イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

スローターハウス5

カート・ヴォネガット・ジュニア、ハヤカワ文庫SF。言うまでもなく前世紀アメリカ文学で最もユニークで重要な作家の、重大な作品である。作品は精神病院と、宇宙人のUFOと、そして第二次大戦最大の虐殺地(スローターハウス)であるドレスデン空爆という三つの狂気をカットバックしつつ進む。
この小説は戦争文学である。ドレスデン空爆にアメリカ軍捕虜として居合わせ、そして小説家が二次大戦の虐殺を前にしていつもそうであるように、ヴォネガットもまた、ひどく時間をかけてこの小説を書いた。小説家が二次大戦の虐殺を前にしていつもそうであるように、この作品は混乱し、盛り上がりに欠け、迷走する。
この作品で最も多用されるのは「そういうものだ(So it goes)」という言葉である。黒焦げになった死体、惨めな処刑、情けない突然死、そして虐殺。全ての行為の後には、言葉の放棄が付きまとう。それでも、その言葉を呟かなければならなかった、そして呟くことに成功したヴォネガットに、僕は敬意を払う。
噛み砕くことが出来ないものを書き砕くこと。語りえぬものを語ること。失敗を失敗すること。それは無為かもしれない。無駄かもしれない。愚挙かもしれない。それでも、やはり語る以外に、僕たちに残っているものがあるのかどうか、僕にはわからないのだ。だから、僕はヴォネガットに敬意を払う。傑作である。