となりの妖怪さん 第12話を見る。
天が裂け鬼が湧く、この世全部がひっくり返る大霊障。
人ならざるものと隣り合う社会を描いてきた多彩な物語、最後を飾るのはディザスターパニックだッ! っ感じのエピソードである。
起こってる事態のあまりのヤバさに、一瞬フィクションの世界だと思い込みかけるたくみくんの反応とか、田舎町から新幹線の車内まで、日本中あらゆる場所に鬼が湧き出す規模のデカさとか、大災害感がこのアニメらしい地道な手応えで湧き出してて、大変良かった。
いやまぁ作中に起こっていることとしては、この後の大変化含めてかなり最悪なんだけども、この世界に起こり得る事象として納得がいった感じ。
ほわほわ妖怪スローライフだけを描くと思わせて、人間が当たり前に背負う人生の重さとか、触れ合い擦れ合う人間関係の痛みとか、過去の過ちとそれを正していく強さとか、寿命差と種族差が生み出す悲しみと喜びとか、とにかくまぁ色んなことを描いてきたこのアニメ。
”優しい世界”ではけしてない、ゴリッと硬い当たり前な人生の手応えがあったればこそ、そらー世界がひっくり返るような大災害と、そこでも必死こいて人命と日常を守ろうとする人たちの奮闘が、改めて描かれていく。
街でも田舎でも、天狗がバンバン結界張って安全守ってるのが、身近なカミに確かに守られてる世界の風景で良かった。
土壇場にこそ人間の芯が試されるってわけで、ここまで出てきた人の殆どが大災害を前にそれぞれの戦いを必死にやっていて、逞しくて良かった。
大事な思い出を詰め込んだ携帯電話を囮にしてでも、『生きる』という約束を果たすべく抗う和彦さんとか、鬼が迫ってくる状況で異能のないのに真っ先、座席一個で立ち向かう平くんとか、当たり前の人間の当たり前の強さが沢山書かれたの、このアニメのクライマックスらしくて良かったな。
迷ったり悩んだり、けして平坦な道を進んできたわけじゃないからこそ、この土壇場で根性絞り出して未来を掴もうとする姿は、今まで書いてきた物語に嘘がなかった。
主役ポジションを担当してきたむーちゃん、ぶちおくん、ジローもそれぞれの決断を果たし、マジ降って湧いた災厄を前に真の自分を掴んでいたのが、幕引きに相応しい描写だったと思う。
幼くも逞しい芯を見せていたむーちゃんは、『守る』という願いを追儺の豆に乗せて力強く戦ってたし、あんなに化け術下手だったぶちおくんはたくみくんに手を届かせるためにあるべき自分の姿を捕まえたし、ジローも太善坊様に背中を押され、なすべき責務ではなく己の意思にひたむきに、進むべき場所へと進んだ。
涙あり笑いあり、人間も妖怪も垣根なく色んなことに迷って答えを探してきたお話が、最後に用意した試練を皆、ちゃんと越えていく。
そんな大霊障は霊界…ともまたちょっと違う、無念だけが集う虚無の空間から思い出が染み出してきて、人に害をなす感じで展開していく。
鬼たちが人間を見つけるのが、もしかしたら自分の名を呼んで在り方を固定してくれるかもしれない”声”だよりなのが、迷いでた亡者の悲しさがおぞましい姿に滲んで、不思議な風情があった。
何にもない空っぽに飲み込まれても、自分が誰かを決めてくれる誰かの声を、ヒトは求めてしまう。
だからこそ、眼の前の誰かの輪郭を定める声はヒトが生きていくうえで不可欠だし、帰るべき場所へ戻るための道標になる。
虹ちゃんが水底に迷った時、りょうくんの声が果たした仕事の続き…って感じだなぁ。
どうしてもマーさんを”お父さん”とは呼べなかった杉本家の人達が、亡者ゆえの共鳴か鬼の前にフラフラ進みだした時…あるいはむーちゃんの言霊によって生前の形を取り戻した時、やり場のない自分の気持ちに輪郭を与えて、目の前にいる存在がやはり父なのだと、心に決めて踏み出す姿もまた、名付けの意味を新たに削り出す。
言葉が力を持ち、思いが形をなす、不思議でありながら僕らの世界によく似た、カミの在る世界。
とんでもない災厄が襲いかかり、尋常ではない覚悟が試される土壇場だからこそ、作品世界がどう成り立っていて、何が大事だったのか最後の最後確かめられるよう、最後に置きなイベントを用意したのは偉いと思う。
境界線崩壊により世界のルールが書き換わり、カミを隣人とする言霊の力が薄れてしまえば、ここまで当たり前に描かれていた妖怪や妖精、亡者や鬼の在る世界は、嘘のように消えてしまう。
実際そういう世界が間近にあることを、百合さんのタイムリープで事前に書いてもいたわけだが、僕らの世界にそっくりなあそこは…超常的な危険も”現実的”な手触りに隠されて全然ないんだろうけど、このアニメが描いてくれた世界ほどワクワクしない場所だった。
長年使った車が新たに家族として生まれ直し、天狗がが人里を守護してくれる、不思議な世界。
そこで社会制度整え術を使い、人と触れ合い語り合って、色んな辛さを乗り越えてきたお話。
そこは色んな人が当たり前に隣り合って、簡単に色んなモノを壊せる強さに怪物たちが枷を嵌めていて、皆の思いで頑張って成り立ってる場所だった。
その不可思議な豊かさが、天が裂けた程度で消えてなくなってしまうのは、あんまりにも寂しい。
つーかクラスの半分くらい異形だった様子を、いつしか僕も当たり前に受け止めていたわけで、それが全部消えちゃうのって前代未聞の大殺戮だろッ!
そんな面白くもねー決着で、色んな波風が当たり前にある人生を、それでも必死こいて皆で生きていく様子を書いてきたお話が終わっちまうのは、俺ァ納得いかないよ!
なんかこー…全部ひっくり返す奇跡の大逆転、マジたのんます!
猫又になったら役所に届けが必要だったり、長い時を生きる天狗にも乗り越えられない悲しみがあったり。
理不尽な超常に家族を奪われてなお、小学三年生の魂は逞しく気高かったり。
人の形をしてないけど、ヒトとして生きる難しさと楽しさをその物語に示してくれた、愉快な隣人。
皆消えてしまう危機を、果たしてこの世界の住人たちは乗り越えられるのか。
このお話が人生を見つめるシビアな視線を、これまでひしひし感じているだけに、安楽なハッピーエンドを確信できないのが、なかなかニクいところではありますが。
しかしその安心しきれなさは、作品が人生をちゃんと描いてきた証。
俺はね、『まーこんなもんでしょうよ』とヘラヘラナメたこと言ってらんない、自分たちが作っているお話に真摯だからこそ先が読み切れないお話が、本当に好きなんです……。
次回最終回、とても楽しみです!