イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

パレスチナとは何か

エドワード・W・サイード&ジャン・モア、岩波書店パレスチナに関するフォト・スケッチ。個人的な書物である。パレスチナ亡命者(サイードの嫌悪と憤怒に敬意を表して、ディアスポラではなくエグザイルといおう)である筆者の文章はあくまで敬意で平易であり、さらさらと流麗な文体で、清潔な視線を持って深くパレスチナを見つめている。自分が生まれ、追い出されたホームを。
公共的な本である。サイードは言葉を荒げたはしない。プロパガンダ的な言辞を使いはしない。オリエンタリズムという一つの思考装置を完成させた知識人として、静かに、そして丁寧かつ正確に言葉を選び取り、必要な事象を的確に分析し、我々の前に提示してくる。それは即ち、サイードが属しているアカデミズムの基本にして究極の武器だ。
私と公。相反すると思われがちな二つの要素はしかし、パレスチナ人/西洋学者という分かたれた自己を誰よりも深く認識しているサイードによって、そしてモアの力強くも美しいあまたの写真によって、素晴らしい形で僕の心を揺さぶった。
モアの写真もまた、静かに、そして強くメッセージとして機能する。どのようなプロパガンダのフィルターもかけず、ただ、パレスチナという地が孕むさまざまな矛盾を、パレスチナ人が苦痛とともに受け入れさせられている現状を切り取ってくる。その静謐はサイードの静謐と静かに絡みあい、奇妙な熱を持って僕の心を揺さぶった。傑作である。