やがて君になる を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
木の葉、布地、髪の毛、思い。
風に揺れ、たなびいてあやふやに踊る、少女たちの青春。
偽物の星と理解っていても、手を伸ばす。それが特別なのだと気づいてしまえば、壊れてしまうと気づかないままに。
明日はなんになる?
やがて君になる
そんな感じの、スーパーナイーブ百合バロックデカダンス青春巨編、一つの終わりにたどり着く三話目である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
生徒会選挙は始まりの終わりでしかないが、しかし確かに一つの終わりであり、星の形だけをあやふやに追い求めていた侑はそろそろ、大気圏を越える。その先にあるのは前人未到の煌めきか。
はたまた、息もできないような死の荒野か。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
それは踏み込んで見るまで、けして解らない。定型化され、食べやすく流通する恋物語とは違う、グロテスクな個性で足取りを塗りつつ、二人の恋は高く高く、追いつ縋りつ空を飛ぶ。
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身勝手に好きになって、思いを置き去りにしたまま先に行って、追いついて肩を並べたと思ったら、また視界から去っていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
水平方向と垂直方向、心理と関係の変化をアングルに寄せて二回、鳩を描く筆が悪魔のように冴える。窓ごしの侑の恋は、気づけばリアルな空の下、他人事ではなくなっている。
燈子が差し出したプラネタリウムキットを、侑はトキメキと共に大事にする。偽物の星と理解っていても、それは少女の胸を焦がす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
星が星だから、恋が恋の形をしているから、侑はときめくのか。それとも、それをくれたのがあなただから、星が胸に宿っていくのか。
その区別は、まだ侑にはつかない。つかないまま、恋が終わったり続いたりすることも、またあるだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
一つ確かなのは、偽物だろうと星は星であり、異質な繋がり方でも恋は恋である、ということだ。その実感をつかめないまま、侑は四角形の空と戯れる。
エピソード中間点で、侑は自覚のないまま恋人のくれた星空を胸に宿し、恋に溺れる。その幻影にまどろみ続けれるなら、それが真実の恋にもなろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
しかし無粋な姉が乱入して、偽物の空を偽物と暴く所まで、このアニメはきっちり尺に入れる
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それは確かに光っているのに、手が届かない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
第1話”わたしは星に届かない”から一話と半分、侑の心は”まだ大気圏”だ。勝手に先を行く鳩を追いかけて、大気圏突破を果たす日…恋が本当に自分のものだと自覚できる瞬間は、果たしてくるのか。
これが、生徒会選挙が終わっても終わらない侑のクエストだ。
手の届かないものに手を伸ばす。巻き起こった風に、自分の意志とは関係なく揺れる。静止したフレームを行き過ぎて、声だけが追いかけてくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
そういう仕草が今回、幾度も顔を出す。それは侑と燈子の揺れる心境、渦を巻く青春を少しでも、視聴者に届けようという努力の結果だろう。映像言語が的確だ。
自販機の前ですれ違う、白と黒の足。(第2話体育館での、燈子と佐伯先輩のリフレイン)
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
あるいは表面と内実が乖離し、それが融和して名演説となる縁台からの降下。据えたカメラのリアリティを乗り越えて、少女たちは現実を進む。
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騒々しく勝手に過ぎていく時間と状況を、余すところなく切り取ってくるかと思えば、じっと停止するその一瞬、雑音の中の孤立をスッと差し込んできたりもする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
触れ合っているようでいて冷たく、分かり会えないすれ違い。侑(に限らず、人という存在はあまねく)、そういう離断に満ち、満たされている
静止と運動。密着と離別。意識して前に進み、進める行為と、自動的かつ身勝手に進んでいってしまう行為。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
運動の温度差がそこかしこに埋め込まれて、感情を発電しだす。湿り気を帯びつつ、どこか突き放して乾いた目線が、異常な解像度で感情と青春をえぐり出してくる。
第1話、第2話で使ってきた、現実とファンタジーのシームレスな越境とはまた違う、複雑怪奇でシンプルな揺らぎが、第三話を満たしている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
そこに酩酊しているうちに、侑は生徒会に入ることを堂々宣言し、燈子はどんどん侑を好きになる。青春ど真ん中の当事者と、それを窃視する視聴者とのギャップ。
『お前らは蚊帳の外だ』と、静止したカメラワークで残酷に突きつけつつ、しかし観測されることでしか意味を持ちえない青春劇は圧倒的に瑞々しく、麗しく迫る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
そういう美麗なる暴力が映像の中に宿っているのが、僕はとても好きで、時々怖い。見てると、感性をぶっ壊されれそうになる。
僕個人の感覚過敏は横において、状況は流れていく。留まることを知らず、当事者の当惑すら無視して、残酷に時間は進み、関係は変化する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
OPの映像が盛りの花と、腐敗する死骸を複雑に切り取るのは、そういう時間のとどまらなさを強調するためか。百合ナイズされた、メメント・モリ。
侑は親友の失恋を、どっか遠い場所で聞く。その遠さこそが、侑が恋の星に接近できる唯一の武器だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
のんきに映画を見る友達から、一足置き去りにされた失恋少女の孤独。涙の代わりに、解けて混ざるアイスクリーム。
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空の描き方もそうなんだが、陰りと生々しさを孕んでグロテスクですらある静物を挟んで、ショックを作る絵が良い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
恋は遠い星のように綺麗なばかりではなく、腐敗する生臭さをはらんで、それでもプライドを守るためには何でもないかのように、自然さを装って受け流されなければならない。
そんな惨めで必死の取り繕いを、侑はしっかり見据えるくらいに賢く優しくて、しかしそれはやっぱり大気圏の外、届かない星の話のままだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
そう思っているのは侑だけで、気づかぬまま彼女の恋がグロテスクに揺れて、危うさの内側に巻き込まれているさまも、僕らは窃視するのだけど。
燈子の震えを見て取って、100億万点のラブコメムーブで彼女を”外”に連れ出す侑。二人の距離は非常にありきたりな、平穏で安定した恋のアングルを作る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
が、燈子の過去に触れた瞬間、カメラは宇宙の果まで一気に引き、木の葉が二人を隠す。
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侑が形だけなぞって安定したい恋にスルスルと接近しながら、燈子は秘密のヴェールに脈打つ内臓を隠して、とても独特でグロテスクな、彼女たちだけの恋を育んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
普通では収まらない、定形で切り取れない、生々しく独特の人生体験。それこそが侑に、望んでいた特別を教えていく。
人情や感情の機微には非常に敏いのに、自分がそういう危うさに片足を乗っけてフラフラしている現状には、なかなか気づけない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
侑(つまりは彼女を主人公とするこの作品)の曖昧な矛盾、その恋のバロックな形は、(百合ジャンルのプロトコルに非常に精妙に接近して)指と髪で語られる。
自分を抱きしめてほしいと近づき、しかしその心臓を抉る残酷からは距離を取る。燈子のズルさは指に宿って、侑の裾を取る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
クローズアップの使い方が悪魔的に上手いアニメなんだが、特に指と視線を追う時のカメラは、怪物のようにギラつく
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特別ではない、誰の意識にも刻まれない過去の自分。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
誰かの影に隠れ(燈子を描く時、繰り返される遮蔽のモチーフ)、ありふれた凡庸さ(侑との共通項)に溺れていることが許されていた幼年期。
それは、”生徒会長”という特別な存在になった(なってしまった)燈子からは、もはや遠い。
他人(例えば佐伯先輩)から望まれるまま、完璧であり続けること。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
それは燈子に息苦しさと、凡庸さに埋もれて窒息していた過去からの離脱を、同時に与えている。
抜け出したいが、手放したくない。自分を特別視しない、恋を知らない侑の手を取る(そして離す)仕草は、燈子のセルフイメージと連動する
自分は侑を好きになるけど、特別に思い、思い続けてもっともっと好きになるけど、侑は私を特別に思わないで。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
先に身勝手に飛んで、手を繋いで星の世界まで引っ張っていくけど、恋を望みつつ手が届かない、小さい小さい女の子のままでいて。
燈子は、最悪に狡い。そこが異常に好きである。
特別であることを当たり前にしてしまった燈子にとって、自分を特別だと扱わない侑は、特別に大事な存在である。その特別さは、侑が燈子を特別だと思ってしまえば、容易に破綻する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
燈子の手を取った時、侑は根源的に破綻した檻の中に、知らず迷い込んでしまったわけだ。
双方向に影響しあって、身勝手な理想を押し付けて。それに叶う、特別に値する自分だと思えるような自分に近づくことで、相手と自分をもっと好きになる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
そんな健全で前向きな恋は、その成立からして燈子と侑には縁遠い。星は、近づくほどに離れるのだ。
その矛盾に侑は(まだ)気づかないまま、こ狡く体重を預けてきた燈子を受け止める。自分からは手を伸ばさない、伸ばせない静止の中で、風が強く吹き、空は青いのに重たい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
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自分を特別だと思わない、特別でない凡庸な自分を受け入れてくれる侑は、燈子の息苦しい世界の中に堕ちてきた星だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
侑が瞳にプラネタリウムの星を宿すように、燈子は侑のぎこちない笑みを、心の中で迷子のままの自分を反射させる。
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お互い見ているものも、求めるものも違う。違うのに、惹かれ合う。求め合うのに、すれ違う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
一筋縄ではいかない恋は、侑が手に入れて安心したい遠い星の形を、当然していない。放っていけば腐る花のように、個別の色彩があり、腐臭がする。だから、良い。
侑はひどくオリジナルな姿勢と仕草で、体重を預けてきた燈子の頭をなで、髪を梳き、その体温を指ですくい上げる。抱擁はひどく不均等で、侑の体重を燈子は支えない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
不自然で、間違っているそのスタンスこそが、二人の星だ。
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そうやって、不実に一歩ずつ、侑は恋を知っていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
お父さんが死んだら卒倒してしまうかもしれない、一般的ではない恋愛。でもそれは、指で触って置き去りにされて、傷つき振り回されながら体得していく、侑だけの物語なのだ。誰がなんと言おうと、真実なのだ。
物語が常にそうであるように、その渦中にいるものは真価を知らないまま、気づかぬままに歩んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
侑は佐伯先輩から預けられたお仕着せの原稿をはみ出し、全校生徒の真絵で堂々と、燈子への憧れを、生徒会として時間を共有したい気持ちを言葉にしていく。
風に置き去りにされる木の葉のように、カメラからはみ出した言葉のように。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
思い描いていた枠の外側を、真実鼓動し変化し揺れ動く感情たちが、勝手に暴れまわる。制御不能なようでいて、でも自己認識よりも遥かに本当な、私たちの知らない私たち。星の本当の姿。
そこに侑は近づいて、でも遠い。燈子は『過去になにがあったのか』という侑の問いかけから身を躱し、真実を言葉にはしない。プラネタリウムの光が本物だと、信じ切るには至っていない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
結局偽物だったと思い知る可能性まで含めて、侑の青春は哀しいくらいに本物で、血を流しながら成長していく。
そのための一歩として、生徒会選挙にまつわる接触と離別を、マニアックに美しく追いかけたこの三話は、ありえないほどに素晴らしかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
これは始まりの終わりで、ここで手に入れたもの、引き受けたもの、感じ取ったもの、動き始めたものが、組み合わさって未来を形作っていく。
それは星になるかもしれないし、燃え尽きるかもしれない。形で終わるかもしれないし、燃え上がるかもしれない。君になるかもしれないし、ならないかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
そういう不確かなゆらぎは、どこまでも伸びていく。
静かに、美しく、そしてグロテスクに。それが、人が生きて恋をするということなら。
ここまで物語を紡いだ筆は、非常に的確かつ凶暴だと言える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
ここまで一巻、良い最終回でした。そして次の物語が始まるわけですが、二人の心はどう転がっていくのか。
燈子のズルさは、侑の純真は、佐伯先輩の負け犬っぷりはどんだけ加速していくのか。非常に楽しみです。
ほんとあの黒髪のクソアマ、自分の素をさらけ出せる相手を抱きしめて『大好き』と囁いた五秒後、パワーに満ちた仮面を共有できる優秀な共犯者の手取るからな…最悪ですよ最悪、つまり最高ってことですけども。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
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佐伯先輩も、燈子が侑に預けたようなスペシャルな重たさを絶対自分には向けられないと賢く見抜きつつ、それでも燈子の仮面に最前列で付き合うことでスペシャルな自分を維持し続ける、哀しいプライドの女であり…綺麗なんだけどエゴまみれで、腐敗の途中だからこそ清らか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
そんな青春の、あるいは人間の実相に本当に真っ直ぐ向き合った作品であり、アニメだなぁと思います。そういうスタンスはどうやっても詩を必要とするし、その供給は窒息するほどに過剰なところが、苦しいけど凄く良いです。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月21日
来週から新しく、連続した変化がまた語られていきます。とても楽しみですね。