メイドインアビスを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
さらば日の名残り、さらば生の白き岸、さらば友よ。
少女は母を、少年は己自身を求め、深き深き死の淵へと身を投げる。未帰還を前提とした幼い旅路…物語が開始する前の、淡い夢のような別れ。
主役になれなかったナットの脆さ、哀しさに寄り添う、旅立ちのエピソード。
お話としてはここまでが序章という感じ…なんだろうな。危険と栄光、死と真実が待つ(であろう)深淵に踏み込む前の、最後の日常。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
帰ってくるべき場所の柔らかさを丁寧に描きつつも、同時にそこには絶対に帰ってこれないシビアなルールに嘘をつかない。世界を彫り込んでいくエピソードだった。
孤児たちは12歳の子供であるが、アビスと隣接した暮らしの中で死の意味を知っている。それに家族をもぎ取られ、死ぬことが当たり前の世界を受け入れて生き延びてきたのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
リコとレグの旅立ちも、子供のちょっとした背伸びではない。死の中に飛び込み、真実だけを手に入れて未帰還。覚悟の投身だ。
先週のお祭り騒ぎが良く効いている。あくまで一瞬の幻のような白笛帰還が過ぎ越しても、子供たちは日々を続ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
浅い層に潜り、ガラクタを拾って命の糧を得て、その代償にゲーゲー吐く。わざわざ潜る理由…はあっても、その奥に飛び込んでいく理由がないものたちの、繰り返しの日常。
それを生き延びることですら、アカクチナワに食われたり、ベンズでゲーゲー吐き戻すことと隣り合わせだ。アビスが隣りにある暮らしは、常に欠乏している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
だからこそ、弱い子供たちはお互い支え合い、励ましあって生き延びてきたのだ。そしてそれに背中を向けてまで、飛び込む理由がある。
先週はリコのモチベーションを積んでいく回だったので、今回はレグの理由を掘っていく回だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
記憶喪失、遺失物としてのサイボーグ身体。リコは死せる母を再獲得するために潜る≒死ぬが、レグは自分自身を再獲得するために潜る。それは憧れというより、非常に身近な欠乏を埋める旅だ。
母を奈落に求めるリコの気持ちも、身近な欠乏に突き動かされている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
孤児…母のいない子供として寝起きし、飯を食い、排泄する毎日。
子供だけに許された無限の自由などなく、孤児院のシステムに従い規律を受け入れながら背伸びする日々を細かく描いたおかげで、子供を包む息苦しさもよく伝わる。
完璧ではないけども優しい、温かいけどもどこか息苦しい生活から、リコは旅立っていく。それが上向きではなく、アビスという深い深い闇への視線に導かれているのは、とても独特だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
少女が向かう未来は、絶対に青く美しくはない。潜れば汚染され、死ぬような生暖かい闇に、これから潜るのだ。
レグになれなかった少年として、ナットを配置する冷静な残酷さが、ここで効いてくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
それなりの危険と隣り合わせで、それでも行きていける日常空間に留まる彼がいるからこそ、劇的な未帰還領域に覚悟を込めて飛び込む主役が、『物語に選ばれた存在』として際立つ。いつだって、対比は大事だ。
しかしそこに、『死ねないやつ』への嘲笑はない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
壁際の街…ただ生きているだけでアビスからの汚染を受け、死んでいくような街に生まれたからこそ、息苦しくても孤児院で生き続ける『当たり前』を愛おしく思える、ナットの凡俗。
それは主役の属性ではないが、しかし当たり前に優しくて、尊い。
英雄として死ぬか、凡人として生き延びるか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
アビスという試練装置が身近にある世界では、ただ息をしていることが生存の証明ではない。『生きてりゃそれで良い』は、アビスでは通用しない。
命より名を尊ぶこと、死を祝祭として寿ぐシステムが内部化された世界でも、英雄になれない子供はいる
それでもナットは、リコが『生きてりゃそれで良』かったのだろう。街が名誉ある死を何より尊ぶことを肌で感じていても、好きな女の子に死んで欲しくなくて、でも一緒に死んでやるだけの切迫感も持てない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
縁でチャパチャパしてるだけでゲロゲロしちゃうナットのハンパさが、僕にはとても愛おしい。
ナットをじっくり描くことで見えた『普通さ』に背中を向けて、リコとレグは縁に降りていく。そこは黒い闇で、あっという間に未来は見えなくなってしまう。孤児院の息苦しさに守られていれば、いつかやってきただろう平凡な幸せは、そこにはない
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
それでも、彼らは征く。その特別さが際立つ第3話だった
自分と同じライザへの憧れを胸に、冥府に飛び込んでいくリコ、その介添であるレグを無言で見送るリーダー。リコの代わりに泣いてくれたキユイ。いつも冷静なシギー。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
色んな人とのお別れを済ませて、序章が終わる。そこら辺丁寧にやってくれたのも、焦っていない感じで素晴らしかった。
アビスダイブは人生の決断であり、『乗るか、反るか』を自分で選ぶ大人へのイニシエーションだ。だから、一番クリティカルな言葉を言われてもリコは泣けない。母の不在で泣くのは子供の特権だからだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
しかしだからといって、泣けないわけではない。なので、リコの代わりにキユイが泣く。
衝突からの一連の流れは、子供のナイーブさとプライドを両方大事にした、いいシーンだったなと思う。あそこで泣かないからこそ、リコには潜る資格があるし、あそこでああ言ってしまうからこそ、ナットにはリコを止められないのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
それにしたってキユイが不穏だ…マジ生きてください。
あそこでこらえた涙は、縁を前にした今生の別れで一気に流れ出る。生の岸に残るものも、死の深淵に潜るものも、おんなじように涙を流す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
切り離される痛みをこらえつつ、それでも耐えきれずに涙を流す。それはつまり、おんなじ人間、友達だということだ。
アビスは死の大穴であるが、どうあっても常に人に寄り添うものでもある。英雄として死んでいくリコは、凡人として生き延びる友に「私たちはアビスで繋がっている」という。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
おぞましい死の穴が、友情と思い出を繋ぐというのはいかさまバロックではあるが、同時にそういう世界の切実な真相でもあろう
此処から先アビスに潜る中で、異常さと怪奇、暴力と残酷が暴れまくるだろう。そのための前フリはたっぷりして来た。穏やかな日常は、遥か彼方の地上に置き去りだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
しかし遠いからと言って、それが無になるわけでも無価値なわけでもない。むしろそれがあればこそ、深淵の非日常に耐える力が湧いてくる
三話かけて英雄が冥府に降りるまでを描いたのは、英雄がまた凡人でもあり、死が生と隣接し、必死に生きたいからこそ決死の冒険に飛び込む矛盾…非日常と日常は相互に支え合っている事実を、しっかり視聴者に刻み込むためだった気がする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
意味のある者に背中を向けるからこそ、決断は劇的足り得るのだ
非常に優しい筆致で描かれてはいるが、母の再獲得のために帰らじの道に飛び込むリコは『豚のように生きない。狼のように死ぬ』という、ハードボイルドな精神主義で動いている。ジョン・ウー気質だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
でもその覚悟だけを切り取ってしまえば、色んなものが取りこぼされてしまう。
怯え、恐怖、執着、親愛。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
食べる、寝る、学ぶ、笑う、ゲロを吐く。
当たり前にただ生きていることの喜びと危うさ、息苦しさと幸せを子の3話でしっかり描いたからこそ、度胸人間リコがごくごく普通の小さな体から、勇気を振り絞って闇に飛び込んでいく価値が、真実強まるのだ。
そしてそういう日常に『お客さん』として迷い込んだレグが、そこに愛着を持ち、優しく向かい入れられる過程も描いた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
そこはレグの本当の居場所じゃない。だから自分を取り戻すためにロボットは闇に潜るわけだが、だからといって偽りの巣に愛おしさがないわけじゃなかった。
何も持たないまま仲間として向かいいれられ、支え合い、守りあった日々の思い出。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
遺失物レグは母胎たる深淵に当然帰還するのだが、子宮を飛び出して『当たり前の日常』を体験したことは、彼の根本を形作った。そういう人格形成がスッと入ってくるエピソードを食えたのは、キャラと物語への愛を育てる
なぜ、主役たちは旅立つのか。彼らの切迫感はどこから生まれるのか。彼らが置いていくものはどんなもので、それでも手に入れたいものは何なのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
凄まじさすら感じる美術、子供の小ささと健気さを強調するレイアウトに助けられ、物語の根幹をぶっとく描く、良い序章でした。グッと引き込まれ続ける。
今週別れの意味をしっかり描いたことで、ある程度の覚悟はできた。深淵の旅はとんでもないことになるのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
…ここらへんの抽象的な意味構築と、ワクワク満載な地図で具体的なイメージを喚起する手法。両方しっかり使ってイメージを作る辺り、容赦と手抜かりがないなぁほんと。甘えてない。
腕がちぎれ飛んだり、死んだり、死ぬより酷いことになったり。憧れと自分自身を追う英雄的冥府下りには、必然的に代償がつきまとうだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
それに耐えるべく腹筋を固めつつも、愛らしい子供たちみんなの幸せを願わずにはいられない。だってさ~、あのガキどもマジ可愛くてさ~、どうにかなんねぇの?
『ただ生きてるだけで良い』って郷愁を振り払って、二人は死地に飛び込んだ。それはナットだけではなく、僕らにも向けられた『ありがとう』なのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月21日
判る。その決断の尊さを認めたい。だがッ…だがッ!!
ついに縁に飛び込んでいく来週以降、楽しみでもあり恐くもあり。まったく目が離せませんね
追記 ナットのサバイバーズ・ギルト
アビス追記。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月22日
リコの決死奈落行にナットが同行できなかったのは、彼のごくごく普通の精神性もあるのだろうが、あのスラムから幸運にも生き延びてしまったものがもつ『生き続ける義務』みたいのを背負った結果でもあるのではないか。
姉との死別がサラッと語られていたが、その分も生きるという覚悟。
リコやレドにとって、深淵の上の生活は本来の居場所ではなかったわけだが、アビスとの境界線にあるゴミ溜めから幸運にして生き延びたナットにとっては、ようやく手に入れたホームだったのではないか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月22日
一層でゲロゲロやる彼にとって、アビスはかつて見た死を更に超えた虚無でしかなかったのではないか
今後カメラは、残酷と興奮が待つアビスにようやく降りていく。それを描きたくて世界が生まれ、キャラが居るわけで当然だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年7月22日
しかし残るもの…物語の中心からハズレていくナットにも、それなりの理由と精神性があって残るのだということをちゃんと描いたのは、とても誠実な筆だったと思う。マジ大事。