狂って外れた歯車が、夢中なキミでハマり直す。
ズルい男の描かれざる物語が語られる、カラオケ行こ! 第5話である。
メチャクチャ良かった。




話としては第4話エピローグを狂児サイドから掘り下げ、語られざる男の情念をズップシ深く差し込むアニオリ…になるんだろうか。
岡くんの青臭く真っ直ぐなあり方が、笑いとともに抜いてた湿度がエピソード内部にじっとり湿って、そこに煤けたヤクザ味が混ざり合い、大変いい感じの味わいだった。
ムショ入ってもヤクザ稼業に戻ってきて、地獄カラオケ負けて墨掘られて、狂った調子で流れるままに。
岡くん視点だとなかなか見えてこなかった、自分の人生のハンドルを自分の思うままには出来なかった男の悲哀と、ペーソス入り混じるユーモアが同時に迫ってきて、大変いい感じのコクがあった。
このエピソードは狂児を謎めいて無敵な男の位置からズラスわけだが、そもそもそんな男じゃないからこそ岡くんと出会い、知らず感情を絡め取られ、距離を取ろうとして運命的に出会い直し、自分から声をかけてしまった。
ヤクザ辞めるのも、健全に愛した男から距離を取るのも出来ない、狂った歯車に乗っかっていること自体に結構夢中な、ダメでズルい男。
その表情が改めて掘り下げられて、作品に宿る魅力的な艶は更に深くなったと思う。
高校生同士トボケて健全な関係性が描かれた「夢中さ、きみに。」を挟んだことで、年齢差のある合唱部とヤクザが不思議な出会いを果たし、濃厚な感情を不思議な温度感で育てて別れ、再び出会い直してしまうこの物語の狭さと熱さが、改めて感じられた気もした。
この話は徹頭徹尾、岡くんと狂児の湿って強い繋がりで構成され続けたわけで、最後に狂児がどんだけ空疎な人間であり、土壇場に追い詰められてそういう空っぽ人間から絞り出された男の名前を聞くことで、そんな想いが爽やかな点睛を得たなと感じた。
第4話での再開で「こうじゃねぇかな…こうあってくれねぇかな!!」と思ってた、数倍湿った情感がその身に刻んだ印にあったね。
刑務所から戻ってきて浦島太郎状態の狂児が、結局戻っていけるのは岡くんのいないカラオケ天国ではなく、ヤクザの事務所であり地獄カラオケだ。
三年間の別荘ぐらしで、自分がどんだけクズな場所に身を置いているか忘れ”油断”していたツケを払わされるわけだが、それは自分を取り戻し止まっていた時間を動かし直す旅でもある。
そこら辺の時間とアイデンティティを象徴化する上で、レディスの時計が預けられ修理され手首(新たに刻んだ刺青に近い場所!)に戻ってくるまでのお話にしたのは、大変鋭い演出だった。
そう、狂児はどこか女性的な艶と婀娜なセクシーさを、軽薄な態度の奥に宿す男なのだ。
狂児に出会って少し狂いかけた人生を、岡くんは微笑ましい青春の暴走で収まる範疇でまとめて、高校生活はヤクザと無縁な当たり前を過ごしてきた。
狂児も獄中生活で己を改め、ヤクザと無縁な全うに生き直すことだって出来たはずだが、既に狂ってしまった歯車を取り戻す気もなく、流されるように彼はヤクザな暮らしへと戻っていく。
そこで珍しくクリティカルな入れ墨を差し込めるようになった組長に、新しい名刺と愛の証を手渡されて、ようやく狂児の狂った歯車がもう一度狂い、人生が動き直す。
終わったはずの物語は新たな舞台へと進み出し、腐れ縁な運命を狂児は意識して掴み直す。
岡くんがカラオケ天国に残った、三年前の思い出を高校卒業というタイミングで思わず掴み取ってしまったように、狂児もまた自分で決断して、空港で岡くんに声を掛ける。
いい大人ならそのままサラリと無縁になって、ヤクザな生き方に狂わせていく可能性を消してあげれば良いものを、狂児は岡くんとの時間がもう一度動き出し、一緒にカラオケする未来を諦められなかったのだ。
それは好きなものも嫌いなものも思い浮かばず、流され狂っていく人生にそこまで反発もしない、妙に低体温な暴力主義者が見せた、譲れぬ熱だ。
そういう空疎と熱がこのアペンディックスにおいて、狂児主役だからこそ深堀りされて、とてもセクシーだった。
奇妙な時の流れに翻弄されて、薄くなり消えてしまいそうだったものが、不思議な引力で人間を引っ張っていく。
あと一日遅かったら狂児は地獄カラオケに巻き込まれず、愛の刺青を刻まれず、自分がどんだけ岡くんに夢中だったのか、思い出さずにいられただろう。
だが彼の歯車を狂わせた不思議な流れは、その全てをもう一度彼に刻み込んで、新たな物語を駆動させる。
時計はもう一度時を刻み直し、レディスを「まあええやろ」で身につける男は、輝きの中で彼のダーリンを見つけ直してしまう。
そういう引力が、果たして良いのか悪いのか。
そんな価値判断から離れた場所にこそ、歌は響くのだろう。
岡くん魂の”紅”が伝説になってたり、可愛くろくでもないヤクザたちにクスッと笑わされたり、その和らぎがエピソードに宿る苦みやコクをすんなり飲ませてくれたり、とても良く仕上がったお話だった。
どんだけ可愛げがあってもヤクザはヤクザで、狂児はその生き方から逃れられない/逃れる気がない。
何もかもがどーでも良い彼の中で、肌に刻んだ”聡実”だけが熱く燃えていて、きな臭い人間味を飄々とした顔に刻み込んでいく。
その行く末がどうなるのか、アニメで見るのは難しそうではあるが…想像のし甲斐がある、蠱惑的で美しい余白で終わってくれた。
とても良い読後感である。
僕は第4話エピローグでボンと飛び出した、「近松かよ!」と思わず突っ込むくらいの狂児の情念にメラリと炙られてしまった人間なので、最後に底を深く掘り下げてくれたのは嬉しい。
そういう熱が、肌に刻んだ男たった一人のものである事実は、彼が狂ってしまった運命にヘラヘラ笑って流されてしまえる、極めて虚無的な男だからこそアツい。
こんな愛の兇徒に好かれてしまった岡くんも災難だが、半分くらいは岡くんが負けずセクシーであるのが理由なので、お似合いのカップルであろう。
東京で響くだろう歌も、笑いと艶に満ちて素晴らしいものであることを祈りつつ、このお話が見れたことに感謝を。
面白かったです。