イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

Gangsta:第8話『EVENING DRESS』感想

欲望という泥の中に咲いた、希望という名前の蓮を巡るお話、今回は希望多めの優しい展開。
前半の修理屋稼業といい、被差別民に優しいクリスチアーノ・ファミリーといい、このお話が出口のないお話だと忘れてしまうような、まったりいい話だった。
過去のない女だったアレックスの記憶が戻ったり、意味深なフードの男が見え隠れしたり、お話が動く伏線も埋め込んでたけどね。

過去に縛られている男二人に対し、アレックスは過去のない女でして、麻薬とトラウマが抜けていく過程で、それを取り戻す。
色んな意味で先のないオーラがムンムン漂っている男たちに比べると、殺した人数が少ないせいか、アレックスには未来があるように思えます。
今回もニックと魂の交流をしたり、歌という自己表現を手に入れたり、まるでGangstaじゃないみたいなキラキラな展開でした。

社会的差別や悲惨な体験によって傷を負っているのは、主役三人(というかエルガストラムにすむ人全員)の共通項です。
それを消し去ることは出来なくても、羽根を休めて傷を癒やし、人生のゴミ溜めから飛び出す希望はいつもある。
希望はあるんだけど、それは常に過去と未来がどん詰まりでどこにも行けないという絶望と背中合わせであり、今回アレックスの傷を癒やした二人にしても、自分の人生がどん詰まりだという認識を、強く持っている。

暴力的な商売に浸かり過ぎた二人は自分自身をゴミ溜めから飛翔させることは諦めていても、アレックスが傷ついたままでいいとも思っていないし、そのために自分ができる事があると感じてもいる。
自分への絶望と他人への希望は矛盾ではあるんだけど、同時になんとなく納得できる逆説でもあって、ゆらゆらしている状態が気持ち良いこのアニメとしては、大事に見せていくべき部分だと感じました。
そういう意味で、今回アレックスが陥った過去からの絶望と、未来への希望の対比は、とってもメロウで良いものだった。
俺、このアニメの人情味シーン、すっごく好きなんだよね、なんでだか。


アレックス個人の希望に呼応するように、マフィアの中でもまともな集団、クリスチアーノ・ファミリーがクローズアップされていました。
味のない殺し合いと差別と逆差別を延々繰り返しているクソマフィアの中で、こんなお人好しが活きていられるのが不思議なくらい、真っ当な人たちだった。
このお話で優しい人が出てくるとホッコリするより先に、とんでもなく陰惨な末路を迎えそうでビクビクしてしまう。

お譲渡ゆかいな仲間たちの空気はアットホームだし、アレックスの新しい可能性も見つけてくれるし、クリスチアーノ・ファミリーは非常に健全だ。
その健全さが今後起こるであろう『タグ付き』狩りの激化と、どういう衝突を引き起こすのかが不安でもある。
しかし世の中が悪くなっていくニヒリズムだけではなく、そこから状況が上向く希望もちゃんと描写するのがこの作品なので、彼らは絶望のもう一方の曲に座っている、一種のカウターバランスみたいなもんなのだろう。
そこが吹っ飛んだ時、このお話は終局に真っ逆さまなんだろうなぁ。

未来と過去、希望と絶望の間でヤジロベイのように揺れるアレックスが、少し希望の側に傾くお話でした。
露骨に弟関係の伏線が貼られていますが、このアニメのことなので、とんでもない取り立て方をするんでしょうねぇ。
恐ろしくもあり、楽しみでもあり。