遠い国から来た恋敵が、複雑怪奇な四角関係を加速させる!
シャンプーを起爆剤にラブコメ濃度がバチバチ上がり、一段高いところへ物語が跳ねていく手応えを感じられる、令和らんま第11話である。
いやー…今見ても完成度が高いキャラを適切に活かした結果、色んなキャラが元気に暴れている感じがスゴイな…。
つうわけで、小太刀ではメラメラさせられなかった嫉妬の炎をあかねに燃やし、殺すの殺さねーのなサツバツ空気に四角関係を投げ込むことで、いい具合にグツグツ煮立ってきた。
乱馬くんからあかねへの思いの強さは、格闘ペアスケートで結構鮮明になってきたけど、あかねが釣り合うだけの気持ち持ってんのかはまだ不確かだ。
そこで好意を隠さずボディタッチ多め、ひたすら乱馬にグイグイくるシャンプーを配置することで、真逆なアプローチ仕掛けてくるライバルにあかねもブチギレ。
その思いを寝床で浴びることで、所詮ペットでしかない実情を正しく見て取った良牙くんの気持ちも拗れ、女二人の感情は命のやり取りにもつれ込んでいく。
自分の目が届かない所であかねとシャンプーが決闘し、最悪の結末を想像して必死に走る乱馬くんには、颯爽と身が軽い軽妙男子の面影はなく、だからこそ泥臭い本音が色濃く滲む。
命は取られなかったが自分を忘れたあかねを前に、さて乱馬くんはどうするのか…という状況である。
シャンプーは日本語喋れず、行動指針は男乱馬を娶るか女らんまを殺すかの二択。
中国からやってきた美少女バトルサイボーグみたいな、コミュニケーションの難しさとそれ故のピュアな可愛さが、今見ると逆に新鮮だったりする。
落ち着いた日常をぶち破り引っ掻き回す、チャイナな異邦人性を最大限発揮し、エキゾチックな魅力でヒロインとしての説得力も十分。
「そらー乱馬もクラっとくるよね…」と、視聴者も納得できる問答無用なパワーが、元気に暴れていて良かった。
なんつーか、キャラクターとしてヒロインとしての圧力が分厚いよなぁ、シャンプーは…。
第5話でしっとり描いたように、あかねは結構大人び現実的な感覚をしっかり持った子で、この成熟した感じに格闘純情ボーイが追いついていけてない感じもあった。
色々考えた上で初恋を自分一人で終わらせ、しっかり始末して新しい道に進もうとしたあかねの人格は、許嫁に好きだと言えない捻れと隣合わせである。
拙い言葉で必死に、たった一つ「我愛你」を伝えてくるシャンプーは、このあかねの年相応で現実的な成熟と真逆な位置に、自分を定位する。
ひたすら素直に、あるいは幼く、シンプルな求愛/殺意を叩きつけてくる単機能は、それゆえに真っ直ぐで強い。
話がもうちょい転がって、シャンプーがお騒がせ舞台装置からキャラクターとしての立体感を確保してくると、彼女の日本語も上手くなり、殴るか抱きしめるか以外のコミュニケーションも可能になってくる。
逆に言えば登場エピソードでの、真っ直ぐな単機能は今だけの特権でもあって、だからこそ今までなかなか燃え上がらなかったあかねの嫉妬を、鋭く激しく燃やし得たのかもしれない。
この感情を男ではなくペットの子豚として寝床で間近に浴びることで、良牙くんまで関係性を改めて顧みることになんだから、バタバタいい感じに物語のドミノが倒れる中華姑娘投入は大正解…ってことになるわなぁ。
令和らんまが改めて削り出した、原作の優れた表現として僕は、キャラクターが地面に立つ/立たないに注目して、このアニメを見ている。
けして乱馬くんが立つ軽妙で現実離れした、だからこそワイワイ騒がしく面白い高い場所へと、自分を置かないあかねにたいし、シャンプーは狭ーい高台に自分の体を滑り込ませ、クラスの壁をぶち壊して日常に乱入する。
当たり前の常識、お茶の間で展開するファミリーコメディーの土台になるべく、ファンタジックな非日常を背負えないメインヒロインには、手が届かない、不安定で楽しい場所。
そこで、拳士たちは青春を演じる。
あかねの悋気を間近に浴びつつ、そういう強い感情の欠片も自分に向いていない事実を実感した良牙くんも、らんまと屋根の上で危うく殴り合い、墜落しかける。
呪泉郷というファンタジックな物語装置を共有する、悪友なんだか宿敵なんだか良く分かんない(だからこそ関係性の手触りが独特で面白い)二人は、自分が自分ではなくなる混沌もひっくるめて、同じ目線で話ができるわけだ。
対してブリブリ怒ってるあかねに並走する乱馬くんは、定位置である塀の上でその感情に横並びは出来ず、降りてきたと思ったらガキっぽい挑発を、あっかんべーと投げかける。
愛ゆえの照れ隠し、未成熟な純情。
可愛いは可愛いんだけど、メチャクチャ繊細なところもあるあかねちゃんにしてみれば、マジ顔で許嫁宣言してきたかと思えば茶化しからかってくるカンフーボーイと、どう向き合って良いものか迷いもするだろう。
ここら辺、”許嫁”という親に押し付けられた関係が、楔ともなり呪いともなってる感じがある。
自分が心から素直に願った気持ちが繋がり合う、現代的なロマンスを夢見ればこそ、自分が選んだわけじゃない関係で気持ちが固まってしまうのは拒否したい。
女傑族のしきたりに従順に、殺すの愛すの決めて迷わないシャンプーは、こういう意味でもあかねの対極なんだなぁ…。
良牙×乱馬×あかね×シャンプーの四角形は、こういう鏡像関係が随所にあるね。
真逆だからこそブチギレ嫉妬し、自分のテリトリーである日常を引っ掻き回され、あかねからシャンプーへの感情はグッツグッツ煮え立っていく。
あかねから乱馬への思いの強さ、思わず修羅の顔が出る暴力性を暴き出さないと、ラブコメとしては釣り合いが取れないわけで、そういう意味でもシャンプー投下は大成功の一手である。
しっかし乱馬は男としての帰属を巡ってバチバチ燃え上がってくれるのに、良牙くんは豚として大事にし豚として抱きしめるばっかりなの、マジで脈なさすぎてスゴイ。
今見ると、始まる前から終わってるレベルの負け戦だなぁコレ…。
藁人形を無手で解体するほど嫉妬に燃えてるのに、当人には素直に気持ちを伝えられない、ネジレと幼さ。
第5話で極めて大人びた顔を見せたあかねのキャラ性をここで修正して、乱馬くんと釣り合いの取れた(だからこそ長い事くっつかず”ラブコメ”出来る)ガキっぽさを、あかねに付与させた感じもあるんだよな。
改めてアニメで描かれてみると、髪が長かったあかねの奇妙で魅力的な成熟は大変良かったけども、ハチャメチャな連中がどんどん舞台に上がり込み、終わらぬ喧騒を駆け抜ける青春格闘絵巻のヒロインとしては、大人び落ち着きすぎてる感じもある。
シャンプーという触媒を活かして、あかねが背負った成熟の枷を、ぶっ壊して、大人になれない格闘ピーター・パンとの永遠の青春に、じゃれ合わせる下地が出来てく回…とも言えるか。
ここら辺爆裂する人気に背中を押され、長期連載へのレールをひた走る中で、方向性の模索と的確な軌道修正をやってのけてる週刊連載漫画としての巧さを感じるポイントでもある。
こっからの乱馬がどんだけ長く…時に長過ぎるほどに長く続いて終わった未来を知っているからこそ、到達点から逆算で見つけている面白さって感じもするわな。
この逆算の視点は、死の接吻が呼び込んだ決闘と、それにどんだけ乱馬くんが本気で焦るかにも伸びる。
「あかねが死んでしまうかもしれない」という想像は、いつも軽妙な彼ららしさを純情格闘少年から剥奪し、息を荒げ地べたに倒れてなお走る、余裕のない疾走を生み出す。
倒れ伏したあかねを見て、抱きしめながら絶叫する時、普段見せていた照れ隠しのからかいはなく、ただただ己の思いに素直に、それを守れなかった哀しみに突き動かされている。
この構図、最終決戦の早すぎる予言になってんだな、完結後の視点から見ると。
結局ここから三十巻ちょっと、好きだからこそ素直になれないツンデレ同士の終わらないダンスは続く。
拳士である乱馬はあかねとシャンプーの実力差を的確に見切り、その決着が許嫁の死で終わることを正しく予見出来てしまうわけだが、そんな彼が高みの見物を止め、自分の思いにただただ素直に突っ走れる状況は、「あかねの死」を(この時も、遠い未来で描かれる物語全体の決着においても)必要とする。
「死ぬかも」という想像力が結構間近で、しかも自分ではなく愛する人のそれをこそ恐れている姿勢は、乱馬くんの本性が守るために力を求める拳士であることを示して、結構好きな描写だ。
逆を返せば、死ぬか死ぬより厄介なことになりかねない危うさが、自分が追い求める拳の道には確かにある事を、乱馬くんはあかねちゃんより切実に解っている。
それが強者としてのセンスなのだろうし、格闘ペアスケートにおいても安全圏に保護されてたあかねちゃんには、自分が殺される可能性への想像力がかなり致命的に欠けている。
ここら辺、生活圏を共にし幾度か拳を交える中で、乱馬くんのなかで既に勘定が終わってた部分なのかなぁ、と思ったりもする。
あかねは弱いから、俺が守ってやらなきゃ。
危険から遠ざけ、武の本質に自分の命を預けるヒリついた平等さからも、縁遠い存在にしなきゃ。
そういう”優しさ”をグツグツ煮立った頭で拒み、実力差を測れなかった結果、あかねちゃんは乱馬くんを忘れる。
それが二人が現状得れる、最大限の”死”だ。
作品を終わらせかねないほどのシリアスさを、否応なく孕んでしまう爆弾を巧く回避しつつ、状況を引っ掻き回し真意を問う妙手が見事に決まった所で、物語は次回へ続く。
シャンプーのチャーミングでピュアな残酷さを活かしつつ、作品の真芯にしっかり踏み込める状況が整っての、令和らんま第一章最終決戦。
大変いい感じに、1クールの物語を締めくくれそうで、次回も大変楽しみです!