ケムリクサ 第12話を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
過去を背負い、挑む死闘。
赤く染まった世界樹の猛攻を前に、りんとわかばは幾度もくじけかける。
それでも闘い続ける力は、ここまで進めた歩み、掴んだ出会いの中にある。
壁を壊せ。”好き”をその手に抱きしめろ。
闘い抜いたその先に、広がる景色に飛び込もう。
そんな感じの、ケムリクサ最終話。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
前回世界観とドラマの謎解きはやったので、基本的に一生アクションしている話である。もー予算の心配はしなくていいぞッ!!
戦いは”好き”と同じくらい、この物語の中心であったので、最後に真ん中に据えるのは正しい運びだなぁ、と思う。
ピンチの上にピンチが重なり、積み上げた絆が逆転を呼ぶ今回のバトル。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
それは第10話で静かに振り返った旅路を、激しい動きの中で確かめ直す行為でもある。
自分はアクションそれ自体の味わいを楽しむ舌が弱いので、動きの中に思弁を練り込んでくれると、やっぱ食べやすい。”意味”を探しちゃうのよね…
そうしてたどり着いた大団円。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
二回、りりが越えれなかった壁を壊した先に広がっている景色と、涙と”好き”
りんちゃん…貴方が涙をこらえて両腕を組み、戦士として頑張ったからたどり着けた、掴み直せた世界です。
『良かったです、本当に』
わかば…お前いつでも、俺が言いたいこと言ってくれるな…。
はい、というわけでクライマックス! 血湧き肉躍るバトルだよー! ってエピソード。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
前回衝撃のヒキ、貫かれたわかばはなぜあんな事になったのかという、謎解きから開始である。
自分の根源、”好き”の根っこに溺れると、身の安全が疎かになる。
©ヤオヨロズケムリクサプロジェクト pic.twitter.com/eG7TqdPEo4
やっぱり世界は厳しく”好き”を試すけども、りんちゃんがようやく思い出せたものを守るため、わかばはケムリクサを使う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
第6話までで戦士としての変貌を、ある程度完成させたわかばの集大成ともいえる”守るため”の闘いである。貫かれることで、彼は自分の”好き”を守る。
しかしそれではワカバの繰り返しであり、犠牲は乗り越えられていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
りんちゃんがりりの祈りを引き受け、今度は”勝つための”闘いに死力を尽くすように。
二人は自分が生まれでた場所に刻まれた運命を、乗り越えるために戦っていく。
©ヤオヨロズケムリクサプロジェクト pic.twitter.com/vDNcOqepa3
今回の最終戦で、ピンチを覆すのはいつでも、これまでの物語にあったものである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
出会ったヒト、託されたモノが、叩き潰されそうな重圧を跳ね返す武器になっていく。
わかばが生存できたのも、りんちゃんが勝てるのも、全てはここまで歩いてきた物語があってこそである。
逆に言うと、そういうモノを確認するために赤い樹は強大で、りりとりんちゃんが膝を屈してきたものを寄せ集め、彼女たちに吹き荒らす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
世界が赤く染まった時、愛する人が死んだ時。
”子供”である自分を阻んだ壁が、もう一度立ちふさがる。思い出は力に変わり、記憶の葉は新しいヴィジョンを届ける。
身を砕いてなお、死の国には届かない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
その事実を認識して、これから生み出す六分割の命にりりは『好きに生きろ』とメッセージを託す。
しかし縁は複雑に絡み合い、りりの”好き”とりんちゃんの”好き”は運命的に重なる。
好きに生きる。
この厳しい世界で、それは保身を意味しない。
むしろ命の赤い葉を燃やしてでも、掴みたいものへと後悔なく踏み込む決意だけが、”好き”を掴み守らせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
遠い誰かに託され、同時に自分のものでもある記憶。
誰かのものであるからこそ叶えたい無念が、壁を突き破る意志を生み出す。
りんちゃんとりりの、客観/主観入り混じった距離感はSF的で好き。
そして一人の思いじゃ足らないなら、みんなの願いを足せばいい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
足下遥か、運命の闘いに邪魔をさせないために奮戦する姉妹(シロもいるよ!)から届いた、決戦の剣。
それは”一人”であったりりが掴み得なかった、多様性と可能性の刻まれた刃。
©ヤオヨロズケムリクサプロジェクト pic.twitter.com/iuCoPiUMvo
りりは『大人になる』という願いを込めて自分を砕いたわけだが、それが生んだ多様性は姉妹の形で絡み合い、この決戦の趨勢を決める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
生まれた時から”姉”だった(あるいは”妹”だった)不自然こそが、ここまで進む力になったことを第10話で確認したわけだけども。
出生時から規定されていた奇妙で不自然な差異は”好き”の違いを生み、ミドリちゃんマニアなりつ姉が丹精込めて育てたからこそ、ここで緑の枝が出てくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
”違う”ということは、(少なくとも、このコンパクトな同族社会においては)力に変わる。
幾度も描いてきたものが、今回も顔を出す。
りりが絶望とともに遠ざけられた青い壁を、今度こそりんちゃんは乗り越えていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
託してくれた仲間の、命をつなぐために。
もう、誰もいなくならないために。
隠してきた”好き”を、今度こそ掴むために。
闘い、闘い、闘い続ける。
©ヤオヨロズケムリクサプロジェクト pic.twitter.com/SHE5k3KjgP
ここで”戦士”としてのりんちゃんが、文句のつけようがない大立ち回りを必死にやりきるのは、僕はとても好きだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
それは泣き虫の…”本当”の自分を封じて姉妹のため演じているロールだけど、りんちゃんが強がってくれなきゃ、厳しい世界にみんな殺されてきた。
腕組みで自分の輪郭を保って、残酷に抗する
そういう社会の抗体なのだと、”好き”を押し殺して闘い続けたことには、確かに意味があった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
今回のバトルはそういう、泣けないりんちゃんの過去と未来が嘘ではないと証明する、活劇を絵の具にした肖像画なのだと思う。
嘘だけど、そこには意味がある。そういうものも、この話たくさん書いてきた。
しかしそれだけでは乗り越えられない時ッ!
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
去っていったはずの絆が、最後の燃えどころを見つけて背中を支える。あ、姉貴ッ!!
りりの記憶もそうだが、本当にいちばん大事なものが一番身近な死角にしまわれてる描写が多いの、説話的だなー、と思う。メーテルリンクっぽい。
第8話で確認した、姉妹最後の願い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
自分の”好き”に生きる最後の瞬間は、みな同じく愛するヒトを未来に送り出すことだった。
それは献身であり、身勝手でもある。
りく姉は暴れたいから、りょう姉は闘いたいから、りょくちゃんは知りたいから。
それぞれの渇望が、好きに暴れまわる。
でもそれは、孤独なエゴでは終わらない。りんちゃんが運命を乗り越えて、全ての人の贖いのために戦い勝つための道を、赤い姉妹の”好き”が切り開いていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
その協力が、りりの決意を意味づけるようで好きだ。
自分を6つに砕いて未来に放流した決断あってこそ、それぞれ別々の”好き”を抱え、ここに集う
子供なりりの”好き”は世界を赤く歪めてしまったけど、それを贖おうと自らを砕いた決意は、ここに集って意味を成す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
ワカバを取り戻したかった祈りも、緑の枝にやどり叶えられる。
運命と祈りを背負って、人は神を、子は親を超えていくのだ。神話やな。
©ヤオヨロズケムリクサプロジェクト pic.twitter.com/4DYQA3jjPE
崩れ行く赤い樹…”死”の属性を持つものが明確な境界線を定める中、死せる姉妹は下手に下がり、生きる者たちは現世に取り残される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
運命を乗り越えたとしても、生死は明瞭な境界を定め、住む世界は別れていく。まぁ亡霊組にも旅路があるのは、12.1話みるとなんとなく判るのだが…。
ここまではわかばだけの特権だった亡霊との対話…どころか協同バトルにりんちゃんがたどり着けたのも、激戦が生んだ奇跡というべきか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
物語においては、アガる展開が心を押し流すなら、大概のことはオッケーになるからな!
それが取ってつけた定形にならないよう、しっかり作り込むのが大事なのだ。
いや実際、りんちゃんが最後にお話できたのも、殿頑張った連合軍が生き残るのも、今まで積み上げた苦労が報われる『やって欲しかった展開』で、非常にありがたい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
『コイツラが報われなきゃ嘘だろーが!』と、期待と欲求をふくらませるようキャラとドラマを積み上げ、興奮とともにそれを叶える。
作劇においては非常にベーシックなことなんだけども、これをスムーズに、熱量高くやりきるのはいつでも難しくて、しかししっかりやってくれた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
どうにもならなかった過去を背負い、主人公が運命を変えるのもスタンダードだけど、死せる姉妹、生きる姉妹、祖たるりりと、想いの供給先が複数なのが強い
分断された感覚とか、”好き”の多彩さ(個人レベルだけでなく、それが世界規模の厄災を呼ぶ、ただ善いものではない描写含め)とか、わかばへのツンツンとか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
ヒトがヒトである以上否応なくつきまとう差異を見据えつつ、それが生み出す変化や可能性を祝いで進んできた物語。
それがあるから、色んな人の力を束ねてりんちゃんが勝つこの最終話、ジンと胸に迫る気がする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
死と別れ、絶望を超えて未来(死者が去っていたのとは逆の、上手側)に進む。
世界の壁に産道のように会いた、光の先にある景色。
ようやくたどり着いた、EDの果て。
©ヤオヨロズケムリクサプロジェクト pic.twitter.com/5RUOL5hOoF
ここまで人の生存を拒む廃虚ばかり描いてきたからこそ、壁を超えて彼らが生まれ直す豊かな自然は、結末に十分な豊かさを持って届く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
アオのケムリクサがいつでも、みんなが生きれる場所、水のある世界を示してくれた描写が、ラストに効くよなぁ…。
今まで旅してきた世界が水に浮かぶ”船”であるからこそ、シロムシたちはわかばに”船長”であることを望んでいたし、壁を超えた先には当然水がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
決断する苦しさと尊さをわかばに教えたあのお話は、知らず世界船の行く先を決める神の末裔に、わかばを帰還させるエピソードだったのかもしれない。
これから先、未来がどうなっていくかは判らない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
でも大変なことたくさんあったから、みんな幸せになるだろう。
お話の中くらいそういうの見たいし、そういう甘っちょろい夢を切実に語っていくことに、物語の仕事があるとも思う。
よく語り、よくたどり着いてくた。いいアニメでした…(早い結論)
目の前に広がる、誰もいなくならない世界。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
それを前にしてようやく、りんちゃんは泣き虫に戻り、自分の”好き”を抱きしめる。
それは戦士として戦い抜き、涙をこらえてきたからこそ掴めた結末。
本当におめでとう。本当に、良かったです…。
©ヤオヨロズケムリクサプロジェクト pic.twitter.com/KZG7Lax5uU
というわけで大・団・円ッ! 文句なしのハッピーエンドである。ありがとうケムリクサ、ありがとうirodori…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
SF、ロマンス、旅物語、ジュブナイル、神話。
色んな物語の美味しいところを混ぜ合わせ、不思議な世界の新たな神話を自分なりの手付きで、しっかり手びねりして届けてくれるアニメでした。
色々良いところたくさんあるんですが、ミニマルな登場人物で組み上げる神話的物語の骨の太さ、そこに宿る人間の営みの熱量が、やっぱり良かったと思います。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
みなこの不思議で厳しい世界を、必死に生きて必死に走った。その結末として、求めていたものを完璧以上に届けてくれた。ありがたいことです。
”好き”をキーワードに、人が人であるための定義を異質なるポストヒューマン主役で掘り下げていく思弁性も、とても良かったです。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
コミカルで素朴なやり取りの奥に、知性がメラリと揺れてるバランス感覚は、お話を難しくしすぎず、しかし惰弱にもせず、素晴らしかったと思います。
要所要所でのアクションを頑張って、厳しい旅路にキャラクターが賭けるものを活写したり。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
世界と人物への興味を引っ張る謎を、上手く提示し回収することで奥行きと面白さを出したり。
素直で素朴なメインシャフトを、技工あるサブシャフトがしっかり支えていました。
崩壊世界の旅物語としては、美術にワンダーと美麗がいつも宿っていて、それを切り抜く”絵”の強さが常時元気だったのも、とても良かったと思います。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
意図のあるレイアウトをズバッと画面に置く、映像作家としてのスタンダードが強いの、やっぱ強いわな(トートロジー)
キャラクターがみなチャーミングで、ポストヒューマンとしての異質性すらも魅力として描けていたのもグッドでした。みんな応援したくなる、いいキャラだったなぁ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
異質性と同質性のダンスが作品の根っこにある中、魅力的な個性をそれぞれに付与できたのは、描写がテーマを支える好例ではないかな。
”好き”を世界を変え人を支えうる唯一の力と書きつつ、それが持つ危うさや弱さをちゃんと見据え、語りきっていたのも良かったと思います。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
物語と人物の始原たるりりが、『”好き”を間違えた存在』なのが残酷で誠実で、とてもいいな、と感じました。
その過ちを、闘いで乗り越えきるりんちゃんもね。
僕はアニメオタク以前にオカルトマニアなので、色々と原神話領域をくすぐってくる話運び、ネタのチョイスもビリビリ来ました。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
結局骨の太い話を生み出したければ、やっぱそういう場所を触る必要は出てくんだなー、て感じ。アーキタイプの見本市だからねぇ…。
とまれ、様々に豊かで靭やかな、とても良いアニメーションでした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
皆が自分の”好き”を諦めず、他人の”好き”を否定せず闘い、支え合ってたどり着いた結末。
とても爽やかで豊かな気分で見終われ、ありがたい気持ちでいっぱいです。
とても面白かったです。ありがとう。
追記 混ざり合う対極、生まれる太極。異質な存在が出会い反発し、お互いを内側に入れることで生まれるエネルギーの物語として取ると、シャクティの基礎にして秘奥をしっかり語り切る強力な魔術書、とも見立てられるか。
追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
第10話で描かれた、ポストヒューマン達のコミカルな情報交雑。
それはわかばとりんちゃんのロマンスがたどり着いた、柔らかな部分を預けあえる距離を象徴する、セックスの暗喩だ。
それは自分の決意と力で”好き”を扱える、”大人”だからこそ可能な行為である。
りりとワカバの関係が、彼らが適切に”大人”であり”子供”であるからこそボタンをかけちがえ、世界を巻き込んで崩壊した描写の後だと、神の過ちを背負って走ってきた二人は、彼らが果たせなかった対等な”大人同士”としての向き合い方へ、ようやくたどり着けた、とも取れる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
自分を守り閉じ込めた壁を超えたいと、自分を分割し強制的に大人にしたりりの祈りが、りんちゃんを生んだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
悲しい別れと力強い決意の果てに、彼女はわかばと出会い(あるいは運命と知らぬまま再開し)、愛を育んでいく。
その結節点として、あのコミカルで上品な交配がある。
身内で閉じていては濁る一方の遺伝子プールに、外部からの異物を混ぜ合わせ、”身内”の定義を広げていく行為。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
婚礼は古来より、多様性を健全に集団内部に取り込むための装置だった。その結実としてセックスがあり、子も生まれる。
暗い産道を抜け、たどり着いた新世界。
神様すらもたどり着けなかった新しい地平に、自分たち自身を出産した二人はようやく、お互いの”好き”を混ぜ合わせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月30日
そんな心持と身の丈になれるまで、”子供”が適切に”大人”になれるまでの物語と考えると、やっぱ最良のジュブナイルだなぁ、と思ったりもする。