イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ガッチャマンクラウズ インサイト:第3話『launch』感想

変性した世界の『その後』を描いたガッチャマン・リブート二期、三話は遅めの自己紹介と立川事変・前編。
一期見てるので気になりませんでしたが、そういえばはじめちゃん以外の旧キャラ、ほとんど出番なかったね。

このタイミングで軽く紹介と見せ場をいれておくのは、『誰こいつら』と思わずに済むので有り難い。

今回のお話を見ていると、『統制』が二期の大事なテーマなのかな、などと思いました。
VAPEが青いクラウズを圧倒する理由も『軍隊のような統制』ですし、ゲルサドラが感情を統合し最適解を出す能力も明らかになったし、累くんの理想が突かれた急所も『統制の放棄』ですし。
群衆に英雄を開放した一期の結論に、累くんが放棄した『統制』の長所を当ててカウンターを取る構図、なのかな?

今回一番目立っていたのは、やはりVAPEの首魁たる理詰夢くん。
明確な目標を持たず個人の自由意志に任せるというクラウズの特徴は、一気においては自由で良いものだと描かれていたわけですが、その弱点と危険性をVAPEを以って証明してきたのが、理詰夢だと言えます。
直接的な暴力で血を吐かせたのは、VAPE-クラウズだけではなく、理詰夢-累の個人的対立を浮き彫りにし、VAPEが顕在化させたい危機をこれ以上ない切迫感で突きつける、良い動きだと思います。
口論で理想を戦わせるのも必要ですが、やっぱ命の危機があったほうがピンチは分かりやすいよね。

長岡の事件の時もそうだったのですが、立川事変でもVAPEは奇妙な統制を維持していて、自分たちの行動が何を目指しているか明確である強みを感じます。
この統制はランダムであること、個人任せであることが長所だったクラウズにはない、VAPEの強みです。
『2-6-2の法則』を口にしていたことからも、理詰夢はクラウズという圧倒的な力を手に入れても人間の本性は変化せず、その力を私欲や悪事に使う(もしくは善なる目的に使わない)ものが必ず出てくる、という発想の持ち主なんだと思います。
彼が引き起こした騒動が、ガッチャマンという選ばれたヒーローだけが事態を解決しうる状況を生んでいるのは、皮肉なのか狙い通りなのか、いまいち判別がつきかねるところですね。

まだ良く分からないという意味では、VAPEがどういう組織構造になっているかもそうです。
一見NOTEという能力と高い問題意識を持つ理詰夢が中心となって統制し、個人の意志が集団の目的と同化しているようにも見えますが、決定的な所は描写されていません。
クラウズ革命によって変化した世界に強烈なカウンターを当てたVAPEのテロリズムが、実は参加者の自発的な意志によって(それこそクラウドソーシング的に)生成されていないとは、まだ言い切れない状況です。
少なくとも、まるで累くんの行動や信念の穴を指摘し、直接的に荒療治しているかのようなVAPEの行動を見るだに、ただ暴れたいだけの現状否定派というわけではないでしょう。
というか、そういう集団は一期で敵に回ったクラウズで、既に描写している。
サディスティックで衝撃的な描写が目につきますが、理詰夢とVAPEはあと何枚か秘密を抱えてるんじゃないかなと、僕は思うわけです。

今眼の前に転がっている状況を整理しまとめ上げるのが基地のシーンの目的だったと思いますが、そこでジョーさんはダーツを投げながら仮説を開示します。
『赤いクラウズが事件を起こす』と推理した時はインブル、『赤いクラウズの目的は青いクラウズの抹殺』と読んだ時がアウトブル、『暴れることでクラウズの危険性を認知させる』と言った時は11のダブルに当っています。
それが的はずれという意味合いなのか、当たらずとも遠からずという意味なのか、それとも特に意味のない描写なのかは、もう少し理詰夢のテロリズムが持っている理想とそれを実現する組織の内情が判ってこないと、判別の付かないことでしょう。


もう一人のニューカマー、つばさは今回も普通の主人公らしく、傷つく累くんのために突っ走ってました。
一見アツくて良い流れなんですが、何分このアニメ捻くれているので、『怒りに任せて変身し、誰かを助けるのは勝ちフラグ』というヒーロー物の文法を、素直に適応していいのかは悩みます。
耐えることに慣れている(慣れざるを得ない)ODが一歩も動かず、累の闘いを見守っていたのとは対照的に、つばさはとにかく駆け出します。
嬲られる累を見守るODが強く唇を噛んでいる描写は、『俺やっぱOD好きだわ』と思うのに十分だったなぁ。

理屈も共感も思慮分別も蹴っ飛ばして走りだしたつばさは、ビルを駆け上がるはじめと並び、ゲルサドラの力の後押しを受けて追い抜いてしまう。
ここら辺の対比は、前回の新幹線内から続く新旧主人公のコントラストです。
はじめは理屈と共感と思慮分別を練り固めて女子高生の形にしたようなもんですので、累が傷つく理由を理解出来ています。
ODが言っていた『命をかけても耐えなければならない理想』を累君に勝ち取らせるためには、他人が手を出してはいけない闘いなのだと理解できているし、血を流してもそこに留まる累の決意に共感もしている。
だから、足を止めてしまう。

一方つばさは一方的で手前勝手で愚かしい正義感を胸に、唯一人現場に辿りついてしまう。
つばさが持つ『背景にあるロジックを無視して、目の前にある現象に対応する』という超現場主義的発想は、実は旧メンバーは1人も持っていません。
複雑な物語のテーマに合わせるように、基本的に理性的で思慮深く、『飛ぶ前に見る』タイプが揃っています。
そういう意味では、つばさははじめだけではなく旧ガッチャマン全員と対比されるキャラクターなのかもしれません。

今回のお話は『見る前に跳べ』を地で行ったつばさが、累の個人的な信念に土足で上がったタイミングでヒキました。
つばさの近視眼的な理想が彼女と累にどういう結果をもたらすのかは、次回を待たなければいけないでしょう。
つばさの行動主義はVAPEの現実的暴力と同じく、一期に対していいカウンターだと思うので、ただ否定して終わり、とはならないと思いますが。


そして怪しげな蠢動を繰り返すゲルサドラ。
彼(彼女?)が超常的な能力を繰り出し逆転の一手を打たなければいけない状況は、このアニメが何に力を認めるかを如実に反映しています。
一期も含めて、少しまとめてみます。

群集を煽るカッツェに対し、孤独なヒーローだったガッチャマンは翻弄され無力でした。
結局クラウズという集団の超人化の助けを得て、ガッチャマンの公開という超人の集団化と併用することで(そしてはじめの個人的・英雄的決断によって)一期の物語はなんとか終わったわけです。
そんなクラウズも、理詰夢という個人によって統制されるVAPEという集団に問題点を指摘され、完全に後手に回ってしまっています。
無責任に空を飛び回る報道ヘリが叫ぶように、結局は超常的個人であるガッチャマンだけが問題解決にために走り回らなければならないわけですが、数に勝るVAPEに押されがちです。
大学でチャラくなった先輩はさておき、中二病を乗り越えたジョーさんも弱え弱えでガッカリだよ男性陣!!

そんな中、ゲルサドラの能力が発動し、ただ感情を可視化するのではなく、それを集積して『みんなの願い』をまとめあげ、実際に解決できる力に変換します。
『理詰夢を中心に統制された集団』であるVAPEに、『集団を統制可能な異能者』であるゲルサドラが対向する構図です。
『みんなの願い』という曖昧なものを感じ取り、それに流されて飛ぶことが出来るのがはじめではなくつばさだというのは、当然でもあるし危うくもある。
風が理想に連れてってくれるならいいんだけど、危うい場所に着地させることだってあるんだから。
しかし風がなければビルは飛び越えられなかったわけで、そういう意味でもやっぱり二人は対比的ですね。

一連の流れは『無垢なヒロインが祈りを集め、ヒーローに力を与える』という熱いヒーロー文法なんですが、ゲルサドラ周りの不穏な空気を見てるとやっぱ素直には喜べない。
渋谷に広がったフキダシ様が集約しているのはあくまで人間(=非クラウズ)の感情だけであり、VAPEの感情は可視化すらされていない所とか。
今回は(おそらくミリオネ屋が代表するメディアの情報拡散もあって)累くん保護でまとまったけど、仮に集団が暴力的・非理性的行動を望んだ時それも実現しちゃうの? とか。
今考察できるカードをひっくり返しているだけでも、色々と不穏な気持ちになるわけです。
ワイドショーに出てボケをかますくらい受け入れられている宇宙人ですが、その同質性ではなく異質性が表に出てきた時、多分お話は大きく変化するんでしょうね。


色んな対比がそこかしこに埋められつつ、複雑な状況を上手く整理したお話だったと思います。
ただ物語の種を埋めるのではなく、具体的に血が流れる危機も発生していて、事態が動いている感覚を受けました。
動き始めた物語が何を浮き彫りにし、何を問題視し、どういう答えを出すのか。
今後も楽しみに待ちたいと思います。