BANANA FISHを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
かくして、龍は虎を檻から解き放つ。
悪徳の館に捉えられたアッシュたちだったが、外部からの加勢、月龍の手助けにより脱出への道を掴み取る。
飛び交う銃弾、積み重なる死体、むせ返るような暴力の連鎖。硝煙と炎をアクセサリに、新たな物語が炎の中から飛び立つ。
そんな感じの、ゴルツィネ邸宅編最終回。LAでの裏切りから自由の剥奪、ショーターの死とフラストレーション貯まる展開だったが、ついに叛逆の狼煙が上がる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
バスバスぶっ放し、ボーボー燃やして気分爽快…とは、まぁならねぇのがこのアニメである。復讐劇も、当然血生臭くて暗い。
今回はアッシュが浮き沈みする話であると同時に、月龍が存在感を増すエピソードだったと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
彼が気まぐれに…あるいはある種の信念を持ってアッシュを開放しなければ、ゴルツィネの暗い春はまだまだ続いた。アッシュの心も相当追い込まれていて、悪党どもが野望を達成する日も間近だったろう。
しかし月龍はアッシュを縛る鎖を解き放ち、叛逆を先導する。襲撃者に乗っかる形で仲間を手に入れ、良いように使われる暗殺道具から、意志を持った一人のマフィアへと生まれ変わる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
アッシュが物語開始前に済ませていた、子供から大人、奪われる側から奪う側への変貌。通過儀礼としての殺人。
そこに飛び込もうと思ったのは、同胞・ショーターの死がショックだったのはもちろんだろうが、その死に方が関係していると思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
意思を奪われ、殺しを強要される。死んだショーターだけでなく、殺したアッシュにも選択権がないエグい殺しに、自分と母の境遇を重ね見た結果、叛逆の意志が生まれた。
兄の歪んだ欲望を受け止めるセックスドールでも、技量だけが卓越した暗殺人形でもなく、自分がやりたいことを、力(暴力、あるいは知力、組織力)で達成する一人間に。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
月龍にそう思わせたのが、鏡写しのアッシュ・リンクスなのは間違いない。
ゴルツィネとオーサーが趣味の悪い紫の部屋で回想しているように、アッシュは心に爪を立てる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
存在にカリスマがつきまとい、よくも悪くも彼を無視できない。犯すなり、奪うなり、隣り合うなり。現れは向き合った人間によるが、人の心を動かす。
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月龍もアッシュという存在に爪を突き立てられ、自分を変化させていく。同じ年代の仲間を集め、暴力と権力の階段を駆け上がっていく足取りは、龍と虎、歩を同じくしている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
だが、似ている、ということは違う、ということでもある。アッシュが曖昧な夢の中で求めた、兄の残滓。英二の残り香。
犯されも殺しもせず、唯生きているだけで認められ、求められた時代への郷愁。安心を与えてくれる"誰か"への渇望と敬意。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
あの夢の中には、アッシュにはあって月龍にはないもの…おそらく、他人への興味と優しさが詰め込まれている。それはショーターを惹きつけ、殺してしまった毒でもある。
奪われ空疎な自分の似姿をお互いに見つつ、決定的に違う何かを確認する。中央でバキッと割った対峙のレイアウトからは、龍と虎がお互いに何を見るかがよく判る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
殺意と共感、惹かれ合う磁場。物語は何処に行き着くものか。
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真ん中で大胆に割るレイアウトは今回多用され、キャラクターたちが巻き込まれた状況の苛烈さ、大きくて強いうねりをよく感じさせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
悪党どもが見下ろす悪徳の街で、着飾った王子は悪と握手する。ゴルツィネはほんと紫が好きね…。
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オーサーもまた、歪んだ鏡に囚われたアッシュの写像である。ゴルツィネという父の愛を巡り、サディズムと暴力で繋がるしか無いカインとアベル。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
エンゲージリングのように、屈辱と痛みと執着を刻まれた悪なる王子。権力に屈服した、金髪の飼い猫。
殺すだけでは飽き足らない、全てを奪わなきゃ納得できない。オーサーの執着は、ゴルツィネ(あるいは道を踏み外せば月龍)のような、ある種の愛に似ている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
完全屈服まで後一歩というところで、爪からすり抜けた獲物を前に、オーサーは更に歪んでいくだろう。
銃を持ち、殺し殺されする鏡合わせの双子たちに対し、英二はやはり遠い場所にいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
武器を求め"アメリカ"に適応しようとした英二を、アッシュは綺麗なままでいさせようとする。徴兵され、武器を握ったことで不幸になった兄とは、同じ運命を辿らせたくないのかもしれない。
武器を持たず、物分りの良いヒロイン顔で殺人代行してもらうことが、果たして英二の幸福なのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
殺し殺されのカルマを飲み込んで、幸福と善を求める柔らかな心を押し殺すことがアッシュの幸せなのか。
光と闇が交錯する対峙は、簡単には答えを出させない。
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殺さない英二だけが孤独に取り残される、当たり前の国。空が青くて、人が自由で、優しさが優しさのまま流通する"異国"
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
英二は『ここに帰ってきてね』と、修羅の巷に身を投げるアッシュに言う。光を背中に遠ざけつつ、アッシュは答えない。答えられない。
血なまぐさい今回、英二は無力だ。椅子を振り回してみても扉は壊れず、鍵を開けることも出来ない。流した血は他人も自分のものも少なくて、アッシュの覚悟には遠く及ばない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
それでも二人は、同じ赤い血を流すのだ。
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"アメリカ"の最悪の部分(を代表してるのが、今回オーサーと握手した大統領補佐官であろうが)に踏み込み、アッシュを取り巻く地獄の当事者になろうとする英二の意志を、アッシュは摘み取る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
お前が綺麗でいてくれることが、俺にとっての救いなんだ、と。
そこに優しさを見るか、傲慢を見るか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
行き着く果ては脳みそをこじ開けられたショーターと、1マガジン30発を全身に浴びて肉ミンチになったエイブラハムである。
知らないなら知らないままが幸福であり、幸運でもあろうが、汚れればアッシュの救い、英二の背負う青い空は消えてしまう。
英二の弱々しい歩み寄りと、アッシュの誇り高い拒絶。なかなかに難しい関係だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
圧し曲がっても折れないアッシュの英雄性(マチズモ、と言い換えると別の文脈が生まれるけど)に他人が引き寄せられ、アッシュ自身は英二の弱さ、清らさか(ある種の"女らしさ")に魅せられているのは、ちと面白い。
抱きしめあい、分かり合うようにみえて、微妙にすれ違う二人の少年。その未来もまた、月龍の決意やオーサーの歪みと同じように、先の物語に委ねられている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
火の消えたランタンのように、傷だらけで脆い魂。それを守ることが、銃取らぬ英二の戦いか。
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今回アッシュはよく泣く。犯されても痛めつけられても泣かない男が、ショーターを殺し、殺され、死体を侮蔑されることで脆い顔を見せる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
月龍の『自分事には強いけど、愛する人には極端に脆い。それが命取りになる』という分析は、まったく的を射ているのだろう。自分にないからこそ、よく見えるか。
最後に色彩の話をしておくと、やっぱりゴルツィネ帝国のベースカラーは紫である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
掟に反逆する同年代の仲間を手に入れ、叛逆の足場を整えつつある(アッシュの歩んだ道を遅れて歩いている)月龍のヘリが、同じ色彩なのは気になるところだ。
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アッシュと似て非なる月龍は、アッシュと似通った道を歩きつつ、むしろその先にはゴルツィネに似た未来が待っている。そういう暗示を込めたライティングかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
アッシュにとってのショーターに、シンが果たしてなれるものか。危ういところでバランスを取ってるのは、皆同じなのだろう。
紫の悪徳に縛り付けられつつ、それに染まらないアッシュ。その明かりはオレンジの炎、怒りの赤となって燃えている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
ショーターの死体を陵辱した世界への怒りは、シンを惹きつける。全てを灰(アッシュ)に返す赤に、皆惹きつけられているのかもしれない。
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鍵を渡し(それがペニスの側ってのが、なんとも淫靡で暗示的である)、力を貸す。月龍の行いは歪んだ欲望の結果であり、自分が自由を手に入れるための策略でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
だから扉の奥の光は、英二の背負う透明な色彩ではなく、くすんだオレンジをしているのだろう。心の曇りが、ライティングに反射する。
あ、"密輸品"って言ってるのに特殊部隊御用達のSCARだったのは、ちとどーかなと思う描写だった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
マフィアのド素人クリアリングと、アッシュの洗練された動きの対比は、彼の過去を巧く見せてくれてて良かったのだが。完全に"リンクス 怒りのNY"だったな今回。撃ちすぎ燃えすぎ殺しすぎである。
赤いマセラティで地を這う山猫と、ヘリで悠々と見下ろす龍。悪徳の王と王子はおっとり刀、城が燃えたのにも気づかない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
ショーターの屍を荼毘に付して、不死鳥のように物語が動き直すエピソードでした。はー、血生臭くて重いなぁ…いい具合の味付けだと思う。
サブタイトルはスコット・フィッツジェラルドの短編。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
月龍いわく『メジャーリーグ』であるNYダウンタウン、暴力と阻害のど真ん中…現在のバビロンに帰還したアッシュに相応しいサブタイといえる。
のだが、原作の内容を加味すると、ちょっと面白い読みも出来る。
"バビロンに帰る"はアルコールによって人生を踏み外した男が、離婚で離れ離れになった娘と再び出会い、対話し再生の証を立てる物語だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
そこではバベルの離断は過去のことであり、親子はアルコール("BANANA FISH"のようなドラッグ)に邪魔されず、真実の言葉で交流できる。
アッシュは"BANANA FISH"と銃の魔力に抵抗できないまま、友の意志を略奪され、親友を殺す。帰還するべき"完全なるバビロン"は、今のアッシュにはないし、魂を汚す毒薬を克服できてもいない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
チャーリーが一年半の空白でアルコールを抜いたように、アッシュもメジャーリーグを抜け、青い空に飛べるのか
サブタイトルを付けた人が、そんな皮肉な対比を狙ったかどうかは分からんけども、なかなか面白い鏡像になったと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年9月9日
フィッツジェラルドは、結局アルコールに溺れて孤独に死んだ。チャーリーにはなれなかった。バビロンには帰れなかった。ではアッシュは?
来週も楽しみですね。