ヴィンランド・サガを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
数多の犠牲を乗り越え、英雄は目覚めた。
目指すは地上の楽土、欲するは王冠。クヌートは父王の膝下、蛇の塒のど真ん中へと突き進む。
そこに鎮座するのは、かつて輝いた夢の残骸。
ただの道具であるはずの玉璽が、意志を持って血を望む。その呪いを、若き英雄は飲めるか。
そんな感じの新章開幕、王たるべきものの呪い、若人たる不遜と老醜たる宿命のエピソードである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
悪しきぶどうたるクヌートを刈り取る、残酷なる父王。かつて己自身も清廉な国を望み、”父”を追放し手に入れた王冠が、制御を離れて暴走する。
王権の重たさを語る怪物を、若獅子は不敵に笑い飛ばす。
それが英雄を貫く逆向きの棘となるか、運命を乗り越え新しい世界へたどり着けるか。年表は一代限りの北海帝国を、冷徹に語る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
結末は決まっている。見えている。だがそこに行き着くまでの全てを語ることは、無意味ではない。
英雄が、そして英雄足り得なかったもの達が何を望み、何に間違えたか。
その顛末を追う物語は、新しい地平に入った。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
はるか馬上から、貴種に槍向ける不敬を咎めるクヌート。フローキとの”器”の差を、視線一つで感じさせる濃い口の作画がいい。
クヌートが堂々腰を下ろす場上は、かつてはアシェラッドの危うさを象徴した。
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フローキに一切臆さず、鎧袖一触飲み込むばかりの歩みには、そういう危うさはない。少なくとも、今は。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
かつて様々な人が求めなし得なかった、王道楽土の建造。父王が飲まれた腐敗と権勢、臆病と倦怠になど負けはしないと、若き息をつくクヌート。
その覇道を語る前に、いかに王冠を被るかが大事だ
クヌートは腹芸抜きで、野心を臣下と共有できる器量がある。だから必要ならば自分の足で、部下と同じ目線で歩き、腹蔵なく暗殺の計画も語り合う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
『危ない橋を渡る』計画が口に上った瞬間に、歩みもまた軋む橋の上へと進む。こういう演出が今回巧い。
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立ち昇る戦の気配、長く影を伸ばす十字架を、クヌートは憎悪を込めて睨む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
黙って愛を待っていても、良いことなど一つもなかった。座って”父”の手を待っていても、差し出されたのは毒杯と離別だった。
ならば、俺が神を殺す。”父”を乗り越え、人自身の手で持たざる子どもたちの理想郷を…。
凶相。そう形容するしかない、濃厚な影を眉間に刻みながら呟くクヌートの理想に、アシェラッドは強く共鳴し、トルフィンは知らん顔である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
ここら辺、”父”に愛された子供と、名前すら与えられず打ち捨てられた子供の差かなー、とも思う。エディプス・コンプレックスをどう発露させてるか、みたいな。
アシェラッドは母から受け継いだ呪いだけでなく、”父”への憎悪も重ねてクヌートに共鳴していると思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
愛を求めて叶わぬのなら、むしろ殺す。
ヴィリバルド師が絶望とともに達観した、人の愛の限界点を二人は体現し、共有する。父への愛ゆえに仇を付け狙うトルフィンには、それが良く分からない。
無論、一兵卒として政治も経済も知らず、ただただ殺す殺すと呻いている立場の違い、知恵の差もあろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
トルフィンが無知な兵士であること、アシェラッドへの恨みだけを抱えて生き延びていることが、彼をどこに突き動かすか…なかなかに危うい。
しかしそうやって視野を狭める以外に、生きる術が無い。
血と鉄で描かれるジュブナイルでもあるこのお話、トルフィンは非常に狭い子供の視界から、徐々に世界を広げていく必要があろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
クヌートはラグナルの死、豁然とした覚醒により、一気に子供時代から醒めた。それは”父”の愛と庇護をもう夢見ない時代へ、自分の足で踏み込む、ということだ。
その先にあるのは、血の赤に塗られた王宮の中心。権力の深いが困窮する、蛇の巣である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
”玉座”という言葉が想起させる崇高さを、思い切り蹴り飛ばした血生臭さ、禍々しさ。美術が最高にいい。
ラグナルの背中が守ってくれた棘が、みっしりと満ちる暮明
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そこにクヌートは、弓箭が待ち構えると知りつつ進む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
武力を先に抜いたほうが、確実に負ける。
かつてアシェラッドがウェールズで演じたような、暴力を前提とした政治の領域へ、覚醒した王子は臆せず踏み込んでいく。
その隣に控えるアシェラッドは、王才を図る機会としての役割を期待されている。
顔が見える距離。刃が届く距離。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
王は適切に、臣下、あるいは敵との間合いを調整し、威厳を保たんと立ち回る。
緑色の闇の中、透かして見えたその瞳。酒毒と鬱屈が痛めた肉の奥に、英明と邪智を備えた王。
ようやく見えた”父”は、なかなか悍ましい。
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ラグナルの死を語る時、盃に注ぎ込まれるぶどう酒。血の色に似た色彩は、鬱屈を引き剥がす一瞬の夢か。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
それと同じものを否応なく飲み込んだからこそ、クヌートは王と向かいおって身じろぎせず、堂々の視線を返すことも出来る。
お互い命を狙い合う親子は、死を飲み込む喉が似通っている。
アシェラッドの慧眼は、王の人間としての顔を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
かつて理想に燃え、王冠の重みに耐えかね、倦怠と臆病に肌を病んだ男。当たり前に優秀で、当たり前に運命を突破できなかった権力者の顔を。
青雲の志に燃えるクヌートは、その”当たり前”を超えると誓う。
神の摂理を超え、永遠の楽土を。
その理想は、我が子を狙う蛇の王もかつて懐き、だからこそ彼も”父”を殺して王冠を奪ったのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
ならば、その先に待つ道もまた同じで、クヌートもまた王冠の奴隷へと変貌していくのではないか。
そういう予想も立つが、今はまだ青い夢に少し、酔ってもいいタイミングだろう。
…まぁ絶対ヒドいけど。
王が力を振るうのか、力が王を利用するのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
実際に権力を握り、その褥に身を預けて初めて知った、人知を超えた暴政の重み。力を振るい、大きくし続ける呪い。
思えばアシェラッドも、それに縛られてトールズを殺したのではないか。
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国一つと、100人からの”ヴァイキング”。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
背負うスケールは違えど、”父”達は皆権力と暴力自体が持つ魔力に踊らされ、理想を腐敗させていった。
その重さを語る、かつての壮士。王の表情は再び人間の領域を離れ、王冠の魔力そのもののように、非人間的な表情を見せる。
父を乞い願い、それに裏切られ、奪われたからこそ憎む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
人間的な、余りに人間的な理由から非人間的理想を掲げるクヌートの未来が、赤い闇の中に照らされているように思う。
クヌートは王冠と玉座を取るだろう。権力を拡大し、北海とイングランドに帝国を広げるだろう。
その版図が犠牲にするのは、何も”敵”ばかりではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
人の身で背負うには重すぎる、権力という蜜。理想という毒。
それがクヌートを蝕み、肌が荒れ前歯の欠けた怪物へと落とす未来が、時間を超えて鏡写しにされている。
そんな印象を、赤き玉座の間からは受ける。
父に教えられたようにしか、子は生きられない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
クヌートが皮肉として投げる言葉は、存外作品の中核を射抜いているのかもしれない。
アシェラッド。ただの”灰まみれ”としてしか扱われなかった男が、母を謗られ怒りに燃える。
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剣槍を前に眉一つ動かさぬクヌートと、冷や汗を流しながら道理を操り、窮地を脱せんとあがくアシェラッド。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
”器”の対比が面白い。
そこで怒りを抑え込む冷徹も、父から学び取ったものか。”灰被り”が魔法で王族に変われるのは、のちの御伽噺だけの話であろうか。つーかシンデレラかよ…ハゲのくせに。
どちらにせよ、愛しき母を奴隷呼ばわりがアシェラッドの逆鱗に触れているのは間違いない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
今は冷静に抑え込み飲み込んだ憤激が、どういう形で吹き出すかは楽しみだ。
父は蔑ろにし、殺し、奪うやり方しかアシェラッドに教えていない。ならば、平和裏に怒りを昇華し、未来に繋ぐ道など…。
脅迫を目覚めた意志、積み重ねた老練で跳ね返し、親子骨肉の争いはヨークへ持ち越しとなる。トルフィンなんもしてねー!
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
憤怒を床に置き去りに、知恵者の仮面をかぶり直すアシェラッドが怖い。ぜってーキレる前触れだろ。
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赤い死地を乗り越え、宴も堂々と王は楽しむ。角杯を掲げる微笑みは、清濁併せ呑むと定めた覚悟の表れか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
楽しむべき時に楽しめる…楽しみを演じられるあたりも、やっぱり器量がデカい。
その覚醒に、迷いの答えを見つけたヴィリバルドは放埒を捨てる。
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目の前で演じられた奇跡。神の子たるを諦めた王子から、落雷めいた回心を手に入れた師は、髭を剃り髪を整える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
頭頂部をしっかり剃り上げて、トンスラを作っているってことは、宗教者としての規範に戻り、新しい信仰を堂々背負う覚悟が出来た、ということだ。
もう、地上のぶどう酒では酔えないのだ
そんな人々の営みを、王子と側近はじっくり見やる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
死せる忠臣、”父”たるラグナルの死を弟に告げるのも、肉を食むのと同じサラリとしたものだ。
流された血を当然と飲み込んで、覇道は進む。
やっぱ今回、さりげないカットに暗喩を埋め込むのが巧いな
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ここでクヌートが飲み込む肉は、父王が煽っていたぶどう酒と同じ、現世の毒なのだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
人間全てが…特に兵力たる”ヴァイキング”は大好きな、俗欲の喜び。それを心で軽蔑しつつも、それ以外で人は動かぬと飲み込んでいくうちに、含まれる毒に身を侵されていく。
そういう道が、王子にも待つ。
笑い声の奥に、裏切りの予感が谺する酒宴を抜け出して、アッシェラッドは夢の葬式を執り行う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
自分を裏切り、心を壊した兄と去っていく小物。自分の夢を共有していたはずの古参は、ほとんど去っていった。
せめてもの餞別、金の腕輪を与える代わりに
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身の丈にあった当たり前の暮らしに、剣を捨てて飛び込め。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
そんなアシェラッド惜別の挨拶は、『そう出来なかった、俺の代わりに』という無念に満ちていると感じるのは、少しセンチメントがすぎるか。
それが身の丈。部下が部下なら長も長。器量じゃない。
判っているさ。それでも…。
剣をクヌートに預け、腕輪をアトリに譲り、アシェラッドは地上に自分を繋げるものを、どんどんと捨てている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
それがあればこそ、真実の戦士に身を投げる決断を『なんちゃって』にしちゃった戦団も、つまらねぇ戦いの果てに壊滅してしまった。
副官も、そろそろ死ぬ。うう…ビョルン…。
真実愛を体現する存在は、死人以外にない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
かつてヴィリバルド師が冷たく述べていた摂理に従うなら、地上の鎖を一つづつ解いていくアシェラッドは、近いうちに確実に死ぬ。
つーかこのハゲの存在感が強すぎて、主役であるはずのトルフィン全然目立たねーからな。死んでもらうッ!!!
おっ死ぬにしても、母から受け継いだウェールズへの愛、理想の王への憧れが焼き付いて、清廉潔白な死に様なんぞ望めやしないだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
彼が何を求め、何に殉じて死んでいくかは、その死を求めるトルフィンの未来にも深く関わるので、非常に大事だ。ハゲ、もうトルフィンあんま見てねえからなぁ…。
そしてもう一人のハゲは、シワを濃くしつつ失われた愛を探し求め、奴隷市を彷徨っていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
うう…レイフおじさん…。アンタの大事な坊やは、すっかり擦れっ枯らしの人殺し、対局を一切見ない殺戮の刃になっちゃったよ…。
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スヴェン王の吹き出物が、王冠から染み出す毒の結果であるように。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
レイフおじさんの老けた風貌は、親友の忘れ形見を守りきれなかった無念に、苛まれた結果だろう。
悔恨も倦怠も、若さを奪う。だがレイフおじさんの老いさらばえた姿にこそ、僕は”愛”がある…と思いたいなぁ。
まぁそれを受け取るはずのトルフィン坊やは、待ち受ける運命の嵐を感じもせず、流されるままだけどね!
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
王冠の毒、権力の重さ。それに押し潰された”父”との対話は、ヨークへと持ち越しになった。
権力の魔、何するものぞ。神を殺し、父を殺し、楽土を築く青雲の志は、果たして玉座へ届くのか。
”父”を殺された後、トルフィンが望まず”家”とした戦団は壊滅した。仇と憎むアシェラッドも、理想に身を投げることをもはや躊躇いはしない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月2日
運命は、ヨークへと人々を導く。その過程で何が犠牲となり、何が芽生えるのか。
アニメ”ヴィンランド・サガ”の最終局面が、静かに燃えている。来週も楽しみ。