イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

心の輪郭

川合伸幸、北王子書房。非常にニューサイエンスっぽい表紙とタイトルだが、サブタイトルの「比較認知科学から見た知性の進化」が表すように、さまざまな動物の刺激・認識・学習実験を分析/比較し、生物学的アプローチでヒトの心研究を行う入門書。
ザリガニ、オタマジャクシ−カエル、キンギョ、ラット、そしてアイプロジェクトの学習するチンパンジーアイと人間という、徹底して動物実験という堅牢な土台の上に立てられた書物である。筆者はさまざまな動物の刺激に対する反応、その学習を実験し、解析し、丁寧に記述していく。実験環境の有効性というところから丁寧に解説してくれ、その筆も非常に丁寧でわかりやすい。
構成も、時に神経科学、時に進化論などさまざまな領域に触れつつ、認知や認識、学習といった問題の枠を認知科学の先端から丁寧に覗き込むつくりになっている。一章一動物実験、という構成なのだが、実験の目的とその達成方法が非常に丁寧に、かつわかりやすく書かれており読みやすい。理系の書物はその方法紹介が退屈なことが多く、噛み砕かなければ書物としてがっくり肩を落とすことになりがちだが、この本はその実験の目的と方法を懇切丁寧に、しかも短勁に表すことで理論を支える実験に強い興味を引かせることに成功している。
そして発展的に実験結果を積み上げる形で、動物どうし、ヒトと動物を比較して認知問題を考える学問としての比較認知科学の方法と結論を非常に鋭く書き上げてきている。ザリガニの実験から数字や文字を認識するチンパンジー・アイの実験まで、リニアに記述された理論の力が、この本にはある。巻末の読書ガイドも、入手可能な名著を紹介しており好感である。動物の認知という一見地味な話を、とにかく丁寧に仕上げている名著である。