イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

虫食う鳥、鳥食う虫

ギルバート・ワルドバウアー、青土社。鳥と虫と人間について書いた自然科学入門書。日本語サブタイトルは「生存の自然誌」で英語サブタイトルは「The birder's bug book」 一見、海外のライトサイエンスにありがちな適当な英題(何しろ英語タイトルは「バードウォッチャーのための昆虫入門」)かとも思うが、環境生物学にも足を突っ込んでいる内容なので、あながち間違いでもない。
「バードウォッチャー」と読者を絞っていることから解るように、徹底して入門書としてこの本は位置づけられている。興味を引くさまざまな生物のエピソード、具体的な記述、丁寧な説明。昆虫と鳥類の生態を、とにかく敷居を低く解りやすく書いている。100を越える美麗なスケッチや写真が掲載されているのも、手に取りやすさ、読みやすさを引き上げている。
とはいうものの、この本はただのトリビアールではないし、知識のカタログでもない。虫にとっての鳥、鳥にとっての虫、そして人間(「バードウォッチャー」)にとっての鳥と虫という観点を分厚い主軸にして、骨太な論が展開されている。日本語タイトルのとおり、鳥に捕食される虫や鳥に寄生する虫、人間の環境変化が虫や鳥に及ぼす影響などを、読みやすさと圧倒的な事例の提出を両立させながら書き上げているのだ。
筆者の専門は昆虫学であり、同時に優秀なバードウォッチャーでもあるようだ。想定読者である「バードウォッチャー」と同じ視線に立ちながら、専門化としての細密な知識を提出することは忘れない。昆虫の生物学的特徴から始まって、虫と鳥、鳥と虫、鳥と虫と人間と、足取り確かに横幅を広げていく構成。最終的に環境論になるが、エコロジカルな論につき物のイデオロギーの匂いを、この本からは感じない。感じるのは丁寧な書物の味わいであり、確かな知識への感謝の念である。
非常に丁寧、かつ確固とした書物である。良著。