イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

増補・イエスと現代

八木誠一、平凡社。イエス研究からエゴイズムを考慮する研究書。敬虔な書物である。そして、厳格な書物である。筆者は神学者であり、神父ではない。それ故に、組織とは隔絶したある意味理想主義的イエス研究を行い、それを我々の世界にコンタクトさせていく。
そう、重要なのは彼の語るイエスとキリスト者の世界は常に我々と接触し、浸透している、ということである。イエスの言葉は倫理ではない、それを理解し、解釈し、行えと提言する姿勢。自己に存在するエゴイズムを引きちぎり、神の前にただ独り立つ存在にして、愛を持って他者と接触する矛盾存在としての自己を獲得しろ、と提言する強靭なスタンス。キリスト研究の成果の限界をあえて指摘し、解釈しすぎないよう注意を喚起することも忘れない。その真摯な態度は稀有だ。
そして、対立する論の成功点ははっきりと認めた上で、自説をそれを訂正する形で展開する論説の柔らかさは、優しさと可読性に直結している。筆者は厳しくイエスの言を理解することを要求し、それを共に追い求めようとかたりかける柔軟かつ現実的な姿勢も持ち合わせている。
日本人は宗教アレルギー、といわれる。たしかに、安易に救いを喧伝して金銭を剥奪するような宗教結社も多い。だが、全うな宗教者たちがこの神無き世界でもがいているのは事実であり、そのもがきは真摯で強い、ということも事実だと思う。そのことを無視して、一概に宗教の成果を否定することは、僕には出来ない。そしてキェルケゴールの影響が強いこの本は、真摯な本である。名著。