トナカイは尻を叩きすぎて先に帰っちゃうし、物言わぬイエティとは一回仲違いしてしまうし。
物事の本質を理解し、スムーズにスマートに解決していくのはダイアナの領分であって、アッコはあくまで悪戦苦闘の早とちりが『らしさ』というキャラ表現……であると同時に、失敗も含めてコミュニケーションなのだ、という視座の現れでもある気がします。


先週アーシュラ先生にクラウ・ソラスの本当の意味を教えてもらったアッコは、やっぱり手っ取り早く形だけを学ぼうとし、『体験が伴わければ、言葉は意味を持たない』という教えを飲み込めていない。
性急な本性を変えられずに、雪を蹴り落としたり、ベリーをくしゃみで飛ばしたりするわけですが、仲間たちが一人、また一人と緑人間病に倒れるに従って、段々と忍耐を学んでいきます。
ぶっちゃけお話の都合でゴリ押し(その力勝負で笑わせてくるところは、うえのきみこだなぁと思いますが。"スペースダンディ"のゾンビ回思い出す)された緑人間病に対応することで、忍耐という言葉に体験が伴ってくるわけです。

まるでアニメの制作進行みたいなイエティとのやり取りも、発注が巧く通らず、エゴサして傷つく面倒くさい相手に忍耐強く向かい合う試練ですし、何よりもトナカイがいなくなって雪の中を一人歩く道のりは、それまでのコメディ風味を一掃し、巧くメロウな雰囲気を出したシリアスなシーンでした。
あの時アッコの前にはいくつかの幻影が現れるわけですが、ルーナノヴァの制服を着る前のアッコ自身(内部であり過去)、優しいヤンソン一家(外部であり現在)は歩みを止めることを肯定するのに、生き方を教えてくれたシャイニーシャリオ(過去であり未来)は『本当にそれで良いのか?』と問いかけ、忍耐の先にある夢にアッコを導いていくのは、なかなか面白いところです。

ルーナノヴァに来る前のアッコ・カガリはあまり描写されていませんが、今回の幻影がアッコの内面から滲んだものであることを考えると、ルーナノヴァ受験前にも同じように『私がやらなくても誰かがやるよ』と思って、歩みを止めようとしたことがあったのかもしれません。
それでも『シャリオみたいになりたい!』という念願を貫いて英語を学び、魔女学校にたどり着いたアッコにとって、正解である忍耐の道をシャリオが導くのは必然なのでしょう。
そこで現代の師であるアーシュラ先生ではなく、アッコの幻影の中にしかいないシャリオが声をかけてくるあたり、残酷だなぁとも思いました。

禅寺でごま豆腐を作るときのように、延々魔女の釜をかき混ぜ続ける忍耐が最後に試されるわけですが、伝説の聖剣であるクラウ・ソラスをかき混ぜ棒に使っちゃうところが、アッコらしいなと思いました。
状況からすると、アッコは魔女黄金期復活を背負う救世主なんですけども、アバンでルームメイトが言っていたように、そういう大きなものはなんだかしっくりこない。
優しくしてくれたヤンソン一家を、病に冒されつつも希望を託してくれた仲間を救うために、なんにも考えず釜にぶっ込んじゃう向こう見ずこそがいかにもアッコだし、多分それこそが、アッコが世界を変える鍵として選ばれた理由なのでしょう。

クラウ・ソラスは言の葉を開放するごとに姿を変え(弓、斧、フック、スプリンクラー)ていますが、これはアッコの得意魔術が変化の魔法であることと、面白い相関を為している気がします。
そもそもクラウ・ソラスが開放するグラントリスケルは『世界改変』の大魔法ですし、『変わっていくことを恐れない、むしろ楽しむ』心が、アッコの善性であり魔法、ということなのかなぁ。
変化の魔法がマクロな意味でもミクロな意味でも重視されているのは、『絵が動く』アニメーションの醍醐味である変形の快楽を、このアニメが表現として大事にしていることからも見て取れます。
ここら辺、メディアの特性と物語のテーマ性が巧くシンクロしている感じで、凄く上手いと思うし、好きですね。


後半アッコ単独の試練になりましたが、久々にルームメイト達と楽しい旅行に出かける回でもあり、三人で試練に立ち向かっていく話でもあって、ロッテもスーシィも魅力的な表情を見せてくれました。
両親と再開したロッテは学校では見せない笑顔や泣き顔を露わにしていたし、気難し屋のスーシィも親友の家族、波長の合うフィンランドの文化に大興奮でした。
ロッテの故郷や家族に触れることで、彼女への理解が広がり深まるのは、旅のエピソードの醍醐味って感じで凄く良いですね。
スーシィがあんなに素直に喜びや感謝を露わにするのは珍しいので、『相当、フィンランドの風が肌にあったんだな』と思うと同時に、『アッコと同じくらいコイツロッテ好きだな……』とも思った。
第8話と良い、クールでニヒルな外面の奥に、マグマみたいな情熱を隠している子だね……自分の体が苔に覆われても、ミドリテングダケはちゃんと回収し託してるわけだし。

短い出番でしたが、クロワ先生も気になる動きをしていました。
感情を精霊として自在に変化・強化し、それを魔法のエネルギーに変える研究をしているようですが、これはアッコが背負った『言の葉に気持ちを込めることで、再び輝かせる』というクエストと、結構関係があると思います。
わざわざフィンランドに行って大冒険をしなくても、感情のエネルギーを自在に操作できるのであれば、魔法科学で言の葉にパワーを込めて復活させることは可能っぽいですしね。
しかし人の感情を自在に操作する技術は、どうにも危うそうです……怒りの感情露骨にドクロだしな……。

暖かくヤンソン一家に向かい入れられ、(実際の味はともかく)ハパンシラッカのパイとサウナで歓迎されたアッコ達に対し、クロワ先生はひとり暗い場所で研究を進め、カップ麺を食べます。
誰かと食卓を共にし、裸の付き合いの中で汗を流し、旅と冒険を共有する。
そういう時代は、シャリオと決別した時に捨て去ってしまったのかもしれません。

冒頭、まだ学生の二人がウッドワード先生に言の葉を教えてくれるように頼み、拒絶されるシーンは、アーシュラ先生とアッコによって再演されます。
その時出なかったヒントがアーシュラ先生から出ているのは、劣等生相手ゆえの甘さ(馬鹿な子ほど可愛い心理)なのか、失敗したがゆえの慎重策なのか。
そこら辺が判るのは、もう少し話が進んで、二人の出会いと青春、そして決別がより深く彫り込まれたときでしょう。

今回のお話はアッコ世代に重点した『現在』の物語であると同時に、少ない手番で巧く『過去』の世代と重ね合わせる展開も含まれていました。
ここら辺の手際の良さと執拗さは、二期はアッコが未来に向かって駆ける話であると同時に、シャリオとクロワが青春を再獲得する話にもなるのだろうという予感を、より強めてくれます。
僕はあの二人とても好きなので、アッコ個人の強靭な成長譚/マジカルコメディと同時に、輝きを見失った女たちの過去と現在と未来を巧く取り回してほしいなぁ、と思います。
複数の物語を並列して流すことで面白さがより強く深くなるってのは、旅と友情の物語と、言の葉探求譚を重ねて捌いた今回を見ていても、よく分かるところですしね。


というわけで、最近続いていたグラントリスケルの物語からちょっと離れて、北の国での冒険譚となりました。
雪に包まれた麗しい美術の中で、元気に駆け回り、泣いたり笑ったり諦めなかったりする三人がとても眩しくて、『やっぱ俺この子たち好きだな……』って気持ちになった。
最終的に主役で勇者で救世主であるアッコが世界を救うわけだけど、ロッテやスーシィの奮闘、m知らぬ土地の人との交流がないと偉業が果たせないところが、とても良いなと思います。
アッコは半人前だけど、色んな人が支え、導いてくれるから、どんどん前に進めるね。

こうして第四の言の葉を開放したアッコですが、残る3つもなかなかに手強そう。
言の葉探しという大きな物語が回転しても、今回のように比較的小さな、でも大切な視点でお話を進めることが出来ると分かったので、こういう話はちょくちょく見たいものです。
運命の大きなうねりも気になりますが、同じくらい運命的に出会った友と過ごす青春の物語も、たっぷり楽しみたい。
そういう貪欲をちゃんと叶えてくれて、凄く嬉しいエピソードになりました。