イマワノキワ

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烏は主を選ばない:第16話『藤の矢』感想ツイートまとめ

 烏は主を選ばない 第16話を見る。

 故郷と家族を守りたい。
 雪哉のシンプルで真っ直ぐな願いが、複雑な因縁や歴史に絡め取られ、山内のダークサイドへと吸い込まれていく第16話である。
 小梅の事情、真の金烏の役割、不可侵条約に隔てられた暗い秘密。
 話のスケールも複雑さも一気に増してきた感じだが、桜花宮でのシンデレラ・サスペンスや、宮廷でのドロドロ権力闘争にクローズアップしていた時には見えなかった、山内の全体…あるいはその外側に広がるものへ、作品の枠組みが広がっていく手応えがあった。
 僕はこの視野角制御と拡大にこそ、この作品の妙味を感じているので、グワンと話が広がるエピソードは好きだ。

 この世界観の拡大はそのまま、家族と故郷のみが視野に入ってた幼い雪哉が、世界や他人の実相を知って見識を広げていく…大人になっていく足取りと重なっていく。
 垂氷を揺るがす猿騒動は、厄介な因縁にもかかわらず真正な家族愛を保ってくれた家庭環境が、どんだけ恵まれているのかとか、テキトーに好き勝手やっているように見えた若宮がどんな使命を背負い、どれだけ孤独を学んでいく命がけの教材にもなる。
 金烏の全権を託され、地下街での交渉に臨む展開もまた、多大な権限と責任を任され、山内や若宮の運命を自分の一挙手一投足が左右してしまう、プレッシャーの多い立場を背負わせる。
 それをくぐり抜け、少年は何を選ぶか。

 幾重にも張り巡らされた結界の奥に、一体どんな秘密が広がっているのかを知っていくファンタジック・ミステリとしての味わいと同時に、青雲の志を内に秘めたぼんくらが、その真価を見つけていく成長物語としての手応えも、俄然燃え上がってきた。
 まぁ若き活力に満ちた理想に出会っても、シビアな現実や醜い我欲に阻まれ汚され、あんまハッピーじゃない結末を苦く飲む干す可能性も、全然残るわけだが。
 ここら辺、「どーせなるようになるでしょ!」と、ナメた安心を全く期待できない作風をココまでで叩きつけられているので、むしろロクでもなさへ突っ走ってくれることを願ってる感じすらあるな。
 ガンガン来い腹筋は固めたッ!

 

 

 さて、小梅の守護を若宮に任された雪哉であるが、山内にあるもう一つの権力=暴力装置である地下街が彼女を求め、長い腕を伸ばしてくる。
 ツンツンツッパった所で若衆の細腕、計画的に動員される暴力に単独で抗うことは出来ず、若宮の威光を小梅が漏らす形で、一旦の手打ちとなった。
 これを切らなきゃ場を乗り切れない鬼札ではあったが、同時に小梅の父(から、もしかしたら”猿”)への落とし前を求める鳶の視線が、若宮を視野に入れるきっかけにもなってしまって、情勢は拗れていく。

 お綺麗な宮廷から出ない一般貴族と違って、若宮は山間に親しみを持ってその泥を見つめて、協定の向こう側にあるもう一つの権力を見ている感じだ。
 それでも表沙汰にならない協約によって、山内の表と裏を不可侵独立とする構造が成立している以上、金烏の威光が暴力によって秩序化されたカオスに、卓越しているわけではない。

 地下街には地下街のルールがあり、思惑があり、利害があって、表の世界からはなかなか見えないそこら辺の事情が、小梅に伸びて…いざとなれば暴力的な解決も辞さない野蛮を、危うくチラつかせている。
 第一章で描かれた陰謀のクソっぷりを思うと、取り繕ってるか剥き出し可の違いだけで、暴力によって己の意思を貫通させるシステムは、地下街も宮廷も全然変わらない感じはするけども…それでもまぁ、裏は裏、表は表である。

 

 

 雪哉との一方通行ロマンスや、最下層からの宮中召し上げに華やいだ夢を見てるように思えた小梅が、クソ親父との因縁にドン曇りし、その現世の泥の生臭さをぜーんぜん、雪哉が解ってない様子も描かれた。
 複雑怪奇な血の因縁に絡め取られながらも、そこを気にせず”家族”してくれてる最高の親兄弟に囲まれ、口さがないコト抜かす連中には拳を振るい、雪哉の青春は拗れつつも恵まれ、思いの外真っ直ぐだ。
 その坊っちゃんっぷりが、実の親がガチでクズな小梅の苦境に呑気に理想を垂れ流し、世界の底の方にいるヒトへの理解を遠ざけてもいる。
 若宮への奉仕期間で、あんだけ人の中にある泥を見てなお、雪哉の観てる世界は綺麗だ。

 親は子を思い、子は親を慕う。
 天地開闢以来そう定められた当たり前が、千々に乱れ残酷に相食む現実の重たさを、雪哉は全然見れてない感じがある。
 この幼い理想主義が好もしくて、若宮も側に置いてるんだと思うが、今後最高権力者の右腕として政治に携わり、白か黒かで割り切れない…というか白が黒となり黒が白に変わるような複雑な現実を相手取る時に、この無理解は致命的な気がする。
 ”猿”はバンッバン人が食い殺される超一大事だし、起こってるのは地元だしで、雪哉が否応なく自分の事件と引き受けなければいけない、切実さを持っている。
 この血の滲みが、他人の割り切れぬ苦境に理解を伸ばす、助けになりゃいいんだがな…。

 

 我が子の生き血をすすって恥じない稀代の…そしてありふれたクズが一体、”猿”やら魔薬禍やら、山内を揺るがす大事件にどう関わっているのか。
 ある程度以上、表の世界からは見えないモノを鳶が掴んでいるからこそ、若宮を呼びつけてナシ付けよう…となったんだと思う。
 今回描かれた山内結界の説明を聞くと、”猿”の侵入ルートは表側からは未だ不明って感じなので、ここで雪哉が上手く交渉をまとめると、問題解決の一端も上手く掴める感じだが…さてどうなるか。
 あえて現実見えてない若衆に、全権代理を任せた長束の思惑が気になりはするね。

 結界のチェックを終えて、自分が考えうる侵入ルートの捜査が手詰まりになったからこそ、若宮も危険を伴う直接会談へと踏み込んだのだろう。
 見えざる結界の外側に人間社会のどん底を追いやり、なかったことにして成立している宮廷の中で、真の金烏だけが明暗入り交じる山内の全体像を見て、考え、立ち回っている。

 

 よっぴいてひょうと射た藤の魔弓が生み出す、原始の結界の描写はファンタジックで大変良かったが、あれを影武者を立てての身勝手な”余暇”としてやらなきゃいけないあたり、僕が考えていたより若宮の支持者は少なく、権力基盤は脆弱な感じがある。
 いやー…超重大案件なので、公務にした方が良いんじゃないですかね…。

 黒曜石の鏃から若木が萌える、魔法のような結界生成。
 それは貴族たちが権力を競い合い、地下街でそこからはみ出した欲望が制御される、中世的な光景から大きく離れている。
 山内はあのような神代のメンテナンス行為に支えられ、それを行いうる唯一の存在…真の金烏の力なくては成り立たないのに、表も裏も権力を握る者たちは人の都合、手前のエゴで政治を切り盛りして、敬意も実験も手渡しはしない。

 

 ここに僕は、極めて危険な乖離を見て取る。
 極めて”人間的”な椅子取りゲームだけに汲々としている山内の(貴族たちから見た)現状は、いまだ神話の只中にあり、神官王を必要とする現状と相当に噛み合っていない。
 神と運命に選ばれ、唯一神域たる山内を維持可能な若宮から、ともすれば権力を簒奪し、家門隆盛、富と権勢の邪魔者としてみる、四大貴族の現状認識はいまだ古代の中にある(というか、カミが実在してしまっているので構造的に中世へと移行し得ない)山内の現状を、全く見ていない。

 そして結界に守られて危うい山内の現状に基づいた神権政治の必要性を、我欲で脳髄パンパンな貴族たちに解らせる説得力…あるいはコミュニケーションへの意思を、若宮も持っていない。
 彼だけが特別に見えているものを、「どうせ凡人には分からないだろう」と共有を諦め、若宮一個人を理解してくれる孤独へ、むしろ積極的に歩を進めているようにも思える、真の金烏の権力体制。
 結界維持を制度化せず、身分を偽っての直接捜査に出るしか無い、権力基盤の脆弱さ。

 桜花宮でのシンデレラ・サスペンスにおいては、快刀乱麻を断つ皇帝探偵の痛快とも思えたものが、結界の外の”猿”や協定の向こう側の地下街が絡んできて、問題のスケールが山内全体に拡大してみると、極めて危ういものに思えてくる。
 ここらへんもこの作品が持つ、視点拡大の面白さの一つかなぁと思ったりする。

 

 ”猿”の侵入を許しつつもその危機感が貴族には伝わらず、情報収集も表側からは行き詰まっている現状は、断絶し独立していたはずの地下街との接触を、突破口として選ばさせる。
 世界を裏側から見つめるアウトサイダー達の知恵が、適正なルートで社会の表側に流れない現状を、変えるつもりは若宮個人には大アリだ。

 いざとなれば死んでも構わぬ、外交的鉄砲玉として長束に背中を押された雪哉が、”猿”の真実を知る手がかりを、あるいは閉塞しつつある山内の未来を変える鍵を、激ヤバ会見に掴み取れるのか。
 なかなかドキドキする状況であるが、「まー路近もいるし大丈夫だろ…」とは思ってる。
 長束の側近として、なんとなれば一切の情を廃して暴力装置に徹する腹が決まっているのも、どのタイミングで刀を抜くべきか自分で考える頭も、その抜きどころを主に預けきる忠誠も、俺は路近が本当に好きだ。
 年の功もあって、雪哉が目を向けない人間の暗い部分も、ガップリ組み合う度量で補ってくれそうな頼もしさだね。

 今回正式な叙勲を受けた側近ではなく、奇縁と個人的な情だけで繋がっている雪哉を、危険待ち受ける唯一の突破口に代理派遣しなきゃいけない所に、若宮の脆さがやはりあると思う。
 曲りなりとも最高権力者、山内全体を揺るがす一大事を解決するべく表の権力も使ったが、それで追いつかないから鳶との直接対話だの、浜木綿を影武者に立てての自由行動だの、色々しなきゃいけないわけだが。
 若宮が持つ広大で公平で先進的な政治的ヴィジョンを、既存の権力者層に通訳しシステム化していくアダプター、あるいはインタープリターがいないのが、若宮政権の構造的弱点な気がするね。

 

 その足りない手数を補うのが、雪哉しかいない孤立。
 果たして、若く真っ直ぐな青年の魂は補いうるのか。
 孤独な王の手先として、未だ知らぬ人間社会の闇に踏み込む中で、雪哉は何を学ぶのか。
 なかなかに面白い情勢になってきて、次回も楽しみです。