イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ハルチカ ~ハルタとチカは青春する~:第7話『周波数は77.4MHz』感想

気持ちの良いバカたちが仲良く手を取り合って青春を疾駆していくアニメ、今回はラジオで繋がるあなたとわたし。
『ナナシラジオの謎』『地学研究会の女王』『芹澤さんの幼なじみのパーカス』と、色んなミステリが一箇所にまとまり、巧妙には生きられない少年少女が春に飛び出していくお話に繋がる流れが、非常に良かったです。
テンポと小気味の良い掛け合いやら、異才がひしめくオモシロ学校・清水南のイキイキとした姿も元気に捉えられていて、このアニメらしい前向きさと、風通しの良さを感じることが出来ました。

今週のお話は凄く『外』に向かって開かれた話で、強豪校の練習を見てやる気を出す吹奏楽部にしても、ラジオの人生相談で自殺を取りやめる麻生さんにしても、最終的に不登校をやめる檜山くんにしても、自分とは違う存在とふれあうことで、新しい何かに歩みだした人の物語でした。
同時に、仲間と一緒に『内』に入っていくことを肯定的に描いている話でもあって、生徒会長の依頼を受ける時の吹奏楽部のおもしろ漫才やら、学校制度に弾かれかけた引きこもりの駆け込み寺だった地学研究会やら、行き場のないジジババを優しく守ろうとした檜山くんやら、自分と似ている存在がそばにいることの意味も、非常に大事に捉えている。
この一見対立するようでいて、しかし実は相通じるものがたくさんある2つの立場がラストシーンで合流し、笑いながら終わっていくナナシラジオの爽やかさと、明日を待てずに新しい仲間を迎えに行くハルチカの頼もしさに結実する構成は、本当に見事だった。
『外』に向かって開かれていくことと、誰かを仲間として『内』に取り込むことの意味、両方をしっかりと考え、キャラクターの(時にはくだらなくすらある)人生にキッチリ乗せ、面白い物語として届けてくれるこのアニメは、やっぱ良いなぁとつくづく感じます。

引きこもりの檜山くんは『外』との接触が比較的少なく、『内』を大事にしすぎているキャラなのですが、同時に『外』への窓はナナシラジオなり、幼なじみの芹澤さんなり、いろんな形で開いている。
それはつまり、彼は完全に世界に絶望しきってはいなくて、どこかで『外』に繋がりたいという願望があるという、一種の希望なのでしょう。
最終的にハルチカが檜山くんを迎えに行くことで、この希望は非常に前向きにかなえられるわけですが、前半話を引っ張っていた麻生さんが、『外』と『内』2つのベクトルを自分の意志で制御し、『アウトサイダーのたまり場、地学研究会』という自分なりの光を見つけることにすでに成功しているのは、お話しの結末を先取りする安定感という意味でも、檜山くんのラジオがその切っ掛けを与えている善因善果の物語としても、なかなか面白いところです。
檜山くんが何故引きこもったかは未だ解明されていないミステリなわけですが、その事情がなんであれ、『自身の決意と優しさ、頼りがいのある仲間がいればなんとかなるよ』という綺麗事をしっかり体現している先輩がいるのは、お話しの先行きに希望が持てて良い。

麻生さんは学校の秩序には従わない『ブラックリスト十傑衆』の一人ですが、独立独歩で研究会の採算を取り、行き場のない異才が学校に来る足場を作った、相当な傑物でもあります。
中学時代自殺を考えていた彼女が、ラジオの一言によって『宝石の輝き』という人生を歩いて行く足場を手に入れ、自分と同じように行き詰まってる奴らを積極的に受け入れ、最終的にラジオのパーソナリティだった檜山を『外』に押し出す原因になる。
ラジオのジジババどもが麻生さんのことをずっと気にかけていたことも含めて、ただ一過性の出来事としては終わらない、呼応し連動するダイナミズムが今回のお話にはあって、なんというか、温かいものを感じることが出来ました。

元々みんな可愛らしいデザインをしているハルチカだけど、麻生さんは別格の美人として設定されていて、ヘンテコなメットを外した瞬間絵の説得力でグイッと迫ってくるところは、映像メディアの醍醐味って感じでしたね。(ここら辺の『別格の美人』の描き方は、"アイカツ!"のスミレちゃんを思い出した。両方ロングストレートだし)
前半を引っ張る『地学研の女王を探せ!』というミステリは麻生さんがメットを外した瞬間に終わるんだけど、ハルチカに文字通り兜を脱いで、自分のナイーブな問題を名探偵に預ける一連の流れは、お話が転がる楽しさと説得力に満ちていて、とても良かった。
ハルタが冷静に謎を解き、チカちゃんがグイグイと感情面のケアをすることで問題を突破していくいつもの『型』も気持ちよく演出されてて、ここもグッドでした。
元々セリフで説明するのではなく、絵と演技で描写するのが巧いアニメなんですが、今回は特に胸に迫るシーケンスがみっしり詰まっていて、素晴らしかったですね。

ナナシラジオのジジババに関しては、『絵で語る』一歩先の演出、つまり絵としてジジババの姿を一切見せないことで、プライドと爽やかさと広がりのあるエピソードに仕上げていたのが、控えめに言って最高でした。
パーカス担当として吹奏楽部に入っていく檜山くんに比べ、今回のエピソードで彼を送り出して舞台袖に下がっていくジジババの顔を移す必要が無いってのもあるんですが、顔が見えない抽象性故に切り取れたものが、たくさんあったかなと思います。
檜山くんがジジババに感じている愛情とか、ジジババが檜山くんを思う気持ちとかはじっくり写すと重たくなる感情だと思うのですが、あえてラジオ越しの他人事という形を崩さないことで、手を繋いだまま『内』にこもり続けるのではなく、離した手で背中を押し『外』へと送り出してあげられる距離感と、一見ざっくばらんなその間柄に潜んでいる熱を客観的に感じることも出来て、いい演出でした。
縁もゆかりもなく、偶然チューニングしたラジオのように青春と人生を共有した人たちが、お互いの問題を解決したり癒やしたりして進んでいくこの話と、今回のエピソードを貫いたモティーフは非常に豊かな共鳴を果たしていて、良い素材選びをして、それが伝わる映像に仕上げたなぁと感心しきり。
生徒会長と吹奏楽部の掛け合いのように、据えたカメラでキッチリ面白いシーンを取り上げてくれることもあれば、ジジババのようにあえて映さないことで馥郁たる余韻を作りもする。
ハルチカの芸達者なところも見れた、言い回だったと思います。


お話の軸に座ったキャラクターへの印象はこんな感じなのですが、レギュラーメンバーも元気に可愛く青春しており、オッサンはありがたくホッコリさせていただきました。
怒りのチカキックをハルタに叩きこむチカちゃんとか、キュートガール妹として生徒会長に蹴りを入れる後藤さん(即座にチカの背後に隠れる動きが最高)とか、女の子たちが暴力的に元気なのが宜しい。
謎を解いた後の『予後』の描き方が、ハルチカはとても良いと思っているのですが、無事一年生として部活に飛び込み、可愛い後輩としてみんなに可愛がられている後藤さんの姿を見ていると、ここにも一過性で終わらない事件の余韻を感じ取ることが出来て、気持ちが良いですね。

アバンの合同練習は、お話しの仕組みとしては『チカがラジオを聞く』というミステリへの導入……の導入にしかなっていないシーンなんですが、このアニメが持ってる吹奏楽要素をしっかりフォローしたり、『外』へ広がる運動をポジティブに描いてエピソードのテーマを暗示したり、いい仕事をしたと思います。
前回芹澤さんが言っていた吹奏楽部の弱み、『音の厚み』が一発で伝わる演奏になっていたりとか、顧問の熱の入った指導がOFFで入っていたりとか、色々目配せの聞いたシーンだったと思う。
なにより、強豪校の練習を見て奮起する部員の顔が非常に頼もしく、『俺、こいつらの事好きだなぁ』という気持ちにちゃんとさせてくれるのがありがたい。
暗いムードになるなりアホな話して空気を入れるチカちゃんの有り難み、それをちゃんと受け取り顔を上げる部員と、笑い混じりにちゃんとチカちゃんを褒める友人たちの気持ちよさとか、『俺の好きなハルチカ』って感じだったな、あのシーン……『俺の好きなハルチカ』しか基本ないから、俺ハルチカ好きなんだけどな。

OFFでの音声といえば、怒りのチカキックに繋がるハルタの人生相談は、彼のセクシュアリティを少し感じさせて面白かったです。
第1話の時点で危惧していた『ネタとしてホモ扱って終わりなんじゃないか?』という疑問は、このアニメが青春を描くナイーブで繊細な筆致を実感することで融けたし、あくまで『探偵と相棒』という距離を重視し、恋愛要素でハルチカの関係が捻れることを避けるべく、一種の障壁として機能しているということも、見ている内にわかりました。
しかしまぁ個人的な興味としてはそれ以上のものを求めたくなり、踏み込めば作品が難しい要素でもあり、と思っていたら、深夜ラジオに相談する程度には自分の恋に『人間らしく』悩んでいる姿がスケッチされ、少し安心した次第です。
メインは『親友と同じ人を好きになってしまった』部分のようで、それはそれでチカちゃんのことを(恋とは違くても)大事に思っているハルタの可愛げが滲んでいて良いのですが、『社会学的には不利な立場』という自認を持っていることが小さなセリフから感じられて、ホモネタ扱いではけして宿らない小さな温かみを、描写から感じ取ることが出来ました。
そういうナイーブさを見せつつ、オチではハルタ生来の性格の悪さが全面に出てきて、しかもやったもん勝ちではなくチカキックで一発入れられる公平性がちゃんとある所含めて、良い青春のスケッチだったなぁ……。

ミステリの扱いとしても、まず『20万円をかけた地学研部長探し』という謎を追いかけ、それが『ナナシラジオ』という謎に繋がり、最後に『芹澤さんの幼なじみ』という話数をまたいだロングパスでまとまり収まる作りが、なかなか凝っていて面白かったです。
青春部分のきめ細かさに目が行きがちですが、結構破天荒なネタを扱い興味を引きつつ、ストレートに謎を解いたり、真実の価値に悩んでみたり、今回のようにエニグマのリレーをすることで立体的に話を作ったり、毎回色んな手管で話を回してくれるのは、マジで感謝って感じだ。
『謎を解いて、ハイおしまい』というわけではなく、吹奏楽部という『外』であり新しい『内』でもある場所へ檜山くんを前向きに押し出すというエピソード単位での綺麗なまとまり、そして『部員探し』という作品全体の運動にしっかり関係がある終わり方につなげていたのも、巧くて温かいところだなぁと思います。


というわけで、顔も知らない色んな人との出会いが、より暖かく新しい日差しを連れてくるような、爽やかなお話でした。
モティーフやテーマ、行動とその影響といった物語のドミノが巧妙に組み立てられていて、完成度の高いお話だったと思います。
その完成度に溺れることなく、コンパクトで温かい人情の実感をしっかりお話に込め、『ああ……良い話だ』という感慨をしみじみ楽しんでお話が終わるところが、何よりも凄い。
テクニックと情熱、『外』と『内』両方への視点がお互いをもり立てる、良いアニメですね、ハルチカ。