迫る白刃、絡まる因果。
とかくこの世は非条理に満ちてい、しるこの甘さと丸薬の苦さを混ぜて飲み干す。
しゃばけ第5話である。




久方体調が良いので店番をしてみたら、血なまぐさい事件の下手人が客として転がり込んできて、暗がりの中何も出来ぬまま助けを待つ。
若旦那のお姫様気質と、他人に頼ることしか出来ない息苦しさがさらに際立つお話…のようでいて、妙な気がかりを残して物語は続く。
乳母日傘の立場とは違う栄吉の、地面に足をつけているからこその世知辛さを間近に聞いて、少年と青年の狭間に立つ一太郎は何を思うのか。
それはさておき、物語は一千年前の恋物語へと視点を移しそうだ。
話も折り返しに近くなって、主役が主役である手応えが薄い独自の味わいがより強くなっているけど、やっぱこの無力感と息苦しさが作品の真ん中にあるんだろうな、とは思う。
棒手振りと大工の稼ぎの違いもピンとこない、婿取ってでも家を継ぐ庶民の世知辛さもわからない、危機に貧すれば三日は寝床に縛り付けられる。
ちと場面が荒くれてみると、やっぱ若旦那の蒲柳之質はなかなか大概で、体も心もひどく頼りない。
栄吉兄さんがそこら辺、親身に思えばこそ、あえて踏み込んだ話をしてくれたのはとても良かった。
長崎屋の関係者だとここら辺の苦薬、なかなか手渡せないってのは、お菓子ばっか食わせてる様子からも見て取れる。
若旦那もそんな自分、自分を取り巻く世界を「しょうがない」と諦め飲み込んでいるフシがあって、まぁ一念発起すりゃ二本足ですっくと立てる身体が手に入るわけでもなし、適切な生き方だとも思うけども。
しかし表向きの下手人が、反魂の妙薬求めて懐に転がり込んできて、人間社会の範疇では一応事件が収まってしまうラッキーでしか、現状事態は動いていない。
若旦那だからこそ出来ること、解決できる事件がどこにあるかすら、ぼんやりと霞んでなかなか不鮮明なまま、そろそろ物語は折り返しである。
ゆったりと時代の空気を感じられて嫌いじゃないが、まーこのタイパ時代に思い切った話運びを選んだな、とは思う。
ここまで話に付き合ったら、このアダージョで何を描き切れるのか、見届けたい気持ちで是非にも付き合わせてもらうわけだが。
白刃が目の前に迫る窮地にあっても、地力で問題を解決できない手弱女振りには、正直なかなか思うところがあった。
若旦那が望んで誰かに頼るしか無い身の上じゃないってのは、既に幾度も描かれているし、社会的立場も人間としての性質も、人の采配に天分があるわけだが。
それにしたって地力で運命を切り開く権利も薄く、流されるばかりの日々はなんとも疎ましかろうと、改めて思う騒動だった。
ここら辺のままならなさを、諭しつつ解ってくれる兄さんが店の外にいるのは、良いことだなぁとも感じる。
一切瞬きをしないギョロ目が異様さを際立たせる、下手人にして客への応対は、店の売上度外視してて弱い人に親切に出来る、若旦那のニンがよく見えた。
善徳であるはずの仁が武器にならないのが商いというもので、そこら辺のエゲツナさを番頭にアウトソースして、悠然と構えるのが大店の資質…というものかもしれない。
しかし頼みのお付きがノサれちまったら、ブルブル震えながら助けを待つばかりの姿はいかにも儚く、その後寝床に倒れ伏す様子と合わせて、若旦那の現状がよく見える場面だった。
胸元の薬を目潰しに擲って、最後の活路を掴み取るところには、若旦那なりの足掻きが感じられて良かったな。
生きるか死ぬかの現場に身を置きながら、表向き下手人が上がって事件が片付いた安堵に落ち着くより、疑問点をさらって深く考える若旦那は、やっぱ病身にそぐわぬ探偵気質を持ってると思う。
このまんま流されるまま事件解決となったら、いかさま物語を引っ張っていく推進量が弱いと言わざるを得ないわけで、謎めいた事件の奥にはまだ、見鬼だからこそ見極められるものが残っているのだろう。
常人が見落としてしまう狭間の謎を、すくい取って見定めれる眼力こそが自分だけの強みなのだと、若旦那が気づいていくお話がこっから広がっていく…のか、先は定かじゃないけども。
好い人なので、何らか生きてる甲斐ってのは見つけて欲しいね。
かくして人間社会では事件に一応の目鼻がつき、若旦那は今日も寝床に縛られる…と思ってたら、栄吉兄さんが人生の重ッたい部分を土産に携えて、今青春患者に必要な苦薬を手渡しに来てくれた。
栄吉の作った不味いあんこを食いたくなけりゃ、別のお菓子をいくらでも誰かが用意してくれる恵まれた環境では解らない、生きることの煩雑な味わい。
米に混じった小石を噛んだような、それでも飲み下さなきゃ干からびて死んでしまうような、そんな世知辛さが世の中にはあることを、親身に伝えてくれる幼馴染はまこと有り難い。
ボンボンには耳の痛い話を、ちゃんと聞けるあたりやっぱ若旦那はニンが良いなぁ、と思う。
令和の世の中で15っつったら、まだまだ学校で己に悩み道を探してる頃合いであるけど、お江戸じゃそうはいかない。
職業選択の自由も自由恋愛もはるか未来、生まれついての職分と家の重さに似合った相手と、番って継いでいくのが何より重い時代では、若旦那の嫁取りもまぁまぁ現実的な話だ。
妹の淡い思いを知りつつ、あえて不躾に叶わぬ夢と叩きつけた栄吉兄さんもまた、菓子屋を継いでいくには腕が足りてない己を呪いつつ、どうにか生きていく算段を土まみれ、必死に探している。
そしてそれは、狂気に満ちた下手人も同じなのではないかと、幼馴染は高御座におわします御曹司にゃ見えない世界を教えてくれる。
棒手振りと大工の稼ぎの違いも解ってない若旦那には、それで人が死ぬし生き返らせようと必死にもなる、銭と血にまみれた世間に馴染みがない。
そののほほんとした…のほほんと暮らしていけてしまう財布の分厚さが、相手のことを心底思いやる仁に通じてもいるわけだが、健康と同じく彼に足りていない部分でもある。
家から出ていくにはもう遅すぎる十八の歳まで、そう離れていない自分がこの体で、どう大店を取り回していけるのか。
堂々世間に知らせるには不可思議すぎる、人外の友人たちはそんな未来を、どう助けてくれるのか。
危機を生き延び下手人が捕まったとて、別に若旦那の息苦しい檻はほどけやしない。
さてそんな憂いを晴らすのに、長命種の永い恋がどんな薬効を見せるのか。
ここで未だ残る事件の謎を焦って追うより、時を巻き戻してあやかしの恋バナするのが、まーこのお話のテンポ感だよなぁ…などと思いつつ、次回を楽しく待つ。
恵まれてるからこそ息苦しい、若旦那にハマった絹の首枷を江戸の空気とともに延々描き続けているこの物語。
令和流行りのアップテンポとは真逆だが、やっぱこの足取りでしか感じ取れないものはあるなぁと、今回も感じた。
栄吉兄さんとの会話が、長屋の蓮っ葉とも武家の硬さともまた違った、町衆の匂いに満ちてていっとう良かった…。
やっぱ生活史のスケッチとして摂取してくのが良い気がする。