一雫垂らせば全てが激変する触媒のように、その男の存在が修羅たちの恋を燃やす。
来世は他人がいい 第4話である。
一触即発ムードでヤベー男二人が出会った所で引いたわけだが、予想(あるいは期待)に反してダイレクトな怪獣大戦争がすぐさま起こるわけではなく、しかし鳥葦くんの存在が吉乃と霧島の素顔を見事に暴いていく。
自分を譲らないためには命も投げ出せる、凡人の仮面被った超エゴイストと、何でも上手く出来るからこそ抱えた虚無を、自分より壊れた誰かに発火させて貰いたかった男。
血の繋がりを越えた家族を、誰よりも思う鳥葦くんのマトモさから、遠く隔たれた人間モドキ二匹の、ズレたまま繋がる異形の恋。
その輪郭がハッキリしてきて、とても良い回だと思った。
霧島くんの計り知れなさは、作品が何を土台に進んでいくか見えきらない掴みどころのなさにも繋がっていたわけだが、鳥葦くんという触媒を間に挟むことで、彼の奥に燃えてる炎が良く見えて、ようやく作品から体温が伝わってきた。
そういう熱気をイカれ男に呼び覚ます、吉乃の壊れ方も今回より鮮明になってきて、どう足掻いてもロクデナシな連中に似合いの稼業として、ヤクザがテーマになってるのも納得した。
霧島が片手間に片付けた”仕事”の現場に、ゴロンと転がってる電マの最悪っぷりとか、ホント良かったなぁ…。
今後も今回みたいな、いい塩梅の最悪で行って欲しい。




大事な家族を東京に縛り付ける、ヤバい男の実態を間近に知りつつ、鳥葦くんは一旦大阪へ帰る。
それは自分のエゴより吉乃の願いを優先する…そのためには死んだって構わない、狂った優しさの成果だ。
自分自身気づいてない大概な壊れ方を、吉乃より多分良く知ってて大事にしたい鳥葦くんは、発車迫る新幹線を背中において、フラットな立ち位置で吉乃を抱きしめられる。
それは家族の距離感であり、凶暴でヤクザらしい”仁”に突き動かされて生きる彼だからこそ、自然と踏み出せる間合いだ。
この平らな距離に、霧島は当然入れない。
だから、狂うほどに嫉妬もする。
笑顔貼り付けて本音を見せない霧島が、縁側越し吉乃との対話を通じて己の本心に近づいていく/近づけさせていく対話のシーンは、イカれた恋人たちの心の変化を、情景に見事に反射している。
浮気するなら、俺の前でしろ。
嫉妬に身悶えした挙げ句、そいつは必ず殺す。
だいぶぶっ壊れた純愛宣言を垂れ流す時、霧島は暗く地面がむき出しになった場所に立っている。
そこは敷居と縁側、二つの境界で吉乃が身を置く明るい場所から隔てられた、凶獣の庭だ。
そんな場所には降りていけないと、背中を向けて立ち去っても良さそうな場面で、しかし霧島が身を置いている”低さ”を利用して、吉乃は対等に彼の目を見る好機を得る。
吉乃の根っこには、どんな状況でも己を裏切らず貫く、生粋のエゴがある。
ナメられ己を曲げるくらいなら、死んだほうがマシ。
その信念が深山霧島という男の存在で発火し、腎臓片方売ってベタ惚れもされたわけだが。
彼女自身が思っているより、イカれててヤクザの天分がある彼女は、世の中のほとんどの人が近寄りたくないと思う激ヤバ男と、「自分を曲げていない」という一点で繋がれてしまう。
霧島が暗い庭の中のたくらせている、反社会性とか衝動性とか計算高さだとか、光に満ちた表の世界じゃ人間失格の烙印を抑えるだろう歪みを、偽りのない己だと真っ直ぐ見つめて、ともすれば評価も出来てしまう。
鳥葦くんの来訪に触発されて、鉄面皮の奥でグツグツ煮立っているイカれたエゴを表に出してきた霧島に、吉乃は素足でもって靴脱ぎ石に降りてきて、暗い獣の領域に身を寄せる。
そうしてくれることで、最初暗い場所にいた霧島は光に照らされた、自分も相手の顔も良く見える場所へと近づいていく。
膝を曲げ、相手の目を見て、イカれきってる自分たちを素直に晒して、狂った繋がり方を手に入れていく。
この二人はこういう繋がり方しか出来ないし、こういう繋がり方が出来るのだと、作品におけるコミュニケーションの形が鮮明に演出されるシーンで、とても良かったと思う。
霧島が身を置く暗い場所は、人間の英知で取り繕った家の中よりも色んなモノがむき出しで、地べたに近い。
銭勘定と暴力とセックスと騙しがごたまぜに、渦を巻いて片手間に片付けられる、ヤクザじゃないけど誰よりヤクザな高校生の”仕事”が、その最悪の中でのたうち回ってる泥濘だ。
吉乃は自分が身を置いている(と思い込んでいる)キレイな場所から、わざわざ膝を曲げてべったり素足を付けて、その泥に近づいていく。
ナメられるくらいなら殺し、譲るくらいなら死ぬ。
任侠…というにはあまりに社会との繋がりがない、自分本位の女意地一本を、あらゆる行動の指針にできてしまう自分を、霧島に引きずり出されていく。
吉乃…あるいは彼女とマトモな愛で抱き合える家族と向き合う中で、暴かれていく自分が見知らぬ新しいものだからこそ、霧島は吉乃に夢中だ。
最悪のクソ男に文句たれ、イザとなったらヤッパでブスっと行く関係に縛られつつ、吉乃もまた霧島の引力に惹かれ、彼が身を置くヤクザな泥が思いの外、自分に近いことを暴かれていく。
一見霧島だけが吉乃に惹かれているように見えて、吉乃もまた秘めたる本性を出会いの中で発火させて、エゴの獣としてしか生きられないイカれた自分を目覚めさせていく。
お互い様の明暗同居、惹かれ寄せられ混ざり合っていく魂の混濁は、壊れているからこそ嘘がなくて、なかなかに鮮烈だ。
ナメたこと抜かしたボケを掘れさせた挙げ句捨てて、自分の立場を理解らせる。
意地とメンツに全てを賭ける、極めてヤクザな吉乃の決断が、実はもうちょい心の奥の柔らかな部分を押されたからこそ生まれていることを、捻れて繋がる泥濘の中の対話は良く示している。
イカれた霧島が放つ強い引力に弄ばれているように見えて、吉乃はどんどん素の自分に近づいていってる。
ならば…どんだけ壊れたように傍からは見えても、確かに誰かを強く求めている今の霧島の愛も、もともとあったけど埋もれたものが、膝を曲げて近づいてくれる誰かの手で、掘り起こされたものではないのか。
そういう推測も、当然成り立つだろう。
ここで交錯した奇妙な情の光(と闇)は、それをヤクザな泥に埋もれさせるに至った過去、秘められている霧島の根源への興味を、いい感じに刺激もする。
欠片だけ、純度の高い人間味を滲ませる瞬間が確かにあるのに、なんでこの男はこんなに破滅的に、つまらなそうに生きているのか。
そうなる経緯にも、体重の乗った視線を向けたくなる衝突がここで描かれたのは、作品を見続ける上でとても大事かなと思う。
この過去を発掘する視点は、霧島に惹かれていく吉乃の歩みと、今後多分強く共鳴するだろうから。
こういう発火点があると、やっぱお話に前のめりになれて良い。




かくして少しお互いの顔が見える位置に、光と闇が交わる泥の側に身を置いて、二人の距離は縮まっていく。
未だ庭と縁側に隔てられて入るけども、肌が見える油断した装いでお互いを間近に置ける関係へ踏み出して、霧島は病床の恋人に心あらず、とっとと”仕事”を片付けて、堂々正門をピッキングする。
傷ついた誰かを心配する優しさすら、マトモに鍵開けず犯罪行為でこじ開けることしか出来ないぶっ壊れ方が、高熱出したときしか素直に抱き合えない二人にお似合いで、大変いい。
「コイツラ、こーなるしかねぇんだ!」という納得が、自分の中に生まれる瞬間は、やっぱ好きだ。
”仕事”でかわいそうな生贄相手にギラつかせたように、霧島にとって抱擁とは脅迫であり、丁寧な口調は脅しの包み紙でしかない。
世の中の大半の人が、他人とマトモに繋がるための媒介として選んでいる道具を、軒並みイカれた凶器としてしか使えない男が、吉乃を慈しむときだけは極めてまともに寄り添い、暖かそうな光に満ちた家の中…人間が作り出したマトモな領域に身を置ける。
それは熱に浮かされた一瞬の夢に過ぎないし、吉乃限定の狭く細く鋭い愛でしかないのだけども、確かにそこにある。
ならば獣にも、確かに人の名残はある。
それが意味のあるものなのかは、運命が転がった先でしか判らんのだろう。
極めて真っ当で強い(強すぎる)”仁義”でもって、吉乃に全霊を捧げれる鳥葦くんが新幹線でもって大阪に一人帰り、そういうマトモさに欠片も縁が無い霧島が吉乃を抱いて車で一緒にどこかへ進むの、中々残酷な対比でいいなぁ、と思う。
頭の覚めてマトモな部分では、こんなロクデナシに付き合っていたら人生メチャクチャになると距離を置きたがっているのに、吉乃は自分の中で目覚めつつある獣に引っ張られて、ヤバい男の胸の中に己を預けてしまう。
熱に浮かされた思い違いと、夢が覚めたら切り捨てるのだろうけど。
それは確かに、抱かれる女の中にも、抱きしめる男の腕にも、嘘偽りなくそこに在るのだ。
というわけで、比較的マトモな鳥葦くんを叩き込むことで、グッと作品の顔立ちが良く分かる回でした。
こういう感じの化学反応が、新キャラ投入でしっかり生まれるお話は面白いし、そうして暴かれた地金が擦れあって何が生まれるのか、先を期待もしたくなる。
初見時感じていた「この主人公、相当なイカれでは…?」という疑問が、ガンガン回収されていく気持ちよさも相まって、こっからどう転がっていくのかが楽しみです。
いやー…どんどんロクでもなく、嘘もない事態になっていくんだろうな!
溢れ出す愛のむきだしが、獣たちをどこに連れて行くのか。
グツグツ煮立ってきた物語、次回も楽しみッ!!