イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

現代人の起源論争

ブライアン・M・フェイガン、どうぶつ社。アフリカからオセアニアにいたる、15万年前から4万年前までの人類の祖先たちに関する書物。現代は「エデンから離れて」。全氷河期にアフリカに出現したホモ・ハビリスからさまざまな場所・さまざまな時代に写りゆく人類の諸相を、丁寧に描いている。
まず目を引くのは、先史時代のさまざまな情景を眼前に叩きつけるような、豊かな情景性である。それは言語を的確に選択肢使用していることが一つの原因だろうし、大量の考古人類学的資料を的確に引用・指摘することで、ともすれば浮ついたオリエンタリズムになってしまいがちな「原始人」の世界を、まるで隣人のように描いていることも大きな要因だ。
いかにして人類は動き、ヨーロッパの氷河でくらし、アフリカのサバンナで猟を行い、アジアに竹の文明を築き上げたのか。線形な人類「進化」の視点ではなく、あくまで考古学的視座に立って、具体的な発掘品の分析や、出土した骨格の具体的な分析を交えて人類の変遷を描く筆は正確で、的確で、何より香り深い。
個人的にはアフリカのサバンナの狩猟民たちが狩りをするときに、最も重要なのは知識と戦術、そして忍耐という「知恵」だったという分析(とそれを支える資料の提示)には胸が躍る。西洋主義的視座に毒された僕はやっぱり、狩猟が非常にインテリジェントな作業であり、強力な槍や毒ではなく狩りの対象への知識こそがハンティングを成功させる重要なファクターだということ、そしてなによりそれに「原始人」が練達していたということには、横っ面をぶん殴られるような衝撃を受けた。
けしてセンセーショナルな立場には立たず、今もなお流動的に最新学説が変遷する考古人類学という学術の足場にしっかりと根を張った記述の中に、人類の祖先たちの生活を豊富な写真・図版と共に豊かな文体で描いている本である。良著。