ヴィンランド・サガ SEASON2を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
侮蔑に煽られ燃え盛る怒りは、一線を越え命を奪う。
”ヴァイキング”の時代にはよく在る、男を立てるための殺人。
その刃を仕立てた謀略が、望むまま全てを飲み込むのか。
王の目指す楽土への道は、血と涙で舗装されている。
そんな感じのさらばコメディ、さらば手応え満載開墾暮らし! ケティル農園の終わりが始まった感マシマシの第1クール最終話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
”蛇”たちの宿営地ではすんでのところで回避した、殺人という通過儀礼。
前回ケティルとレイフが間に入り、回避された暴力的交渉。
剣を介したコミュニケーションがどういう結果をもたらし、その野蛮を細やかに編み上げ王権の足場に使う者たちの、陰湿な表情が良く見える回である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
トールギルの卓越した個人的武勇、待ち望んでいた”男”になったオルマルの重苦しい表情と、後に犠牲になるだろう者たちの顔も、彫りが深い。
侮蔑には、血を以て購う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
トールギルが修羅の表情でぶん回す”ヴァイキング”の常識は、優しいがゆえに苛烈なクヌートの治世においては崩れかけており、決闘は既に違法である。
それを誰も護らぬ現状を侮蔑しつつ冷静に見据え、時代を変えるには何が必要か、クヌートは静かに見据えている。
デンマーク=イングランド両王国を成立させ、絶対的な力を手に入れて地上の楽土を築く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
そのためには金が要り、戦士の腹を満たすための直轄地は、実力で接収するしかない。
侮蔑を跳ね返す輝かしい勝利は、その実国家に仕組まれた陰謀…そのオマケでしかない。
一人間として無双の力を誇るトールギルは、全てを焼き尽くすだろう国家との対峙に滾る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
しかし”あの”クヌートが理想実現の道具と選んだ暴力装置は、古きヴァイキングの孤独な強さを、簡単に噛み砕けるほど強靭であろう。
既に陰謀は発火してしまった。
豊かな農場は、王の夢の礎に選ばれてしまった。
帰りえぬ道の果て、レイフおじさんの船に載せられて流れ着く故郷には、もう穏やかな日々は待っていないだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
小作人達の陰湿、”蛇”たちがひさぐ死が子供の遊びに思えるような、よく統制され鍛え上げられた暴力が、三日後に襲い来る。
小さな血風が嵐となって、何もかもをなぎ倒すのはすぐだ。
その農場で非暴力の誓いを立て、エイナルと共に汗を流し生きる意味を学んできたトルフィンは、再び押し寄せる戦場のリアルに何を思い、何を選ぶか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
ゆったりと進んできた前半戦、描いたものを燃やして生まれる物語に、期待と恐怖が湧き上がるエピソードだった。
ぜってーロクでもねぇ…。
オルマルの無様は家庭レベルで収まっていればよく在る失敗、ファミリーコメディの一幕だったろうが、ケティルの富はそれを許さない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
状況を発火させるべく、王の側近はフードに悪意を隠し、侮蔑を煽る。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第12話より引用) pic.twitter.com/vudQLS0g0X
人間が社会的動物であるからこそ、そこに触れば魂が殺され、あるいは命の取り合いにもなる体面、名誉。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
臆せぬ戦士であることを”男”の証として求められる世界で、父は他人のそれを簒奪することで今の地位を築き、息子はその不在に焦り剣を握った。
そんなモノに生きるの死ぬの、バカみたいだ。
そういう冷えた意見がなんの意味もないことを、嘲笑う大口、屈辱に震える少年の表情が語っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
オルマルの必死さと無様は、ある意味トルフィンの歪んだ鏡という感じもある。
殺しでしか立ち位置が定まらない場所に、復讐に燃える自分を突き立てられるほどに、”才能”があった主人公。
殺せたからこそ擦り切れて、今必死に生き直しているトルフィンと、殺せないからこそ泣きじゃくるオルマルの、どちらが哀れな子どもなのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
それを測る天秤はなく、誰もが個別の地獄を抱えているのだと、オルマルの顔面は良く語る。
やっぱ顔面作画が良いよな~ヴィンサガアニメは。
殺しの才能に溢れた兄は、泣きじゃくる弟を強引に自分の立ち位置まで引っ張り上げ、戦意を回復させる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
殺しに慣れている顔。
気合が砕かれた側から死んでいく現場に、首まで浸かっている戦士だからこそ、その声は戦意を奮いたてる。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第12話より引用) pic.twitter.com/4kJqMBEWQH
とはいえ相手も王の従者、死を高値でひさぐ存在だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
気合だけではどうにかならない勝敗を、ひっくり返す羅漢銭。
兄の手助けと国家の書いた脚本に従い、オルマルは”男”になっていく。
何かを自力で成し遂げ、一人の大人なのだと社会に認めてもらう、自己実現の快楽。
それが農場接収の薪になっていくのが、なんとも哀れで寂しく、同時に『そんなもんだよな…』という納得がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
一人間の事情を斟酌してくれる、神の愛に満ち溢れた世界であったなら、トルフィンも殺戮なんぞしてないし、クヌートも呪いにまみれながら、統治の機械を己に任じてはいない。
人間の思いや哀しさを残酷に飲み込んで、世界は軋みながら転がっていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
オルマルの殺人/自己実現は大きな絵図にまくりこまれて、より多くの殺人/楽土成就の火種となっていく。
そこでは少年個人の心の傷とか、実際人間ぶった切ってどうだったとか、ヌルい事情は顧みられない。
”ヴァイキング”に相応しい知恵者でもあるトールギルは、弟の勝利が誰かに仕組まれたものであることを見抜く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
自分を雇用し庇護するはずの国家が、牙を剥き故郷を焼く現状に、むしろ獣のように笑う。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第12話より引用) pic.twitter.com/Lvbkv6pCNz
トールギルが披露した血なまぐさい無双に、興奮するべき局面なのかもしれないが、返り血に汚れたオルマルの表情と、ここまで描かれたクヌートの冷徹が、その滾りを冷ます。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
蛮夫一人、圧倒的な力を誇った所で、既に国は軍を集め税制を敷き、北海を渡ってイングランドにまで広く伸びている。
一人殺せば次の十人、十人殺せば次の百人。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
トールギルの刃が折れるまで、個人レベルの暴力をすり潰すだけの”数”を動員して、クヌートは農場を奪うだろう。
勝ち目のない闘いとトールギルも解りつつ、だからこそ嗤う。
命のやり取りを、肺の奥まで既に吸い込み、自然と受け入れられる存在。
”ヴァイキング”においては勇者であり、現代人の視点からは殺人狂の破綻者。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
あれだけ焦がれた血の証を、身内と国家にお膳立てされて果たして、呆然と震えるオルマルの方が『人間らしい』と感じるのは、人権と倫理に汚されすぎているか。
形と苛烈さを変えて、オルマルを此処に追い込んだものは今もある
酒量で、非直接的な暴力で、奪われるのではなく奪う側なのだと己を証明して、集団に認められるだけの証を立てる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
古臭いマチズモ…あるいはもっと原始的な、動物生命としての最適解は、”ヴァイキング”の時代を千年前に通り過ぎてなお、人間とその社会に色濃く残響している。
これほど過激で残酷な形ではなくとも、己が何者かであると叫ぶ少年の思いも、それを荒くれた形に追い込んでいく圧力も、身近な手触りで私の隣りにある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
そう思える生々しさと、『いや~、やっぱ未開時代は違うなッ!』と思える異質さが、同居している殺戮だろう。
この近さと遠さは、歴史モノの醍醐味
オルマルが家族郎党巻き込んで燃やした、”男”であることの重圧。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
それは”鉄拳”の名声を窃盗することで、今の繁栄を気づいたケティルにも同じだ。
社会的成功の足場に、苛烈な暴力を求めるノルド社会に適応できないのに、立派な”男”のフリをするしかない哀れさは、女奴隷以外に開かせない。
自分が弱い、死すべき存在である事実を認め、そこから率直に進み出すのは、いつでも一番難しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
そういう普遍的な難問を、一番ハードコアな状況で問いただす物語が、これから発火していくんだろうなぁ…。
トルフィンがイングランドで同じく厳しく問われ、答えられぬまま流れ着いた、あの場所で。
三日後の出陣を冷酷に告げるクヌートにも、返り血の熱さと冷たさに震えるオルマルにも、日々の暮らしに汗を流すトルフィンにも、同じ夕日が沈みゆく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
全ては楽土のために、失われた愛のために。
嘯く王の眼前で、光は闇に飲まれていく。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第12話より引用) pic.twitter.com/jwJWgCVCRa
大いなる目的のための、血塗られた手段。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
ケティル農園を焼き払うことは、一族にとっては全ての終わりであっても、クヌートには理想のための第一歩、つまらない途中経過でしかない。
オルマルがあれだけ強く震えている返り血を、繭一つ動かさず飲み干す器量だけが、果たせぬ夢を形にする。
この遠大な視点は、声も名前もない死者への所業をどう贖うべきか、悩みながら泥にまみれているトルフィンと、面白い対照を成す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
ちっぽけで、しかし一つ一つ何より大切に思える命を、既に奪ってしまっている己。
それでも生きてしまっている自分を、どこに投げ出しどう進んでいくのか。
オルマルの刃が開いた戦端、それが連れてくる王の軍勢は、悩める奴隷に苛烈な問を投げるだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
クヌートが失われた愛のために奪う命は、果たして夢の必要経費か。
それを否定して、では人間の命一つ一つを大事にして成し遂げられる夢とは、どんな形をしているのか。
なかなか答えの出ない難題を遠くに見据えつつ、今は船が故郷に流れていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月2日
進軍まで、後三日。
ケティル農園最後の日常を描く筆は、このアニメらしくとても美しいのだろうなと、震えて次回を待つ。
…長いプロローグだったが、だからこそ描けるものが絶対あるよなー。楽しみだ。