薔薇王の葬列を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
エリザベスとの婚礼は、エドワード四世とウォリック伯の関係に楔を打ち込む。
担ぐに相応しい神輿を求め、王弟ジョージとリチャードに接近するウォリックは、己が娘を野心の駒とする。
極寒の城を包む温もりは、永遠の安らぎか、一時の夢か。
そんな感じの内乱前夜、恋も愛も欲望の道具! な、薔薇王第5話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
後にリチャード三世躍進の鍵となるバッキンガム公とか、色々ややこしい間になる王妃マーガレットの弟アンソニー・ウッドヴィルとか、さらなる役者が舞台に上がりつつ、メインステージは雪深きウォリック伯領である。
クソバカ王エドワードが”愛”に突っ走った結果、婚礼を通じた同盟強化、国内安定を図った伯のメンツは丸つぶれとなり、一度は永遠を誓った二人は急速に離れていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
かの人物に、王冠に相応しき器量なし。
キングメイカーは、自分が担いだ王を見限ったわけだ。
となると誰を玉座にふさわしい人物…自分に都合のいい王様を選ぶか、という話になる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
ここでウォリック伯はヨークの王弟に取り入り、彼らを旗印に政権打倒を画策する。
この時情勢を決める決定打として、自分の娘を性愛の道具に使い、因縁に繋ぐ道を選ぶ。
それは、この時代のスタンダードな手筋だ。
既に先んじて、マーガレットが己の肉体を、偽りの愛を用いて王妃の椅子を…そこから伸びるヨークの破滅を手に入れたように、ウォリック伯とその娘、アンとイザベルは男女の性愛を利して、己の政治的野心、あるべき理想を叶えようとする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
そこにはドス黒い私心と、国を憂う公益心が同居している。
『偉大なる父王リチャードにこそ、玉座が相応しい』という思いはウォリック伯にもリチャードにも同じであり、しかし彼はもういない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
『リチャードを王の名に刻め』と囁いた黒翼の堕天使は、失われた愛を求める不安定な心が生み出した幻影なのか、亡霊の囁きか。
ともあれ、もはや戻りはしない幻影に引きずられながら皆が、玉座を求めて蠢くこととなる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
ウォリック伯は国家のための汚れ役、あるいは礎として私人の幸せを捨てる覚悟が固まっているため、娘や王弟たちをそれに巻き込むことに躊躇いはない。
人間は所詮駒で、自分はその指し手。
そう思わなければ、キングメーカーなどやってられないだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
しかしリチャードは不定形の性を抱え、ヨークの家名に相応しい”男”であろうとして、不確かに悩む。
鴉が父の無念を囁いたり、ジャンヌと極彩色空間で語らったり、リチャードがかなり狂ってる描写が今回多く、見応えがあった。
リチャードはアンとの日々に、”女”への嫌悪を和らげていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
馬を駆り騎士に憧れるアンは、『男っぽい女』として性差の境界線上に揺らぎ、また愛なき結婚を拒絶する純粋さをもって、女と少女の中間地点に立つ存在でもある。
女の形をしているのに、今まであった憎悪すべき女達とは違う。
そんなアンとの接触が、リチャードの胸に刻まれた”女”を肯定し、不安定な自分を定める助けになろうかという所で、運命は残酷にそれを切り離す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
リチャードの真実を知らぬまま、世界唯一の”男”として、彼を純粋に求めるアンの幼き愛。
リチャードがそこから受け取るものは、実はアンの望みとは食い違う
アンが恋愛の、性≒生の対象としてのリチャードを求めるのに対し、リチャードは性の中間で揺らぎ、自己(によく似て、愛着を反射できる他者)の不確かな形を『これでいいのだ』と定めてくれる、優しき誰かを求めている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
そこに男女の別は実はない。
人間の形を、不定形のまま受け止めて欲しいのだろう
母セシリーに『悪魔の子』と罵られ続け、自己形成に大きな傷を追ったリチャードは、常に自分が誰かあるか、教えてくれる存在を探している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
それは父王リチャード(斬首)であり、羊飼いのヘンリー(嘘つきで仇で軟弱)であり、アンなのだろう。
軒並み、揺れる魂を受け止める土台として機能しない。
リチャードは”女”なるものを、母のように自分を拒絶し傷つける存在か、エリゼベスのように汚れたセックスで野心を叶える毒蛇としか見てこれなかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
アンの与える安らぎは、そこにもう一つの答えを足す。
しかしそれは、同性の同輩としての共鳴であって、異性としての胸の高鳴りではない。
戦乱に立ち、父の無念を背負う資格ある”男”でなければいけないという強迫観念は、リチャードがアンと触れ合う時『女を愛しているなら、私は男だろう』と認識するところからも透ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
アンはリチャードの男性性を証明するトロフィーとして、恋愛という政治的ゲームの駒に使われるのだ。
これは一人間の尊厳を無視した、ウォリック伯やエリザベス(あるいは、国家の危機を無視したエドワード四世)と同じ、恋と愛と性への冷たい視線だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
城を包む氷のようなこのリアリズムを、アンの純情は柔らかく溶かしていく。
しかしそれは、決定的な誤解で崩れていってしまう。
リチャードは羊飼いに抱かれた時のようなときめきを、アンとの抱擁に感じない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
これをもって『リチャードは”女”なのだ』と決定する必要も、また判断する資格も理由もないわけだが、リチャードの中に”女”の要素が(その身体と同じく)確かにあることは、間違いないだろう。
自分を苛む悪しき母≒女と、同じ名前を与え憧れと輝く父≒男。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
幼年期からの体験により、女を嫌悪し男に傾いていたリチャードの性自認…”性”をどう判断し自分に引き寄せるかの価値観は、アンと安らかに過ごせていれば、良いバランスを手に入れていただろう。
アンのような『善き女』に触れ合うことで、男女どちらともつかない自分をそのまま肯定し、そこから殺戮と欺瞞に満ちた世界に、求めていた安らぎと慈悲を見出すことも出来たかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
しかしその予感は扉越しの言葉で裏切られ、雪だるまは無残に砕ける。
その白さにはリチャードに残っていた幼い純真が、その冷たさにはリチャードを包囲する現実の厳しさが、同時に宿っていたのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
これにより、リチャードが”女”≒”女”でもある自分を図る天秤は、嫌悪に再び傾いていく。
自分の半分を肯定できないので、そこから見える世界も殺伐と血生臭くなる。
リチャードが殺戮に充足を見出すのは、非常に悪しき形での”男”を、赤い血潮から補充する運動なのかな、と思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
女が性愛を弄んで他人を覆す毒婦であるように、男は人を殺し権力を求めるものだ。
そういう認識のもとに、他人の血で自分に欠けた”男”を補ってる感じもある。
無論、リチャードが求めるひどく普遍的で幼い愛は人殺しなんぞで満たせないので、毒にしかならない輸血なのだが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
しかしその毒血によって、永遠であるべき父は切り落とされた首となり、あり得たかもしれないはずの未来は砕かれてしまった。
ならば、自分自身が殺戮となり、恐怖を乗りこなす。
リチャードはさんざん『お前は悪魔で、周囲を埋め尽くす人間とは違う種族なのだ。孤独に死ね!』と呪われた結果、他者を遠ざける傾向が近い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
どうせこの秘密を受け止めてくれるものも、不確かな私をそのまま抱きしめてくれるものもいない。
そういう学習を、母との関係に、父の死に果たした。
結果、世界が求めてる通り愛に満ちてると学ぼうとしても、他人の声が届きにくく、また醜く歪んだ面ばかりを拾ってしまう形になる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
まぁ兄殺し甥殺しの野心の機械となる未来は確定しているので、愛で満たされちゃうと歴史が変わるからな。追い込むぞー!!
その一環として、『女は私を求めないし、安らぎは雪に儚く消えていく』ということを、悲しきすれ違いから学ぶエピソードでありました。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
どんな本心を秘めているとしても、喉から滑り出した刃はけして止め得ず、運命を傷つけ血を流す。
愛ゆえのアンの拒絶は、彼女と王冠の運命を大きく揺るがしていく
マージでリチャードは児童心理学と性差問題に精通した、優秀なカウンセラーに助けてもらって傷を直して欲しい子なんだが、時代と家門がそんな”軟弱”な解決を許さんからな…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
個人の愛も悩みも、全て噛み千切って動く玉座という機械。
そこに座るやつがあんまり私情に奔ると、内乱が起きる。
あるいは動揺に漬けこまれて他国の侵略を許すわけで、これを回避するためにウォリック伯はフランス王家との婚礼を進めていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
そこら辺全部蹴っ飛ばして、”愛”に猛進するエドワード四世のバカさ、ヤバさを、揺らぐ私を肯定するチャンスを潰されたリチャードの裏に置くのが、なかなかエグい。
立場に相応しい責務を放棄するとどうなるかってのは、リチャードが惹かれるクソ羊飼いでも描かれているからなぁ…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
リチャードが権力と責任を引き受けるに相応しい”男”に…父に似た存在に自分を引き寄せようとする歪みには、一定以上の理があるのだ。
しかしそれは、赤く血塗られた危うい道でもある。
母セシリーが『悪魔の子』と、キリスト教的価値観からリチャードのあり方をぶった切ってるのも、なかなかどん詰まりで。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
この時代、個人の魂の問題を救済可能な場所として教会と家庭は重要であったが、『悪魔の子』が神の家に救いを求めるワケにもいかんからなぁ…出口が一つ潰されてる。
あるいは家庭という出口も、社会にも自己にも肯定され得ぬ性を抱え、政治的事情が愛に満ちた決断を許さないリチャードにとっては、出口足り得ないだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
実際、この後マジ滅茶苦茶になって滅茶苦茶な婚礼を果たすことになるからな…どう書くんだろうか。
燃えたぎる恋慕とはまた違う、穏やかな抱擁にやすらぎを見出そうと願った純真は、儚く消えた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月8日
内乱の予兆に燃えるイングランドで、未来の悪王は一つ、また一つの人間の証を壊され運命を歩む。
駒を取りこぼしたウォリック伯は、誰の手を取り玉座を狙うか。
次回も、地獄に付き合ってもらう。楽しみ。