”太陽よりも眩しい星”第8話を見る。




学校行事も一段落、勝負の夏休みが近づく前に主役たちの現状をスケッチ…つう感じの回。
本命カップルのもどかしい距離感を映画デートに削り出しつつ、鮎川くんと昴ちゃんをそれぞれ当て馬にして、「たった一人アツく見つめて、様子がおかしくなる人」の特別さを際立たせる話運びだった。
こういう恋愛リトマス試験紙を抜け目なく用意して、キャラクターの現在地…そこからどう動いていくかを鮮明にしているのは、つくづくベテランの技だなぁと思う。
だからこそ、役割以上の人間味が脇役に宿る必要も出てくるんだが…まぁ大丈夫だろうそこら辺は。
このお話は笑いの作り方が上品かつ的確で、思わずクスッと笑わされちゃうおかしげが、キラキラ満載のロマンティックのトゲを上手く丸めている。
ラブコメの”コメ”が巧いことで、”ラブ”の方も食べやすくなってる形だが、それは特別にときめくと同時にトホホな笑いも沢山ある、生っぽい手触りを少女たちの青春に与えてもいる。
恋になろうがなるまいが、彼らは彼らなりの個性を持って自分の物語を生きていて、だからこそそれが触れ合った時に、思わず笑っちゃうような生っぽい体温が燃える。
本格的に昴ちゃん達が物語的役割を果たすのはもうちょい先だろうけど、村だけで終わらない実在感が、既に二人には宿っている。
だからこそライバル登場の幻影に、過剰に意識尖らせて認識歪めている思春期戦士の前のめりを、ちょっと遠いところから楽しく見守ることも出来る。
光輝くんも朔英ちゃんも、明らかに意識過剰であるがままを見れていないんだけども、そんな冷静恋路覚ますだけなわけで、むしろゴツゴツした一心不乱こそが、このジャンルでは大事だろう。
正しくなんていられない歪さと、それでもかけがえない熱が確かに彼らの間にあるから、世界は特別にきらめき、なんてことない触れ合いに星の輝も宿る。
そういう何もかもが熱く弾んで、狭く眩しく見えてしまう季節。
僕からはもう、遠くなってしまったものの手触りを、確かに感じるのだ。
朔英ちゃんには胸キュンイベントな勘違いナンパ撃退イベントも、平たい視線でみりゃまぁまぁヤバい無礼になりかねないわけで、でもそういう醒めた視界を彼女は持たない。
10年間温めてきた恋はすべての行動に特別な意味を持たせて、当人に投げかけるにはアツすぎるソレはドンドン胸の中で加速し、異様な熱量を宿していく。
そういう青春の炉心が大回転する様子を、緊密なシンクロ率と冷静な遠さを同居させつつ見守るのが、自分としてはとても楽しい。
「おー、元気に歪んでんなぁ…」と思えるシーンがある方が、作品(あるいはジャンル)独自のリズムにノれてる感じがある。
鮎川くん相手のフツーの友達感と、昴ちゃんを見る時の過剰な力みは、カードの裏表だと思う。
ままならない高鳴りに突き動かされて、誰かを特別に思う視線は、あるがままの事実を素直に受け止める正しさを子ども達から遠ざける。
それは別に消えてるわけではなく、光輝くんを眼の前にしたときだけ狂う感覚で、だから鮎川くん相手には一対一で将棋さしてもフツーに振る舞える。
そこでシュバッと前のめり、いいヤツ相手にも牽制入れてしまう光輝くんのバランスの悪さを、諦めと期待に振り回されながら彼を見つめている朔英ちゃんは、しっかり見落とす。
そのヒントに目ざとく気づけば、”正解”までは一直線だからだ。
おんなじ様に、親切にしてくれるいい先輩相手にも過剰な力みで牽制を入れて、朔英ちゃんのアタマの中にしかないライバル関係に一歩先んじようとする。
乙女のときめきをキラッキラ輝かせ、その一人称に観客の視点をしっかり重ねさせつつも、このアンバランスをしっかり客観的に描いて、彼女のバランスがチャーミングに崩れていることを、このお話はしっかり描く。
安定なんぞしていられない、グラグラ揺さぶられる心のあり方こそが、青春が加速するエンジンなのだから、朔英ちゃん一人称で綴られる世界がちゃんと歪んでいて、全うでも正しくもないのは大事だなと思った。
どこにも瑕疵のない青春は、ツルンとしすぎてつまらんのだ。
歪なんだから思い違いもするし、すれ違って痛い思いもするんだろうが、そういう視界の歪みと同時に心の真っ直ぐさも、ここまでしっかり描かれている。
傷や痛みを糧にしてより善い自分になっていける強さや、それを手助けしてくれる騒々しい友情が朔英ちゃんの隣にあることが、分厚く作品を下支えしているからこそ、今回滲んでいた歪さを、愛しく見つめることも出来るのだろう。
これでヤバい方向に突っ走ったまま戻ってこなそうな、根本的な歪みのほうが強かったら、「微笑ましいね!」なんぞ言ってらんねぇからな…。
とびきりのいい子がグラついて思い違いしたり、我に返って姿勢を正したり、可愛くフラフラしてんの見るのは楽しい。
そういう内面にクローズアップで入り込むべく、朔英ちゃんの世界を輝かせる特別な一人をキラキラたっぷりで描き、過剰なモノローグで世界を埋め尽くしもする。
描くべきもの、惹起すべき感覚に相応しく語り口の形式が磨き上げられているところが、この作品(あるいは少女漫画ラブコメというジャンル?)を見る楽しさの一つだったりする。
ここら辺の没入感の作り込みを、今回のドキドキ映画デートはスゲー強く伝えてくれて、見ていて無茶苦茶楽しかった。
「顔がちけーの見てるの見てねぇの、どーでもいいことに一喜一憂しすぎ!」というオッサンのツッコミを、正面粉砕するときめき力の高さよ…。
「それがどーでも良くねぇ一大事だった時代に、今まさに飛び込んでる真っ最中でしょうが!」つう話でもあり、どーでも良いはずのことを特別にしてくれる恋の輝き、たった一人の特別さを、丁寧に織り上げて積み上げている話でもある。
こんだけ分厚く特別さを削り出しているのに、「いや、もう結論はあの夜出てるじゃないですか…」みたいなミステリの効かせ方してるの、やっぱ凄い。
あそこからの描写全てが、あの時描かれたものを裏切っているのに、答えが全然見えない。
真実に飛び込むまでの準備を丁寧にやってるからこそ、決意の告白で全てが晒される瞬間への期待も上がるが、いやーわっかんねぇ~~神城。
「”答え”が出た後、二人でクソ映画の続きを見届ける」つう未来への指切りも果たしつつ、改めて恋に茹だった若人特有の歪んだ認識、そのチャーミングさを噛み締める回でした。
なんもかんも大間違いでズレまくっているが、それを生み出す熱こそが尊いわけで、もう思う存分突っ走っておくれ! つう気持ちになったな…。
見えるもの全てを特別に色付ける輝きが、生み出す陰りの幻。
これに気づいて己を正す瞬間にも、青春の特別な輝きってのは生まれると思うので、丁寧に描いたその歪さと、今後どう向き合うかも楽しみです。
いよいよ夏本番、一体二人はどうなっていくのか。
次回も楽しみです!