ヴィンランド・サガを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
父が死んでも腹は減り、子が消えても日々は続く。
略奪のイングランドと、真白きアイスランド。運命に引き裂かれた姉弟はそれぞれの日々を生き、飢え、満たされていく。
刃の使い方を覚えるほどに、他人の命が軽くなる。その道の先に、待つのは死か、安らぎか。
そんな感じの殺伐少年一代記、仇敵の懐で殺意を磨く第五話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
アイスランドではあんなにキラキラ少年時代してたトルフィンくんが、凄い速度でヴァイキングの殺伐、生々しい飢えと殺意に荒んでいく日々が、生々しく迫ってきた。
残された姉と母の生き方と対比され、修羅の道行はより鮮烈に悲しい
相変わらず美術は発狂したかのように美しい。雪に閉ざされたアイスランドとはまた違う、秋の風吹くイングランドの息吹。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
多様な植物が彩りをなし、数多の動物が息づく。そこには人々の当たり前の生活があって…ヴァイキングに根こそぎにされる。
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朝もや烟る静かな美麗から、美しい夜へ。それが燃え上がる略奪へと繋がり、トルフィンは世界のもう一つの顔に出会う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
子供であった時には知る必要もなかった、むき出しの強欲。狂気と焔。
トールズの大きな背中が、見なくてもすむよう守ってくれたもの
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アイスランドは氷の国で、焔はあくまで家の温もり、帰るべき平和の象徴であった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
気候に恵まれたイングランドはしかし紛争の地でもあって、焔は戦乱の象徴、トールズが遠ざけ子供に見せないようにしていたものとして描かれる。
おぞましく、しかしもう目を離せないもの。隣において生きるしかないもの
世界を焼くプロメテウスの火を、父を殺され子供ではなくなったトルフィンは見るしかない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
それで焼かれた肉を貪り、命をつなぐしかない。雨露を凌ぐ屋根も、誰かが差し出してくれる食事もない。父を殺されたことで、トルフィンは故地と家族、地縁と血縁両方から切り離されてしまったのだ。
トルフィンは焔と鉄を忌避しつつ、窓越しにアシェラッドの寝姿を見る。父譲りの短剣を抜かなかったのは、頼りなかったからか、血で汚したくなかったからか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
誇り高き戦鬼の息子として、闇討ちを拒む甘さを、アシェラッドは背中で見る。
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堂々名乗りを上げての決闘は、蹴り一発の無様さで終わる。刃は木板に取られて、トルフィンは殺しに慣れ親しんでいない幼い自分をさらけ出す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
それはトールズが焔と鉄を、アシェラッドが身を浸す真理を遠ざけてくれた時代の終わりだ。
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刃を握って決闘を迫った時、トルフィンの足は霜柱を踏む。ここの微細な表現力は本当に凄いけども、それは故郷アイスランドの象徴なのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
白く美しいものを踏みつけにして、少年は復讐に踏み出す。それは綺麗事では食えない、殺せない事実…父譲りの短剣を薄汚い殺しに使う未来を示唆する。
まずは、食。投げ捨てられた哀れみを拾い、泣きながら他人の食い残しを貪ることでしか、何も持たない少年は飢えを満たせない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
惨めさと弱さを噛み締めながら、トルフィンは生き延びることを決意する。
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ユルヴァは必死に生きる。母を養い、羊を食わせ、銛を投げて布を編む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
父が死んでも、弟がいなくなっても延々と続く、生活という闘い。トルフィンがもう帰ることができなくなった場所で、彼女は刃のない剣…杼を握って闘い続ける。
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日常の忙しさに身を投げ、湧き上がる哀惜に涙を流さないことが、彼女の生存戦略だったのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
トルフィンが復讐に目を濁らせ、残飯を漁って生き延びることを選んだのとは、真逆の日々。
秋のイングランドと、冬のアイスランド。あまりに分かたれてしまった運命が、姉弟の間で呼応する。
ユルヴァは母の腕の中で泣ける。地域社会も、レイフおじさんも、彼らを見捨てはしないだろう。父の思い出も。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
そこから切り離されたトルフィンは、刃を握って決意を固めていく。支えるもののない、遠い場所での孤独な闘い。その色彩は、冷たく暗い。
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少年の顔が戦士に…人殺しになっていく過程が丁寧に、繊細に書かれるのはとても痛ましい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
ユルヴァは杼を握りしめた緊張を、母に解いてもらうことで子供に戻れるけども、剣を固く握りしめるトルフィンを受け止めるものも、止めるものももう居ない。不帰の道へ、少年はどんどん突き進んでいく。
イングランドの秋が美しいほど、そこに実りが多いほど、生活を略奪したヴァイキングの無法、復讐を旗印にそこに同質化していくトルフィンの無残は強調される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
一見白く冷たいアイスランドで営まれる、暖かで静かな闘い。それを戦士たちは踏みにじった
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トルフィンは野犬(投げられた骨を貪るもの、もう一人の自分)を父の剣で殺すことで、戦士としての一歩を踏み出す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
きれいな場所で守られていた子供のままでは、世界に一人きり生きていけない。そんな乾いた真実を食い散らかし、同質化していく。
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野うさぎを狩るもの。刃の扱いを覚えるもの。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
それは『男としての独り立ち』を思わせる頼もしい成長であり、トールズが命をかけても守りたかったものが蒸発していく過程でもある。
ユルヴァは銛を投げる。人を殺して奪うためではなく、明日の糧を手に入れるために。
トルフィンの狩りも、そこに重なる
だがそこで奮った刃には"先"がある。アシェラッド戦士団の一員として、『戦場で手柄を立てる』ことを目指し、彼は復讐を飲む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
突き立てられた刃はアーサー王の聖剣のように、トルフィンの道を決定的に定めてしまう。
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見張りを立てるほどもないほどの、一時的な滞在。そのはずが暴力は暴発して村を焼き、お荷物の小僧は団の一員となった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
数奇な運命、弄ばれる誓い。あくび混じりの決闘ごっこに、アシェラッドはやはりオーディンと父の名を賭ける。全てがどうでもいいと、言わんばかりに。
そんな彼の目を覚まさせた、必死の一投。懸命な鍛錬が実を結ぶ姿はある種のカタルシスだが、次に傷つくのは練習用の
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
木桶ではないだろう。
トルフィンはどんどん、揺り籠の時代から離れていく。育み、養う生活ではなく、奪い、殺す生き方へ。アイスランドからイングランドへ。
そして、トールズからアシェラッドへ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
完璧な答えを身を持って示した父から受け継いだものは、平穏な日常にしても、祈りの短剣にしてももう汚してしまった。
待っているのは殺し合いの日々。かつての自分のように、当たり前に弱く当たり前に生きているものから、殺して奪う側の生き方。
そこに沈んでいく時、少年を導くのは熾火のように燃える復讐心だ。それが維持できるように、アシェラッドは殺さず、殺されず、奇っ怪な"不殺"をトールズから継承する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
血の色に捻れきった、"父"の立場の継承。憎悪が繋ぐ新たな関係性へと、二人のヴァイキングは漕ぎ出していくことになる。
どんどん甘さが抜けていくトルフィンの荒廃が、どこに行き着くのか。今回焼き付いた殺戮と強姦の巷に、彼もまた染まっていくのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
父の仇。聖なる呪文を唱え続けても、汚泥のような修羅の生き方は少年を汚していく。丁寧な作画が、その荒廃をしっかり追っていた。理念は、現実を超越し得ないのだ。
絵画のように美しい場所でも人殺しは起きるし、腹は減る。それでもなにか、微かな祈りのようなものを抱え続けて人は生きる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
そう云う作品世界を、トルフィンとユルヴァ、姉弟二つの闘いを描くことで見せる話でもあったと思う。
カメラはトルフィンとアシェラッドをクローズアップし、故地は遠いだろう
これでレイフおじさんともしばらくお別れかと思うと、とても残念である。あの男はやる。『何があろうと、トルフィンを連れ戻す』と宣言したならやりきるだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
それもまた、剣を握らぬ一つの闘いである。ホントレイフおじさん好き。相当厳しい戦いだけど、頑張ってほしい。
そしてトルフィンは仇敵の背中を睨みつけながら、刃を握る闘いに腰まで浸かっていく。クジラと機織りの日々は遥か彼方、白い雪の代わりに赤い血が周囲を染めていくだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年8月6日
その荒廃の先に、一体何が待つのか。物語は続く。来週も楽しみですね。