イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

椎名誠を読む 2

というわけで、椎名誠を読んでいる。今日読んだのは「武装島田倉庫」である。新潮社から90年に発行された連作短編集であり、この90年には「アドバード」が日本SF大賞を取り、長編「水域」も発行されている。SF作家、椎名誠の一つの頂だといっていい年だ。この15年でSF作家、椎名誠は正直あまり元気がない状況になってしまったとは思うが、それはさておきこの小説はよく出来ているし、面白い。
連作短編とは短編の切れ味と長編の構成力、世界の強さ両方を要求される難しい形態だと思うのだが、こと形式的な巧さ、という点ではこの小説は椎名誠の諸作品の中でも抜群である。タイトルにもなっている島田倉庫に始まり、途中で「戦後」の世界を巡りながら人物と事件を拾い集め、最終話にすべてが帰結する構成は、徹底して巧い。
その巧さを支えているのは奇妙な味、というのもまた筋が違う「戦後」世界の味わい深さであり、ただの奇想にはない濃厚なノスタルジーと活力に満ち溢れた、まるでかすれたドキュメンタリーフィルムのような色彩の世界観である。この世界観は椎名SFのメインテーマであり、96年の短編集「みるなの木」でも多数扱われている題材である。しかしやはり、構成の巧さとシナジーを形成しながら生まれたての世界の瑞々しさ、その滋味を味わいつくすのであれば、90年の椎名誠が最適であろうと思う。
会話の組み立て、キャラクターの彫りが的確なのもこの小説の強みであり、あからさまに「異界」である「戦後」をしかし、強引に食わせてしまう小説の巧さに一役買っている。「人間がかけている」などという言葉は使いたくないが、この連作短編で、奇妙で暴力的で、死の影が長く伸びてノスタルジックな「戦後」に存在する人々は、確かに生きているのだ。
構成、独特な世界観、人物描写、会話。この小説で浮き彫りになってくるのは小説家椎名誠の徹底した小説力であり、連作短編という形式だからこそ見える部分であるように思う。椎名SFの最大の魅力が独特の言語感覚の代表される「奇妙さ」であることは否定しないが、それが小説として「食べれる」、つまりはただの「異物」として吐き出されるのではなく、面白いもの、読みたくなるものとして認識されるには、徹底した小説の背骨がある。
この連作短編集には、そのような力が色濃く浮き彫りにされているように思う。明日は「アドバード」を読みたいと思う。