イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

らんま1/2:第4話『乱馬を追ってきた男』感想ツイートまとめ

 ドがつく方向音痴の復讐鬼、響良牙堂々見参ッ! な、らんま1/2第4話である。
 この後三十数巻、ライバルとして可愛いヒロインとして圧倒的存在感を魅せる良牙くんであるが、登場時は復讐心にかられて随分はた迷惑なヤローである。
 その燃え盛る闘志が拳士としての乱馬の本気と、実は思いの外トボけた鈍感男の顔を、良く照らす。
 あかねとツンデレ二人旅、なかなかくっつかない意固地ラブコメ続けている時には見えにくい部分を、しっかり強調してくれるキャラだからこそ、物語全体の方向性が変わるくらいにいいポジションに、ピタッと取り付けた感じもあるなぁ…。
 やっぱらんま初期、独特の味わいがする。

 バンダナに鉄傘、色んな暗器でスパスパ切りつけてくる良牙の戦い方は、周り全く見えてない大暴走キメてた九能先輩よりも、遥かにはた迷惑で危うい。
 そのヤバさが最後の最後、あかねの髪を切り落とし殴り合ってる場合じゃない一大事を引き寄せるわけだが、そんだけの大暴れをバラまいている理由は一体どこにあるのか?
 らんまのフザケた体質を甘えた寝言と切り捨てる、彼の不幸は一種のミステリとして、次回に引っ張られる。

 落ち着いてみりゃ可愛いやつなのだけど、そういう善さを忘れてしまうくらい、このときの良牙は荒んでいた。
 そう思うと、結構コクのある初登場であった。
 しかしまー、半歩間違えると人死出そうな戦いとしてこの対決を書けてたの、かなり良かったと思う。

 

 

画像は”らんま1/2”第4話より引用

 ツンデレ同士の反発許嫁関係を、いい具合に落ち着かせるカウンターウェイトとしての仕事(九能先輩が果たせなかった役割)を今後果たしていくことにもなるわけだが、そう出来るだけの強敵としての格が、やっぱりちゃんとある顔見世だった。
 軽やかに華麗に足技と軽功メインで戦う乱馬と、剛力による超至近戦でパワー勝負を挑んでくる良牙は、いい塩梅に棲み分け出来てて、アクションが映える。
 鉄傘の重さを分銅代わりに、格闘家の膂力を見せる運びなんかも冴えていて、格闘アクションとしての切れ味が良いかいだ。
 ”燃えよドラゴン”や”酔拳”といった、カンフー映画への目配せも冴える。

 乱馬とのライバル関係に真っ直ぐすぎてズレている、超純情暴力少年の良牙の熱に、最初ハンドインポケットでナメた態度取ってた乱馬は飲み込まれ、一進一退ガチの攻防を演じることになる。
 何かと軽やかに余裕満点、余裕のない本気を見せなかった乱馬が、暗器術を補助に使いつつ同じ土俵でガッチリ噛み会える良牙をパートナーに、対等なバトルを初めて演じる回とも言える。
 乱馬の十八番である、ぴょんぴょん軽妙に常識や日常を飛び越える跳躍にも、しっかりついて行って牙を突き立てるからなぁ…。
 地べたを舐めさせる変則の固め技も、片腕で相手ごと持ち上げるパワーで跳ね返し、ペースを握らせない。

 

 

 

画像は”らんま1/2”第4話より引用

 とはいえ軽やかに相手をナメ、何事にも真剣になれないらんまスタイルは今回も健在で、果たし合いの現場に戦いの風が吹くまでは、乱馬は徹底的に良牙を踏みつけにし、トボケてすれ違い続ける。
 あかね相手には甘酸っぱいラブコメ味で展開している、本気になるべき自体にも軽薄になってしまう乱馬のキャラクター性を、どうにか自分の土俵に引っ張り込んで対等になるには、ガチってもナメられない実力が必要になってくる。
 というかナメるだけじゃなくボケてもいる、乱馬の素顔を引っ張り出す仕事は、過去を共有する良牙にしか出来ないことでもあるのだろう。

 ここまで3話、唐突に中国から降ってきた謎の許嫁だった乱馬は、良牙の登場によって過去が描かれ、地面に足をつける。
 ライバルもまー大概に大ボケ方向音痴であるが、負けず劣らず天然ボケな乱馬の素顔が掛け合いの中で見えてきて、僕らは主役の新しい顔を、ライバル参戦によって発見していくことになる。
 ここら辺の、お互いのキャラを引き立たさえ明らかにしていく、物語的砥石としての性能が良牙は良いんだな…。
 相当テキトーで、悪気なくボケてる乱馬の本性は、ナンパな恋色を廃して格闘一色、猪突猛進突っ込んでくる良牙相手だからこそ、いい感じに可視化されていく。
 そして強敵を前に、乱馬もボケぱなしじゃいられない。

 現在時間軸の襲撃では良牙が乱馬の上を取り、過去の因縁においては乱馬が良牙の頭を踏む。
 空間的優位は追いつき追い越され、また追いつこうとする対等なライバル関係を反映して、乱馬を一方的に高い場所へと隔離しない。
 お互いのボケと真顔が絶妙に絡み合い、拳を交えているのに妙に呼吸が合う関係性の良さも、コミカルなやり取りの中で既に萌芽を見せている。
 格闘をメインテーマの一つとし、作品を律するルールにもしているこの作品、ヒロインにしてもライバルにしても、拳が通い合う関係を作れるかどうかが、心が共鳴するか否かの試金石にもなる。
 格闘ラブコメの物語的法則が、アクションとドラマに息づいているのは良いね。

 

 

 

画像は”らんま1/2”第4話より引用

 同時に戦うことだけに視線を狭めてしまうと、ラブコメでもあるこの物語の歩みは、結構危うくなっていく。
 男乱馬が演じる激闘は、周辺被害を拡げつつ熱を増していく。
 止める相手がいない良牙はその暴力性をどんどん加速させ、乱馬もまたガチって狭い世界に引っ張りかけるが、文字通り”水が入って”性別が変わったあたりから、あかねという戦いの外部が存在感を増してくる。

 余計なお世話を突っ込んでくるお邪魔虫であり、守らなきゃいけないお荷物であり、だからこそ本当は何のために拳を使うべきか、格闘バカに思い出させる存在。
 この物語がラブコメであることを、担保するキャラ。
 自分を気にかけて倒れたあかねを、復讐しか見えてない良牙の攻撃から守ることで、らんまは拳の本分を思い出し、甘酸っぱいラブコメ時空へと立ち戻ることも出来る。

 殺伐と誰かを傷つけ、その事を忘れてしまうヤバさがこのハチャメチャ青春喜劇の本分ではないのだから、戦いの中一瞬漂う恋の香りは、極めて大事なものでもある。
 しかし大事なものを素直に抱きしめられる強さは、どんな時でもマジになれない乱馬の性分に引っ張られる形で薄れ、いつもの言い合いが二人の距離を離してしまう。
 格闘とラブコメが綱引きをする現場で、乱馬とあかねの素直になれない気持ちも、結構複雑な綱引きを続けている。

 

 アップテンポな格闘活劇の潮目が、女になってしまうことを受け入れきれず、スカートを断固履かないらんまへの”変身”で切り替わる今回は、あかねとの関係を複雑にネジレさせる性差/性同一性の綱引きも、複雑な色で取り込んでいく。
 男の時は冗談のタネになる引き裂かれた服も、その下に隠すべき乳房を宿した時は情ねぇ不幸の証になり、しかしそれを目撃しても良牙は拳を引かない。
 そんなアイデンティティの簒奪、自分を復讐に駆り立てるモノに比べれな些細だ、と。

 らんまにしてみりゃ結構シリアスなものを、どうにかコメディの糖衣でくるんで乗りこなそうとしてる苦労を見てると、「そら良牙くん了見狭かろう」と、思わずいいたくもなるが。
 しかし一度入ったシリアスな復讐スイッチをコメディに切り替え、自分の投げつけた凶器が何を傷つけているのか見れる視界を取り戻すためには、この殴り合いを一度落着させ、”水入り”させる必要があるのだ。
 そうして見えてくる良牙くんの事情は……まぁ次回をお楽しみに! つう感じね。

 

 乱馬がただ殴り合うだけの格闘領域から外れ、守るべきものを思わず庇ってしまうロマンティックな物語へと戻って来る起因は、やはりあかねにある。
 余計なお世話と跳ね除けられつつ、それでも手を差し伸べてしまう優しさが、らんまに感染すればこそ、彼/女は女の細腕で鉄傘を持ち上げ、敵の凶器を誰かを守るための盾として使いこなし始める。
 そういう拳の本道は、確かに乱馬の中にあるのだ。

 しかしチャーミングな未熟のど真ん中にいる青春少年は、大事なものをすぐに取りこぼし、いつものいがみ合いに帰還してしまう。
 自分に大事なものを思い出させてくれる大事な存在なのに、顔を合わせたら反発し合い、分かりあえないすれ違いに飛び込んでしまう。
 そんなあかねと乱馬の距離感が、自分の善さを見落として突っ走る良牙を鏡に描かれる回でもあった。
 誰とも無縁の乱入者、日常の破壊者でしかないこのときの良牙は、自分の大事なものを思い出させてくれる誰かと繋がることもなく、スゲー孤独な存在なのだな。
 この孤立と暴走があればこそ、この後生まれる絆の暖かさも、より際立って伝わる…と。

 

 

 

画像は”らんま1/2”第4話より引用

 どうやってもすれ違いに終止してしまう世知辛さに、涙ながらに思わず手が出て、ラブコメの空気感じるセンサーが死んでる良牙くんが振るった暴力が、乙女の黒髪を切り落とす。
 格闘にガチってばっかだと、こういうイヤーな感じの犠牲が出るわけだが、これをいい感じに収めるにはどうしたらいいのか!

 殴り合いに夢中で周りが見えなかった格闘少年が、青ざめた顔で切り落とされたあかねの一部に拳を収めた所で、物語は次回へ続く。
 改めてアニメで見返すと、憧れの人に思われてる姉の残影を追って伸ばしていた髪を切り裂く”格闘”の暴挙、覚えていたより重たいな…。

 

 コメディの手触りを壊さぬ意味でも、加害者になった良牙くんを可愛いレギュラーにする意味でも、あかねの髪は許容範囲ギリギリな暴力の犠牲なんだと思う。
 いやまぁ「黒髪ロング書くのマジ大変だった」という、留美子先生のフィジカルな事情もあったりはするのだが、ラブコメと格闘の相容れなさ、それを乗り越えて”格闘ラブコメ”する理由の描写として、この決着のやっちゃった感は大事だと思う。

 どんだけコミカルになっても、力を追い求め他人に強要する道は半歩間違えれば、こうして誰かを傷つける。
 そういう重さを引き受けた上で、どう愉快で楽しいドタバタ殴り合いを、恋色に照らしながら描いていくのか。
 九能先輩を相手取った時は、なかなか踏み込めなかった作品のコアに向かって、良きライバルを活かして突き進んでいく、良牙くん顔見世エピ前編でした。

 

 惨めな境遇に突き落とされ、誰にも隣り合ってもらえぬまま復讐にすがる暴走は、良牙くんがこの後見せてくれる可愛さ優しさ生真面目さを知っていると、なんとも痛ましい。
 断ち切られたあかねの髪と純情を、らんまがマジと笑いを織り交ぜてどう受け止めていくかと合わせて、令和のらんまがどう描くのか。
 次回も大変楽しみです。
 …やっぱ好きな作品の新しい顔を見つけられる、気合の入ったリメイクは良いわな。