空気を震わせる音楽を飲み干しながら、ぶつかり合う瞳と瞳。
重い扉の向こう側、一対一のダンストーナメントが幕を開ける、ワンダンス第10話である。
順調にヤグラを消化しつつ、自分の身体でフロアを飲み込み、あるいは眼の前の相手と対話するバトルの醍醐味が濃く描写されていた。
カベくんはまだ踊っていないが、逆のヤグラで中ボス張る宇千くんの存在感が際立っていて、大変いい存在感である。
匂い立つような雄力を隠そうともしない、オラついて悪い感じは、ナイーブで内省的な一凛組とは毛色が違っていて…つまり、あんまこの物語にいなかったタイプのキャラだ。
カベくんと合わせて、そういう異分子を混ぜ込んで踊らせる章よね…。
僕らが一般的にイメージする”ダンサー”への偏見は、むしろ宇千くんをこそ典型的なキャラだと思いがちで、もちろんそういうヤツも踊るし強い。
強い我をもって、礼儀だの挨拶だの持ち出してくる大人なんぞ最初から眼中にない、むしろ噛みついてくるような物わかりの悪さ。
それを押し通すだけの分厚さが、自信と反発が濃い顔面から溢れている宇千くんの踊りには、しっかり宿っている。
そういう”悪さ”が生み出すスパイシーな味ってのも、個性が滲むからこそ面白いダンスには当然あるはずで、宇千くんはそういう所を担当してくれる。
彼がいてくれるから、物語世界が立体的になる。
そうやってガッポリ広がった奥行きの中で、カボくんは未だ自分なるものを真っ直ぐ立てきれず、フラフラ迷って予選に落ち、ワンダさんという支えを視界に取り戻して、敗者復活戦から這い上がってくる。
事前にセットを組めない心の在りようが、そのまんま反映される表現だからこそ、カボくんはあの時ワンダちゃんに魅入られ、ダンスに夢中になった。
「その流動性って良し悪しだよね!」つうことを、部として参加しつつ個人で競う今回のダンスバトルは、良く語っている。
あるいはフラつきながら自分を探す、ジュブナイルの本道こそがこの物語の通奏低音であることを、改めて確認する回でもあるか。




アニメを締めくくるラストバトルを前に、物語は予選の段階で主人公がどういう青年であるかを改めて削り出す。
慣れないクラブの空気に飲まれて、自分を守るかのようにパーカーで顔を覆い、キョロキョロ周りを伺いすぎて負ける。
バックボーン的に仕方がないけど、ハラ決まるまで時間がかかる男である。
地区大会の頃から評価してくれて、せっかく話しかけてきてくれた宇千くんのことも、ワンダちゃんを奪っていくかもしれない敵候補と考えてしまって、上手く適切な言葉を返せない。
一心不乱無我夢中とは程遠い、余計なこと考えまくりないつもの…今までのカボくんは、しかしワンダちゃんがピタッと隣に収まると途端に安定し、鋭い眼光を取り戻す。
距離が近づくほどに感性やバックボーンの違い、お互いの知らない部分、繋がりきれないズレが見えてきたけど、何かと不安定なカボくんを特別な存在にするのは、やっぱり湾田光莉である。
ワンダちゃんだけが世界にいない不安定さは、その隙間に伊折筆頭に色んな人を入れ込む隙間を生んでくれるわけだが、同時にダンスで戦える自分がどういう存在なのか、すぐさま忘れさせる。
元々周りが見えすぎて吃音になった感じもあるカボくんは、ワンダちゃんというスタビライザーが司会を狭めてくれないと、自分という一番近い他者に適切に繋がれない。
逆にいえばワンダちゃんさえいれば、カボくんはダンスという言葉で揺るがぬ自分を記述できる
この唯一性には危うい部分もあるんだけど、同時にひたむきな熱量をキャラクターに満たしもする。
何かと危なっかしいけど、湾田光莉さえ隣に立ってくれるなら、ひたむきに音を楽しみ、周りを気にしない自分になれる(あるいは戻れる)。
そういう必勝法を自分の中に刻み込める程度には、二人の関係は特別に磨き上げられてきたし、カボくんが異様な練習量で刻み込んだダンスは、その証明をしっかり果たす。
それが、カボくんとワンダちゃんにとってのダンスであることを、改めて確認するような回だった。
「僕と湾田光莉」と刻まれた、恋文を読まされているようでちょっと気恥ずかしく、とびきりに甘い。




この引力は才能の風に乗っかって、カボくん以外の人間にも届く。
バチバチのバトル野郎の心も動かし、素直ないい顔で納得の負けを手渡せるだけの特別さが、既にワンダちゃんには漂っているのだ。
おんなじだけの芳香を、伊折や宇千くんには発してる自分のことを認識できないまま、カボくんはちょっと暗い眼で眩く他人を引き付けるワンダちゃんを見つめる。
そこに宿る暗い炎が、誠実で真摯だった青年に深い陰影を付けて、カボくんのことがもうちょっと好きになる回だった。
そういう感覚もステップで刻んでビートで流し込んで、ダンスの糧にしていく旅だ。
カボくん自身がバトルに惹かれた理由でもある、言葉抜きで深いところまで響きあえてしまえる、コミュニケーション・メディアとしての特別性。
恩ちゃんと宇千くんの間にもバチバチ火花を飛ばしている、魂の共鳴装置としての性能の良さが、カボくんを救いもすれば、乱しもする。
フィーリングと個性を大事にする宮尾門下の一人として、そうして自分が感じたもの全部に嘘をつかず、堂々胸を張ってぶつかり合う。
激情と自信のハンマーで己の地金を叩き、鍛える旅はなかなかに険しく、カボくんは動揺しまくり、揺るがぬ自分を取り戻すまで時間がかかる。
でもちゃんと掴み直して勝つので、見てて面白い主人公だと言える。
ここら辺の自己像のブレなさが、作中の高校生でいっとう分厚い二人が、一回戦でぶつかるトーナメントは見応えがある。
一凛のダンスは思弁的で行儀が良いので、戯ける仕草すら様になってる宇千くんのバッドな感じは、新鮮で魅力的なんだよなやっぱ…。
真逆な存在に見えて、障害ゆえに誤解も多く生むカボくんを見込んで、親切に何度も話しかけてくれるしね。
まぁ見た目通り怖くて悪い部分もある男なのだが、そういう陰り引っくるめて、本当に色んなヤツが色んな踊りを踊っている。
ここら辺、作中で表現されるダンスのジャンルが広がってきてるのと、面白い呼応だなぁと思うね。
色々引っかかるポイントも多いこのアニメのダンス表現だが、ダンサー個人の資質、ジャンルがもっている匂いと色合いを、とても多彩に表現できているのは本当に良いと思う。
音源に力が入っているのもあって、音を耳で噛み砕いて身体に乗っけていく、ダンスが持つ最大のダイナミクスが良く伝わる。
そこにダンサーそれぞれの解釈が、各々の人格やそれを生み出した背景と混ざり合って匂ってくるのが、カボくん達が舞踏に夢中になる理由の一つだ。
その魅力を描き出すのに、宇千くんの黒さやカベくんの濁りは、やっぱ大事な色合いなんだと思う。
群像劇としての立体感が、バトル編になって強まってきた感じよね。
元々このお話、勝った負けたは「ダンスをすること」の付随物って色が濃い。
だから誰がてっぺんまで駆け抜けるかはそこまで重要じゃないけど、その過程でどんな対話が行われ、どんな音楽が鳴り響くかは大事だ。
あるいは勝負が明瞭につき、プレッシャーが大きい場所だからこそ、より深く豊かな共鳴が生まれる…って話でもある。
なんだかんだ、勝つか負けるかのせめぎあいはシンプルにワクワクするしなッ!
勝ち星がどっちに輝くかと同じくらい、お互いのダンスに、眼の前の音楽に、どれだけ純粋になれるかを見届けたくなる、青い炎に照らされた激闘。
次回何が描かれるのか、とっても楽しみです!