イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ハルチカ ~ハルタとチカは青春する~:第12話『共鳴トライアングル』感想

謎と青春と吹奏楽をみっしりと詰め込んで、6つの季節を駆け抜けたアニメも遂に最終回!!
長らく引っ張った先生の謎と、東海大会まで上り詰めた吹奏楽と、まだまだ続くハルチカの青春を全てかっさらい、これまでの物語で手に入れたものを丁寧に振り返る、大満足のラストエピソードでした。
先生の謎を謎のまま暴かなかった終わり方といい、銅賞に終わった吹奏楽といい、青春の結果ではなく過程、日々を歩くその足取りを大切にしてきたこのアニメらしい、とても良い終わり方だったと思います。
演奏をEDにまわして作画カロリーをコントロール(極力手元写さないカメラ見て、どんだけ京アニキチガイか良く分かった)しつつ、物語が終わったあとも続く日々の豊かさを演出する構成も最高だった。
良いアニメだったなぁホント……。


色んな要素があるこのアニメですが、まずは日常の謎を追いかけるミステリとしての側面に、決着を付けました。
草壁先生の過去は特に終盤、かなり力を入れて盛り上げていた部分で、これを暴くことでクライマックスの盛り上がりが! とか考えていたのですが、それは明らかになりませんでした。
ミステリとしては肩透かしに思えるこの結末、しかしこのアニメのサブタイトルを考え、過去の描写を思い出してみると、まさにこれしかないまとめ方だった気がするのです。

ハルタとチカは青春する』という名前に恥じず、彼らと彼女たちは元気に仲良く青い季節を駆け抜け、痛みをとなう真実を切開され、手を取って頑張ってきました。
それは成長の季節であり、学びの時間でもある。
探偵役のハルタはその怜悧な頭脳で以って色んな真実を開示し、謎を暴いてきたわけですが、このアニメは常にその切開が人にもたらす痛みについて描写してきました。
一年半の季節のなかで、最初無遠慮に真実を切開するだけだったハルタは、段々とそこに伴う痛みを学び始め、自分の知性を発揮し、能力を誇示し、真実を開示することが無条件に正しいとは思えなくなる。
探偵の責務を発揮することに、二の足を踏むようになる。

謎の開示と知恵の快楽に重点を置く成長ミステリならば、ハルタの悩みは批難されるべきかもしれません。
しかしこのアニメは学生たちが主役の青春物語であり、真実を開示することそれ自体ではなく、そのことが保つ意味を考え、学び、時にはそれをそっと秘めておくことまで選択肢に含められるほどの、人格的成長を果たすことを大事にしてきたお話です。
様々な事件に出会い、様々な真実を切開し、様々な痛みを目にしてきたハルタは、今回あえて先生の謎には踏み込まず、一番大切な人のやわらかな心を尊重して探偵の仕事を降りる。
その責務放棄は、真実を開陳して探偵としての力量を示すよりも大きなものを、ハルタが過ごした一年半に宿すことができていると、僕は思うのです。

無論、ハルタが切開した真実はこれまで、たくさんの良いことを成し遂げてきました。
過去に縛られた人たちを開放し、誤解で歪んでしまった気持ちを整え、仲間たちが集まる事のできる吹奏楽部へと導いてきた。
ハルタが傲慢に能力を発揮して事実を明らかにしなければ、銅賞に終わったけどとても素晴らしかった今回の演奏はなかったわけです。
チカちゃんが階段の下で言っていたように、『ハルタが謎を解いた』ことにはたくさんの意味があったし、痛みがあったし、痛みを乗り越えて新しい場所へと向かう人達の尊さを引き出してもいる。
今回『ハルタが謎を解かなかった』ことの意味は、『ハルタが謎を解い』て集まった沢山の仲間、沢山の人生がこれまで描かれていればこそ、凄く強い意味を持っていると、僕は思います。

『謎を解く/解かない』という二分法ではなく、『謎を解いた結果何が起こり、謎の被害者にとって何がより良いことなのか』と考え、自分の意志で決断すること。
それは実は、第1話で草壁先生が五線譜の暗号に秘められた恋文を処したのと、同じ決断です。
ハルタは一年半、12話の時間をかけてようやく、自分が憧れた人と同じ選択肢を選べるほどに成長し、『探偵』という真実を扱う職業に相応しい思慮と智慧を手に入れたのです。
それはこのアニメが、自分の賢さを誇りすぎて危うい少年が『青春』し、どこに辿り着いたのか見せる、これ以上ない答えだった気がします。


もう一人の主役として『青春』していたチカちゃんにも、その成長を慈しみ、誇りに思う製作者の視線が惜しみなく注がれていました。
元々過剰な理性を暴走させがちな探偵ハルタの助手として、情緒的豊かさを強調されていたキュートガールですが、東海大会という吹奏楽部の総決算を舞台にして、彼女がどれだけの人を集め、一緒にいて楽しいと思える時間を作ってきたのか、しっかり確認するお話だったと思います。
銅賞に打ちひしがれる仲間たちを褒め称え、自分たちのやって来たことを思い出させる姿は、失敗に見失いがちな真実を切開し、そのポジティブな側面に光を当てる『探偵』と言っても良い、立派な振る舞いだった。
ただ立派なだけではなく、仲間の前では泣けないプライドと、人知れず階段の下で号泣する感情の豊かさと、そこに降りてきて同じ立場で泣いてくれるハルタの優しさをしっかり時間を使って描写してくれるのが、最高に気が利いている。

ハルタが真実を切開し、チカちゃんが持ち前の人(ニン)の良さで楽しい空気を盛り上げて、人を癒やす。
このコンビネーションを基本として、このアニメは吹奏楽部に人を増やし、色んな人を巻き込んで(時には重たく辛い真実もありつつ)幸せにして、先に進んできました。
バカで、時々思慮が足らなくて、でも本当に大事なことは取りこぼさず、眼鏡の女は残さず落とし、自然と仲間が増えていく明るい魅力に満ちたチカちゃんという少女がいたこと、そんな彼女がただ明るいだけではなく、青春につきものの小さくてつまらない、でもとても大切な悩みをしっかりもって描かれていたことは、このアニメにとってとても幸福だったと思うのです。
今回のチカちゃんの描き方には、そんな彼女の愛おしさと強さがこれでもかとつめ込まれていて、最高に良かったです。
……EDの総集編映像を見ていると、ほんとにチカちゃんが眼鏡の女の子に抱きつきまくるアニメだったな……。


ハルタに真実を切開され、チカちゃんの明るい重力に引き寄せられ、人生が少し楽しくなった仲間たちが、大団円たる今回しっかり描写されていたのも、このアニメの横幅を証明するようで嬉しかったです。
清水のトンチキ変人軍団が見送りに来てくれるシーンも良かったし、観客席で演奏を見守る大人たちの姿も、彼らが成し遂げてきたことが彼らの内部で終わらず、より大きな存在へとアプローチしてきたことの証左になっていました。
今回吹奏楽部を見守った人たちはおそらく、主役二人が『青春』していなければ、ああいう表情で演奏を見守ることは出来なかったわけで、真実を切開し開示することよりもその『予後』を重視したこのアニメらしい、豊かさのあるシーンでした。

そして何より、『青春』を共にする仲間が集う場所として、一つの目標に向けて本気になる集結点として機能していた吹奏楽部を、パワーのある演出で最高に盛り上げて描いてくれた。
色んな都合で吹奏楽の描写は少し薄かったけども、芹澤さんとチカちゃんの師弟関係を軸にして、色んな個性を持った奴らが運命に導かれて集い、一つの目標に向けて一丸となる熱量をまとめ上げる受け皿として、このアニメの『学校』や『部活』は健全に機能していたと思います。
最後の最後の勝負所でたっぷり時間を取って、その集大成たる演奏を描いてくれたのは、強く胸に迫るものがありました。
やっぱり音楽は良い……とても良い。

その集大成が『銅賞』に終わりつつ、そこにも意味を見出すエピローグを見ていると、やはりこのアニメは青春物語であり、勝敗や結果よりも過程と内容を重要視するアニメだったと確信します。
第1話アバンでこのシーンを予言的に見せることで、『行きて帰りし物語』という基本類型の強さをキッチリ回収しているところとかも、構成の巧みさを感じますね。
チカちゃんがフルートという新境地に挑み、謎を解きながら沢山の仲間とふれあい、色んな事を感じてみんなで頑張って、負けて悔しくて涙すること。
眼鏡女二人を完全にデレさせ、両手に花状態で帰るバスの中で、先走って部長指名をウケたと勘違いしてしまう、穏やかな青春の一コマにたどり着くこと。
単純に言語化出来る結果ではなく、その描写それ自体に多幸感と価値を埋め込んで、穏やかに進んできたこのアニメに相応しい、馥郁とした余韻のある終わり方でした。
ホント芹澤のデレとかヤバかった……控えめに言って最高だった……。


と言うわけで、ハルチカは終わりました。
様々なジャンルを横断しつつ、青春物語という中心軸をブラさなかったこと。
しかし同時に、ミステリや吹奏楽、ロマンスといった諸要素をつまみ食いするのではなく、そのエッセンスをしっかり受け止めて、青春を彩る大事な一コマとして描き切ったこと。
チカちゃんというスーパーキュートで元気で可愛らしい素敵な女の子を、そのプライドを尊重しながら描いたこと。
ハルタの不安定さと人格的成長を、『真実』の取り扱い方を小さく変化させることで丁寧に切り取ってきたこと。
そんな二人が頑張る結果、吹奏楽部に入ることを含めて、沢山の人達がより良い人生を送れる、ポジティブな物語を続けたこと。
ただ明るいだけではなく、人生の影の部分をしっかりと見据え、かつニヒリズムに陥らず前向きだったこと。
良いところが本当に沢山有る、素晴らしいアニメでした。

色んな連中が寄り集まる『部活』の楽しさも、小気味良くて洒脱なダイアログの切れ味でより強まっていたし、男の子も女の子もみんなチャーミングな描かれ方をしていました。
みんな好きだけど、やっぱチカちゃんとW眼鏡の陥落加減が好きだなぁ僕は。
主張し過ぎない美麗な背景を巧く使いこなすことで、過ぎていく時間も丁寧かつ豊かに切り取られていて、時間経過が楽しいのも良かった。
ハルタをゲイ・セクシュアリティの持ち主にすることでチカちゃんとの間に一線を画し、恋愛関係に引っ張られて青春描写が弱まる危険を、事前に回避してた巧さとかもありますね。
正直ハルタセクシュアリティはあと半歩踏み込んでもいい部分かなあと思いますが、これは個人的な物語的嗜好の問題だし、ゲイネスを踏みつけにした描写も見られなかったので、必要十分な描かれ方だとも思います。

とても爽やかで、豊かで、強靭な青春のアニメだったと思います。
ハルチカ、本当に良いアニメでした。
ありがとうございました。