イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイドルタイムプリパラ:第9話『おしゃれスタジオ始めたっての』感想

輝くあなたを応援したい! 夢へと続く道へ導き手、ゼロからのアイドル神話の九回目は、チア子とチア部の夢への一歩。
アイドル不毛の地に降り立って以来、なかなか前進できないらぁら&ゆいですが、『誰かの夢を応援する』というアイドルの本分に真っ直ぐ向き合い、チアリーダーをチアーする展開でした。
『プリパラか、友情か』という誤った二択をあえて立てておいて『どっちも選ばない』から『どちらも選び取る』という第三の選択肢にしっかり繋げる流れも、プリパラのアイドルに何が出来るのかを見せる、見事な運び。
職人気質なのにメイクが大好きなチア子を通して、チア部との友好度も一気に稼いでしまう……だけではなくて、彼女たちの友情を橋渡しする中で、ゆい&らぁらの絆もしっかり描いてくるという、非常に手堅い展開でした。
始まる前と終わった後では、関わったキャラクターが少しだけ、でも確かに何か変わっているという、確かな手応えを感じられる、見事なエピソードでした。


というわけで、チア子を軸に展開する今回。
ぶっきらぼうで職人気質ながら、メイクにかける思いは誰にも負けないチア子自体が、ギャップを活かしてかなりいいキャラをしています。
チアーにダンプリ、チア部の友人と共有できる楽しさはもちろん大事なんだけども、それだけでは物足りない。
そこに『女の子の憧れ』であるプリパラが『夢の叶う場所』を提供し、パパラ宿たった二人のアイドルであるゆい&らぁらが介入する意味が生まれてくるというのも、必然性があってとても良いです。

チア子が担当する『コスメ』も、これまでプリパラが触ってこなかった場所であり、アイドルタイムは全体的にそういう部分を発掘する形で構成されています。
チア子がらぁら&ゆいに導かれることで、チア子にもプリパラにも欠けているものが補われ、より自分らしい自分に近づくことが出来る。
ウィン・ウィンの関係が初期設定の時点で想起できるのは、チア子(とそれを後押しするゆい&らぁら)の自己実現がより爽やかで、実りある結末を迎えるためにとても大事でしょう。

ここら辺をより強めるために、プリパラという社会にチア子が必要とされ、承認と存在意義を与えられる描写がちゃんとあるのは、プリパラらしい地道さだなと思います。
客商売をやるにはあまりに職人すぎるけども、腕は確かであり、『可愛くなりたい!』という他人の夢を叶えられるチア子。
その才覚が花開く場所として、そしてチア子の秘めた夢を受け止められる場所として、チア子が居場所を作っていく描写は彼女自身だけではなく、プリパラの価値も高めていきます。

チア子の無骨な態度は、彼女の個性であると同時に弱点でもあり、そのままではお客が遠のいてしまいます。
そこを補うために、ゆい&らぁらが走り回り、社会とチア子の媒介となる描き方をしていたのは凄く面白かったです。
アイドルという自分の夢をかなえるだけではなく、誰かの夢を応援し、居場所を見つける手助けができる。
後半、よりチア子に身近で顔が見えるチア部の面々との仲を取り持つ描写が繰り返されることで、ゆいとらぁらにしか出来ない仕事が強調されるのは、とても良いですね。

チア子はチアリーダーとメイキャッパー、つまり『誰かを輝かせる』サポーターを天分としています。
綺麗になるのも、応援されて結果を出すのもチア子ではなく『誰か』なのですが、ではチア子自身の夢や尊厳は誰にも応援されなくて良いのかといえば、そんなことはない。
『誰もが誰かを応援し、誰かを支えるアイドルにしてチアリーダーになれるし、なるべきだ』という凄く真っ当で力強いメッセージを、今週様々な人をつなぐために走り回ったゆいとらぁら、そしてチア子の不器用な努力は背負っていました。
やっぱこういう、骨の太いメッセージ性がエピソードにあると、強い満足感がありますね。


今回のお話は前半と後半、二回に渡ってチア子が対話をする構成になっています。
前半は社会と自分自身、後半はチア部と自分自身に向かい合い、『自分のやりたいことは、実は自分ひとりでは成立しないのだ』という見解までたどり着く形ですね。
これを認識することで、様々な人が集まり、夢を形にし応援し合う『場』としてのプリパラの意味がクリアになるという、個人と舞台が巧く響き合う構造になっています。

チア子はメイクという自分の夢を、的確に把握・発露できていないところから物語に入ります。
メイクによって可愛くなることが非常に重要な『アイドル』と出会うことで、チア子は自分の夢に価値があることを知り、同時に自分がメイクに夢を持っていることも知る。
最初は『メイクなんてどうでもいい、ダンプリを応援しているだけでいい』と言っていたチア子は、アイドルたちに引っ張られ、もしくは社会との間に立ってもらうことで、自分が何かを成し遂げる充実感、必要とされる喜び、可能性を形にする輝きに出会っていく。
それはお節介なゆいとらぁらがいなければ出会えなかった夢であり、そういうものを引き寄せるからこそ、アイドルには大きな価値があるとも言えるでしょう。


後半はチア部が全面に出てきて、顔と名前のない匿名の集団と向き合っていた前半とは、また色合いが変わってきます。
プリパラで見つけたチア子の夢は、たしかにチア部では実現できなかった別個の夢。
でもだからといって、これまでチア部の仲間と過ごしてきた時間に意味がなかったわけではないし、チア部の一員として共有してきた楽しさが嘘になるわけでもない。
後半はいわば、プリパラと出会った未来のチア子が、チア部の一員だった過去と和解するための対話として展開します。

チア部がダンプリにこだわることで、ダンプリ-プリパラの間にある対立構造が浮き彫りになり、そしてチア部とチア子(と、仲立ちをするアイドル)が和解することで子の対立構造が見せかけであることが判るのも、巧い構図です。
第6話でもそうだったんですが、ダンプリは乗り越えるべき壁というよりは、プリパラとはまた別の価値観と構成要素を持った『愛すべき隣人』として描かれています。
そこに対立構図を持ち込んでしまうのは、兄への対抗意識に躍起になっているゆめとか、勝手に断プリとプリパラが両立できないと思いこんでしまっているチア部といった、個人レベルの認識の問題なわけです。

しかし思い込みであろうとそこに存在してしまっている以上、一度表面化させて的確に解体しなければ、対立構造は延々続いてしまう。
本当は友達でいたいのに、友達ではいられないと思い込んでしまったチア部とチア子を対立させ、融和させることで、ダンプリとプリパラの対面と融和に向けて足場を作っておくのが、非常に巧いなぁと思います。
ダンプリは彫り込んでいくととても面白くなりそうな要素が多数あるので、こうやってキャラクター個別の物語の合間に足場を作り、来るべき本エピソードが大暴れする準備をしておくのは、シリーズ構成としてとても大事だと思います。

偽りの対立構造をわかりやすくするために、『ダンプリか、プリパラか』『みんなの夢か、チア子の夢化』という二択を話しの真ん中に据えたのも、構造が非常に明瞭になる妙手でした。
これはどっちかを選んでしまえば間違いになる問いであり、第三の選択肢を選ぶための前フリみたいなもんなんですが、同時にそれを突きつけなければ進むべき道が見えてこない幻でもあります。
ぶっきらぼうに『どっちも選ばぇね!』と叫ばせることで、チア子がチア部に抱いている愛着、プリパラで見つけたメイクへの想いもより鮮明になるわけで、あそこで二択を迫るのはベーシックながら巧い。

二択を突きつけたことでチア部とチア子は別れてしまうわけですが、ここでらぁらがチア部に、ゆいがチア子を追いかけ、各々の思いに寄り添って繋ごうとする展開も、触媒としてのアイドルの良さを鮮明にしていました。
チア子の接客もそうなんですが、間に立つ誰かがいなければ対立はそのまま放置され、実りある融和は起きない。
『自分たちが強引に誘った』とチア子をかばうらぁらの説得も、メイクされた植木でチア子の夢を思い出させるゆいの一言も、誠実さがあってとても良かったです。
そこで説教臭くならないように、『ひつじの鳴きマネ』だの『デコられた植木』だの、パンチのある笑いで角を取ってくるのがプリパラだな、と思う。

チア部も心の底からどっちかを選んで欲しいわけではなく、プリパラという自分たちと離れた(と思いこんでいる)場所にチア子を取られた(と思い込んだ)からこそ、ある意味拗ねてしまったわけです。
ここら辺の暴走と、その裏にある寂しさ、情愛の濃さを細かく見せてたのは、すごく繊細でした。
間違えてしまっている状態、正さなければいけない状況を丁寧に追うことで、それを是正するキャラクターのかけがえなさはより鮮明になるし、誤解を捨てて新しいものを見つけた時の喜びや輝きも、はっきりと描ける。
マイナスの状況からプラスになるまでを笑い混じりで、しかし堅実に感情を込めて描いていくことで、変化と成長をたっぷり味わうことも出来ますしね。

チア部が『プリパラで輝くチア子を見る』と決めた時点で『自分たちも、プリパラに接近しチア子の新しい夢を応援する』という結論は彼女たちには可視化されていたし、最初からそれを望んでもいたわけです。
それは視聴者にもキャラクターにも『見えている答え』なんですが、同時に『分かっていても出来ない答え』でもあります。
そこにたどり着くためには、チア子が自分の夢を認識し、それを後押しし疎外もする自分の個性と向き合い、周囲の人々とのすれ違いを表面化させ、努力と歩み寄りによって新しい夢にみんなで向かっていく過程を、しっかり踏みしめる必要があります。


今回の話はチア子が自分らしさを見つける過程で、彼女が社会、友人、そして自分自身といかにして向かい合うのかを、しっかり描いていました。
チア部の仲間と断絶する原因にもなったメイクへの夢、その技術が、チア部とチア子、そしてプリパラが融和する最後の決め手にもなる展開は、彼女が何を手に入れたかをブレなく描ききっていて、とても良かった。
そういうとても平凡で、誰もが歩む……だからこそとても大切な青春の物語を、サブキャラクターを使って鮮明に描ききることで、それに対しアイドルとプリパラがどういう貢献ができるか、説得力を持って積み上げることも出来ます。

今週のゆい&らぁらは、息の合ったバディとして様々な人々の間に立ち、みんなの夢を応援し、輝かせていました。
そういうことが出来るアイドルだから、白紙のパパラ宿でアイドルの価値を問い直し、何もないところに何かを積み上げていくサクセスストーリーを語ることが出来る。
今回のエピソードは、チア子個人の成長の物語であると同時に、主役が主役足り得る資質を具体的に(そして笑いを交えて謙虚に)主張する、とても大事なお話だったと思います。

誰かの夢を支え、離れかけた友情を修復するチアリーダーとして、縦横無尽に走り回ったゆい&らぁら。
彼女たちの手助けで大事なものを取り戻し、あるいは新しく見つけたチア部が、その頑張りと友情をしっかり認め応援してくれるシーンが抜け目なく入っているところとか、ホント最高です。
僕だけではなく作中のキャラクターも、誰かを元気にするためのアイドルたちの奮闘をちゃんと見て、お礼を言ってくれることで、キャラクターと作品へのシンクロ率と信頼感はガンッガンアガるからね。
ホンマあの「あなた達もね」は言って欲しい台詞だし、言わなきゃいけない台詞だった。
完璧。


応援する人たちも、応援されて誰かを支えることが出来る。
誰かの輝きは、それを支えてくれる別の誰かによってのみ育まれる。
すごく真っ直ぐで、ともすれば空疎な綺麗事になってしまうテーマに、活き活きとしたキャラ描写、鮮明な物語構造、要所要所の笑いでしっかり体温を宿す、素晴らしいお話でした。
ホントなー、ありえないくらいよく出来た話で、こういう目の良さ、頭の良さがプリパラの好きなところなんだなと再確認する。

そして次回は、ついににのちゃんプリパラデビュー!
アイドルタイムは全体的にスケールをあえて抑えるというか、展開を急ぎすぎないようセーブしている感じがあります。
それは冷静さの現れではあるんですが、正直ちょっと勢いにかけて寂しい部分もあったので、にのちゃんという新要素がアイドルに加わることで起きる化学反応に、期待が高まります。
粒の立ったエピソードが背中を押して、いい具合に盛り上げてくれると嬉しいですね。
来週も楽しみです。