イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

生物時計はなぜリズムを刻むのか

ラッセル・フォスター&レオン・クライツマン、日経BP社。タイトルどおり、時間生物学−生物の体内時間に関する学問−のライトサイエンス。執筆者は分子神経科学者と放送キャスターのコンビ。
とにもかくにも時間生物学の本である。わき目も振らず、ただ生物時計に関するさまざまな実験、観察、理論を丁寧に記述し、解説している。対象としている生物はヒト、ムクドリ、ハチ、シロイヌナズナ、リスザル、ハムスター、オオカバマダラノビタキ……。とにかく膨大な種類の生物を対象に、各々の生物時計の特徴や機能を分かりやすく説明している。
それを取り上げる方法もさまざまである。観察や動物実験、DNAとRNA解析、神経伝達物質解析、SCN−視交叉上核−を始めとする脳の機能解析、光受容体の解析などなど、生物が時間を感覚する方法を分析するため、本当に多種多様な科学的方法が取られ、解説されている。
そして、その多様さは一点に収斂する。生物がいかにして時間を知るか、という時間生物学の一点に。そこは揺るがない堅牢な地盤であり、がっしりと論述の足腰を下ろし、易いライトサイエンスにありがちな「自然の驚異」を紹介するだけではない、精密な科学の言葉を支えている。専門用語は多々出てくるが、論旨が明確なこと、深い理解に基づいて書かれていることから分かりやすく読みやすい。
ツァイトゲーヴァー(同調信号)、SCN、メラトニン、概日リズム、概年リズムなどさまざまな重要タームを丁寧に追いかけ、最終的には24/7社会−二十四時間、七日間常に活動時間である現在社会−やクロノテラピー−ヒトの生物時計に合わせた投薬により、投薬効果を挙げる薬学−にまで話は及ぶ。記述はここに至って遠くにあることを止め、ヒトの、そして読者である私の隣の問題にまでなってくる。それにリアリティをもたらしているのは、そこに至るまで積み上げてきた徹底的に基本的かつ丁寧な時間生物学の記述であり、そこに徹底されている科学の言論である。
わき目も振らず徹底的に時間生物学の問題を語りつつ、対象と方法の両点を多様に取ることで豊かな内容を実現させている。その言説は正しく堅牢で科学的だし、同時に論理的で分かりやすく、可読性が高い。ライトサイエンスかく在るべしという本である。良著。