”おそれつゝしむべきは まゝ母のそねみなり”(桃山人、絵本百物語)
特殊エンドで補完も万全! わたたべアニメ第8話である。
想定より遥かにD&D(Direct&Dangerous)な人喰いだった千羽あやめを起爆剤に、汐莉が秘めてる過去の縁へ物語が伸びていく回。
まーさか”桃山人夜話”からダイレクトにネタ引っ張ってこられるとは思わず、妖怪オタクの血が大沸騰ではあるが、母を喪った子と継子を殺した母の間に、ずっしり重たい共鳴が生まれるエピソードだった。
これが前回生まれた汐莉との不協和音と響き合って、なかなかコクのある奥行きが出てきてるが、さて人魚との交流、どこへ転がっていくのか…。
どーも第1話以前から汐莉が比名子と邂逅してたっぽい匂いは、前回既に漂っていたけども、閉じた三角形の外側から乱入してきたあやめが、爆弾投げ込むだけ投げ込んで去っていった。
汐莉はプライドが高いバケモノなので、エゴイズムの奥にある絆の真珠は自分から見せないだろうし、ベテラン妖怪として人外界隈の常識をよく知る二口女が、色々喋って変化を促すのは、理にかなった動きだと思う。
家族との死別以来、比名子の情緒が赤ん坊のまま止まっているので、放っておいても状況があんま動かないんだよな…。
本当に死んでしまいたいのかも、あの子本当のところは解ってないだろう(からこそ、汐莉達と触れ合う中で今後解っていくんだろう)し。




善い親子でいられなかった結果人でなしになってしまったしおりと、喪った母の気配を彼女に見出す比名子の視線は、ズレたまま不思議と重なっている。
せっかく被った人の皮を引っ剥がし、二口女の本性をさらけ出してでも味わいたい、美味しそうな贄。
その奥に、未だ残っている人間性を疼かせる思い出を、誰かに重ねて見てしまう未練と哀れみ。
取り返しがつかぬほどに喪われたものを、それでも求めてしまう代償行為だと解っていても、喰う/喰われる以上の痛みが二人を繋いでいる。
一話限りのサブキャラにしては、主人公の深いところに適切に入るバケモンだな…。
おぞましい本性を顕に、比名子を喰おうとした試みは汐莉の乱入…というより、血に刻まれた縁の残り香に阻まれ、あやめは人の皮を己に貼り直して、ごめんねとさよならを告げに戻ってくる。
人でなしに堕ちても人だった頃の名残に引きずられるその姿は、バケモノの”本性”というのがどこにあるのか、考えさせるには十分な情感を持っていて、なかなかに興味深い。
「母を喪った主人公と、子殺しの後悔に呪われたバケモノを絡ませると、絶対面白い化学反応が起きるぞ!」と思いつくの、なかなか良い趣味しててスゲーなと思うねホント。
そういう感性じゃなきゃ、本格人外怪奇百合はやろうとしないか…。
比名子を食いそこねることで、あやめは死体のまま動き回る人喰いのバケモノではなく、間違えきった己の罪を後悔しながら生き続ける、元(あるいは現)人間として、物語から退場できる。
そして汐莉が飄々とした態度で覆い隠す真実の欠片を、餞別代わりに受け取った比名子は、待ち望んでいたはずの死を前に自分が何を感じたかも含め、かなり大きなモノを二口女から受け取ってもいる。
食うか食われるかの大立ち回りを演じておきながら、親子関係の代用品としての濁った爽やかさ含め、妙にコクのある関係性が生まれているのが、なかなか面白い。
その共鳴が、あやかしを引き付ける贄の血と混じりつつ、ちょっと違うところから響くのも。




あやめは魅力的な餌ではなく、継子の面影を残す人間として比名子を見ることで、人間としての自分を取り戻した。
そのための警告の意味合いも、比名子に告げることのないまま混ぜ合わされた、人魚の血には宿っている。
比名子に生きたいという気持ちを取り戻させ、あやめに人間性の残滓を蘇らせた行為は、自称・身勝手なエゴイストの勝手な振舞いから生まれている。
結果として二人救っている汐莉は、しかし行いに立ち現れる優しさを自分らしくないと遠ざけ、怪物そのものな己を月下にさらけ出して闘う。
その醜悪に、比名子は酷くぼんやりした、幼さを残した表情を見せる。
柱が生み出す境界線越し、同じ目線で座ることはないけど言葉は交わす、美胡ちゃんの位置取りが面白い。
その親しくない遠さは、秘せる傷口にすら手を触れることを許した近さから、どんどん遠ざかって解らなくなっていく比名子との距離に、不思議と似ている。
比名子が汐莉に求めて満たされない、”友達”なるものの遠さを、あやめの襲撃は改めて問いただし、月下に暴く。
美しい外見を引っ剥がし、なりふり構わず牙を剥くバケモノを前にしても、比名子は慄くことがない。
それは古傷がさらけ出された時、美醜など問わなかった汐莉の態度と、どこか似ている気もする。
ここにもまた、人でなしとの共鳴がある…のか?
あやめの襲撃によって、クールぶった人魚に熱い血が流れていることも暴かれてきたが、そうやってたった一人のためになりふり構わず、狭く深いところまで突っ走れる身勝手が、美胡ちゃんにはない。
「産土神たれ」という縛りを高僧に叩き込まれ、”みんなの美胡ちゃん”であり続けている彼女は、バケモノが襲いかかる可能性を危険視して、比名子だけのために駆け出すことが出来ない。
その正しい公平性では追いつけないところに、比名子とあやめは突っ走りかけて、汐莉が身勝手なエゴイストとして追いついてきたから、道を踏み外すギリギリで己を取り戻せた。
それは死を目前に、思いの外死にたくならない自分に気づくことも含む。
美胡ちゃんに優しく見守られていても、かなり深めに死にたがっていた比名子が、自分の中にある生への希求…ギクシャクすれ違ってなお汐莉を思う心を取り戻すのは、あやめの襲撃起因である。
太陽に照らされてる日常では気付けないものも、暴力的な北風が突然吹き付けるからこそ気付けるという、逆イソップ寓話みてーな状況になってきたが、同時に比名子は死に取り囲まれているとすぐ死ぬので、美胡ちゃんの庇護も必須である。
生と死の狭間で揺らぎながら、グズグズ迷って答えが出ない欲張りさんの相手は極めて面倒だが、それもまた惚れた弱み、狐も人魚もまー大変である。




付きぬ疑問が海底の気配を連れてくる中で、汐莉の顔貌がバケモノのまま戻りきっていないのが、とても印象的だ。
それくらいなりふり構わず比名子を助けに来たわけで、その真意を探るには、息を継げない苦しさを覚悟の上で、深く深く潜っていく必要がある。
何も言わぬまま遠くに離れていく背中が、何を思っているのか。
あやめの襲撃がひび割れさせたのは、比名子だけではない。
食欲のエゴイズムを露悪に突きつける割に、血に刻まれた因縁はそれを裏切ると知った今、汐莉が告げていた殺戮の救済を、疑ってかかる頃合いに話が差し掛かってきた。
理性の権化と思っていた人魚が、デカい嘘秘めてると判ると…興奮してくるなッ!
「比名子の傷は、治りが早い」
「美胡ちゃんは事故当時を、直接目撃していない」
「事故の後遺症であるケロイドは、治癒されないまま残っている」
このあたりの情報を統合すると、ぽっと出のスパダリ妖怪が実は、物語が動き出したその瞬間に、既に運命に出会ってそれを隠している可能性が、ぽこっと浮上してくるわけだが。
”フリップフラッパーズ”以来、「幼馴染を横から掻っ攫うぽっと出のポット野郎だと思ってたのに、実はよりディープで旧い関係性が二人を繋いでた」類型にぶん殴られそうで、大変にワクワクしている。
重要なのは、人喰いのバケモンが何考えて血を分け与えたか、だよなぁ。
ただのお友達で収まるはずもない、人でなしとの特別な関係。
それが比名子にとっては無自覚なまま、汐莉にとっては嘘に覆い隠して、死にたがりと人でなしを繋いでいた気配が匂う、この状況。
比名子が今の死にたがりになった喪失の現場に、人魚が同席していたとなるとこらぁ人間関係図もガラッと書き直しであるが、果たして真相やいかに。
あやめが上手く引っ掻き回してくれたおかげで、当人が明かさないだろう人魚の秘密がゴロゴロ顔を出してきて、ミステリとしても面白くなってきた。
この後比名子が深いところまで突っ込んでいって、ようやく己の本性と気持ち暴かれ証を立てた美胡ちゃんと”対等(タメ)”だかんなぁ、汐莉は…。
なんだかんだ飾ることなく、ギス付いたまま大事な話ができてるしおみこの距離感が好きなんだが、一方的にクールな強キャラぶってた人魚の秘密が暴かれると、美胡ちゃんにも反転攻勢の目が出てくるかと思う。
愉快な三角関係が大きく変化しそうな感じでもあって、そっちも楽しみである。
世間一般に堂々晒せるような間柄でなくとも、三人は三人なりの特別で確かに繋がってるわけで、そういう連中はスカシた嘘で綺麗に飾るより、生ぐせぇ本性まで暴いた上でどうなりたいのか、お互いを照らしながら向き合ってたほうが良いと思うんよな。
そういう意味じゃ、汐莉が人魚の姿を月下に晒したのは大事だ。
つうわけで二口女の襲撃が、色んな波紋を広げる回でした。
邪を払うとされ、二口女と同一視もされる「食わず女房」においてもオチに使われる菖蒲を、よりにもよって本人に付けるセンスに、勝手に痺れたりしますが。
やっぱ、古典伝奇力高いよなぁこの話…。
あやめが教えてくれたヒントを手繰って、自分の気持ちと過去の秘密を手繰り寄せた時、比名子は何を思うのか。
嘘つき人魚は、喰えない贄が自分の柔らかな部分に手を伸ばしてきた時、どういう対応をするのか。
より深く強い渦が、思いの深海にうねりだしている気配を感じつつ、次回を楽しく待ちます。
やっぱスカシた仮面引っ剥がして、ドロっとした熱い血液暴く瞬間が、百合で一番オモロいからな!