ヴィンランド・サガを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
戦士は新しき神を嘲笑う。ヴァルハラを夢見る我らこそ、真の神の子供だと。
将は戦況を遠巻きに、漁夫の利を狙い火を付ける。成り上がりの夢を乗せた、血まみれの賭けが発火する。
三つ巴の王子奪還作戦。
敵は味方の、味方は敵の中にいて…煙で見えないのさ。
そんな感じの、アシェラッド隊成り上がりストーリー第一章である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
好漢トルケルのスケールのデカさ、虎視眈々と漁夫の利を狙うアシェラッドの奸智に挟まれ、便利に使われるトルフィンとクヌート。
役者が舞台に揃った高揚感が、血まみれの包囲戦をもり立てていく。
お話は”ヴァイキング”の行軍から始まる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
キリスト教を『流行りのまじない』と切り捨てる感覚は、ただの蛮勇とも少し違う。
トルケルはデーン社会の背景にある、スカンディナビア神話への信仰と知識をしっかり持っていて、それに体重を預けることで”ヴァイキング”たり得ている。
後顧の憂いなく、すっぱり戦いすっぱり死ぬ。それこそが”ヴァイキング”の救いであって、十字架にかけられたヒョロガリが与える救済など、まっぴら御免。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
それはそれで、理の通った精神世界である。そしてこの時代の北海では、それがスタンダードだ。
©幸村誠・講談社/ヴィンランド・サガ製作委員会 pic.twitter.com/oN0z92cE8e
同時にトルケルは時代遅れの戦士でもあって、現世の利(あるいは理)を一切介さず、人質は開放するわ敵側に付くわ、純粋すぎる希少種として描かれている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
真実”ヴァイキング”であるトルケルが、デーン陣営ではなくイングランドにいる事実が、トールとオーディンの文化にもヒビが入っていると教える。
その隙間に入り込んだのが、祈りと救済の宗教である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
後に(というか、”どこか”ではこの時点で)剣持つ政治と手を握り合うキリスト教的倫理であるが、ここでは剣を持たない強さの象徴として扱われている。
それは”ヴァイキング”にとっては、見えない価値だ。イエスは貧弱な呪い師にすぎない
しかしキリスト者にとっては、剣を握らぬ貧弱さこそが血まみれの世界から抜け出す”強さ”であり、その強みはトールズにも通じている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
”ヨームの戦鬼”として、ヴァイキング世界に名を知られた真の戦士。彼がたどり着いた答えは、武器を捨て戦いに背中を向ける決断であった。
散々嘲られたキリスト教的価値観、それに帰依するクヌートの逆襲戦は今後の見どころなのだろうが、今はその”弱い強さ”は発言権を持たない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
戦い、勝つ。その強さだけが、乱の中で己を証明する。
そういう生き方をしてきたトルケル、そしてアシェラッドがぶつかるのがこのエピソードだ。
体も声もデカイし、スカンディナビア的世界観もしっかり体現している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
立派な”のっぽ”のトルケルを、”弱い”ラグナルが憐れむ時、彼は妙に小さい。ヴァイキング的世界観の限界点が、戦の前にフッと匂い立つシーンだ。
©幸村誠・講談社/ヴィンランド・サガ製作委員会 pic.twitter.com/pXjJlpMIwI
ラグナル軍残党に見つかった時、トルケルは人質を手放す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
欲しいのはヴァルハラに相応しい戦い、血と鉄で描かれた勲しだけ。生っぽい計算が十分できる地頭がありつつ、それを蹴っ飛ばすトルケルの生き方は痛快だ。
彼が体現する旧き善き”強さ”は、鋭い挑発となってラグナル軍を押し流す。
ここで激情ではなく理性で判断する”強さ”を全軍に浸透できないところに、ラグナルとクヌート(が帰依するキリスト教)の”弱さ”が見える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
ラグナルの見立ては正しい。戦術レベルでの価値は、恥を忍んで王子を守ることにある。
しかし戦士たちは未だトールの子供であり、名誉と血を求める。
古来からイカす挑発が出来るのは、武器を振るうのと同じ戦士の美徳であった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
トルケルの舌鋒は鋭く、同じく”ヴァイキング”であるラグナル軍の弱点をつく。
歌の巧さも古来より戦士の美質であり、やはりトルケルは知恵が回る。その上で、それを捨て去る愚者の智慧がある。面白い男だ。
トルケルの軍勢は馬鹿笑いの直後に人を殺せる、優れた戦士である。闘いだけを求める純粋さは、略奪の現世に溺れつつも、死ぬべき時にさっぱり死ぬ覚悟を秘めている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
そのピュア・ヴァイキングっぷりにラグナル軍400は相手にならず、総崩れになっていく
©幸村誠・講談社/ヴィンランド・サガ製作委員会 pic.twitter.com/m2IuB4CVxc
その状況を好機と見て、取り囲み火を放つもの。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
その匂いを嗅ぐもの。
利を感じ取って投げ捨てるトルケルと、利を最大化するべく智慧を使いこなすアシェラッド。正反対の”ヴァイキング”が対峙する。
が、直接向き合いはしない。”子”たるトルフィンが、鉄火場に飛び込んでいく。
ビョルンは敏感に、アシェラッドのトルフィンへの信用を嗅ぎ分ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
過去に縛られたクソガキと詰りつつ、期待と信頼を寄せる矛盾した感情。
アシェラッドは不敵な笑みで『利用しているだけ』と跳ね除けるが、真意はどこにあるのか。
恐らく、誰にもわからない。
放たれた火は混乱を生み、敵味方の区別は煙の向こうに消えていく。アシェラッドは安全圏から己の策を見守り、それに乗ってトルフィンは運命と出会う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
ラグナルおじさんが、戦士としてもそれなり以上の技量なのは良い。持っていて、なお捨てる強さ。
©幸村誠・講談社/ヴィンランド・サガ製作委員会 pic.twitter.com/D3cWod1LyH
二刀を交差で構えたトルフィンが完全にアメコミヒーローだが、トールズは立ちふさがる強敵へ、焦がれたように勲しを贈る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
恋する乙女の純粋さ。荒くれ者の間では冗談だが、戦それ自体に惚れてるトールズにとって、強敵こそが恋人なのだ。
渦中に放り出した”味方”と、自分の起源を共有する”敵”
炎の中で、トルフィンはその曖昧さに出会い、別れていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
ここはあくまで始まり。クヌートを取り返すか否かは、俺達には重要じゃない。
そんな純粋な”ヴァイキング”の手向けを、トルフィンはどう受け取るのか。生き方が問われる追撃戦が始まる。
(トールズの欠損した二指は、結構写すの大変なタブーだと思うのだけども、戦傷が不利にならない超人性、トルフィンが己を刻んだ証明としてとても大事なものなので、真っ向から描くのは大事だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
超暴力描写が、ただのスペクタクルにならないのは良い)
©幸村誠・講談社/ヴィンランド・サガ製作委員会
画像添付忘れ pic.twitter.com/V3zPY9pBXT
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
トルケル軍とラグナル残党は、お互いの帰属を知らないまま帰る場所を探し、横から射抜かれて死ぬ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
敵味方の区別を危うくする混乱を、勝機と燃やしたアシェラッド。使い捨てのコマを待つにしては、シリアスなその横顔。
©幸村誠・講談社/ヴィンランド・サガ製作委員会 pic.twitter.com/gvrcKGqC9H
結局賭けには大勝利で、トルフィンは成り上がりに必要な大駒を引っ張ってきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
自分が運命を乗せる玉が、どんな顔をしているか見定めたい。平伏し忠誠を装いつつ、蛇の瞳が素顔を狙う。
その白皙は、あまりにも”ヴァイキング”らしくない。
©幸村誠・講談社/ヴィンランド・サガ製作委員会 pic.twitter.com/hVP12meCAX
ここまで沈黙の中心だったクヌートが、遂に顔を見せたところで次回に続く、である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
彼の沈黙は、余りにヴァイキング的な選択を押し付ける世界への抵抗なのか。修羅の巷に抗う勇気が、心にないから黙っているのか。
そこら辺も、今後の逃亡行で見えてくるだろう。過酷な旅になりそうだな…。
敵も味方も区別せず、戦士を包容するトルケルの器量と、敵も味方も区別せず、矢を射かけ火を放つアシェラッドの苛烈。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
追う側と追われる側、双方の将器がよく見えたのも良かった。
最初の賭けはアシェラッドの勝ちに見えるが、しかし真実”勝つ”とはどういうことかも、運命は問うてくるだろう。
古式を貫くトルケルは、迷いがないからこそ強い。アシェラッドは現実の泥を丸呑みしているようで、その生き様に諦観が香っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
その半端さを、トルフィンに預けているのかもしれない。自分の手でぶっ壊してしまった”真の戦士”への道。そこへの未練。己の起源への揺らぎ。
死ぬか殺すかの極限は、様々なものを試す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月23日
奸智で勝利を掴んだに見えるものも、勇猛に全てをなぎ倒すものも、その奥にある脆さを突かれる日が来るだろう。
それは嘲られる側が、勝利者に立つ日が来る、ということでもある。
天秤は揺れ続ける。答えの出ない煙の向こうへ、物語は続く。来週も楽しみ。