ローレンス・ワット=エヴァンズ、早川SF文庫。久々に青背である。積みっぱなしになっていたのを引っ張り出して読んだ。永遠に夜が続き、昼の側は放射線と熱で死の世界である惑星エピスメテ。しかし、当初の観測とは違い、非常にゆっくりとした速度でエピスメテは自転しており、やがて夜の側に造られた「ナイトサイド・シティ」は昼に飲み込まれ消滅する。
なかなか面白い道具立ての中に、ひどくオールドスクールなディテクティブ・ノヴェルを詰め込んだこれは、なるほどミステリSFだ。SFの部分の頭のひねり具合がなかなか面白いし、探偵小説としての適切な温度のなさと滑らかな湿り気が、読んでいて小気味良い。V・I・ウォシャウスキーのようなハードでソリッドな女探偵が肩で風を切って歩く。陳腐でありふれているが、やはりそこには様式美がある。
様式美しかない、と言えなくもないが、それはそれ。ボギーなディテクティヴ・ノヴェルズは、陳腐なくらい当たり貴社力なやりかたが、僕は好きなのだ。そしてSFには欠かすことが出来ないスパイスである細やかな「ここではないどこか」の描写−AIタクシー、カメラ・あい、そしてナイトサイド・シティ−の切れ味は、久々のSF読書をいい時間にしてくれた。