ケムリクサ 第6話を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
新天地・ロクジマに迷ったわかばの前に現れた、死んだはずの姉妹・りく。
ケムリクサの新たな力、導きとなるアイのケムリクサを手渡した彼女は、一行には合流しない。
『私は、いないことになっている』
謎を孕みつつ、ダイダイの遺書が教えるまま進む先に待ち構えるのは…
そんな感じの、謎の解明と新たな謎、ケムリクサ第6話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
ぶっきらぼうな師匠ポジとして、わかばに新たな力と知恵を与えたりく姉。”触覚”の自認を鍵として、色んな事がわかり…更に分からなくなる。
文字文化をこの作品がどう捉えているかも少し見え、なかなか面白い中継地点だった。
衝撃の邂逅から引いた冒頭、りくはわかばを”敵”と捉え、稲光の的にする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
ここらへんの警戒心の高さ(とぶっきらぼう)を学んで、りんちゃんは皆を守っているかと思うと、あながち乱暴と切り捨てられない対応である。
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そんな敵味方の認識は、わかばがミドリのケムリクサを”癒やし”として発現することで、くるりとひっくり返る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
誤解したままぶっ殺していたら、距離を縮めて仲良くなることも出来ない…と考えるのは、もしかしたらホモサピエンスの思い込みかもしれない。
この世界で、人がどう生きどう死ぬか。
僕はまだ、その片鱗しか知らないのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
とはいえ、第1話で衝撃的に散ったりなちゃんと、その死を悼む姉妹を見ていると、少なくとも死に伴う喪失の文化と感情は、彼らも我らも共有だと分かる。
植物的生命たる彼には、身内の認識があり、その死は長く長く尾を引いている。
りんちゃんの痛ましい強がりを見ているので、歩いて悪態をつき雷撃ブチ込むりく姉の振る舞いには、意外性が強い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
果たして彼女は(りんちゃん達の認識通り)”死んで”いるのか、”生きて”いるのか。
それは出会って距離を詰めても、よく分からない謎のままだ。
とまれ、妹との縁が刻まれたミドリのケムリクサを認識し、りく姉はわかばとの距離を縮める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
物理的な相対距離が、そのまま彼我の心理的距離に直結している空間構成は、なかなか緊張感があっていい。
”敵”は遠くに、”味方”は近くに。
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そういう始原の本能を乱雑に駆動させて、りく姉は自分の隣にわかばを置き、ベタベタと触る。わ、わかばが接触毒にッ!
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
わかばが”触覚”…凹凸や質感、痛覚で世界を認識できる”仲間”だと認識することで、その距離は更に縮まっていく。
これは、なかなかにSF的で面白い。
姉妹はそれぞれ五感を分担し、協力しつつも全く別種のセンスで世界を捉え生き延びている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
絆で繋がっているのは事実だが、それぞれに見えているものは僕らが想像するより遥かに異質で、そういう異質な世界をなんとかすり合わせ、共有して生存率を上げている、とも言える。
りつ姉が耳で描く世界と、りなちゃんが味わう世界はおそらくてんでバラバラで、しかしその断絶は対立を産まない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
同時に、りく姉は触覚で形成された自分の世界と、似通った認識(感覚、メディア)をわかばが持つと分かると、明らかに嬉しい表情を見せる。
彼女らにとって”違う”ことは前提であり、同時に飲み込みきれない断絶としても機能している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
繋がりつつ同質になりきらないこと、だからこそ同じ部分を探すことが、ケムリクサの姉妹にとっては大切で…そしてその矛盾した距離感は、おそらく僕らにとっても同じく大事だ。
僕らもまた、自分とは違う他人を『そういうもの』と諦めつつ、どこかに共通点を探し、繋がろうと求め続けている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
それは共通の”好き”であったり、個別のセンスが同じ事象を感覚する幸運であったり、色んな形があるけども。
同じものを見ている、感じているという認識は、根源的な安心と共感を作る。
この世界の”人間”が五感をリンクさせず、一個を特化させて認識するよう物語的に設計されているのは、そういう断絶と共鳴をより鮮明に書くためでもあるかな、などと思った。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
超音波の反響で世界を見るコウモリや、紫外線で蜜を探す虫が見ている世界と、僕らが見る世界は大きく異る。
でも僕らは無意識に、コウモリも虫も可視光線で世界を感覚し、それに基づいて価値や行動を形作っていると思い込みがちだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
それくらい、同じセンスで同じものを見ている、という共感は心地よく、それに気づくことで人と人の距離は近づいていく。
だが、完全に同じにもなれない。
そんな人の業を楽しく背負い込みつつ、りく姉はマジで乱暴にグイグイ来る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
ケムリクサの使い方、泣き虫だったりんちゃんの過去、ダイダイに刻まれた記憶。
色んなことを教えてくれる。
ダイダイの操作がスマホっぽいの、面白いよなぁ…。
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ここでもわかばの力は防壁として発現し、傷つけるよりも守ることに彼の資質があることを教えてくれる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
まぁ臆病な自分を押し殺して、敵を倒すべく攻撃の力を奮ってるりんちゃんだって、守るために戦ってんだけどさマジ…。
姉の口から泣き虫だと判った瞬間、俺キレちまったからね…。
誰が悪いってわけでもないのだが、凄く柔らかい部分がある人が心を凍らせて、大事なものを守るために涙を殺して闘い続けるの、マジ許せねぇからよ…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
異物として紅い姉妹に出会い、混ざりつつあるわかばはそういう残酷を変えうる運命背負ってると思うので、マジ頑張って欲しい。許せねぇからよ…。
わかばはひらがなで綴られた知恵をダイダイから(りん姉の教えを活用して)引き出し、しかし漢字は読めない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
文明が崩壊し、文字文化も消え失せたように見えるケムリクサ世界でも、文字は死と時間から思いと知恵を守る、タイムカプセルの仕事を果たす。
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姉妹が同根から生じ、食事を取らない特殊な”人間”であることはここまでも描写されてきたが、彼女たちは知識を(あるいは感情も? 感覚も?)”共有”出来るようだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
それは言葉を費やさなければ何も伝わらず、保存もできないホモサピエンスにはない、特殊な生態であろう。
同時に秘密とそれを綴るに至った(あるいは、白塗りに消す)思いを文字が保存し、伝えてくれるのは我らの文化と同じである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
動物が抗えない時間の流れ、死の宿命。
文字文化によって感覚を封じ込め、思いを共有することは、残酷な世界に対する強力な対処策だと言える。
文字があればこそ、遠く離れた場所と時間に情報を伝え、減少を前に何を感じたか、他人に教えることも出来る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
そういう実用性にアクセスする能力を、わかばは備え、陸姉の指導で開花させ…しかし、知恵は完全ではない。
読めない部分、分からない部分も沢山あるし、この知恵が何処から来たかは言えない
『アタシのことは、秘密にしてくれ』
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
そんな願いに込められた切なさを、わかばが判っているのかいないのか。
どーも底に見えない(よう、多分意図的に描かれている)主人公はしかし、死人の祈りをちゃんと果たしつつ、託されたものを姉妹に届けようとしている。
思えばわかばが迷い込んだ地下街は墳墓であり、過去に属する領域なのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
本来なら蘇るはずのない時間が巻き戻り、今を生きる姉妹が生存するために必要な力を分け与えてくれる。
しかしそれは道理に反したことで、死人は冥界から、堂々出てくることは出来ない。
わかばの生きるべき場所も過去にはなく、騒がしく面白い現世に、彼は帰ってくる。託された知恵を携えて。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
冥界への旅路が、大きな知恵と力を旅人に宿す。オーディンのルーン文字探索めいてもいるな、今回のわかば…。
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困難な旅に伴うロスを減らしてくれるアイちゃんが寿命を迎えた時、それを補うのはりく姉の託した”二枚目”だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
危機を脱する妙手が何処から来たか、わかばは言えない。嘘をついてごまかし、喋る死人の存在をりんちゃんには教えない。
それは、ある意味優しい行為なのかもしれない。
いやだって、りんちゃんピンピンに張り詰めて”戦士”やってんだから、『お姉ちゃんが生きてるかも…』と希望取り戻しちゃったら、プツンと切れて耐えられないかもしれんし。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
強かった姉さんの代わりをして、皆を守らなきゃ。
その思いで、涙堪え戦っとるわけでしょ。ヤベーよなぁ…。
合流してから、険しい旅路がモンタージュで描かれているのが僕は好きで。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
まぁモンタージュ演出自体が好きだ、ってのもあるけど、彼らの旅が常に大変で、一歩間違えば枯死しかねない危険さを、具体的に描写し続けているのが、作品の地味な足場になってる。
瓦礫を持ち上げ、ミドリちゃんがよいしょと踏ん張り、命の水を減らしながら一歩ずつ進む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
そういうフィジカルな苦労がある旅だと描かれるこそ、彼らの冒険は個別の手触りを手に入れ、観念的になりすぎない。
前に進む苦労は、彼らの生活の一部、匂いのあるものなのだ。
そんな”苦労の肌感覚”みたいのがうまく演出されているからこそ、わかばの(そしてりく姉の)差し出した二代目アイちゃんが水を元気に滑り、死を避ける知恵として機能する瞬間には。確かな喜びがある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
異質なものを異質に描きつつ、同時に共感できるよう見せるのは、思ってるより難しい。やるなー。
希望はアイだけでなくダイダイの、そしてミドリの色合いもしていて。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
好奇心が強い(わかばとの共通項ッ!)りょくが残した日記は、哀切なノスタルジーを姉妹に呼び覚ましつつ、ミドリのケムリクサが宿す希望を教えてくれる。
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いままで紅い霧に閉ざされた死地ばかり描いていたからこそ、過去からの思い、困難を踏破する”今”の歩みが重なり、溢れんばかりの清浄な水にたどり着いたラストカットは鮮烈だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
イチジマで諦めてしまっていたら、見れなかった景色。
危険と隣合わせの可能性に、飛び込まなければたどり着けなかった場所
わかばという異物が、集団に混じったことで到達した可能性。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
そういうものが、この景色には宿っている。
やっぱキメドコロの美術がバッチバチで、ファンタジーに必要な壮大さが風景に宿ってるの強いなぁ…美術がいいアニメが好き。
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巨大な泉から生えるのは、新天地を生み出す天御柱か、世界を支えるユグドラシルの樹か。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
過去との邂逅、新しい力と知恵の覚醒と合わせ、物語冒頭に示された到達点にたどり着いたわけだが、まだまだ物語は続く。
この先に進む物語は、つまり過去をより深く掘り下げる物語ともなろう。
この崩壊世界が、どのように生まれたか。姉妹の生き様と死に方はどんなだったのか。なぜ、死人が歩き喋るのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
謎は多い。新たな危機も待ち受けるだろうし、関係性も変化していくだろう。
やっぱよぉ…強がり戦士が元の泣き虫に戻れるよう、わかばがりんちゃんの”好き”を背負うしかねぇんじゃねぇの?
赤く密閉された狭苦しい視界が、グンと晴れたラストカットの開放感。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年8月26日
ここからケムリクサ、どういう話に進めていくのか。さっぱり分からず、しかし面白いものが見れる、という確信は静かに、確かに燃えている。
面白いアニメである。次回も楽しみだ。