おもしろうて やがて悲しき ロボホテル。
人類消失後の銀座で、静かに滅びつつお客様を待つホテリエ・ロボットたちの日々を描く、アポカリプスホテル第1話である。
大変良かった。
初手から終わりきってる世界観、ジリジリと迫りくる機械たちの終わりは上品で軽妙なコメディで上手く覆い隠され、だからこそ健気で切ない。
逆境でなおホテルを美しく保つ、パーフェクトな機械の思わぬポンコツっぷりに笑ってしまうわけだが、そこには笑ったこと自体への罪悪感、純粋過ぎるからこその切なさが清らかに宿って、複雑なコクを生み出している。
ユーモアの本道を丁寧に歩む作りで、素晴らしいスタートでした。
間違いきった単機能プロフェッショナリズムを、ダンディーに貫くドアマンロボさんの勇姿とか、支配人代理の代理として長い年月ホテルを支え、色々もう限界なヤチヨのポンコツ可愛さとか、人間の言葉では喋らぬが自分たちの職能と仲間との絆を大事にしてるロボたちとか、惹きつけられる部分が多い作品であるが。
ホテルがお客を迎えるのに相応しい、完璧な清潔さと優雅さで保たれているほど、文明が緑に飲み込まれ人の気配が欠片もない景色が、無言で深く刺さってくる。
ロボは絶望をプログラムされていないので、ジリジリ迫る死にも帰らぬ人類にもめげず、必死に最高の日常を作り維持するわけだが、それを受け取るものはいない。
切ない。
心から笑わされ、ロボたちが好きになるからこそ、この静かな終わりは切ない。
安全圏から破滅という非日常を楽しむコージーカタストロフィかと思いきや、初回で温泉掘削ロボさんが永久休職し、ドアマンロボさんもぶっ壊れ寸前の、滅びの悲壮をしっかり挿し込んできた。
ロボたちは人類を襲った破局と無縁というわけではなく、機械で人造物だからこそのゆったりとした滅びを身に帯びている。
それを悲しいと思う気持ちを埋め込まれていないから、彼らの健気と悲壮はモニタの外側、勝手に彼らを置き去りにした人類と同種である、僕らだけが感じる。
そこに切ない喜劇性が宿り、日常となった悲劇が過剰な重さを帯びず踊る。
すっかり変貌してしまった世界で、オーナーが命じたような持続性あるホテルの本道は果たし得ないだろうけど、着実に終わっていくあのロボットたちに、なんでも良いから使命を果たさせて欲しいと、勝手に思ってしまう。
どうやら宇宙人たちが”お客様”にはなってくれるようで、そのトンチキは完璧を求めるヤチヨにはノイズにもなるだろうけど、誰も訪れぬまま櫛の歯が抜けるように、ロボたちが斃れていく未来よりは騒がしく、愉快で、生きた物語になるだろう。
第1話のサブタイトルに求められた”物語”は、ロボとホテルだけでは完成しない。
”お客様”あってこそ、定められた静かな滅びをひっくり返し、新しい物語が動き出すのだ。
その必然性を、”お客様”が顔を見せないホテルの寂しさ、そこにたどるロボ健気にしっかり刻み込んで、素晴らしいスタートだった。
この銀河楼の当たり前の日常を目の当たりにしてしまえば、こんな寂しい物語でロボ達が終わっていく結末をひっくり返してくれと望むし、これからホテルに満ちていく騒々しいお話を、一つの救いだとも思えるだろう。
無論ヤチヨが求めていた人類の帰還でも日常の再獲得でもないが、そこに何かを見いだせるのなら、プログラムを超えて機械がどこかへたどり着く、ヒューマニティSFとしての味も宿っていく。
もてなす存在として生み出された彼女が、待ちわびた新たな物語。
それが愚直で純粋な機械の在り方を裏切らない、優しくて面白いものだと良いなと心から思える、良い第1話でした。
世界が滅んでも銀河楼は奇跡のように綺麗で、それを当たり前に、身を削って保ってくれていたロボたちの健気に、思わず涙が滲む。
そういう奴らがな~んも報われねぇまま、静止した滅びの中終わっていく未来が、朗らかに丁寧に綴られて、どうにもたまらない気持ちにもなる。
それをぶっ壊してくれるってんなら、エイリアンだろうがミュータントだろうが熱烈歓迎…なんだが、誰かを傷つけるのとか慣れてねぇ、生粋の接客業だからよ、銀河楼スタッフは…。
あんま激しい展開には、してくれないでねホント。




というわけで、”お客様”という物語を待ち望みつつ満たされない、美しき銀河楼の日常から物語は始まる。
美術とデザインが最高に良くて、霊長なき世界の静謐な美しさと、それに飲まれるのを必死に拒んで清らなホテルの存在感が、題材に相応しい上品さでもって静かに、力強く立ち上がっていた。
無人の銀座で最高のもてなしを維持する、奇妙で切ない状況を彩る存在として、竹本泉デザインはあまりにドンピシャ…最高以外の言葉がねぇ。
可愛いだけで突っ走ると思いきや、備品はねぇわ事故は起きるわ、掘削ロボさんを襲った悲劇は治療できないわ、死の影は思いの外濃い。
とにかくホテルの描写が整っていて、人間が生み出す秩序の極限って感じではあるのだが、ドア開け芸を天丼しまくるドアマンロボさんを筆頭に、避け得ぬ滅び…それが生み出す無秩序の気配は、ユーモアで覆い隠せない毒を作品に与える。
だからこそ無邪気な機械喜劇に後ろめたさが宿り、ブラックな陰影が笑いを際立たせる構図でもあるのだが、俺としては笑えなくてもいいから、この健気な機械たちが作り出された意義を、果たすことを望んでしまう。
この思い込みも”人間”の勝手な体熱移譲で、壊れていく機械は何も感じていないのかもしれないが、そこら辺を探る手立ては中々に難しい。
ヤチヨを筆頭に”人間味のある”応対をたっぷり味あわせてくれるロボたちだが、彼らが果たして”人間”なのか…その分水嶺がどこに在るかを、簡単に断言させない厳しさが、朗らかな作風に確かに香ってもいる。
これは今後、地球外知性体をお客に迎える物語が、改めて何かを問うていくための足場にもなるのだろう。
「これこそが人間だ」と思いたくなる何かが、人ならざる何かに宿る時、ヒューマニティはありきたりな外装を引っ剥がされ、不定形な中身を引っ剥がされる。
SF…あるいはファンタジーの正統な機能を、力むことなく果たそうとしていて好感である。




ともあれ穏やかで美しいホテルの日常に、ロボットも狂うし傷むし滅んでいくという、考えてみれば当たり前な事実が積み上がっていく。
彼らはメンテナンスなしで永遠に生きられる非生物ではなく、時の流れに理不尽に存在を削り取られていく、生物的存在だ。
あっという間に絶滅寸前まで追い込まれた人間とは、また別の足取りで進んではいるが、主を追いかけるように備品は枯渇し、掘削ロボさんは壊れ、ヤチヨは定められた完璧さがいい塩梅にバグってきても来る。
オーナーの遺言を餞別に背骨を伸ばしてみても、シャンプーハット一つでヤバ領域に突っ走るほど、今のヤチヨは限界だ。
100年共に働いても、水ぶっかけられるのが苦手なドアマンロボさんの気持ちは伝わらないし、滅びから彼女たちを遠ざける機械の頑なさ、同じことを絶望せず繰り返せる愚直は、必ずしも救いにはならないのだ。
なら別種の存在とのコミュニケーションが、壊れかけな彼らを救ってくれることを望んでもみたくなるわけで、さて奇妙なお客様は穏やかな滅びを内包したホテルに、どんな変化をもたらしていくのか。
ドアを開けないホテルの内部を保つホメオスタシスが、扉を開け外部に適応して変化していくためのアロスタシスと接合した感じがあって、生理学SFの味わいがある展開でもあった。
Bパートヤチヨが見せたトンチキは、笑いを誘うと同時にひどくヤバくて、そのヤバさを自覚できてない所がマジヤバイな、と思った。
一瞬で検索される経営プランとかもなんか調子外れで、しかし彼女のポンコツを指摘し正す誰かはとっくに滅んでいるわけで、やっぱこの穏やかな永遠に身を置いてても、どんどんロボは錆びていく。
それはそれで美しいものであると、従業員の奮戦で美しく保たれている銀河楼と、人造物と森が美しい調和を見せるポスト・アポカリプス銀座の景色は語るけど。
そこに確かに、健気に必死にあがいて使命を果たそうとする”命”を見てしまうと、完成された美しさより無様な変化をこそ、望んでみたくもなる。
コメディに必要な必死さと活力が、良く整った美しさの奥しっかり息づいていることを教えてもくれる第1話で、大変良かったです。
”お客様”抜きだと銀河楼がどうなっていくのか、一話使ってその日常を積み上げることでイヤってほど解らせて、今後生まれるドタバタへの期待感を高めてきたのは、本当に巧い。
まぁ画面の外で僕が望むような、整った幸せばっかが押し寄せるわけじゃないと思うが、その計算できなさもまた、生の一つの実相だ。
そういう騒々しい瞬きに飛び込んで、ヤチヨたちの無垢なる健気になにか、変化と実りがあってほしいなと、心から思えるスタートでした。
みんな可愛くて世界は残酷に綺麗で、凄く面白かったです。
次回も楽しみ!