イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

紅殻のパンドラ:第11話『心の在処 -ゴーストURN-』感想

少女の想いが世界を救うアニメーション、今週は最終決戦! ……の前に、ネネちゃんの超電脳介入能力を開花させ、クラりんと合流するお話。
話の裏側でシリアスおじさんがシリアスに陰謀を垂れ流したり、その上部レイヤーでブエルと拓美ちゃんがクラッキング合戦したり、バニーさんが普通に悩んでたりするが、軸はガールとガールがミーツすることだ。
義体故の身体感覚の喪失が電脳世界での介入能力に繋がってる描写とか、相変わらず適度にサイバーパンクな描写もありつつ、二人は絆を確かめ合い恐怖に立ち向かうのであった。

今週もネネちゃんは無自覚に奇跡を起こすというか、色々ハードでシビアなことは起こってんだけど、その波風を軽やかに乗りこなしていました。
デバイスによる補助一切なしの、おそらく人類初の電脳世界認識/介入とかさらっとやってたけど、あれを起点に攻機のアレソレとか、RDのメタル技術とかがあると思うと、歴史の教科書に乗る偉業なのは間違いない。
身体の喪失故に『電脳空間を泳ぐ』という、既存の人類にはない能力/感覚にアドバンテージがあり、既存の枠をぶっ壊すほどの操作適正を示すってのは、マルドゥックシリーズのバロットと共通したモチーフかな。

奇跡を奇跡と自覚しないまま、等身大の少女として正解を掴み続けるネネちゃんに対し、クラりんは真っ直ぐに抱き合い、バニーさんは気まずさから目をそらし、クルツは何も見ずにシリアスを続ける。
ここら辺の視線の混ざり方(もしくはそらし方)は個人的に面白いところで、例えば『大事な人を助けたい』という願い自体は、バニーさんもネネちゃんも同じなわけです。
しかし人類の規格外でもなければ10代の無垢な少女でもないバニーさんは、世界全てを作り変える奇跡は起こせないし、ネネちゃんほど素直に自分の心と向き合えない。
ネネちゃんが主役である以上、この話は少女と出会った少女が世界を善意で制圧していく物語になるわけですが、どうやってもそこに乗ることが出来ないバニーさんをちゃんと写して排除しないのは、面白い視点だなと感じました。

奇跡が起こせなくとも、バニーさんが再起動させなきゃネネちゃん焼却炉送りだったし、彼女がゴミから端末を組み上げることで、奇跡のお膳立ては出来る。
後々のシーンで『この人たちのために頑張ろうと思えた』と回想するセナンクル島の人たちと同じように、特別に選ばれ保護された、人類を超越した主人公以外にも出来ることややるべきこと、尊厳や価値はちゃんとあるわけです。
バニーからの介入が『断線』していたことから判るように、七転福音は圧倒的に別格で、常人の介入があろうとなかろうと己の望みを果たしてしまう孤立した存在です。
それに唯一隣あえる存在だからこそクラリオンとの関係が特別になるのですが、だけど福音くんは自分の特別性を振り回して、自分を直接理解できない凡愚たちを切り捨てはしない。
上から目線の救済思考でもなく、己を『普通』に引きずり落とす自虐でもなく、これまで過ごした『普通』がとても面白くて、温かいからこそ守ろうと思う、至って健全で『普通』の倫理観。
どう足掻いも救世主にはなれないバニーさんを配置することで、ネネくんの持つ『特別』と『普通』、両方が際立ってたように思います。


ネネちゃんとクラりんがキャイキャイ時空を展開する中、延々シリアスぶった寝言を垂れ流しにしていたクルツの姿は、この『普通』と『特別』の対極にあります。
自分だけが高邁だと思い込み、他人の事情も願いも聞き入れず、手を差し伸べるどころか蹂躙して省みることはない。
しかしその『特別』とは、例えば『適合者』という福音くんの本質を見抜けなかったり、ブエルと拓美ちゃんのじゃれ合いを自分たちの力だと勘違いしたり、そういうアニメじゃないのに延々シリアス時空を展開しようとする、道化じみた盲目性として発露している。
ここら辺、無意識のうちに世界の本質にアクセスし、自分の願いをより善い方法で叶えるべく知恵を正しく使いこなす福音くんとは対象的です。
無自覚な故に世界に繋がる愚者と、己を賢いと思い込んだ故に何も見えない賢者の対比ですね。

全ての物語がそうであるように、このアニメでもラスボスは主人公の鏡像です。
ナイフを捨てて恋人を拾ったネネちゃんに対し、クルツは間接的にも直接的にも暴力を行使することをためらわない。
クラリオンはそんなネネちゃんに足らない『正義の暴力』を担当するべくナイフを拾うわけですが、危険な戦いのリスクをネネちゃんは押し付けず、『関わるな』と言われてもグイグイ入ってきて隣にいようとする。
単独ではクルツと同じ独善的暴力装置になってしまいかねないクラリオンの危うさを引き受け、自分の体験や感情を共有することで、クラリオンをより良い方向に成長させもする。
クルツが安全なVR映像でしか戦いに介入しないのに対し、あくまで生一本の七転福音を堂々と行使し、大事な人の側でリスクを共有する無自覚の覚悟を、ネネちゃんは持っておるわけです。
安全圏で高みの見物してる輩より、大事な人と一緒に体張るヤツのほうが、そら好感持てるよね。

それにしたって、一応高邁な問題意識を抱えて悪役やってるクルツが完全に道化なラブラブ空間はちょっと残酷すぎる気がしないでもない。
あの滑りっぷりが笑いを増幅してはいるし、福音くんの問題意識って自分の領分をけして乗り越えない身近なものだからこそ、説得力があるって話ではあるんだが、それにしたって無視しすぎだ。
また諏訪部の声が良くてなぁ……生まれるアニメを間違えたなアイツ、Fateの外伝とかなら大真面目に取り扱ってくれただろうに……。
いかにも『シロマサアニメ』にありがちなシビアな問題意識を、無垢で正しい少女たちが軽々乗り越えていく所が、このアニメの強さだし好きなところでもあるな、やっぱ。


と言うわけで、『特別』でありながら『普通』の大切さと難しさを無意識に理解する少女と、『普通』を大事にしないが故に『特別』足り得ない道化のお話でした。
そう考えると、世界的企業グループのトップで超ハッカーでありながら、馬鹿っぽいコメディも人情話もしっかり担当できる拓美ちゃんは、お話の空気を読んで良いポジションとってるなぁ。
空気の読めないクルツがどういう酷い結末に放り込まれるのかとか、警察の優しいおじさんの見せ場はあるのかとか、色々気になることはありますが、ネネちゃんとクラりんが合流しお互いの気持を確かめ合った以上、世界に勝てないものはない。
どっしりとした大団円を期待しつつ、来週を楽しみに待つとします。