薔薇王の葬列を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月10日
故郷ヨークでの戴冠式に、黒衣の宰相は姿を見せない。
水面下でうごめく内乱の予感を、知らぬまま踊る宮廷。
戦火を引き合いに、玉座の重荷から愛する人を救い出そうとする策略は、いつしかバッキンガムの手を離れ、激しく燃える。
最早我らに、戻るべき場所なし。
そんな感じの地獄の滑り台修羅場行き、ノンストップで”終わり”に向かって突き進む、薔薇王の葬列第22話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月10日
塔の王子達は死に、アンに死相が出て、譲歩を引き出すための内乱の予感は燎原の火のように、バッキンガムのコントロールを離れて燃え盛る。
マジでロクでもないことしか起きないが…
まだまだ全てが終わっていく物語の、序奏にすぎない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月10日
御存知の通り”リチャード三世”はその死によって終わるわけだが、アニメの範囲だとそこまで描くのか、読みきれなくなってきた。
”ジュリアス・シーザー”のブルータスめいて、しかし主に刃を届け得ないバッキンガムの愛と死。
そこがアニメ版のピークになんのかな…という感じの、時間の使い方である。来週何処まで行くか次第かな?
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月10日
さておき、リチャード三世の栄光は故郷での戴冠式を迎え、正に絶頂。
不穏な噂も流れるが、それも根も葉もない謀略…とは、とても言えない。
ここにたどり着くまで、流れた血と嘘の量は多い。
それでもなお掴むべきと、父王の亡霊にそそのかされながら突き進んだ道は、リチャードに裏切りを許さない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月10日
愛なく紡がれた結婚、血の繋がらない息子。
その存在は地上の軛として、リチャードが全てを捨てる道を塞いでいく。
ここに王を指示する無辜なる群衆、背負うべき国土の重さが加わる。
知性の責務に背を向けたヘンリー六世も、放蕩に溺れたエドワード四世も、まともに見据えなかったからこそ、リチャードが王位を簒奪するしか無かった、正しき王のあり方。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月10日
リチャードは”ヨークの男”として、父の後継として、何よりリチャード自身として、それを真っ直ぐ見据えてしまう。
この責任感が私人として愛に走ることを妨げ、不幸を大きくもしていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月10日
統治の機械になりきれず、愛と幸福を求める当たり前の気持ちを殺しきれない矛盾は、バッキンガムに抱かれたことでより強くなった。
それは黒衣の宰相も同じで、国家を揺るがす内乱は、とても個人的な思いで燃える。
これを利して玉座を奪わんとするのがリッチモンドであり、毒入りお菓子で塔の皇子たちを弑し、義父を前に立てて内乱を既成事実化していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月10日
リチャード三世の甥殺しは彼の所業の中でも悪名高く、また歴史の霧に隠れて真実が見えない部分でもあるが、この物語がこういう形で語ってきたのは面白かった。
散々クソガキっぷりを見せていた王子たちが、最後に兄弟相喰む地獄を越え、穏やかな幸福を目指したのが、また悲しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月10日
治世を揺るがす爆弾と知りつつ、その処遇を迷っていたリチャードの甘さをすり抜ける形で、差し出された毒入りお菓子。
子供を殺すのは、あくまで子供の好物である。
バッキンガムとリチャードにとって、内乱の脅しは愛のスパイス、お互いの本気が何処にあるかを探るための幻の火である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月10日
しかし王と宰相という立場が絡めば、それは実際の炎となり、国土と運命を焼く。
リッチモンドは王子たちを殺すことで、のっぴきならない場所へと二人を追い込んでいく。
そうして全てが焼き払われた荒野にこそ、チューダー200年の栄光がそびえ立つ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月10日
孫を殺され激しく嘆くエリザベスは、同じ”母”に囁かれ、狂気を孕んで立ち上がる。
女の胎を使って繋がっていく、血脈と家系という蛇。
健気なベス…後の国母・エリザベス・オブ・ヨークの青ざめた顔は、それに怯えた故か。
”家”を背負うものの、責務としてのセックス。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月10日
真実の愛を求め、国を乱し人を殺したセックス。
玉座の重責から染み出す憂さを晴らし、やはりその身を蝕むセックス。
婚礼とその先にあるものを描く筆は、この作品では基本呪われている。
性交、マージでロクでもない。
あるいはあの白薔薇の泉で紡がれた愛だけは本物なのかもしれないが、王たる重責をヨークで噛み締め直し、内乱の火種を制御しきれない二人にとって、それは真実でありながらけして暴かれてはいけない、最大の醜聞となった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月10日
立場と重責が、否応なく恋人たちを戦場にいざない、互いに刃を向けさせる。
この果てが何処に行き着くかを知っていると、牽制として”内乱”のカードを切ったバッキンガムの浅はかさを呪いたくもなるが、迷えるリチャードに比べ、黒衣の宰相は己の決断が行き着く先を、見据えた上で火を放った感もある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月10日
玉座を求め、数多の罪に手を汚した。
真実の愛に出会い、それに全てを捧げた
無垢なる白と血の赤が混ざり合う、薔薇たちの戦場。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月10日
複雑に絡み合った茨を開放するには、もうどちらかが死ぬしかないという決断…あるいは諦観が、バッキンガムからは濃く臭う。
ある意味この叛乱、その本来の意味においての心中…心の証を血で立てる行為なのだろう。
何もかもを捨て自由になれる森への道は、自分たちが用意した叛乱の重み、玉座の重み、群衆と家族の重みで潰れた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月10日
二人が求めた王冠は、そんなちっぽけな幸福をけして許しはしないし、彼ら自身そういうモノをすりつぶしながら、この血の路の果てまでたどり着いたのだ。
同じように地上の栄光を捨てた楽園へ続いていた道を、その身体を悪魔と罵られ閉ざされた、もう一人のヘンリーとの過去。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月10日
ティレルの出現により、それが終わっていないことを思い知らされながら、リチャードは幾度目か運命に流されていく。
殺しも愛も、つくづく長く長く尾を引く。
バッキンガムはリチャードの身体を否定せず、むしろ強欲に貪ることで肯定したわけだが、それもまたこんな結末に流れ着くあたり、徹底的に出口のない話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月10日
愛も血も、権勢も純朴も万能の答えにはなり得ない世界で、リチャードは全てに裏切られ、自分自身をも裏切っていく。
この叛乱も、偽物ながら愛おしい家族に忍び寄る死の影も、そんな旅路の一幕にすぎない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月10日
地獄はまだまだ続くのだ。
それをどう語り切り、容赦なく与えて奪うか。
これまでの物語が既に証明している巧みさで、バッキンガム公との会戦は描かれるだろう。
その死が、鮮明に描くものはなにか。
父、兄、仇であり魂の半分だった羊飼い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月10日
リチャードに親しい人が死ぬ時は、その血がインクとなって、世界でいちばん大事なものと、それが簡単に失われる残酷を描いてきた。
バッキンガムの血も、”リチャード三世”という喪失のタピストリーに、切ない一筆を足すだろう。
次回が楽しみである。
追記 最早戻り得ない楽園を、それでも求めた結果生まれた策謀と虐殺の中で、聖なる殺戮者はどれだけ無辜であり、どれだけ罪深いのか…というのが、作品のセントラルクエスチョンな感じはある。
追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月10日
喪失と回復という視線から見ると、ヨークでの戴冠は父を取り戻す行為であり、父王が成し遂げなかった”リチャードの玉座”へと、代理で成り変わることだ。
しかしそんな事をしても父は蘇らないし、父の死で壊れたリチャードの心も、そこから生まれた悪行も元には戻らない。
失ったものを贖えたような感覚があったとしてもそれは錯覚で、弱く何も出来ないガキだった時代への復讐として求めた玉座は、制御不能な重荷として、王と宰相を振り回す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月10日
喪失は、けして回復できない。
しかしそれを求めて、人は荒野を彷徨う。
そういう話としてこの話を読むと、ちとミルトン以降の味
追記の補機
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年6月10日
”ミルトン以降の味”と書いたのは、失楽園を書いたあと楽園の回復を書かざるを得なかったミルトンが、贖い主によって取り戻されたと信じるものを、このお話は結構シニカルにさかしまに見てんじゃないかな、という思いつきによる。
失楽園https://t.co/VPclj2PchN
”楽園の回復”は現在絶版か