イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

SPY×FAMILY:第16話『ヨル's キッチン/情報屋の恋愛大作戦』感想

 ボンドという新たな家族を加え、大きな物語に一段落がついた所で、小気味いい掌編二つをまとめてお届けな、SPY×FAMILY第16話。
 世界平和のために己を捧げるデカいお話と、一市民としての小さな幸せが同時進行する気持ちよさが特徴の作品だが、今回は後者の方を触るエピソードと言える。
 なにしろアーニャのキャラが強いので、日常コメディはイートン校で展開しがちだけども、今回はそこからちょっと外れた”はは”と”ちち”、それぞれの日常を描く感じに。
 こういう形で、スパイと殺し屋が身を置く日々の手触りと広がりを受け取れるのは、なかなかいい感じだ。

 

 

画像は”SPY×FAMILY”第16話より引用

 第1エピソードは”はは”が偽りの日常を維持するべく、ツンツンな同僚の懐に入り込み料理修行に奮戦する展開。
 冒頭のアモラル・サスペンス風味な演出が、まさかの不貞を一瞬匂わせつつ、しょーもなくも可愛らしい挑戦で上手く変拍子を入れてくる。
 初登場時は印象最悪だったカーミラさんだが、今回は悪態付きつつ面倒見が良い部分が前に立って、愛情を素直に言葉にするダーリンの温かみもあり、グッと印象が良くなる。
 奇妙にズレつつも確かに噛み合う二人のリズムを、スタイリッシュな画面分割で見せる演出とか、CloverWorks担当回らしい気持ちいいヒネり方だ。

 この令和にデス料理ネタってのもなかなか懐かしいが、こういうベタな素材を精妙に料理し切るのが強みのお話でもあり、10分強丁寧に使い切って楽しく、”はは”の小さな奮戦を描いてくれた。
 ボンドのお話がどっしり長尺で取り回したが、今回はサクサクスピーディにフォージャー家の日常をスケッチしていくテンポも小気味よかった。
 ユーリの姉キチっぷりが良いスパイスとなり、家族皆殺しなオチもスパっとハマって、軽妙ながら食い足りない感じのない、良いヨルさん回だったと思う。
 こういうサラッとした味付けでキャラの魅力を積んでいくのも、このアニメ得意だからなぁ……。

 

 

 

画像は”SPY×FAMILY”第16話より引用

 第2エピソードはお調子者の情報屋と、スーパースパイの密かな友情を描く、これまた小気味いい喉越しのお話。
 フランキーのようなキャラをやらせると、やはり吉野裕行は天下一品で、ただの道化ではない密かな陰りやペーソスなんかも上手く匂わせて、大変魅力的に見せてくれた。
 作画が良いので、ピアスや靴下、ズボンの丈など細かい所に拘ってる、フランキーのおしゃれ番長っぷりが良く見えるのがナイス。
 お陰で不思議な色気が画面に宿って、第1エピよりも遥かに不倫っぽい匂い漂っていたのは、大変素晴らしい。

 フランキーのキャラに合わせて、お話はあくまで失敗前提のラブ・コメディとして転がっていくが、そのために数千パターンの会話を考え抜き暗記する”黄昏”の怪物的実力とか、『調べ上げるところまでが仕事』なフランキーがどんだけ慧眼かも見えてくる。
 こういうコンパクトでシリアスではないお話の中で、キャラの何が得意で、どんな繋がりを持ってるかが見えてくるのは、お話を編む地力が強いなー、と思う。
 こういう何気ない超人描写が、大きな無理を通す時に生きてくる……って計算と構造だと思うよ、この話。

 失恋をおどけて受け流そうとする、腐れ縁の親友を思って、高い酒を奢るロイドさん。
 家族とは嘘で繋がるしかない<黄昏>が、色んな因縁込みで”素”を一番見せれてるのはもしかしたら、このおどけた情報屋かもなぁ……と思わされる、滋味のある展開だった。
 出過ぎず消えずいつでも楽しく、要所要所を締めつつも重くならない。
 名脇役がいてくれるから、フォージャー家の楽しい日々が成立してるのだなぁと、噛み締めれるような仕上がりだった。
 こういう渋い味わい、あくまで家族劇である本筋ではなかなか染み出してこないので、良い角度からお話に奥行きを与える妙手だなー、と感じる。

 というわけで”FAMILY”から少し離れて、”ちち”と”はは”が身を置く世界がどんな色合いなのか、小気味よく作品世界の横道を散歩するお話でした。
 時間的にも語り口的にもポップでライトなんだけども、しっかり噛みごたえと旨味がある書き口でまとめてて、とてもこのアニメらしいなぁ、と感じました。
 大変良かったです。
 次回は今回あんま目立たなかった、アーニャ軸のお話。楽しみですね。