平家物語を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
戦乱の風から逃れるように、神戸福原へと都は遷ろう。
月に風流な笛の音響く中、清盛は物怪を睨みつけ、東国では源氏が起つ。
富士川に轟く水鳥の羽音は、総大将に任じられた資盛の、武士としての面目を砕く。
まぼろしの如く、何もかもが崩れかけていた。
そんな感じの崩壊間際夢うつつ、人間向いてねぇ仕事やっちゃダメだッ! な、平家物語第6話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
唐風に彩られた新都、福原を拠点に新たな世を作ろうとする清盛平家であるが、吹き出した反感は留まることを知らず、”面白き”世の中は乱のさなかに遠ざかっていく。
異能の瞳がなくとも怨念は物怪として凝り、存在しない軍勢を水鳥の羽音に聞く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
武家階級による社会変革というまぼろしに踊らされ、突き進んできた清盛を止めるものはもはやなく、華やかな舞いなど何の役にも立たぬ戦乱が、ジリジリと近づいてきた。
果たして、何が本当で何が幻なのか。
幻の清盛福原幕府を蹴倒す勢いで、後に鎌倉に府を立てる頼朝は、オヤジの髑髏も誅滅の勅も、『本当かなぁ…』と疑ってかかる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
富士川に勝勢を呼び込んだ武威もまた、一つの幻と信用しきらず、現実的な目線…と言いたい所だが、彼もまた平等で平和な”面白き”世の夢を見て、拳を握る。
後に。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
源氏嫡流がすべて廃されてなお続く”鎌倉幕府”の命運を思えば、文覚にそそのかされて見た未来もまた、敵である清盛が福原に夢見たのと同じく、儚き幻であったのかもしれない。
人は儚き幻に踊り、それが足蹴にしたものからは、確かな血が流れる。
身体からも、心からも。
その確かさを置き去りにして、時は残酷に人々を押し流し、一門の命運、個人の冥加も盛りを終えて、儚く虚しくなっていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
平家の終わりの始まりを告げる、静かで悲しい折返しであった。
ここまで散々に、ガキの頃から資盛がビビりで武家適正ない青年と書いてきた蓄積が、しんみり染みるね…。
さて清盛は周囲の反対を押し切って、日宋貿易の拠点と定めた福原に都を遷させる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
国風の寝殿造が多かった京に比べ、福原の建物や装飾は唐様が濃く、木々も風も何処か南国の気配を帯びている。
後に幸若舞に、世の儚さの象徴と舞われる若武者、平敦盛。
(画像は”平家物語”第6話から引用) pic.twitter.com/xK3R8qdCs2
重盛の子供たちとの出会いはなんとも風雅で、貴族的なたおやかさに満ちている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
坊主と貴族だけが権力を握り、けして揺らがない世の中を武力と財力でひっくり返し、一門をお仕上げた清盛の働きは、”平家”にこのような皇子たちを生んだ。
彼らの繊手は、長刀よりも笛を握るのに向いている。
波音だけが伴奏の月見の宴に、重なる3つの笛の音。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
福原という土地がとても良い場所で、しかし”都”に相応しい華やぎからどれだけ遠いかを、この一曲はよく教えてくれる。
いまだ水遊び、音合わせに夢中な若人達は政治の、経済の現実など解らぬまま、田舎風情を素直に楽しむ。
しかしそこに混じった重衡オジキは、無邪気に勲しを褒める甥御に一瞬眉を曇らせ、武家の本分を無粋と遠ざける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
可能ならば、忘れて平和に浸りたい。
戦乱に突入していく運命の中で、南都劫掠の張本人がそのように、繊細で柔弱な思いをもっていることは、身近な人でもなかなか気づかない。
ここに目線を送り、運命に翻弄されていく武士の弱さ、人間味を見届けるのが、やはり透明なカメラとしてのびわの仕事…なのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
平家ファミリーの家族史という側面があるこの物語、年表や絵巻には歴史の装置のように描かれる一人間が何に喜び、何に悲しんだか。
その情に、クローズアップしていく。
無論一人間が何を思った所で時流は動かず、定められた滅びに皆が投げ込まれていくのだが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
例えそうだとしても、あるいはだからこそ、敦盛の無邪気な称賛が、重衡の心臓に突き刺さった瞬間、人間がどんな顔をするかは、とても大事なのだろう。
大きな流れも、そこに浮かぶ小さな波紋も、嘘はないのだ
さて今様マニアの妖怪ジジイは、牢めいた屋敷から時流を睨みつけ、復位のタイミングを図る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
かつて”平家”と楽しく歌い踊った笑顔も、実子崩御の頃合いを再興のチャンスと狙い撃つ獣の目も、同じ顔に宿るのだ。
千葉さんの好演と合わせて、つくづくコクのあるキャラだ
(画像は”平家物語”第6話から引用) pic.twitter.com/GBSKMTgU4w
病床の音に風を送り、泣きじゃくる我が子を胸に慰める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
徳子は流れ行く時の中ですっかり貫禄を付け、強く優しい人へと育った。
童形のまま波遊び、猫遊びを続ける永遠の少女、びわとの対比が、軽やかに美しくも、少し苦くて悲しい。
死を見つめ子を生み、大人になるしかなかった少女。
そんな彼女の妻としての、母としての殻の奥にある柔らかな少女の瞳は、運命を前に不安に揺らいでいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
高倉上皇という後ろ盾を失えば、波音に怯えるただの赤子の政治力は大きく揺らぎ、後白河法皇の平家下ろしをせき止める存在はいなくなってしまう。
そんな政治のうねりを、強く肌で感じているのだ。
『うみこわい…』と泣く安徳ベイビーがまーた可愛くて可愛そうで、『ちょっとー! 脚本どうにかなんない!?』と、運命のもとに殴り込みであるけども。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
今回回収された『維盛と鳥』と同じく、『安徳天皇と波』は重い伏線だからなぁ…教科書にネタバレされていようが、悲惨は悲惨で耐えらんねぇ。
重盛の死去、相次ぐ反乱、空回りする野望。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
いかに傑物・平清盛といえども昨今の情勢は魂に堪えるようで、凶兆とともに物怪を見据え、びわの清音に禍祓いを願う。
重盛は亡霊の視線に世の憐れを感じ己を改めたが、父は髑髏を睨みつける。
(画像は”平家物語”第6話から引用) pic.twitter.com/hx47k7mqgP
新時代の武士として、腐りきった上流階層に良いように弄ばれる立場を脱し、世を変える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
ガムシャラに駆け抜けてきた一代長者、魂の叫びが、怨霊払いの琵琶の音に響く。
『おもしろかろう?』のニタニタ笑いも、もうここでは浮かばない。
人間・清盛の地金が見える瞬間だ。
悪霊の恨みを買おうが、生者の反感が渦巻こうが、全て睨みつけ踏み倒す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
清盛入道の意気は未だ盛んで、それをせき止めるものはもはやいない。
自分と正反対の苦労人、『おもしろくない』重盛こそが、時代を変えるほど巨大なエゴを宿した怪物のバランスをとる、大事な重りだったのだ。
その息子たちもかつての父と同じく、びわが入道お手つきにならないよう気を使って同行するが、重盛ダディのように身体は張れない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
怪物と睨み合っても怯まない、清盛の過剰な改革意識…一門全員を背負うからこその危機感は、彼自身が作り上げた恵まれし世代には、共有されないのかもしれない。
だまって下層階級に甘んじ、何も変わらぬまま腐っていく世界に甘んじていればよかったのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
はたまた、”面白さ”を求めて世界のシステムに反逆し、新たな世の中を生む嵐の中心に立つべきだったのか。
問うても、答えは帰らない。
その事を重々承知だから、清盛は猛く駆け抜け、一生の遊びに興じたのだ
その果てである、海風薫る辺鄙な福原。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
実の孫にすらイヤミを言われる、強引な夢の都がどんな場所であるかは、よく伝わるエピソードだ。
海の民である平家が日本の舵を取る中心として、新たに生み出された海洋都市には、悲しいかな文化と歴史の蓄積がない。
維盛の舞、資盛の歌、清経の笛。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
これまで美しく、平氏の家族劇を彩ってくれた貴族的伴奏の根っこは、土地と歴史という動かし得ぬものに深く突き刺さり、清盛入道と言えども動かせない。
そしてその華やかさは、一門を滅亡せんとす武力を前に、あくまで徒花でしか無い。
無骨に殺し、容赦なく奪う武家の本分に立ち返らなければ、全てが風の前の塵と化す土壇場において、形なきものこそが平家の権勢を揺るがし、また若い世代がそれに囚われている様子は、なんとも皮肉である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
清盛は一門の未来に、自身歩いてきた血みどろの道に、切迫した危機感がある。
だから”眼”がなくとも物怪を見るわけだが、才無き子や孫は、同じものを見てくれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
見てくれただろう重盛は、もう死んでいるのだ。
畢竟、ここが栄華のどん詰まり。
全てが終わった先の先で見ている僕らは、残酷にそう結論も付けれるが、それはいかさま、冷たすぎる気もする。
さて風前の灯と平家の命運、清盛の魂が揺れる後ろで、怪僧・文覚に背中を押されて頼朝が起つ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
幻に弱る宿敵に対し、なんもかんも『本当かなぁ…』と疑ってかかるリアリストであるが、しかし青雲の志はその拳を握らせ、燃え上がる夢こそが戦を生み出す。
(画像は”平家物語”第6話から引用) pic.twitter.com/jXyvxXTLis
一門の外からも人材を取り立て、平等で平和な時代を。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
これが清盛の見た髑髏と同じく幻でしかなく、しかしこれまた、髑髏と同じくままならない現実に根ざした夢であることを、僕らは知っている。
清和源氏嫡流の栄華は三代で終わり、ここで見た夢は、別の誰かを主役に形となる。
あるいは夢さえ叶うのなら、その舞手は移り変わっても良い…という潔さが、時代の担い手には求められるのかもしれないが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
しかし清盛が俗欲まみれに自身と一門の栄華を望むように、頼朝殿も子孫の繁栄を、源氏が中心にある太平の世を願って、誰かの夢に乗っかったのだ。
父の髑髏も誅滅の勅も、みな不確かな幻。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
しかしそれに賭けなければ、大望はけして叶わない。
敵手である清盛もまた、様々な土壇場で夢に身を投げたからこそ、今福原に覇を叶えようとしている。
ならば…ならば!
反平家、反清盛な造形に思える頼朝に、どこか入道と通じるものを見てしまう。
頼朝は東屋には似合わぬ天下に視線を上げて、幻に一門の命運を投じる決意をする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
その切っ先が迫る富士川、総大将に任じられた維盛は雅極まる戦本陣にて、存在しない軍勢の足音を聞く。
橋合戦で殴りつけられた、戦場の巨魁なるリアリズム。
(画像は”平家物語”第6話から引用) pic.twitter.com/ht5FUgRJIA
武士が飲み込むべき恐怖は不定形に肥大化し、我を失った人々は旗印も足蹴に、命からがら逃散する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
父が平治の乱において堂々と乗りこなし、むしろ背中を押す勢いに変えた戦場の空気を、貴人の風格をまとう若武者は制御しきれない。
将たる器、桜梅少将に無し。
そう切り捨ててもよいのだが、首を取られても見苦しくないよう、下唇に紅さす死化粧の習わしをしっかり守っている資盛が、どれだけ優しい…英雄になどはなれない、普通の青年であったかを、この物語を通じて僕らは見てきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
彼自身は、総崩れとなる陣に踏みとどまり、戦いを続けようとしたことも。
後の世に千年、家門の恥武家の汚れと罵られることになる彼がどんな”人間”であったか見せるべく、びわの目を通じて少年が青年となり、夫となり父となり、武将になり損なう瞬間の全てを見届けさせたのかな、と思ったりもする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
まー時代に気性、趣味心根の全部が”武”に向いてねぇ男であった…。
それでも”平家”である以上は、死に怯えぬ益荒男であることを求められるし、果たせなければ家族ごと死ぬだけでもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
羽音に聞いた軍勢は幻でも、戦の結末は本物。
かくして諸軍雪崩を打って、平家の命脈絶たんと迫る中、びわは松を相手に剣を振るう”兄”を見届ける。
(画像は”平家物語”第6話から引用) pic.twitter.com/GsJCuP6fIq
福原の海原は京の艶やかな雅とは程遠くて何処か寂しく、松の間を吹き抜ける風が、武士たることを望まれて武士たり得ない一人の青年の苦悩を、静かに包む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
怖がりの猫を抱いて、舞を求めるびわが足場を置く、永遠の幼年期。
穏やかで、平和で、戦いなどなかった栄華の時代。
そこに戻れぬ現実を、踏みにじられた真紅の揚羽蝶に嫌というほど思い知らされつつ、たった一人の魂は簡単に動いてはくれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
死の重さ、戦の怖さ、敗北の恥辱。
様々な幻を振り払おうと振るう刃は、松葉だけを傷つけているのか。
びわの瞳は、亡霊でも未来でもなく、家族の今を見据えている。
場違いな猫遊びに誘ったびわが、その行いほどに幼くはないことは、僕らも先刻承知である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
重盛の臨終も看取ったし、物語の初めからして、実の父が惨殺される所からスタートである。
生きること死ぬことの重さは、この時代の住人としてよく知っている。
子どもでありながら、子どもでいられない者たち
そんな無常への共感もあって、びわはあえて頑是ない無邪気に兄を引き戻そうとしたわけだが、父の遺志、家門の生き様を継ごうとした”おっとう”は、舞よりも剣を望んだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
妻であり母である切なさを、病床に仰いでいた徳子と同じように、資盛もまた否応なく大人になっていく哀しみを、夕陽の波間に刻む。
このような人間模様を飲み込みながら、”平家物語”は進んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
平家を包囲する軍勢は止まらず、乱世に生きるのにあまりに向いていない人たちも、戦場へと赴いていく。
今宵笛に夢を載せた人が、幻の如く命を散らす場所へと。
ここで敦盛が表舞台に立つの、先の悲愴を思うとなんとも…であるが。
笑顔も風雅も、残酷も虚しさも全て嘘ではなかったのだと、その眼に刻みながら、びわは時代の外側にある語り部として、一門の栄枯を見届けていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年2月16日
清盛の怪物的エゴが、軋む屋台骨をギリギリ維持している状況を活写した上で、さて次回は何が待つか。
教科書読むなネタバレ禁止ッ!
次回も楽しみですね