イマワノキワ

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鬼滅の刃 柱稽古編:第7話『岩柱・悲鳴嶼行冥』感想ツイートまとめ

 鬼滅の刃 柱稽古編 第7話を見る。

 長かった修行編も遂にラスト!
 めっちゃ長尺でただただ雰囲気満点、鬼舞辻無惨が産屋敷邸を練り歩くための一時間スペシャル…岩柱の悲しき過去もマシマシでお送りします! という回だった。
 UFOらしい尺の使い方っちゃーそうなんだが、最終決戦前に無惨のラスボスオーラをバチ上げる仕事はたっぷりしてる練り歩きで、結構良かったと思う。
 まぁこの直後にどうなるかを考えると、ある種の”前フリ”でもあるんだが……そこら辺は次回、最終決戦前のラストエピソードをどう描くか次第ではあろう。
 ホント変な漫画の変なラスボスだよなぁ、鬼舞辻無惨…。

 

 さて話の方は岩柱修行を人間重機・竈門炭治郎が無事乗り越え、剣士としての奮戦を通じて既に彼を認めてくれていた岩柱と話し、ギャーギャー文句ばっか言ってた善逸のマジ顔を見届けるまで…って感じ。
 他の柱はひと悶着あったうえで炭治郎と死地をともにし、心を開いて距離を縮める過程があったけども、悲鳴嶼さんはそこら辺物わかりよく評判を聞き届け、行いを見て己を改め竈門兄妹を認めるという、結構なレアケースである。
 チョロいといえばチョロいけど、確かにそうさせるだけの血戦を炭治郎はくぐり抜け、直面しての人間試験にも驕らず謙虚に向き合ったわけで、両方の人間力が際立つ良い決着だったと思う。

 

 悲鳴嶼さんは血を啜る鬼を身内可愛さに庇い、他人の生き血を与えて養う餓鬼外道と、初対面の炭治郎を見ていた。
 それは血まみれで庇った子どもに裏切られ、獄に繋がれた悲しみ故に”子ども”という存在を悪しきものと見てしまう彼の迷妄(と切り捨てるのも、あまりに重たい業であるが)が響いている。
 しかし炭治郎という『善き子ども』が血戦を通じてあり方を示した結果、『ガキはまじロクでもない。殺したほうが良い』という頑なな思い込みが壊され、彼を縛ってきた過去が解き放たれた。
 だから戦いの中己を新たに示さなくても、悲鳴嶼さんは見誤っていた己を謝罪し、炭治郎に新たに向き合うことにする。

 僧侶である彼にとって、人の弱さが如実に出た過去の悲劇と、それをどうしても許せぬ己の不寛容は、なかなかに苦しいことだと思う。
 真実生き菩薩として全てを許せる所まで修行がなっているのなら、己を庇ってくれなかった沙代の弱さ、醜さ(と思えたもの)も全て飲み込んで、業の全てを乗り越えていけただろう。
 しかし彼も当たり前の人として、殺傷の禁忌を破り修羅に落ちた報いを求めた。
 降って湧いた理不尽に抗い、たった一人救ったものに、自分も救って欲しかった。
 それさえあれば、彼は望んだまま弱き者に優しいヒーローでいれたし、鬼の襲来がなければ、そう在れたのだと思う。

 

 

画像は”鬼滅の刃 柱稽古編”第7話より引用

 鬼殺しを宿命とする鬼殺隊にあって、その最強を誇る岩柱は最初の鬼滅を『生き物を殴る感覚は耐え難く、とても辛かった』と思い返す。
 己の中に無双の修羅がいることを知らなかった優しい男は、望むならば自分が優しい菩薩なのだと思ったまま生きていきたかったろうけど、目の前に迫る悪鬼から幼子をせめて一人守るために、決死の覚悟で無双力を引っ張り出した。
 しかしその”正義”は、経文を唱える修行の回数を数える道具であり、仏門に帰依した証でもある数珠を引きちぎる。
 許されざる悪鬼とはいえ命は命、殺生は殺生である。
 戒は破られたのだ。

 視覚にハンディがある彼が見えない場所に、この戦いの真実があることは、今後アニメでも描かれるだろう。
 最強になって鬼を沢山殺し、なお血みどろの修羅界から抜け出せない彼は未だ修行の途中であり、どれだけ鬼の所業がおぞましかろうが、その剛腕が沢山の命を救おうが、乗り越えられない迷いの中にいる。
 その端緒となった最初の戦いは、爽快感の欠片もない悲壮と残虐に黒く赤く塗られていて、大変に重たい。
 ここの筆致は、彼にとって”戦い”とはどんなものなのか、大変雄弁に語っていて良かった。
 最強であることなど、悲鳴嶼さんには大した価値がない…というかおぞましい勲章なんだと思う。

 強ければ守れるもの、強くなければ守れないものが確かにあると思い知りつつ、彼の意識は変わらず戦士よりも僧侶のそれであるように思う。
 そういう人間が、かつて人生を賭けて守ろうとした子どもを『救われぬ存在、死んだほうが良い』と思ってしまうことは、全身に刻まれた戦傷よりも深く響く、苦しい苦しい業なのだ。
 そこから解き放たれる時を待ちつつも、血みどろの戦いの中でけして抜け出せなかった、とうてい許せぬ子ども達の弱さと、それを許せぬ己の弱さ。

 

 ここから抜け出す蜘蛛の糸を、竈門炭治郎という『善き子ども』は知らぬうち、激戦の中から悲鳴嶼さんに投げかけていた。
 『全ての子どもは救われない』という命題は、『竈門炭治郎という、弱さからも業からも解き放たれた特別な存在が、確かにいる』という事実によって否定される。
 暗く重たい無明に封じられていた悲鳴嶼さんの心は、幾度も魂の強さを試され逃げず、己の強さに驕らず、他人の痛みを引き受け続けた炭治郎の生き様によって、燈明に照らされたのだ。
 ここに優しい菩薩であることをずっと望みつつも、怒れる修羅としてしか己を規定できなかった男の、確かな変化があるのだと思う。
 巌の如くその心身に突き刺さった、あまりにも辛すぎる過去。
 その岩盤を穿つ一擲と直面して、悲鳴嶼さんは泣きながら合掌する。

 猫が可愛ければ泣き、親子が睦まじければ泣く最強の泣き虫である悲鳴嶼さんは、まぁ何に出会っても泣くのだけども。
 合わせた両手の間に、打ち砕かれたはずの数珠が新たに挟み込まれている様子は、自分を救ってくれなかった子どもへの憤怒を、ようやく緩めることが出来た悲鳴嶼さんの実相を、静かに的確に表現していた。
 人がより善く生きる道に寄り添い、己自身も勤行を通じてそこを歩く僧侶の生き方から、否応なくはみ出しかけて剣士となった悲鳴嶼さんは、炭治郎という存在によって己の本道に戻り、子どもの可能性を信じ改めて命をかけて守る自分を、取り戻す…一歩目に立てた。
 それはまぁ、大の男が泣くことだと思う。

 

 愛したものを信じられず、守るべきものに先立たれ、裏切りに苦しむ弱さに苛まれ、慈悲なき修羅場を生きる。
 悲鳴嶼さんを地獄に叩き込んだ、藤の香を止めて鬼を呼び込んだ餓鬼。
 これが善逸のマジ顔と深く重なっているから、一話で一気にやったのは良かったと思う。
 善逸はマージ臆病でお調子者で、とても褒められたもんじゃない浅ましい輩なんだけども、だからこそ流れる血も厭わず友に顔も向けず、岩の上身じろぎもせず腹を決めている姿がキマる。
 果たして炭治郎の差し伸べた手を取れぬほど、彼が思い詰めている理由は何なのか。
 全てが炸裂する最終決戦で、獪岳との決戦をどう描くかは今から楽しみだ。

 己の中に眠っていた明王の資質を、むしろ呪っている感じすらある悲鳴嶼さんと、裏切りの果てに更に裏切りを重ねる獪岳の人生を並べると、”強い”ということの虚しさを、このお話が結構ちゃんと見ていることも解ってくる。
 他人を蹴落としただ生きる。
 盲目非力の身の上で鬼に立ち向かい、命一つを守りきった悲鳴嶼さんの生き様は、獣の浅ましさを遠ざけ人間の証明を打ち立てる偉業だ。
 しかしその激しい優しさは報われず、彼は未だ無明の中にいる。
 しかし世を恨まず心に灯る光をしっかり見据えて、自分を縛る思い込みを時に解きほぐして、年少の相手にしっかり詫びれる生き方を、心身に刻まれた地獄を越えて続けている。

 俺は、このままの俺で良いのか。
 問い続ければこそ悲鳴嶼さんは炭治郎の行いをしっかり見据えて、自分の中に深く根を下ろした餓鬼道を跳ね除け、新たな救いを手に入れることもできた。
 翻ってあらゆるものから逃げ出したあの餓鬼が、誰を守るでもない虚ろな強さを手に入れて、果たしてどこへ行けたのか。
 鬼全てに共通することだが、内省し己を改める新生の気運というものが、つくづく奴らにはない。
 ここら辺、禰豆子が『鬼は日光で死ぬ』という決まりを書き換えて、新たな可能性を世界に示したのと、面白い対比だよなぁ。
 世界を覆う無明を、どうしたら晴らしていけるのか。
 そういう事をずっと書いてる話だと思う。

 

 まー同時に痛快娯楽国民的エンタメでもあって、せっかく増えた尺で水柱と風柱の奥義を、本気の稽古に大盤振る舞いもするんだけどねッ!
 あそこの良い作画、UFOに『どうだーお前ら! こういうの好きだろーッ!』って殴られてるみたいで気持ちよかった。
 ハイ好きです(快楽原則に素直ボーイ)

 アニオリで描写が太くなった分、血管バチ切れ激ヤバ人間にしか見えない実弥さんは親しみやすくなってて、おはぎ大好き萌えキャラムーブもしっくり来てた。
 怖い顔してるけど悪い人じゃないんですッ!
 ちょっと一家惨殺の地獄絵図に投げ込まれて、鬼になって母親ぶっ殺し弟に全拒絶食らっただけなんです!
 本当にかわいそう…。

 水柱は事前にデレさせておいたんで、炭治郎の柱攻略稽古もまー一段落…ってところで、本拠地を突き止めたラスボスがオーラビリビリ出しながら超絶の練り歩き、ヤバすぎる状況で次回に続く!
 ほんっと無惨様一世一代のラスボス歩き、鬼滅アニメらしい”力み”を堪能できて、いいシーンだった。
 どう考えてもそこまでやんなくてもいいんだけど、作画の力こぶパンッパンに膨らませて全力でスイングしてくるの、なんだかんだ俺嫌いじゃないね。

 

 アニオリで本拠探ってる描写が増えた結果、宿命の対峙もいい感じに収まったが、この後丸々一話舌戦に使うのか、また別の展開があるのか。
 今後の鬼滅アニメの行方も含め、次回も楽しみ!