やがて君になる を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
愛は醜き、エゴイズムの隠花。光と影の淡いを踊りつつ、死の川の畔に咲く。
その水に誘われる乙女の呪いと、そこに手を差し伸べる少女の祈り。真実に近づく度、心は震え、嘘が積み重なる。
好きは嫌い、嫌いが好き。綺麗な楽園の、地獄めいたサスペンス。
というわけで第6話、1クールの折返しにとんでもない暴力を持ち込んできたやが君である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
これまでも冴えた演出、境界を行き来し観客を酩酊させるドラマが冴えていたアニメであるが、今回は明かされる真実、話の構成、暗喩と感情、全ての局面が悪魔的に切れる。勝負回に、確実に勝ちに来た作りだ。
スタッフワークとしても、コンテ演出に”Fate/ZERO””放蕩息子”のあおきえいを、満を持して投入である。TROIKAとのコンビだと”アイドリッシュセブン Vibrato”出すのが正解かな。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
持ち味のサスペンスフルな画面の作り方、繊細な感情の切り取り方、緊迫感の作り込みがドンピシャだhttps://t.co/LSN7lUvuQG
今回は佐伯先輩が本格的に侑をターゲットロックして激詰めしてきたり、その先輩から情報の緒が出て演劇の真相に触れたり、それを盾に燈子に踏み込んでみたら地獄のような反撃を食らってお互い呪われたり、色んなものが顕になる回だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
話も一気に進む。しかし作品の呼吸は、いつもどおりゆったりだ
原作だと、佐伯先輩がヒントを出してから侑が真相にたどり着くまでに、かかったコマ数は0だ。あっさり先生にたどり着いて、あっさり状況は転がる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
アニメは中間地点をゆったり太らせ、サスペンスフルな味わわいを強くしている。資料隠蔽のシーンとか、完全に社会派陰謀劇のノリだからな…。
そういう工夫があることで、侑が真実にたどり着くまでの苦労、そしてたどり着いてからの苦労が相当なものであることが、しっかりと伝わる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
他人が秘めようとする真実にたどり着くのは、いつだって大変だ。それは成長や恋といったポジティブなものだけでなく、望まぬ暴露、嘘の剥奪も含んでいる。
河原での決戦シーンの緊張感、1ショットに詰め込まれた感情の質量はとんでもないことになっているし、そこを抜けて答えにたどり着いたようにみえて、その実お互い呪いをかけ直しただけな公園のシーンなども、後味最悪で素晴らしい。サブタイトルが出てくるタイミングが、マジで悪魔。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
みっしりと意味を詰め込み、腐臭と詩情で煮込んだアニメーションを、24分間摂取する。目をつむりたいのに、画面に込められた圧力、声に秘められた冷たさが、それを許してくれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
危ういと判っていて近づいていってしまう蠱惑は、侑と燈子が身を晒している恋、そのものなのかもしれない。
そっちに踏み込む前に、まず佐伯先輩の激詰めタイムがやってくる。ここまで燈子に惚れた弱みを見せつけたチョロ蔵敗北者が、実は相当な性悪で、重たい感情と冷たさを備えていると判るシーン。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
怖いシーンなので、絵面もちゃんと恐い。百合…アニメ…?(百合アニメです。)
もうこの休憩室の構図、画面端にオブジェクトをギュッと寄せた白の使い方だけで尋常ではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
この圧迫感にすっと佐伯先輩が滑り込んできて、泥棒猫にブチかます。余白が陰りで埋まり、息が詰まる。た、助けてヌルい百合マン…。
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侑と佐伯先輩のあいだにあった『友達の友達』な距離感を、佐伯先輩は今回ぶち壊しにする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
自分も当事者であり、お前だけが特別ってわけじゃない。燈子の真実は私のほうがよく知ってて、私のほうが好きなんだ。
好きで殴りつけるシーンが連続する、恋愛ヴァイオレンスなエピソードの冒頭に相応しい。
ここで『私だけが先輩を知ってる』という特別意識をぶち壊して、侑をしょぼしょぼさせるだけでなく、そのしょぼしょぼを乗り越えて、事の真相を知りたい、もっと特別になりたいという侑の欲望に、ちゃんと答えてあげてしまうところが、佐伯先輩の人の良さである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
なんで恋敵に餌あげるかな…優しい。
こうして挑戦状と答えとヒントを同時に貰った侑は、『七海燈子』というミステリ…サスペンスに踏み込んでいくことになる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
合間に挟まるこよみちゃんとの会話シーンだけが、唯一の息抜きポイントである。見てよこのフツーの絵面!!
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他のシーンは一生、首根っこ掴まれて水底に顔面沈められるような重たさ、息苦しさでみっしり埋まっている。ここでブレスを取ってくれるのは、正直ありがたかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
まぁ女と女の感情地獄だけで物語が進むわけではないので、筋立てを前に進めるため事実を画面に写しておくのは大事だし。
これでこよみと”生徒会の劇”の間にリンクが出来て、みずみずしい作家の目を持つ彼女が、不健康な女女関係に筆で切り込む理由ができた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
それがまた、一見百合百合しいキャッキャの奥に潜むグロテスクを、残酷に暴露する起点にもなる。あらゆる出会いは、恋の内臓を引きずり出すために用意されている。
お姉ちゃんの協力、先生との会話なども使いつつ、青春探偵・小糸侑は事件の真相に近づいていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
その風景は妙に白く焼けていて、天上の世界、死の世界に似ている。好きにあった先輩の真実を知りたい。ピュアピュア萌え萌えシーンのはず…
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事実を知ってるのに伝えない先生と、知らない侑との間に分厚くそそり立つ壁。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
それは侑がどれだけ無邪気な世界にいて、人が死んだり悲しいことがあったりする実相から遠い場所にいるのかを、如実に見せている。燈子は壁を超えて手を伸ばしてきたけど、足はそっち側…死の国にある。
真実を手に入れた侑は、教師のメガネに分裂した自我を投影しつつ、懐かしき無邪気の楽園ではなく、燈子のいる死の国、真実の国へと更に近づいていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
その歩みは死刑台に向かうかのように透明で冷たく、茫漠として綺麗だ。
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原作よりも長い道のりを経て、いつもの踏切を乗り越えて、侑と燈子は河原に行く。仮面を被るのに慣れた燈子は饒舌に喋り、抱え込んだ真実の重さが喉に詰まった侑は、言葉を失う。このアンバランスが良い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
相変わらずな、内乱色の空。
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赤信号が警告をして、しかし境界線を隔てるバーは上がって、少女と少女は際を超える。危険で身勝手な場所に一歩一歩、線を超えて近づいていく描写はこれまでも沢山あったし、今回も河原で山積する。今後もたっぷりあるだろう。死にそうだ。https://t.co/mIAh4K3eyC
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
自分が何と出会ってしまったか、まだ不鮮明だった二話では、侑は境界線を前に立ちすくんでいた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
今回侑は、ぐんぐん進む。真実を知ってしまった衝撃、自分がどうなりたいかのおぼろげな自覚、胸の中で渦を巻く特別な発熱を前に、傍観者ではいられない。
その足取りは、夕暮れの河原にたどり着く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
そこはレテでありスティクスであり、死者の国だ。光と闇が同居し、真実と嘘が様々な顔を見せる、残酷なルールの国。
燈子のふるさと、少女漫画の恋に憧れていた純情少女が、夢にも見たことがない残酷な現実。
こっからの河原シーンは百合アニメ史上の最高峰、サスペンス表現の金字塔だと思うし、間違いなくあおきえいが天才だと証明しているわけだが、基本的な構成要素は光と影(真実と嘘)、幾重にも連なる境界線とその突破だ。このアニメがずっと、画面の構成要素として選んできたもの。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
燈子は死せる姉の代理品と自分を位置づけ、完璧を装ってきた。それは辛く苦しい演技だが、完璧でい続けることは特別であり、自分を特別だと思えることは、とても気持ちがいい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
死人に接近していくことで、燈子はグロテスクで裏腹な快楽に沈み、そこから抜け出せない。
侑はそんな特別な先輩を、特別に思わないことで、彼女の特別でいられる。完璧ではなく、生者ではなく、七海燈子でしかない等身大の先輩。苦しかった私を助けて、プラネタリウムをくれた人。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
その思慕を殺し、死者の国に追い込むことで、彼女はここに立つ資格を得ている。
嘘と真実。演技と特別。死者と生者。恋とエゴイズム。カーニバルとグロテスク。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
混じり合わない矛盾に思えるものは、心の真実を暴き立ててしまう魔法の時間の中で溶け合い、あるいは矛盾したまま共存する。嘘の中に本当の気持があり、真実だからといって他者を助けるわけではない。
そこら辺の複雑さが、もうカラーリングとライティングに濃厚に圧縮されてて、見るだけで脳髄が痛くなる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
意味の乱舞、意図の洪水。それは中谷鳰という天才が原作に埋め込み、あおきえいという天才がアニメに向け解凍/回答したものだ。
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このシーンをこの色で塗り、この構図、この表情で描くということ。原作の段階で魔的であったグロテスクを、アニメの文法で再構築/自己解釈/独自放送するということ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
白黒で声のない原作と、色が付き動き始めたアニメ。違っているが、脈をうつ生々しさ、美麗の中の腐敗は共通であろう。
侑は燈子に真実を叩きつけ、演技をやめろと叫ぶ。自分の側に近づいてきて、自分が知っている…所有している特別こそが唯一絶対の真実なのだと、それを確保している自分こそが(確保してない佐伯先輩ではなくて!)特別なのだと、肯定して欲しいと甘える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
死の岸に近づくなと警告する。
死人のマネをすることは、死人に近づいていくことだ。燈子を通じて”死”を垣間見た侑は、だから白い葬式の気配をまとっていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
それをうっすら感じ取っていたから…このままだと先輩が死んでしまうと直感したから、侑は岸にとどまる。
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しかしそれは、安全圏に留まったまま利益だけを奪おうとする、卑怯者の立ち位置だ。槇くん聞いてる?
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
燈子は侑の嘆願を一瞥もせず、姉がいる側、死者の川辺に向かって迷わず、真っすぐ進んでいく。今まで歩いてきた道なので、その歩みはしっかりしている。転べば即死なのに、だ。
侑は燈子が身を置く国の暗さ、それを知らないまま恋を手に入れようとした己の醜さにすくみつつも、一線を越えていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
オルペウスの冥府下りのように、拳を握りしめ、自分と他者と世界の暗黒に踏み込んでいく。少女は一歩ずつ、人間になる
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その武張った頑なさ、決意を込めた強い表情が、戦士のようでとても眩しい。留まっていられれば安全でいられる場所から、あえて身を伸ばしてでも掴み取りたいものが出来てしまった、少女の顔だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
だが、”死”の硬い質感は恐ろしい。侑は階段は降りられても、水の中の浮石に足を預けられない。
僕が画面越しにほっこりするのを無視して、燈子は侑を拒絶する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
自分と同じ死の岸辺に、立つつもりもないのに。一緒に死んでもくれないのに、好きだなんて言わないで、とばかりに。
その潔癖な正義感、美麗なるエゴイズムも、よく判る。みんな暴力的で、狡いのだ。
燈子の口から真実が語られる…侑が突きつけてきた未熟な真実にレスポンスをするシーンで、ようやく燈子は侑の側を向く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
だがそれは拒絶のため、光を弾き返す闇こそが己の喪服なのだと見せるためだ。ゆ、百合アニメ…(断末魔)
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燈子の口から真実が…姉が死んでから自分そのものとなった呪いが語られる瞬間、画面は暗く暗転する。危険を予告するようにサイレンが鳴り、電車という巨大な質量が画面を横切る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
風が吹く。完璧な先輩はその内側で発酵させたエゴイズムと腐臭を、ゆっくりと晒していく。
侑が憧れた、少女漫画の中の特別。自分がスペシャルであることを確認するための、ツールとしての恋。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
その投影先だったはずの”綺麗な先輩”は、ぬるりとした夕日の中で自分の悪魔性を、特別だともてはやされる快楽を、淫靡に告白していく。
死によって奪われたものの重たさ。それを贖うために支払われる、代償の黒さ。己を苛む呪いこそが、己を特別だと思える喜びでもあるという、ねじれた快楽。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
向き合った燈子は、初心な侑が想像すらしなかった世界の真相を、生々しく見せてくる。侑は闇に食われ、立ちすくむ。
回想シーンで描かれた、姉の制服を見つめる燈子。足らない身の丈を椅子で補う姿は、侑が心配するとおり無茶な演技、首吊り直前の風景だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
それでも、そこに届きたいと願った。だから、手を伸ばした。七海燈子の星は、死者の国で瞬いている
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顔のない女、死者と同一化した生者が胸の内を晒す。死人の服は身の丈が伸びて、気づけばすっかり自分の衣装となった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
そうして死をまといつつ、そんな気配を微塵も感じさせることなく”完璧”である自分、姉の代用品である自分が、特別だから。燈子は自分が好きだ。
こうしてあまりにグロテスクなものを暴露されることで、侑は特別への無邪気な憧れを粉砕され、価値観を無化される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
何かを好きでいること、誰かの特別であることは、こんなにも醜い。こんなにも痛ましい。
その事実を前に、侑は更に踏み込む。制服を着たオルペウス…。
『話は終わった。子供は帰りな』と言わんばかりに、もう一度背中を向けた燈子は、どんどん岸に近づいていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
それは自己を滅却し、完全に姉になってしまう未来と同義だ。死んでしまうことと同じだ。
侑は河に踏み込み、それを追う。
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その一線を踏み越えさせたのは、無邪気な安全圏からの憧れではなく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
知らぬうちに胸に飛び込んでいた、本物の星、愛そのものなのだろう。
醜いものに己を反射し、ずたずたに傷ついた自分を見せられても。
眼の前に広がる死を前に、足が震えまともに歩けなくても。
それでも、死者の国に近づくのは。
知りたい知りたい手に入れたいと、侑はピーピー吠えている。小鳥のような甘えごとはしかし、事実に遠く置いていかれている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
誰かのために身を投げて、己を相手に近づける。姉の制服を着込んだ時燈子が選び取った特別と、それに伴うグロテスクを、侑はもう所持しているのだ。
ひょいひょいと河を進む/死に近づく燈子と、恐る恐る未知に身を投げる侑のスピードは、悲しいくらい食い違う。追っても追っても、距離はあく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
このバロック極まるレイアウト。画面上部に密やかに息づく四本の足。怪物の仕業ですよ。
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不格好で、不慣れで、不誠実で。それでも侑は河を越え、死がある世界へと進んだ。子供時代を振り切って、安全圏から成層圏までジャンプした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
ようやく声が届く距離に踏み込み、侑は必死に音楽を探す。死人を蘇らせ、きみをきみにする言葉
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そこで侑が見つけたのは、『寂しさ』だった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
自分がそう感じているから、毎夜偽物の星を見つめる原動力。姉のいない世界で、それでもなんとか生き延びていくために燈子が選び取ったもの。
孤独から僕らを遠ざけ、生きる岸になんとかつなぎとめる、グロテスクなエンジン。
それは嘘だらけの二人をつなげる唯一の真実で、子供である侑も、大人を演じる燈子も、皆胸の中に寂しさの獣を飼っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
その頑なな質感だけは、二つの岸に分かたれた二人を照らし合わせた時、唯一嘘ではない共通点、たった一つの答えなのだ。
二人の間に開いた距離は、つまり寂しさの距離だ。それを埋めるために、少女たちは出会い、口づけをする。恋とは形をなぞり、安全圏で消費するものではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
完璧さの中に押し込めていた欲望を歌いながら、燈子はようやく、侑に歩み寄る。
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一言言葉を紡ぐこと、生きていなければ叶わない、姉の模造品では掴めない欲望を顕にする事、カメラは燈子の顔をクローズアップにしていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
血の通わない仮面ではなく、むき出しのまま赤らむ顔を。
そして、それも仮面なのだ。それを握っていれば特権が約束される、唯一絶対の真実はどこにもない。
『私といて』
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
『ほかの人を好きにならないで』
『私を嫌いにならないで』
『手を繋いで、一緒に帰って』
くっそ面倒くさいお願いを叩きつけられる側は、足が映される。水の上の小さな足場に、不安定に伸びる二本の足。
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むき出しの愛と生を、プンプンと撒き散らしながら侵攻してくる燈子を前に、侑の足は止まる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
恐ろしさとおぞましさに縫い留められながら、侑は後ろに下がらない。弱い自分の足腰で、燈子の”本当”を、そこに反射した己の醜さを、受け止める覚悟を決める。愛だね、愛。
前進と静止。二人の歩みは石一個分の死を挟んで、そこで停止する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
侑はもう一歩踏み込んで、全てを抱擁する距離まで踏み込めない。
燈子はその距離こそが心地よく、侑の誠実を略奪できるとほくそ笑む。
美しくて醜い、人間の地獄。
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光の入り方、眼の中の輝き。二人の表情はかなり対照的だが、それは奪う側と与える側、引き寄せる側と追う側という、立場の違いが与えたものだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
本当のこと全てをむき出しにしてくれたような、燈子の言葉。それが嘘であり呪いであることを、ふたりとも痛いほどに識っている。
『私を嫌いにならないで』の次に顔を出しかけ、隠蔽されかけた願い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
『私を好きにならないで』
それが顕になる関係は、ここまで死に接近し、お互いの醜さを見せあっても構築できない。本当は常に嘘と混じり合い、同衾して濃いという私生児を生む。それすらも愛することが、少女たちには可能なのか。
お互いが嘘を抱えていると、誰とも共有できない寂しさを飼っていると確認しながら、二人は約束どおり手をつなぐ。河は、もう遠い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
死の国との綱引きに勝った侑を祝福するように、街灯は生の色に輝く。
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光と闇の飛び石は、水を離れても世界中にあふれている。抱き合えるほど近くにいても”本当”なんてわからないし、断絶が寂しさを加速させる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
憧れの星は、近づいてみるとグロテスクで、思ってたより冷たかった。その寂しさを、侑は反芻する
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世界と他者と己を包む、真実の暗闇。侑の曇とは裏腹に、住み慣れた嘘の世界、白々しい光の世界で、燈子は笑顔を作り直す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
とても良く出来た人形だから、人形とは思えない。人間を模し、姉を模した完璧な人形に、燈子は帰還する。それもまた、燈子の真実なのだ。
繋がっているのにバラバラで、だからこそ手を伸ばして、寂しさを埋めたくなる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
死に呼ばれているからこそ生きたくなって、死者に捧げるためにオリジナルの劇を探す。
世界は嘘に満ちて、しかしあまりに美しい。百億の欺瞞と千億の真実が、複雑な夜空に満ちていく。
侑は自分の胸から取り出し、燈子を自分に引き寄せた寂しさを、無言で反芻する。その苦さは、少女の安全圏が完全に崩壊し、子供時代が終わった味わいだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
燈子は嘘と呪いを口の中で転がし、女の温もりを回顧する。死人に近づくほど、世界は寒い。それを埋めてくれる、優しい女の子。
それを一方的に貪る年上の身勝手さを、けして晒すことはないまま、二人の歩みは一旦重なって、物語は生の方向へと歩き直す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
燈子と侑が誰かの代理品、実感のない憧れを捨て去って、真実きみになれる日は、果たしてくるのか。
少なくともそれは、まったくもってチョロくない、重くて苦い道だ。
そういう事がよく判る、怪物的なエピソードでした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
このお話をアニメ化の一報以来ずっと待っていたけども、こちらの想定を全てなぎ倒し更地にするくらい、圧倒的なパワーでやりきってくれました。ほんとスゲェっす。
どこで息すれば良いのかさっぱりわかんない、体に悪いエピソードでしたね。
世間一般に流布する”百合”なるイメージとは、多分正反対の強さ、重さ、複雑怪奇さがこもったお話なんだが、やっぱ”これこそが百合なんだ”という不遜にみっちみちに満ちてて、そこが好きです。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
制作陣、アンタ達は正しい。ナメたこと抜かすジャンルの奴隷は、みんななぎ倒しちまえば良いんだ。
侑はかくしてルビコンを越え、物語開始時にあこがれていた恋の実相を識った。無邪気なままでは生きられない実感と共に、少女時代に別れを告げた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
その変化が、彼女から愛らしい無邪気を、穢れないからこそ真実に近づける誠実さを奪っていくのか。はたまた、侑は侑のまま、やがて君になれるのか。
地獄めいたサスペンスをくぐり抜けて、想定の八割増で面倒くさいことが確信された燈子は、侑の望むような”ほんとう”を、自分のものとして引き受けられるようになるのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
佐伯先輩は負け犬なのか。恋はどこに転がっていくのか。話完結するときまで、キャラ生き残るのか。
次回も楽しみですね。
追記 こっちが安心できる優等生なマスプロ百合より、小ずるさと生臭さでガンッガンに殴りつけてくる身勝手なお話のほうが、やっぱり好き。
ここでカメラが切り取ってる傷ついた表情、侑の”本当”を、燈子に見えないよう隠蔽しているのが、とても良い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月12日
侑は燈子にウソを付くなと指弾するけども、その侑だってウソを付く。弱い自分を隠して、先輩を甘えさせられる特別な自分を維持しようとする。
そうするのは、愛しているから。
燈子が愛していればこそ姉の殯を続けているように、嘘は優しく真実を守る。
本当のことを言えという、自分の言葉を自分で裏切ることで、侑は燈子という星に近づき、醜くズルい自分を引き受けていく。
そういう裏腹な愛と成長が、水面にだけ映る侑の泣き顔に巧く宿っていて、凄く良い。
可能なら、誰だってカッコよくいたいのだ。
そういう実感を鏡に移して確認し、自分も先輩とおんなじようにグロテスクだなぁと実感して初めて、愛は人に届く。
冷たい安全圏からじゃ、何も出来ない。
必ずしも本当のことだけを折り重ねれば、愛と真実が掴み取れるわけじゃない。
光と闇の適切な配合は、人ごと、作品ごと、そこで描かれる恋ごとに違う。
自分に似通ったバランスはどこにあるのか。
それは、どうすれば読者に届くのか。
よく考えた1カットだ。
こういう健気な強がりを隠そうとするところが、侑(とこの作品)の可愛さだ。
そこにズブズブ体重を預けてむっちゃ搾取している燈子のズルさも、侑の清廉さをかけばこそ強調される。
ほんっとあのアマ、都合よく女から略奪することに関しては天才だからな…声が寿美菜子なだけはある…(偏見)