イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

僕だけがいない街:第8話『螺旋』感想

殺意と愛情が渦を巻く北国のサスペンス、今回はサヨナラ秘密基地、コンニチハ我が家。
犯人の長い手や雛月の母親といった不穏な要素も含みつつ、超頼りになる味方お母さんのぶっちぎり人間力が大暴れし、久々に一息つける展開でした。
ここで油断してると一気に喉笛を食いちぎってくるアニメではあるんだが、同時にホームが持っている暖かさや情愛を描くのが巧すぎるアニメでもあって、全く困ったもんだぜ。(困らない)

今回もいろんな事が起きましたが、やはり見せ場はお母さんの圧倒的お母さん力。
元々頼りになる大人物でしたけど、子供だけの聖域だったバスが真犯人の影に犯され、不安が高まる展開でこの人間力を見せつけられると、もう降参するしかねぇ。
元々悟の孤独な戦いを巧く強調していたアニメなので、三度目のトライになってからこっち、ケンヤやお母さんといった仲間が増えていく展開が、心に非常に優しい。

お母さんはただ優しいだけではなく、正しさと強さを兼ね備えて、的確な行動に移せる優しさなところが非常に良くて。
悟が抱え込んでいる未来の記憶には当然たどり着いていないにしても、雛月を救いお母さんを死の運命から守りたいという願いの温度にはしっかり共感して、命と心を守るために絶対必要なことを、迷わずやってくれる。
この話はヒーローの話なので、お母さんが代表する『大げさではないが、なかなか出来ることではない真っ当で温かい正義』が視聴者にまっすぐ届いているのは、足場として強いよなぁ。

暖かさと孤独を対比して見せているのは雛月も同じで、家に帰った時手を上げたお母さんに、自分の虐待を重ねあわせて怯えるところや、お風呂場での微笑ましい交流(自分のオカンと幼女にうっかり興奮する29才が面白かったデス)、温かい朝食を見ての嗚咽など、彼女が受けてきた痛みが鮮烈だからこそ、今回の暖かさが傷にしみる回でした。
朝食のシーンは『200円』というあまりにも生々しいフェティッシュの見せ方も良いんですが、第1話で悟のもとにお母さんが帰ってきた時の雰囲気、第2話でリバイバルが発動しお母さんともう一度食卓を囲んだ時の空気がじわっと蘇ってくるのが、ホント良い。
常にメシを上手く使って場の空気を出しているアニメなので、あの朝食が象徴しているものが素直に入ってくるってのも強かったですね。
雛月実家を映すときに、食いかけのカップ焼きそばとかを切り取って、交配した食卓を見せる演出と背中合わせで効いてるよなぁ、あのシーン。

雛月は連続殺人事件のターゲットであると同時に、家庭という密室の中で行われている虐待の被害者でもあり、これを破るのは非常に難しい。
前回子供の側の協力者であるケンヤを映し、今回お母さんや先生といった大人の協力者を写したのは、未来の記憶があっても社会的立場が弱い悟を、上手く補う意味があるのだろうなぁ。
児童相談所という社会福祉にまつわる存在を引っ張り出せたのも、大人の働きの結果なわけだし。
そういう意味でも、リバイバルという超常能力が全てを解決するわけではない、このアニメらしい身の丈が、よく見える展開だと思います。
雛月母(というか、家庭という制度そのものの堅牢な閉鎖性)はかなり面倒な相手だけど、来週どう立ち回るのかなぁ。


リバイバルに特権的立ち居を与えないのと同時に、それが悲劇を克服する大きな助けになるのもまた、このアニメの基本的構造です。
今回で言えば、他の子供達が深刻には受け取らないリュックの中身を、すぐ側に迫っている惨劇と結びつけ、運命を乗り換えるべくバスを降りる決断が出来るのは、未来の記憶がある悟だけなわけです。
他者に頼る部分と、自分の能力を活かす部分のバランスが心地よく取れているのよね、このアニメ。

サスペンスを引っ張るのが巧いのは、『悲しい結末が回避できるかも』という希望と、『どこまで真犯人の手が伸びてるんだ!』という絶望のバランスもそうで。
今回も一見安全に見えたシェルターに真犯人の影を伸ばして不安にさせ、お母さんの暖かさで安心させ、心がアッチコッチに行ったり来たりする、巧い振り回し方でした。
『同じレールに乗ってしまっているのでは?』という疑問が湧いてきたシーンで、惨劇を回避できなかった過去で踏みにじられた手袋を、あの時とは違う色で渡すのは凄く印象的だったなぁ。
やっぱサスペンスは『上手くいくのかい? ダメなのかい? どっちなんだいいやマジで!!!』って言う気持ちを、どれだけ醒めさせずに維持できるかが大事なわけで。
そしてどーでもいい奴がどんだけ宙ぶらりんにされても、視聴者はドキドキしないのであり、雛月が可愛らしくお母さんがお母さんなのはとても良いことなのだウム。

サスペンス的な読みという意味では、先生の胡散臭さがどんどん吹き上がっているのは面白くて。
何かと雛月を気にかけるのも、児相との窓口になって状況を握りこんでいるのも、彼が善人だからだと受け取ることもできれば、裏に秘めたものがあるからだと読めるよう描いていますね。
まぁ消去法で話を考えていくと、あの人以外いないんだけどさ、ぶっちゃけ……メタ読みは反則ではあるが、癖になってるのでしょうがない。(自分のアンフェアネスに言い訳マン)


そんなこんなで、相反する要素の間を高速で反復横跳びし、的確に視聴者の心を揺さぶる回でした。
雛月はメインヒロインなのでこうもじっくり気持ちを掘り下げてくれありがたい限りですが、尺のことが少し気になってきた。
毎回気持ちが上がったり下がったり最高に楽しいので、どう展開させるにせよ、悔いのないように走りきって欲しいものだ……余計な心配だと良いなぁ。