バビロンを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
新域、自殺法、革新。依然として正体の分からぬ鵺の尻尾を掴むべく、正崎善は京都へ飛ぶ。
死へ誘う女、曲世愛の過去を探るべくたどり着いたクリニック。そこで語られるのは、形のないインモラルの薫香だった。
はたして鳥は、何処へ旅立っていったのか。
そんな感じのバビロン第5話。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
これまで集団自殺やら域長選挙やら、デカい話がドカドカ回ってたところで、一旦のペースダウンである。最後にどデカイのが爆発したけどね…。
もともとこの作品の、象徴と雰囲気をくすぐってく筆先が好きなので、落ち着いて見れるのはありがたい。
京都来訪は愛の真実を捕まえるどころか、漠然と掴みどころのない印象を強めるばかりだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
法に触れるどころか、常識や倫理の範疇に置いても”事件”は起こっていない。しかし、内面に作用する圧倒的な圧力は、叔父の語り(青山穣熱演!)からも感じ取れる。
セックスにまつわるコミュニケーションは、その後の副産物(家庭や子供だけでなく、こじれる感情その他含む)がデカいし、人間存在のナイーブなところに触れてもいるので、隠微でありながら明瞭な、一種矛盾したやり取りを要求される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
求めているのか、いないのか。
鮮明にしすぎれば興が削がれるし、思い込みで突っ走れば性は簡単に一方通行の暴力に変わる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
結果、ひじょうに複雑なコードを組み合わせて、同意を暗号のように読み取りながら人類はセックスを積み重ねてきた。
愛はその暗号コードを、過剰に暴走させる。
『お前が誘ったんだ!』てのは、暴力行使者(主に男性)の便利な言い訳であるが、叔父は確信、あるいは信仰のように愛から溢れる誘惑を思い出す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
体験したものだけしか解らないが、絶対に揺るがしようがない猛烈な体験。存在するだけで、人の心を一方向に歪めてしまう存在感。
新域においては”自殺”という方向に収束している、自由意志の暴走。それは愛の過去においては、”性”という方向に向いている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
…その両極(に思えるもの)を結びつける方法を、新域のバビロンは見つけていて、結果として大量の自発的死体が転がっているのかもしれないが。
正崎さんは、愛から誘惑を感じない。彼女を回想する瞬間、世界はフッと闇に閉じ込められる。最悪だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
しかし『そう思う』だけでは、法も権力も悪を咎められない。
内心の自由はこれを保証する。新域にも多分、近代国家の基本ルールは適応されるのだろう。
©野﨑まど・講談社/ツインエンジン pic.twitter.com/iKAMniE43i
熱に浮かされたような叔父の供述は、飛べない鳥が睨みつける中で進行する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
主のいない鳥かご。まるで檻のような、緑の窓。命のない瞳が見つめるのは、彼の障害を猛烈に規定するトラウマ…半年間の愛との接触だ。
©野﨑まど・講談社/ツインエンジン pic.twitter.com/vAa1F8QgYs
外野(精神科医、非当事者)からみれば形のない不安としか、判断のしようのない思い込み。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
叔父は主治医として愛に向かい合い、あっという間に取り込まれる。どう考えても、そう受け取るしかない圧倒的なメッセージ。暴力的な誘惑。
©野﨑まど・講談社/ツインエンジン pic.twitter.com/3z8rVzdUPD
それは一個人の妄想の内側でしか起きておらず、外部から観測可能な”事件”としては観測されない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
事象だけを見れば、ただ話しただけ。肌のふれあいも、強姦も誘惑もなしだ。
しかし当事者としてそこに座れば、”事件”として受け止めるしかないほど強烈に、愛は誘惑する。
この当事者性のズレは、後に彼女が中心に引き起こされる自殺禍に似ていると思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
死ぬ当人は、死にたいから死ぬのだ。そこには内心の自由がある。
しかし外部から観測すると、死ぬ理由がなく唐突に”殺されている”ように見える。なにか強力な誘引があって、死ぬべきではない人が死んでいる、と。
この不自然さを既存秩序が飲み込むべく、正崎率いる特捜部は大急ぎ、ロジックを組み立てているわけだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
しかし叔父の語る見神体験にも似た、余りに強烈で、余りに個人的な感覚は、法では裁けない。常識でも倫理でも、それを俎上に載せる板を近代は持っていない。
結果として、まだ外部にいる正崎さんと陽麻は、この告白を持て余すことになる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
自分を誘惑の地から引き剥がし、それでもなお鳥に取り囲まれる。
それほど深く突き刺さった愛は、一体何を成し遂げたのか。何を学んだのか。謎は謎のまま残り続ける。
©野﨑まど・講談社/ツインエンジン pic.twitter.com/YisP2iEw3o
現象面だけ観測すれば、非常にプラトニックな叔父と姪の邂逅。その内側はドロドロのグチャグチャだが、妄想するだけなら大量殺戮だって無罪だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
こと性の領域において、その自由…悪徳への自由は許しであり、救いでもある。溢れかえるリビドーがすぐさま現実になっていたら、この世は地獄だ。
そういうセーフティを、逆手に取る方法を愛は覚えたのかな、と思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
それは個人の自由だから。内心を罪には問えないから。
自発意志を強力に侵略する己の才覚を、どう使い倒すか。
鳥かごから解き放たれて、彼女は飛び方を覚えたのかも知れない。その羽根が巻き起こすのは、死…なのか?
叔父の述懐を聞いたところで、性と死はつながらない。愛が自殺を教唆した証拠など掴めない。そもそも、既存の法に引っかかる過失を、愛は一切犯していない可能性がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
曲世愛を追う正義の旅路自体が、強烈な空回りかも知れないのだ。少なくとも”正義と善”にこだわってる間は。
現代秩序の破壊車を止めるには、現代秩序信奉を捨て、同じバビロンに落ちなければいけない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
なかなか悲惨な転倒が見えてきたが、正崎さんはあくまで現状、由緒正しい法と秩序の使徒である。
一線を越えず、成すべきことを成す。それを間違えれば、自分は悪だ。
©野﨑まど・講談社/ツインエンジン pic.twitter.com/EW2KcPDeSG
そういう内面を、陽麻は制御された暴力…武道、あるいはスポーツによって体感していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
汗は流れているが、(セックスとは違い)悪徳とされない健全な交流。
煮詰まった脳髄を白紙に戻す、竹刀を通じたコミュニケーション。
そういうもので分かり会える瞬間も、人にはある。
悪の悪たるを、善の善たるを常に問いただし、結論に至ったと思えても歩みを止めないこと。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
正崎は”善”を問われて、不識と返す。悟後の修行こそ大事、と。達磨大師みてーだなこの検事…。
迷い、問い続けることこそ己の本文。正崎さんの緩みなさに、陽麻も僕らも好感を覚える。
そんな清潔さをあざ笑うように、鳴り響くコール。御簾の奥に隠されたものを、確かに指し示す画像のサイン。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
曲世愛は、秩序の末端を握りしめて、死に誘う。『魔王に一人立ち向かう勇者になりたい』と、謎めいた言葉を残す。
©野﨑まど・講談社/ツインエンジン pic.twitter.com/YOXiUa2YM0
怖くて、不愉快で、いけない悪いことで、でもだからこそ触れてみたい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
性と死に関するインモラルな興味を、曲世愛を描く筆は上手く集約している。唇が、スカートの奥の曲線が、視線を跳ね除けると同時に引き寄せる。
露骨で醜悪で、見てはいけないはずだが、だからこそ瞳を惹きつけられる。
そういう怪物性を、キャラクターに上手く焼き付けられているのはとても良い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
狂人の戯言のような、携帯電話越しの誘い。死と性を玩弄する悪女は、己を”勇者”と規定する。
ならば正崎が足場を置く既存秩序は、人民を虐げる”魔王”なのか。自殺者の群れは、悪に突き刺さる聖剣か何かか。
叔父を通じて過去を聞いても、携帯越しに現在に触れても、曲世愛は巨大な謎だ。女、性、あるいは死が、人類史においてずっとそうであったように。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
多分彼女を判ってしまえば、話は終わる。巨大な謎(あるいは空白)を追って、性と死のインモラルが加速していく構造の真ん中に、一人の女がいる。
そういう話なのだろう。ファム・ファタールな構造なんだな。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
鳥は既に翼を得た。その羽ばたきが巻き起こすのは、一人の死では多分終わらない。魔王に擬せられた既存秩序、『生=善』の固定観念を犯し殺すまで、怪物は飛び続けるだろう。
それに善は、後手後手で追いつけるのか。
『多分無理じゃないかなぁ…』という超越感が、善と愛の対話には漂っていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
追う側の男は、いつでも雁字搦めに不自由で。女は自由に、過激に飛ぶ。
その飛翔に巻き込まれて、自分で勝手に死ぬものがあっても、気にはしない。
©野﨑まど・講談社/ツインエンジン pic.twitter.com/Hqrk6bEY4y
愛はなぜ、捜査員を自死させたのか。善の牙城、秩序の本丸を魔王の城と定めて、攻略にかかったということか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
答えはない。ただ巨大な謎は思うままに身動ぎし、その波紋で沢山のものが水に沈む。迫りくる悪徳の洪水に、義人達はいかに抵抗しうるのか。
そんな感じの、息抜き回であった。…息抜き?
多分この話、政治や経済や社会構造といった現象を追いかけ制圧してても、オチにはたどり着かない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
曲世愛という、人類の規格外が引き起こす波が、どこから来てどこに行くのか。そういう部分を追いかけないと、話が飲めない構造になっていると思う。
一個人VS社会、って話でもあるのか。革命だなぁ…。
そんな彼女の底しれぬ謎を、輪郭を指でなぞるように更に深めるエピソードでした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
エロティックでインモラルで、醜悪だからこそ視線を奪われる。物語全員を牽引する邪悪なミステリを、上手く掘り下げれたと思います。
俺愛さん好きだな。無茶苦茶怖いけど。
一個人が分かり合う(比較的)穏やかな時間は、衝突の轟音で絶たれた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
愛のタナトスに触れた特捜部は、いかに切り崩されていくか。破滅の予感が、奇妙な悦楽を持って背骨を這う。
いやまぁ…目線がこっち向いたらもう無理でしょ。明らかに書き方が、エロティック・ゴジラじゃん。エロ災害だよアイツ…
悪を持って善をなさんと奮起する特捜部は、果たして加速する変化を掴めるのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
齋の挑戦を受けて行われる、公開討論にはどんな爆薬が仕込まれているのか。悪徳の洪水で、崩れるものはなにか。
バビロン、静かに熱く加速しております。面白いなー。来週も楽しみ。
追記 ここら辺のバビロン概念は、ちょっとラスタファリズムな部分があって面白い。愛さんはレゲエなのだ。
しかし愛の言葉を虚心に読むと、バビロンの大淫婦として扱われてる彼女こそが、人民を抑圧するバビロンを打ち倒す勇者である、という転倒が見れるのよね。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
実際新域構想は国民に秘密に、金と女で悪徳積み上げて成立する巨大なバベルなわけで、そういうものは確かにそこにある。
それを打ち倒すべく性と死を弄ぶ彼女は、実は構想に取り込まれた今の正崎さんと同じく、『悪を以て善をなす』ポジションに、少なくとも自己認識としてはあるわけだな。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
しかし彼女の怪物性が、ストレートな評価を妨げる。性と死、インモラルな超越を手段に選ぶことで、常識の埒外から出てしまっている
そこら辺のズレに気づかないまま、『最悪の女』だという認識のまま突っ走ると、正崎さんは一生後手を踏んだまま、『生=善』という既存秩序をぶっ壊される気がする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
わからない、ということが怪物最大の利点なのだ。ミステリを回すダイナモでもある。
だから、正崎≒男は愛≒女のことを、ずっと分からないまま話が進むのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年11月4日
その間に、愛と齋を中心に広がる災禍は世界を変えていく。死という新しいプロメテウスの火は、人類種を覆い尽くし新しい世界を齎すのか。
…今変換して、齋は『もたらす』でもある事に気づいた。こえーなシンクロニシティ…